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特許法第一二三条

(特許無効審判)(見出し改正、平一五法律四七)
第一二三条
特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる(改正、昭五〇法律四六、昭六二法律二七、平一四法律二四、平一五法律四七)
一 その特許が第十七条の二第三項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたとき。(本号追加、平五法律二六、改正、平六法律一一六)
二 その特許が第二十五条[外国人の権利の享有]、第二十九条、第二十九条の二[特許の要件]、第三十二条[特許を受けることができない発明]、第三十八条[共同出願]又は第三十九条第一項から第四項まで[先願]の規定に違反してされたとき。(改正、昭四五法律四六、昭六二法律四六、昭六二法律二七、平五法律二六)
三 その特許の条件に違反してされたとき。(改正、平五年法律二六)
四 その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)[特許出願]に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとき。(改正、昭五〇法律四六、昭六〇法律四一、昭六二法律二七、平二法律三〇、平五法律二六、平六法律一一六、平一四法律二四)
五 外国語書面に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。(本号追加、平六年法律一一六、平一四法律二四)
六 その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。(改正、平五法律二六)
七 特許がされた後において、その特許権者が第二十五条[外国人の権利の享有]の規定により特許権の享有することができない者になつたとき、又はその特許が条約に違反することとなつたとき。(改正、平五法律二六)
八 その特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正が第百二十六条第一項[訂正審判]ただし書若しくは第三項から第五項まで(第百三十四条の二第五項において準用する場合を含む。)又は第百三十四条の二第一項ただし書の規定に違反してされたとき。(本号追加、平五法律二六、改正、平六法律一一六、平八法律六八、平一四法律二四、平一五法律四七)
2 特許無効審判は、何人も請求することができる。ただし、特許が前項第二項に該当すること(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由とするものは、利害関係人に限り請求することができる。(本項追加、平一五法律四七)
3 特許無効審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。(改正、平一五法律四七)
4 審判長は、特許無効審判の請求があつたときは、その旨を当該特許権についての専用実施権その他その特許に監視登録した権利を有する者に通知しなければならない。(改正、平一五法律四七)

旧法との関係 五七条、八四条
趣旨
 本条一項は、審判により無効にすべき場合について規定したものである。この規定は四九条の拒絶査定をする場合と同様に特許を無効にすべき理由を制限的に列挙したものであって、本稿に掲げる理由以外の理由によっては特許を無効にすることができない。また特許を無効にするのは本項の審判による場合のみであって、裁判所その他の機関は特許を無効にすることができない。したがって、侵害訴訟の対象となっている特許権について、裁判所が本項に掲げる無効理由があると判断した場合においても、本項の規定によりその特許が無効にされない限りは、裁判所はその特許権は有効なものとして裁判しなければならないのである。
 なお、昭和四五年の一部改正において二九条の二を追加し、平成五年の一部改正において一七条二項(その後一七条の二第三項に移動)を追加し、平成六年の一部改正において五号を追加したが、その趣旨は四九条の場合と同様である。
 一項中一号は、平成五年の一部改正において設けられた規定であり、従来は、要旨を変更する補正について、それが設定登録後に認められたときは、出願日を繰り下げる(旧四〇条)のみで特許の無効理由として規定した。この結果、新規事項を追加する不適法な補正の取扱いに関して、対世的効力が与えられるともに、制度の国際的調和が図られることとなった。なお、平成六年の一部改正において、一号中から外国語書面出願の場合を除く旨を規定し、また、出願公告後の補正が不適法であった場合の規定を削除した。一号中から外国語書面出願の場合を除いたのは、次の理由による。
(1)一七条の二第三項の規定は、外国語書面出願の場合、翻訳文に記載されていない事項を、誤訳訂正書によらず手続補正書による補正により追加した場合に適用される。しかしながら、誤訳訂正書の提出を義務づけたのは、誤訳の訂正に伴う第三者の監視負担の軽減を図るためであり、誤訳訂正書により手続を行うべきところを手続補正書により行ったとしても、手続をすべき書面の選択を誤ったにすぎない形式的瑕疵と考えられること。
(2)出願時に選択した外国語書面に記載されている事項の範囲内であるにもかかわらず、こうした形式的瑕疵についてまで特許の無効理由とすることは特許権者にとって酷と考えられること。
