旧法との関係 三〇条
趣旨
本条は、証明、閲覧等の請求について規定したものである。すなわち、誰でも一定の手数料を納付すれば特許に関する証明等の請求をすることができる。
旧法においては「特許証ノ複本」「図面ノ調製」を請求することができることになっていたが、特許証の複本の制度は、かつて特許原簿への登録申請に際して特許証の添付が必要とされていた当時においてのみ実益があったものであり、現在のように登録申請に特許証の添付を要しない制度のもとではほとんど意味がない。特許証を手に入れたい者は二八条二項の規定に基づき特許証の再交付を受ければよく、したがって、特許証の複本の請求を認めないこととした。
また「図面ノ調製」は特許庁がその調製サービスするまでもなく、民間にそれを業とする者が数多くいることでもあるので、廃止することとした。
なお、二七条の改正では特許原簿の全部又は一部が磁気テープをもって調製することができることとなったことに伴い、本条でも特許原簿のうち磁気テープをもって調製した部分に記録されている事項を記載した書類の交付をも請求することができることと改正された。
旧法は「但シ特許庁長官ニ於テ秘密ヲ要スト認ムルモノニ付テハ之ヲ許可セス」というただし書を設けていたが、これでは不許可の要件が漠然としているため、必要以上に請求が却下されるおそれがある。したがって、不許可の対象となるべき書類を具体的に列挙し、特許庁長官の裁量の範囲を制限した。
一項一号、ニ号はともに特許権の設定登録前または出願公開前の出願に関する書類については、閲覧、謄写等の請求を許否することができる旨を定めた規定である。
なお、一、二号については、昭和四五年の一部改正において採用した出願公開制度は、出願内容についての秘密状態を解除するものであるので、出願公開された書類を第三者の閲覧、謄写請求に加えるための改正を行った。さらに、一号については、平成二年の一部改正において、特許出願をする際に要約書を提出することが義務付けられたこと、及び平成一四年の一部改正において、「明細書」から「特許請求の範囲」が分離されたこと、及び平成一四年の一部改正において、「明細書」から「特許請求の範囲」が分離されたこと(三六条二項)に伴い、それぞれ、要約書と特許請求の範囲を請求不許可の対象となるべき書類に加えるための改正を行った。また、二号については平成五年の一部改正において、補正却下不服審判が廃止されたことに伴い、該当箇所を削除した。さらに、平成六年の一部改正においては、一号に外国語書面出願の外国語書面及び外国語要約書面を加えるとともに、出願公告制度の廃止に伴い、特許権の設定の登録又は出願公がされたものは秘密保持すべき書類から除外するように一号及び二号を改正した。
また、平成一〇年の一部改正においては、一号に、公開前審査の導入に伴い、願書等の書類と同様に発明の内容を含む特許出願の審査に係る書類を加えるとともに、三号及び四号を新設し、発明の内容とは直接関係のない営業秘密を含む書類(当事者系審判に係る書類で申出のあったものに限る)及び公開されることにより個人の名誉若しくは生活の平穏を害するおそれがある書類(特許を受ける権利の承継に関する戸籍謄本、特許料の減免に関する生活保護証明など)について、証明又は閲覧の制限ができることとする改正を行った。
また、平成一六年の裁判所法等の一部改正において、一〇五条の四が新設されたことに伴って、三号に形式的な修正が加えられた。
五号は、公序良俗違反のものである。公序良俗を害するおそれがあるため、特許庁長官が請求を拒めることにした。
二項は、平成一〇年の一部改正で追加された規定であり、
特許法一八六条一項一号から四号までの書類については、閲覧請求があった場合に、特許庁長官が閲覧請求を認容することとしたときは、公開により不利益を被るおそれがある当該書類の提出者に対して行政不服審査法による異議申立ての機会を確実に与えるようにするため通知を行うこととした。
三項は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)の制定に伴い追加された。特許に関する書類及び特許原簿については、写しの交付及び閲覧による開示制度が整備されているため、情報公開法の適用除外とすることとなる。
四項は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成一五年法律第五八号)の施行に伴い、特許法でも必要な整備を行うために追加された。「個人情報」とは「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる指名、生年月日、その他の記述等により特定の個人が認別することができるもの」であり、「保有個人情報」とは、「行政機関の職員が職務上作成し、又は、所得した個人情報であって、当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして、当該行政機関が保有しているもの」をいう。同胞第四章では、保有個人情報の開示、訂正及び利用停止並びにそれらの不服申立てについて規定されている。
特許出願や特許原簿については、一般的な行政文書と異なり、特許法独自の完結した体系的な開示及び訂正並びに不服申立ての制度の下にある。このため、一般的な行政文書と同様の開示及び訂正並びに不服申立てを認める事は、特許法の制度の趣旨を損なうこととなる。
また、これらの文書の内容の訂正については、変更事由が生じた際に申請するという訂正の制度が設けられており、これらの文書に記録された個人情報について一般的な行政文書と同様に訂正を認めることは、その必要性が乏しいのみならず、特許法の制度の趣旨を損なうこととなる。
さらに、これらの文書は、権利を公証することを目的としており、一般的な行政文書と同様に利用停止を認めることは、特許法の制度の趣旨を損なうこととなる。
このような観点から、保有個人情報の開示、訂正及び利用停止並びに不服申立てについては、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第四章の適用から除外する事を明示した。
[字句の解釈]
1 <特許原簿のうち磁気テープをもって調製した部分>これは二七条二項の規定にもとづいて調製した特許原簿を形成する部分のことを意味する。この部分については、登録されている事項が、直接目で見て内容を知ることができず、また書き写すことや単純な方法で複製することが不可能であって、内容を知ろう人すれば一定の機械装置の助けを借りて印刷等の特別の操作を行わなければならない。
2 <記録されている事項を記載した書類>二七条二項の一部改正の解説でも述べたように、磁気テープ等をもって調製した特許原簿においては、登録は文字そのものをそのまま記載するのではなく、なんらかの別の形(たとえば、残留磁気)に返還されて記録されているので登録内容を知ろうとすれば、その内容を機械装置によって文字に戻す操作をして文字の形で印刷した書類をしなければならない。このような書類は、従来の特許原簿について閲覧、謄写を行い又は謄本、抄本を作成することに相当するものである。
特許庁において特許原簿を備え、これに一定の事項を登録するのは、登録の効力はさておき特許権その他特許に関する権利の状態を一般公衆に公示し、また登録事項の真正であることを推定させる機能を営むものであるから、その閲覧を許し、謄本の請求に応ずること等は当然必要な事項である。従来は、この目的のために通常「書類の謄本若しくは抄本の交付」又は「書類の閲覧若しくは謄写」を請求させていたのであるが、磁気テープ等をもって調製した特許原簿については、従来の方法によることができないので、特許原簿に「記録されている事項を記載した書類の交付」を請求することになる。なお、ここで「書類」というのは、一八六条一項前項の「書類の謄本」でいう特許庁で保管している原本である出願書類、処分通知書の原本、原簿等を指す書類とは異なって、専ら交付等の目的のために作成される特許原簿の内容を写した書類であるから、この「書類」についてさらに謄本又は抄本の交付を請求することはできないと解される。(青本第17版)