旧法との関係
趣旨
本条は、証拠調べ又は証拠保全に関する準用条文について規定したものである。旧法は、「民事訴訟法中証拠ニ関スル規定」と表現していたが、このような規定からは具体的にどの条文が準用されているか必ずしも明確でないので、最近の立法の傾向にしたがい、準用条文を列挙したのである。
まず民事訴訟法第二編第三章証拠の規定の大部分が準用になる。同法一七九条以下がそれであり、証拠調べ及び証拠保全の手続はこれらの規定によって規律される。ただし、
特許法における審判が職権主義によって貫かれている以上、当事者主義はこれらの規定は準用されない。たとえば、民事訴訟法二二四条一項は「当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。」という規定があるが、審判における証拠調べ、証拠保全には準用されない。同様の趣旨から準用を除外されているのは、民事訴訟法二〇八条[不出頭等の効果]、二二四条二項[当事者が相手方の指定を妨げる目的で文書を滅失させた場合]、二二九条四項[文書の成立の真否に関する挙証者の主張]である。
次に審判官は順司法的機能を営むのであるが、裁判官とは異なり、過料の決定をしたり、勾引を命じたりすることはできないとされている。旧法は一〇〇条三項で「審判官ハ過料ノ決定ヲ為シ、勾引ヲ命シ又ハ保証金ヲ供託セシムルコトヲ得ス」と規定することにより、その趣旨を明らかにしていた。本条では民事訴訟法の規定のうち、過料の決定、勾引に関する規定を準用されていないのはそのためである。やや特殊なのは同法二三五条である。これは証拠保全の管轄を定めたものであるが、証拠保全の管轄については前条に特別規定があるので不要とされた。
先に述べたように、証拠に関する規定を準用しただけでは不十分である。特許法一四七条[調書]、民事訴訟法九三条一項[期日の指定]、九四条[期日の呼出し]を準用したのは、実際上の便宜を顧慮してのことである。
読替規定のうち、当事者が自白した事実を除いたのは、職権主義のもとでは当事者が自白した事実についても証拠調べが行われることがあるからである。
なお、平成八年の民事訴訟法の改正に伴い、準用する民事訴訟法規定の条番号の変更、規則事項への移行及び内容の変更並びに関連する民事訴訟法規定の新設が行われた。このうち、規則事項へ移行したものについては、引き続き特許法に準用することができないため、同旨の規定を特許法施行規則に設けることとした。また、読替規定に関しては、旧民事訴訟法二六七条二項[疎明]が削除されたことにより、これに対応する読替規定がなくなり、民事訴訟法二〇四条を新たに準用した事に伴い、必要な読替規定を新たにおくこととした。また平成一三年の民事訴訟法の一部を改正する法律により、特許法で準用している条文の項が移動されるとおもに新規条文が追加された事に伴い、必要な改正を行った。
また、平成一八年の改正時に文言を「尋問」から「尋問等」にする一部修正を行った。
本条において準用する民事訴訟法規定について、以下簡単に説明する。
【期日】
九三条第一項は、期日は、申立てにより又は職権で、裁判長が指定することを定めたものである。九四条は、期日の呼出しの方法、呼出状の送達及び当該事件について出頭した者に対する期日の告知以外の方法による期日の呼出しをしたときは、期日に出頭しない当事者、証人又は観点人に対し、法律上の制裁その他期日の怠りによる不利益を帰することができないこと並びにこの場合においても、これらの者が期日の呼出しを受けた旨を記載した書面を提出したときは、法律上の制裁その他期日の怠りにより不利益を帰することができることを帰すことができることを定めたものである。
【証拠・総則】
一七九条は、当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しないことを定めたものである。なお、本条に当該規定を準用するにあたっては読替規定が設けられており、自白した事実については削除され、顕著な事実についてのみが準用されている。一八〇条は、証拠の申出は、証明すべき事実を特定してしなければならないこと及び期日前にもすることができることを定めたものである。一八一条は、当事者が申し出た証拠で裁判所が不必要と認めるものは証拠調べをする必要がないこと及び当事者が申し出た証拠について証拠調べをすることに不定期間の障害がある場合の取扱いについて定めたものである。一八三条は、証拠調べは、双方の当事者が期日に出頭しない場合であってもすることができることを定めたものである。一八四条は、外国における証拠調べの実施方法及びその効力について定めたものである。一八五条は、裁判所外において証拠調べをすることができる場合について定めるとともに、その場合には、受命裁判官又は受託裁判官に証拠調べをさせることができること及び受託裁判官が更に他の裁判所に嘱託をすることができることを定めたものである。一八六条は、裁判所は、官庁その他の公私の団体に、必要な調査を嘱託することができることを定めたものである。一八八条は、疎明の方法について定めたものである。