 二号中の二五条違反とは権利の享有能力のない外国人が特許を受けた場合であり、二九条違反とは産業上利用することができない発明について特許された場合とか、新規性、進歩性を有しない発明について特許された場合であり、二九条の二違反とは特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた先願の明細書又は図面にされた発明または考案と同一内容の発明について特許された場合であり、三二条(昭和六二年の一部改正により旧三八条となった)違反とは共同出願の規定の違反であり、三九条違反とは先願でない特許出願に特許がされた場合である。
 三号については、旧法において条約に違反して特許された場合であってその違反が前三号(旧法における)に掲げるもの準ずべきものと規定しているが、現在のところ条約に違反していて、かつ、前号(現行法の)に掲げるものに準ずるものでないという事例があり得ないので「準ずるもの」を削除し単に条約に違反してされたときとしたものである。
 四号については、明細書の記載に係る問題であるが、この記載が適当でない場合は特許発明を公開した意味が失われ、ひいては公開の代償として独占権を付与するというと特許制度の本旨も没却されることになるので無効事由として規定したのである。なお、ここで注意すべきは三七条(昭和六二年の一部改正により旧三八条は三七条となった)違反が四九条四号の拒絶理由に掲げられているにもかかわらず、本号の無効事由として掲げられていないことである。三七条は現行法制定当初から無効理由から除かれているが、これは三七条に違反した場合はその特許権の内容である発明に実体的に瑕疵があるわけではなく、二以上の特許出願にすべきであったという手続上の瑕疵であり、それを理由に特許を無効にするのは苛酷であるという理由から本号に規定しなかったのである。また、三六条六項四号も、拒絶の理由(四九条四号)とされているが、特許無効の理由からは除かれている。これは三六条六項四号に違反した場合は、特許請求の範囲の記載形式に違反があるのみで、特許権の内容である発明に実体的に瑕疵があるわけではないので三七条に違反する場合と同様に考えられるためである。
 五号は、平成六年の一部改正により追加された規定で、翻訳文の提出又は補正により外国語書面に記載されていない事項が追加された結果、特許の願書に添付した明細書又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にない場合の無効理由についてきてしたものである。
 六号については、別段説明することを要しないであろう。
 七号は、後発的な事由によって無効にする場合であって外国人が特許後に特許権を享有することができないくなった場合および特許後に条約が改正されて特許の際は適法であったものが、その後条約に違反するようになった場合である(この場合は一二五条に規定するようにその無効処分の効果は特許が本号の規定に該当するに至ったときまでさかのぼるのみで、はじめからなかったものとみなされない)。
 八号は、平成五年及び八年の一部改正において設けられた規定であり、制度の国際的調和及び審判手続の効率化、迅速化の観点から、従来の訂正無効審判(旧一二九条一項)を廃止したことに伴い、特許異議申立ての手続における訂正(一二〇条の四第二項)、訂正審判による訂正(一二六条)及び特許無効審判の手続における訂正(一三四条二項)が不適法であった場合には、当該訂正を特許無効理由とすることを規定したものである。その後、平成一五年の一部改正において、特許異議申立制度が廃止されたことに伴い、特許異議申立ての手続における訂正を削除した。
 一項柱書の後段は、いわゆる一部無効の観念をとり入れたものであり、かつ昭和六二年の一部改正により改正されたものであって、二以上の請求項について一出願で特許を受けた者については、そのうちの一請求項に係る特許請求の範囲ごとに無効審判を請求することができるものとしたのである。しかしながら、ここにいう一部無効はあくまで一請求項に係る特許請求の範囲ごとということであって、一請求項のうちのその一部について特許の無効を請求することを認める趣旨ではない。したがって、特許請求の範囲に記載された一請求項の構成要件の一部に無効事由がある場合は、その無効事由のある部分を訂正審判または訂正請求によって除かない限りその一請求項全部が無効にされるわけである。昭和六二年の一部改正前の多項制のもとでは一発明について複数項の特許請求の範囲を記載した場合にその発明に無効事由がある場合は、訂正審判によって無効事由を除かない限り、その発明についての複数項の特許請求の範囲のすべてが無効にされていたが、昭和六二年の一部改正により請求項ごとに無効にされることとなった。なお、改正前に「特許請求の範囲に記載された二以上の発明に係る」と規定されていたのを「二以上の請求項に係る」と規定したのは、特許法上、「発明」は、必ずしも「特許請求の範囲に記載された」もののみではなく、「明細書又は図面に記載された発明」もあるが、「請求項」は、特許請求の範囲以外に記載されたものは存在しないためである。
 また、平成一四年の一部改正において、三六条二項の「明細書」から「特許請求の範囲」が分離されたこと等に伴い、本項にも若干の修正が加えられた。
 二項は、平成一五年の一部改正により設けられた規定であり、特許異議申立制度に関する規定の削除に伴い、特許異議申立制度が担っていた公衆審査機能を特許無効審判に包摂させるため、特許無効審判の請求人適格を拡大して、何人も請求できるものとした。
 ただし、本来特許無効審判の請求人適格は利害関係人に限られており、全ての無効理由について請求人適格を拡大するものではなく、公益的理由や後発的理由について請求人適格を拡大し、特許異議申立制度の持つ公衆審査機能を特許無効審判制度に包摂させるものとしている。
