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特許法第一二六条

(訂正審判)(見出し改正、平一五年法律四七)
第一二六条
特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
二 誤記または誤訳の訂正
三 明りようでない記載の釈明
(改正、平五法律二六、平六法律一一六、平一四法律二四、平一五法律四七)
2 訂正審判は、特許無効審判が特許庁に係属した時からその審決が確定するまでの間は、請求することができない。ただし、特許無効審判の審決に対する訴えの提起があつた日から起算して九十日の期間内(当該事件について第百八十一条第一項の規定による審決の取消しの判決又は同条第二項の規定による審決の取消しの決定があつた場合においては、その審決又は決定の確定後の期間を除く。)は、この限りでない。(本項追加、平一五法律四七)
3 第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の修正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(ただし書第二号に掲げる事項を目的とする訂正の場合にあつては、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあつては、外国語書面))に記載した事項の範囲内においてしなければならない。(本項追加、平六法律一一六、改正、平一四法律二四、平一五法律四七)
4 第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。(改正、平一四法律二四、平一五法律四七)
5 第一項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。(改正、平五年法律二六、平成六法律一一六、平一五法律四七)
6 訂正審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。ただし、特許が特許無効審判により無効にされた後は、この限りではない。(改正、平六法律一一六)
(改正、平一五法律四七)

旧法との関係 五三条、八四条
趣旨
 本条は、訂正審判について規定したものである。
 訂正審判は、主として当該特許について一部に瑕疵がある場合に、その瑕疵のあることを理由に全部について無効審判を請求されるおそれがあるので、そうした攻撃に対して備える意味において瑕疵のある部分を自発的に事前に取り除いておこうとするための制度である。(そのほか不明瞭な記載があると、とかく侵害事件などをおこしやすいので記載を明瞭にして争いを事前に防ぐため訂正審判を請求す場合などもある)。
 一項ただし書は、訂正審判において訂正が認められるための訂正の目的を示したものである。前述したように、訂正審判は特許の一部についての瑕疵を事前に取り除くことにより無効審判などの攻撃に備えるものであるから、訂正はそのような目的を達するために最小限の範囲で認めれば十分であり、その最小限の範囲が一項ただし書に規定する特許請求の範囲の減縮、誤記または誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明である。なお、誤訳の訂正は、外国語書面出願について特許後に誤訳が発見される場合もあり得ることから、平成六年の一部改正において追加されたものである。
 なお、平成一五年の一部改正において、一二六条一項の審判を訂正審判と規定する修正を行った。趣旨については一二一条を参照されたい。
 二項は、平成一五年の一部改正において、いわゆる「キャッチボール」減少の弊害に対処するため(後記[参考]参照)、訂正審判の請求できる時期を規定したものである。審決取消訴訟の提起後に訂正審判を請求できる時期を制限することにより、訴訟審理の終盤或いは上告申立ての段階になってから訂正がなされ、その後、形式的に審決の取消しがなされることによる審理の無駄を回避することを趣旨としている。
 二項本文には、請求可能な時期は、特許無効審判が請求されてからその審決が確定するまで、原則として訂正審判を請求することができないことを規定した。これは、平成五年の一部改正において、特許無効審判が請求されている場合には、その審判手続中に訂正請求という形で訂正審判と同内容の訂正を認めることにより、訂正の可否についても特許無効審判の審理と併せて審理する審理構造を踏襲したものである。
