旧法との関係 一三二条
趣旨
本条は、偽証等の罪について規定したものである。一般の偽証罪については刑法に規定がある。すなわち、同法一六九条は「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。」と規定し、一七一条は「法律により宣誓した鑑定人、通訳人又は翻訳人が虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をしたときは、前二条の例による。」とするから、一項は刑法の原則と変わるところはない。刑の量についても刑法と同じである。本条はむしろ二項に重要な意味があり、一項はに項を引き出すための規定である。刑法一七〇条は「前条の罪を犯した者が、その証言をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を軽減し、又は免除することができる。」と定めるが、査定、審決は「裁判」には該当しないので同法をもってまかなうことはできず特に規定を設けたのである。旧法とは「事件ノ査定又ハ審決ニ至ラサル前」と規定していたが、この表現だと審査の段階で偽証した者はその後事件が審判に係属した後に自白しても減免されないことになる。これは刑事政策上適当でないので二項「事件の判定の謄本が送達され、又は審決が確定する前」と改められた。
虚偽の陳述とは証人の記憶に反する陳述であり、内容が客観的真実に合致しているかどうかは問わない。虚偽の鑑定とは鑑定人の所信に反する意見ないしは判断の陳述であり,真実との一致不一致が問題にならないのは偽証の場合と同様である。
なお、平成六年の一部改正により、特許異議申立ての審理において偽証の罪を犯した者が特許異議の申立てについての決定の確定前に自白した場合を、刑の現軽又は免除の対象として追加した。また、平成一一年の一部改正において、判定制度について必要な手続規定の整備を行ったが、判定については、その結論に法的拘束力がないものの、当事者の紛争解決のための公的見解の表明であり、その判断作用は適性を期する必要があるため、特に証拠調べに関する規定の整備に伴い、判定の審理手続において証人等が虚証した場合を刑の減刑又は免除の対象として追加した。さらに、平成一五年の一部改正において、特許異議申立制度が廃止されたことに伴い、該当箇所を削除した。
[字句の解釈]
1 <証人>民事訴訟法では、自己の経験によって知得した具体的な事実について、尋問に応じて供述することを裁判所から命ぜられる第三者をいう。
特許法の場合は、供述を命ずる主体は特許庁及び特許庁の嘱託を受けた裁判所である。
2 <鑑定人>民事訴訟法上では、裁判官の判断能力を補助させるため、特別の学識経験を有する者に知識またはその知識を利用した判断を報告させる場合におけるその学識経験者を指す。
3 <通訳人>必ずしも外国人の場合にのみ用いられるとは限らない。民事訴訟法一五四条一項は「口頭弁論に関与する者が日本語に通じないとき、又は耳が聴こえない者若しくは口がきけない者であるときは、通訳人を立ち会わせる」と規定する。
4 <嘱託を受けた裁判所>150条六項にもとづき特許庁は証拠調または証拠保全を裁判所に嘱託することができる。
5 <自白>民事訴訟法と刑事訴訟法とでは意味が異なる。刑事訴訟法は被告人に不利益な事実の証拠となり得る被告人の陳述をいう。(青本第17版)