【証拠・証人尋問】
一九〇条は、特別の定めがある場合を除いて、裁判所は、何人でも証人として尋問できることを定めたものである。一九一条は、公務員(国会議員、国務大臣を含む。)を証人として職務上の秘密について尋問する場合の取扱いについて定めたものである。一九五条は、裁判所外で証拠調べをする場合には、裁判所は、受命裁判官又は受託裁判官に証拠調べをすることができる旨の規定を前提として、証人尋問に関しては、受命裁判官等に証拠調べをさせることができる場合を限定して列挙したものである。一九六条は、証人自身又は証人と一定の関係を有する者に関する一定の事項について、証言拒絶権を定めたものである。一九七条は、一定の職業等にある者が職務上知り得た事実及び技術又は職業の秘密に関する事実について、証言拒絶権を定めたものである。一九八条は、証人が証言を拒絶する場合には、証言拒絶の理由を疎明しなければならないことを定めたものである。一九九条一項は、証人が証言を拒絶した場合には、その当否について受訴裁判所が裁判をすることを定めたものである。二〇一条は、証人には原則として宣誓をさせなければならないこと、宣誓をさせることができない者、宣誓をさせないことができる場合、宣誓を拒絶することができる場合及び宣誓を拒絶した場合の処置について定めたものである。二〇二条は、証人の尋問は、原則として、尋問の申出をした当事者、他の当事者、裁判長の順序で行われるが、裁判長は、当事者の意見を聴いて尋問の順序を変更することができること及び当事者がその変更に異議を述べた場合には裁判所が異議について決定で裁判をすることを定めたものである。二〇三条は、証人は、裁判長の許可を得た場合を除いて、書類等の資料を参照することなく、自らの記憶のみに基づいて証言をすべきことを定めたものである。二〇三条の二は、裁判長は、証人の年齢、心身の状態その他の事情を考慮し、証人が尋問を受ける場合に著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、その不安又は緊張を緩和するのに適当であり、かつ、裁判長若しくは当事者の尋問若しくは証人の陳述を妨げ、又はその陳述の内容に不当な影響を与えるおそれがないと認める者を、その証人の陳述中、証人に付き添わせることができることを定めたものである。二〇三条の三は、裁判長は、事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人の面前において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるときは、その当事者本人又は法定代理人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができることを定めたものである。二〇四条は、遠隔の地に居住する証人の尋問をする場合等に、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法によって、尋問を行うことができることを定めたものである。二〇六条は、受命裁判官又は受託裁判官が証人尋問をする場合には、裁判所及び裁判官の職務は当該裁判官が行うとともに、その裁判官がした尋問の順序を変更する命令に対する当事者の異議については受訴裁判所が裁判することを定めたものである。
【証拠・当事者尋問】
二〇七条は、当事者本人の尋問は、申立て又は職権によること、当事者本人を尋問する場合には宣誓をさせることができること、並びに証人及び当事者本人を尋問する場合には原則として証人尋問を先にしなければならないが、適当と認めるときは、当事者の意見を聴いて当事者本人の尋問を先に行うことができることを定めたものである。二一〇条は、証人尋問の規定の一部を当事者本人の尋問について準用することを定めたものである。二一一条は、法定代理人によって訴訟追行がされている場合には、その訴訟において当事者を代表する法定代理人については、当事者本人の尋問に関する規定を準用することを定めるとともに、この場合においても、別途、当事者本人を尋問することは妨げられないことを定めたものである。
【証拠・鑑定】