 また、同項ただし書には、例外的に、審決取消訴訟提起後一定期間(九〇日)に限り訂正審判の請求を許す規定を設けることで、訴訟提起後も特許権者に適正な訂正機会を確保することとした。一定期間を九〇日とした理由は、第一に、訂正審判を請求するかどうかを見定めるのに十分な期間を確保すること、第二に、訂正審判の請求をする前に差戻しがなされる場合、訂正審判の請求期間内に差戻しが確定できる期間を確保することの二点を考慮したものである。さらに、差戻しによって事件が特許庁に再係属したときは、すでに訂正審判が確定している場合を除き、無効審判手続中において訂正請求が可能になることから、特許庁内の審理の混乱を避けるため、訂正審判の請求を遮断することとした(同項ただし書中の括弧書)。
 三項は訂正審判において訂正することができる範囲を示したものである。特許後の訂正は、特許がされた明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず、いわゆる新規事項を追加するような訂正は認められない。ただし、本項カッコ書に規定されているように、一項二号の場合(誤記または誤記の訂正を目的とする訂正)の場合には、特許がされた特許請求の範囲、明細書又は図面ではなく、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあっては外国語書面)に記載した事項の範囲内のおいてしなければならない。
 四項は、一項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものであってはならない旨を規定したものである。訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなると、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、本項はそうした事態が生じないことを担保したものである。
 五項は特許請求の範囲を減縮した(一項一号)後の発明又は誤記もしくは誤記の訂正をした(一項二号)後の発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない旨を規定したものであるが、当然のことである。仮に独立して特許を受けることができない部分のみが訂正後に残ったとしても、それは一二八条の規定により訂正後における明細書又は図面により特許出願がなされたものとみなされ、その特許出願の内容は瑕疵があるということで無効審判を請求されることになる。
 なお、平成六年の一部改正において、誤記又は誤記の訂正を目的とする場合は出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあっては外国語書面)に記載した事項の範囲内において特許の訂正を認めることとしたことから、誤記又は誤記の訂正を目的とする場合についても、訂正後の発明が独立して特許を受けることができるものでなければならないこととする旨の改正を行った。また、三六条の改正に伴い、従来の規定中の「事項により構成される発明」との部分を「事項により特定される発明」と改正した。
 六項は、本条の訂正審判が特許権について無効審判をもって攻撃される場合の一つの防衛手段と考えた場合に、その無効審判が特許権の消滅後においても請求し得るものであるならば、訂正審判もまた特許権の消滅後にも請求することができるようにすべきであるといいう理由から規定したものである。ただ、特許が無効にされた後において訂正審判を認めることは、一二八条との関連において無効にすべき旨の審決について再審理由になってくることにもなり、いたずらに制度を複雑化することになりかねないので、訂正審判の防衛的機能は特許が無効にされる前に限って認めることとしたのである。
 なお、平成六年の一部改正において、特許が取消決定(一一四条二項)により取り消された後は、訂正審判を請求することができない旨を追加規定したが、平成一五年の一部改正において、特許異議申立制度が廃止されたことに伴い、該当箇所を削除した。
 また、平成一四年の一部改正において、三六条二項の「明細書」から「特許請求の範囲」が分離されたことに伴い、本条にも同様の修正が加えられた。
[参考]
1 <「キャッチボール」現象とは>
 平成五年の一部改正以前には、ある特許権に対し特許無効審判の請求がなされた場合、特許権者は、別途、訂正審判を請求し特許を訂正することによって特許権の全部が無効になることを回避していた。しかし、同じ特許権について、特許無効審判と訂正審判がともに係属した場合、特許無効審判の審理対象である明細書及び図面が訂正審判の審決によって変更されることも生じるため、訂正審判の審決が確定するまで特許無効審判の審理を中止するのが通例であり、このことは事件全体の審理が遅延する弊害となっていた。
 このため、平成五年の一部改正において、特許無効審判の係属中に訂正審判を独立して請求することを禁止し、特許無効審判が請求されている場合には、その審判手続中に訂正審判という形で訂正審判と同内容の訂正を認めることにより、訂正の可否についても特許無効審判の審理とあわせて審理することで審理遅延を回避した。しかし、平成五年の一部改正の規定では、逆に、特許無効審判が特許庁に係属していない場合、訂正審判の請求について何らの制限を課していないため、特許無効審判の審決がなされた後(特許庁における係属が終了した後)は、別途の特許無効審判が特許庁に係属していない限り、訂正審判の請求をすることができるものと解釈されていた。
