旧法との関係 一二八条ノ四
趣旨
特許無効審判の形態は、特許権者と審判請求人の対立構造となっており、特許無効審判の審決に対する取消訴訟における審理についても、特許無効審判における審理と同様、特許権者と審判請求人を訴訟当事者とする特殊な形式をとっている。このため、無効審判の審決に対する審決取消訴訟においては、特許庁は訴訟当事者となることはなく、原則として裁判所における審理には関与しない。これは、延長登録無効審判も同様である。
特許無効審判での審理においては、
特許法の解釈・運用について一次的責任を負う特許庁の裁判官が、その判断を通じて、自らの法令解釈や運用基準、法律適用等を審理の結果に反映することができる。しかし、ひとたび事件が訴訟に移行すると、特許庁は当事者としてその審理に関与することはできない。しかし、無効審判の審決取消訴訟の結果は特許庁を拘束し、その法令解釈や運用基準、ひいては、技術開発やその成果の利用に携わる多くの国民に大きな影響を与える可能性がある。
本条は、このような問題点を解決するため、平成一五年の一部改正において新たに導入された、特許庁長官が裁判所に意見を述べる制度についてきていしたものである。
当事者系審判について審決取消訴訟が提起された場合において、特許庁による法令解釈や運用基準が争点となるとき、又は、特許庁の専門的知識が審理充実のために必要となるときに、特許庁又は裁判所の発議により、特許庁長官が裁判所に意見を述べることを可能とすることにより、専門行政機関たる特許庁の考え方が訴訟審理に反映され、それを踏まえた判断がなされることが期待できる。
一項は、裁判所が特許庁長官に対して意見を求める(求意見)ことを規定するものである。また、二項は、一項とは逆に、特許庁長官が裁判所に対して意見を述べる(意見陳述)ことができることを規定するものである。
求意見及び意見陳述を行うことができるのは、当事者系の特許無効審判(一二三条)及び延長登録無効審判(第一二五条の二)の審決取消訴訟に限られる。また、訴訟中に提示する意見としては、主として、審決において問題となった法令解釈、運用基準の扱い等、法律の適用について行うことが想定されるが、他にも裁判所の求めに応じ、又は許可の内容に応じ、又は許可の内容に応じ、必要な意見を述べることが可能である。更に、求意見又は意見陳述については、裁判所又は特許庁長官の義務ではなく裁量である。特に、特許庁が裁判所の求めによらず意見を述べる場合には、特許庁が意見を述べることによって訴訟が遅延する等の弊害が生じる可能性があることから、訴訟審理の迅速性、公平性あるいは充実性の観点から裁判所がその適否を判断し、適切であると認めるときに許可することとした。
三項は、一項の求意見又は二項の意見陳述が行われる場合に、常に特許庁長官自身が意見を述べるとするのは現実的でないため、特許庁の職員から代理人を選任することができることを明示した。
[参考]
<求意見・意見陳述制度導入に際しての検討>
特許庁の訴訟関与を実現する制度としては、①訴訟当事者として訴訟に関与する訴訟参加、②単に訴訟中に特許庁の意見を提示する求意見・意見陳述が考えられる。
これらのうち、①訴訟参加については、既に行政事件訴訟法第二三条による参加の道があり、現行法の下でも特許庁がその意見を訴訟に反映することができる。しかし、特許庁の意見を訴訟審理に反映するために特許庁が必ず訴訟参加しなければならないとすると、審理が必要以上に複雑化し、審理の遅延をもたらす可能性がある。また、特許庁が参加する場合には、法令解釈や運用基準についての正当性を担保することも目的とするものであるから、当事者の主張に現れない事項や当事者の主張に反する事項について主張することもありうる。しかし、特許庁が訴訟に参加する場合は、民事訴訟法の補助参加人の規定が適用されるため、特許庁は被参加人の訴訟活動に抵触することは行えず、審理の進行によっては、当事者の主張を離れて特許庁としての意見を主張できないことも起こり得る。(青本第17版)