二一二条は、鑑定に必要な学識経験を有する者は鑑定をする義務を負うものとするとともに、鑑定人となることができない者について定めたものである。二一三条は、鑑定人の指定は、受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官が行うことを定めたものである。二一四条一~三項は、鑑定人について誠実に鑑定することを妨げるべき事情がある場合の忌避の申立て、これについての裁判及び忌避の申立てに対する裁判についての不服申立ての可否について定めたものである。二一五条の二~二一五条の四は、鑑定人質問についての規定である。二一六条は、鑑定には、特別の定めがある場合を除き、第二節[証人尋問]の規定(ただし、勾引及び尋問に代わる書面に関する規定を除く。)を準用することを定めたものである。二一七条は、鑑定に必要な学識経験を有する者は鑑定する義務を負っているが、特別の学識経験に基づいて知ることができた事項についてその者を尋問する場合には、証拠調べの方式としては、鑑定ではなく、証人尋問によるべきことを規定したものである。二一八条は、裁判所は、必要があると認めるときは、官庁その他の団体に鑑定を嘱託し、かつ官庁等の指定した者に鑑定書の説明をさせることができることを定めたものである。
【証拠・書証】
二一九条は、書証の申出の方法を定めたものである。二二〇条は、文書の所持者がその提出の義務を負う場合を定めたものである。二二一条は、文書提出命令の申立ての形式的要件及び前条四号を提出義務の原因とする申立てについての文書提出命令に必要性の要件について定めたものである。二二二条は文書を作成するための手続について定めたものである。二二三条一~七項は、文書提出命令の発令、第三者の必要的審尋及び文書提出義務の存否の審理のための手続について定めたものである。二二六条は、書証の申出の方法の一つとして、文書の所持者にその送付を嘱託することを申し立ててする方法について定めたものである。二二七条は、裁判所は、必要があると認めたときは、提出又は送付に係る文書を留め置くことができることを定めたものである。二二八条は、文書の成立の真正の証明、公文書の成立の真正の推定、公文書の成立の真否についての問合合わせ、私文書の成立の真正の推定並びに外国の公文書への二項及び三項の準用について定めたものである。二二九条一~三項は、筆跡又は印影の対照による文書の成立の真否の証明、対照の用に供すべき物件の提出又は送付及び対照の用に供すべき文字の筆記命令について定めたものである。二三一条は、書証の節の規定を図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないもの(準文書)について準用することを定めたものである。
【証拠・検証】
二三一条一項は、検証物の提示又は送付について二一九条[書証の申出]、二二三条[文書提出命令等]、二二四条[当事者が提出命令に従わない場合等の効果]、二二六条[文書送付の嘱託]及び二二七条[文書の留置]の規定を準用することについて定めたものである。なお、本条に当該規定を準用するにあたっては、本条において書証の節の規定として準用していない二二四条については除かれることになる。二三三条は、裁判所又は受命裁判所若しくは受託裁判所は、検証をするにあたり、必要があると認めるときは、鑑定を命ずることができることについて定めたものである。
【証拠・証拠保全】
二三四条は、裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができることを定めたものである。二三六条は、証拠保全の申立ては、相手方を指定することができない場合においても、することができること及びこの場合においては、裁判所は、相手方となるべき者のために特別代理人を選任することができることを定めたものである。二三七条は、裁判所は、必要があると認めたときは、訴訟の係属中、職権で、証拠保全の決定をすることができることを定めたものである。二三八条は、証拠保全の決定に対しては、不服を申し立てることができないことを定めたものである。二四〇条は、証拠調べの期日には、申立人及び相手方を呼び出さなければならないが、急速を要する場合は、この限りでないことを定めたものである。二四一条は、証拠保全に関する費用は、訴訟費用の一部とすることを定めたものである。二四二条は、証拠保全の手続において尋問した証人について、当事者が口頭弁論における尋問の申出をしたときは、裁判所は、その尋問をしなければならないことを定めたものである。
【証拠・簡易裁判所における証人尋問】
二七八条は、証人等の尋問に代わる書面の提出をさせることができることを定めたものである。(青本第17版)