 特許無効審判の審決がなされた後、その審決取消訴訟の継続中に、訂正審判によって特許の内容に変更が生じた場合の対応について、最高裁判所(大径角形鋼菅事件判決最判平成一一年三月九日民集五三巻三号三〇三頁)は、審決取消訴訟係属中に特許性請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判が請求され、訂正を認める審決が確定したときは、裁判所は当該無効審決を取り消さなければならないと判示し、この判決以降は、特許無効審判の審判に対する取消訴訟の継続中に特許請求の範囲を減縮する訂正の容認審決がなされると、審決の違法性について実体判断を経由せずに無効審決が自動的に取り消される裁判実務が定着していた。
 裁判所が無効審判を取り消すと、特許庁は、訂正された特許の有効性について、再度、特許無効審判を再開して審理・審決を行うこととなる。この審決に対しては、さらに取消訴訟の提起をすることも可能であり、法律上はその後に訂正がなされ、再び原審決が機械的に取り消されることもありうる。この事件の流れを追うと、①無効審決→②審決取消訴訟の提起→③訂正審判の請求→④訂正の容認審決の確定→⑤無効審決を取り消す審決(差戻し)→⑥再度の特許無効審判の審理と審決→⑦審決取消訴訟、となる。このような特許庁―裁判所間での事件の往復が「キャッチボール」現象と呼ばれるもので、事件が二つの機関を往復することにより、審理の無駄や遅延といった弊害が指摘されていた。
2 <「キャッチボール」現象に対する方向性>
 平成一五年の一部改正にあたり、「キャッチボール」現象に起因する弊害を除去するための様々な対処案が検討された。具体的には出訴後の訂正審判請求を完全に遮断する案、審決一定期間に限って特許庁における訂正請求を認めて再審理する案、出訴後の訂正審判の請求機関を制限する案、訂正の手続を裁判所の許否によらせる案、「大径角形鋼菅事件」の判決を立法的に変更し、審決取消訴訟中に訂正がなされても裁判所はそのまま審理できるとする案、裁判所から特許庁への柔軟な事件の差戻しを認める案、予備的請求としての訂正請求を認める案、裁判所において訂正の手続もできるようにする案などがあり、さらにそれらの組合せやバリエーションもあった。最終的には、審議会答申において、(ア)特許権者の訂正機会は裁判所の拒否にかからない特許庁における手続として確保しつつ訂正をすることができる機関を合理的に制限し、かつ、(イ)裁判所から特許庁への柔軟な差戻しを認め、(ウ)差戻し後の訂正手続を訂正請求という形で無効審判手続の中に取り込むことを可能にする、との方針を採ることとなった。また、その背景として、将来仮に「大径角形鋼菅事件」の判決に変更があり、裁判所の審理範囲が拡大されることがあった場合にも対応可能な制度設計とすることも考慮された。
3 <訂正機会の確保と九〇日との関係>
 平成一五年の一部改正のおいて、審決取消訴訟提起後一定期間に限り訂正審判の請求を許すこととしたが、一定期間を九〇日に定めた経緯としては以下のような背景がある。
 第一に、裁判所における第一回期日を経由することができれば、それまでに当事者が原審決の違法性について主張を交えることが可能であり、これにより、特許権者は、訂正すべきか否かについて一応の判断材料を得ることができる。また、無効審判の審決取消訴訟は実質的に第二審に相当するから、第一回期日までに裁判所がある程度の心証形成をすることも不可能ではない。したがって、訂正審判の請求機関は、特別の事情がない限り裁判所において第一回期日を経由できるだけの期間を確保することが望まれた。
 また、第二に、訂正審判の請求をする前に差戻しがなされる場合、その差戻しの決定が訂正審判請求期間内に確定しなければ、特許権者は訂正機会確保のため訂正審判を請求せざるを得なくなり手続が繁雑となる。したがって、訂正審判の請求時期は、差し戻し決定が確定するだけの期間を確保できることが望まれた。
 これらの点を考慮し、出訴後の訂正審判請求期間は、通常審決取消訴訟の最初の期日が開かれるであろう出訴後約六〇日の期間に一月程度の余裕をもたせ九〇日とした。ただし、九〇日という期間は第一回期日の経過や差戻し決定の期間を保障するものではないが、請求期間を九〇日より長くしたり、第一回期日の日を請求期間の起算点とすると、訂正可能な期間が不必要に長くなり審理の遅延をもたらす恐れがあるため、起算点を出訴の日とする固定期間とした。(青本第17版)
最終更新:2009年12月11日 16:23
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