 したがって、無効理由のうち権利帰属にかかわる無効理由、すなわち共同出願要件違反の出願(三八条)及び冒認出願(一二三条一項六号)については、発明の特許性についての問題ではなく、専ら権利の帰属が問題となっているものであり、このような特定の当事者間における権利の帰属を巡る紛争の解決、従前通り、利害関係を有する当事者にその解決を委ねるのが適当であることから、二項後段では、権利帰属に係る無効理由についての請求人適格は、利害関係人に限定する旨を規定したものである。
 なお、一二三条一項の審判の特許無効審判と規定する修正を行った。趣旨については一二一条を参照のこと。
 三項は、特許の無効の効果が生ずることとも関連して、特許権の消滅後にも請求することができる旨を規定したのである。たとえば、特許権の存続期間満了による消滅後に存続期間中の侵害行為に対する損害賠償の請求がされた場合、その請求をされた相手方は、特許権の消滅後であってもその特許について無効審判を請求することができ、もし請求が容認されればその特許権は初めから存続しなかったことになるので、損害の賠償をする必要はなくなる。
四項は、主として当該審判について利害関係ある者に参加の機会を与える意味において、審判の請求があった旨を通知することとしたものである。
[参考]
1 <請求適格としての利害関係>旧法八四条二項は「無効審判ハ利害関係人及審査官ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得」べき旨を規定していたが、現行法においてはこれらの請求適格に関する規定を削除した。
 旧法においては利害関係人という要件があるために無効審判においてしばしば利害関係の有無が争われ、この争いのために数年を要することも稀ではなかった。しかも、利害関係の有無が争われている間は本案の審理にはいらないのであるから、被請求人が利害関係についての争いを真理を遅延せしめるために利用することすらあった。
 現行法においては利害関係について規定を削除するとともに、審査官の審判請求についての規定も削除したが、これは利害関係についての要件を削除したことに伴い請求適格をあまり厳格にいわないこととしたので、公益代表として審査官にのみ特別な請求適格を認める必要はないと考えたからである。
2 <審判の一審制>旧法の下では無効審判、訂正審判、分割審判、確認審判、実施許諾の審判はすべて審判、抗告審判の二審制度が採用されていたが、現行法においてはこれを一審制に改めた。ただ、これらの審判のうち、確認審判は七一条の判定を求める制度に改められ、分割審判は全く廃止され、実施許諾の審判は九二条に規定するように特許庁長官の権限となり裁定を求める制度となった。残るのは結局無効審判及び訂正審判であるが、これらの審判を一審制にした理由は、審判手続の迅速化ということを図ったものにほからならない。審判手続(裁判手続もすであるが)はその手続の厳正さということと迅速ということとの調和点に制度の運用が求められるわけであるが、現在の審判についてはより迅速にすべきであるという批判があり、一方、特許庁内部の審級を一審制としてもさらに高等裁判所、最高裁判所と争う途はあるので、権利の保護を弱めることにはならないものということができる。そこで迅速化という要請に応じて一審級としたものである。
3 <分割審判制度の廃止>旧法七条ただい書は一の特許出願に二以上の発明を包含せしめ得る場合について規定していたが、このただし書の規定に該当しないにもかかわらず二以上の発明を一つの特許出願に包含せしめ過誤によってそのまま特許になった場合に、この特許を七条に違反しているということで無効にすることができるかどうかは学説は一致しなった。少なくとも旧法五七条の無効理由中には七条違反というのはないのであるが、無効にすることができるとする説にあっては、七条違反は一条違反の中に包摂されるものであると説く。ところで旧法において特許権分割審判制度が認められていた(五三条二項)のは、七条に違反しているにもかかわらず、過誤により特許されたときは無効にされるおそれがあるのでその救済のための制度であるといわれていた。もし、分割審判制度の立法趣旨をそのようなものと解するならば、現行法においては前述のように(四号の無効理由の説明参照)三七条違反は無効理由とされないので、分割審判制度の必要性もなくなってくるわけである。これが分割審判制度を廃止した理由である。
4 <請求適格と無効理由との関係>
 特許無効審判の無効理由の中には、特許異議申立の理由となっていないのも(いわゆる後発的無効理由)も存在している。具体的には、特許付与後に外国人の権利享有違反が生じたこと(一二三条一項七号)特許付与後に条約違反が生じたこと(同号)及び、訂正要件違反の訂正がなされたこと(一二三条一項八号)がこれにあたる。これの事由が特許異議申立ての理由とされていないのは、特許付与に対する早期の異議申立てという制度趣旨からみて、特許付与後に発生する後発的事由までも申立理由とすることは必ずしも必要ではないこと、そもそも六月という短い申立期間にこれらの事由が発生することは極めて稀であることなどから、このような理由について、請求人適格を広く認めることが不適切であるというよりも、むしろ単に、六月という限られた申立て期間を前提とする異議申立制度にはなじまなかったからに過ぎない。したがって、平成一五年の一部改正において、特許異議申立制度を特許無効審判制度に包摂させるに際しては、後発的無効理由についても広く公衆審査の対象とすることが望ましいとの判断から、当該理由についても、請求人適格を拡大している。(青本第17版)
最終更新:2009年12月09日 19:21
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