(再審により回復した特許権の効力の制限)
第一七五条
無効にした特許に係る特許権若しくは無効にした存続期間の延長登録に係る特許権が再審により回復した場合又は拒絶をすべき旨の審決があつた特許出願若しくは特許権の存続期間の延長登録の出願について再審により特許権の設定の登録若しくは特許権の存続期間を延長した旨の登録があつた場合において、その特許が物の発明についてされているときは、特許権の効力は、当該審決が確定した後再審の請求の登録前に善意に輸入し、又は日本国内において生産し、若しくは取得した当該物には、及ばない。(改正、昭六二法律二七、平六法律一一六)
2 無効にした特許に係る特許権若しくは無効にした存続期間の延長登録に係る特許権が再審により回復したとき、又は拒絶をすべき旨の審決があつた特許出願若しくは特許権の存続期間の延長登録の出願について再審により特許権の設定の登録若しくは特許権の存続期間を延長した旨の登録があつたときは、特許権の効力は、当該審決が確定した後再審の請求の登録前における次に掲げる行為には、及ばない。
一 当該発明の善意の実施
二 特許が物の発明についてされている場合において、善意に、その物の生産に用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をした行為(改正、平一四法律二四)
三 特許が物の発明についてされている場合において、善意に、その物を譲渡等又は輸入のために所持した行為(本号追加、平一八法律五五)
四 特許が方法の発明についてされている場合において、善意に、その方法の使用に用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をした行為(改正、平一四法律二四)
五 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、善意に、その方法により生産した物を譲渡等又は輸出のために所持した行為(本号追加、平一八法律五五)
(改正、昭六二法律二七、平六法律一一六、平一五法律四七)
旧法との関係 一二五条
趣旨
本条は、再審によって回復した特許権の効力の制限について規定したものである。特許が無効になったときはその発明を実施することは全く自由となるのであるが、その後、再審によって特許権が回復した場合には、特許を無効にすべき旨の審決の確定から回復までの期間においても特許権は存在したことになるから、その間の発明の実施はすべて特許権を侵害する行為となる。しかし、発明が特許権の拘束から脱したと信じて発明を実施した者がさかのぼって侵害者となるのは、公平の原則にも反して不当である。また、特許出願をしたがその特許出願の出願公開後拒絶の審決が確定した場合も、一般人はその発明を自由に利用することができるのであるから、後に再審によって特許権が設定されても、さかのぼって侵害行為の存在を認めるのは妥当ではない。したがって、発明を善意で実施した者について侵害者隣らない旨を規定したのが本条である。善意を要件としたのは、悪意の実施者に対してはたとえさかのぼって侵害者であるとしても不当ではないと考えられるためである。具体的な例について説明してみよう。万年筆の製造方法について与えられていた特許が無効になり、その後再審によって回復したと仮定しよう。再審の請求の登録前に善意で万年筆の製造方法の発明を実施して一〇万本の万年筆を製造した者がある場合、本条二項一号によってその発明の実施は侵害行為にはならないものとされるのである。しかし、特許権の回復後にその方法によって万年筆の製造をすれば侵害行為となる。この点で次条の場合とはことなる。ここで再審の請求の登録前と時点を限ったのは、再審の請求があったときは第三者に公示する意図で予告登録を行い、かつ、特許公報にも掲載して再審請求の事実を公知にするため、それ以降の実施者は悪意とみなしても苛酷ではないと考えられるからである。
発明の実施行為自体に対する救済は以上のごとくであるが、これだけでは十分ではない。一〇一条の規定によって侵害とみなされる行為(いわゆる間接侵害の行為)をした者についても保護が考えられるべきである。二項二号及び五号はその趣旨で設けられたものであり、善意であること、再審の請求の登録前の行為である事に関しては、発明自体の実施の場合と同様である(三号及び五号については特一一二条の三の[趣旨]参照)。
なお、昭和六二年の一部改正により、特許権の存続期間の延長登録の制度が新設されたことに伴い、一項及び二項に必要な改正を行った。
また、平成六年の一部改正において、特許異議の申立てにおける取消決定により取り消した特許に係る特許権が再審により回復した場合を追加し、無効にした特許に係る特許権が再審により回復した場合と同様に特許権の効力を制限することとしたが、平成一五年の一部改正において、特許異議申立制度が廃止されたことに伴い、当該箇所を削除した。
さらに、平成一四年の一部改正において、一〇一条の改正により、「~のみ用いる」という「専用品」の要件を満たさないものであっても間接侵害が成立する可能性が生じることとなったため、本条二項においても、「のみ」という要件を削除して各号の該当範囲を広げ、一〇一条で広がった侵害とみなす範囲についても、所定の期間、特許権の効力が及ばない旨が規定された。また、一〇一条の記述に合わせ表現上の修正が加えられた。(青本第17版)
最終更新:2010年01月07日 03:44