旧法との関係 該当条文なし
趣旨
本条は、犯罪行為の防止を強化する目的で、鉱業法一九四条、独占禁止法九五条、建設業法四八条等にならい、昭和三四年法において新設された規定で、所定の違反行為が法人の代表者、人の代理人等によってなされたときは行為者とともにその法人又は人を罰することを定めるいわゆる両罰規定である。ただし、刑罰のうち自由刑はその性質上法人には適用し得ないので、罰金刑のみが科されるのである。
なお、平成六年の一部改正において、旧一九六条二項(仮保護の権利の侵害罪)が削られたことに伴い、該当箇所が改正された。
工業所有権四法のうち商法権の侵害については、公益性が高いことに鑑み、平成八年の一部改正において、両罰規定において、法人に対する罰金刑を自然人に対するものよりも重く規定する、いわゆる法人重課が導入されている。しかしながら、特許権の侵害についても、①権原なく、業として発明等を実施(製造、販売等)する侵害行為は、法人企業の業務の一環として行われるものであること、②特許発明の実施には、通常、所要の製造能力が必要であるとともに、③侵害の主体が主に法人にあるため、侵害によりもたらされる利益は、個人による場合に比べて高くなると予想されるが、法人に対する罰金の上限は五〇〇万円にとどまるのでは、その抑止に限界があることから、平成一〇年の一部改正において、
特許法においても法人重課を導入し、法人に対する罰金額の上限を引き上げることとした。なお、罰金額の上限は、先に導入された
商標法とのバランスも考慮しつつ、自然人と法人の資力格差、企業経営における特許権の重要性、及び侵害による損害額が高額化している状況等に鑑み、三億円とされている。
また、平成一一年の一部改正において、以下のような理由から、詐欺の行為の罪、虚偽表示の罪の両罪についても法人重課を導入し、法人に対する罰金額の上限が引き上げられた。
詐欺の行為については、出願人等から特許庁に提出される書面は大量にあり、その書面の大半は真正なるものであると考えられること、ユーザーからは迅速な処理が求められていること、審査官、審判官が詐欺の行為を発見することは実際上非常に困難であること等から、罰則が十分に抑止力をもったものであることが必要である。特に、①行為主体が法人の場合は、詐欺の行為により取得した権利を利用して獲得する利益は、個人の場合に比してはるかに大きいと考えられる。②過去の出願割合を見ても、法人の出願が圧倒的に多く、その大半が大企業であることから、規模の大きい法人が行為主体となる可能性が高い。
一方、虚偽表示は、製品の虚偽の表示を付すことによって需要者にそれが真正な特許製品であると誤認されて、経済的取引を行うことを主な目的とする行為である。したがって、①処罰対象となる法人業務主には、一定の品質の製品を製造できるような相当程度技術的に高度な製造能力が必要であることから、規模の大きい法人である場合が多いと考えられる。②こうした大規模法人は、大量生産という方式を採り、大量の製品を流通させるための販売力を備えている可能性が高く、虚偽表示を行った場合の社会的影響は大きくなること考えられること。また、③保護法益が重なる部分があると考えられる不法競争防止法の品質誤認惹起行為(二条一項一二号)に対する罰則には、すで法人重課が導入されており、法的整合性という観点からも問題があるものと考えられること。
なお、罰金額の上限については、自然人と法人との資力格差、侵害罪の罰金額の上限等に鑑み、一億円とされた。
また、平成一六年の裁判所法等の一部改正に伴って、新設された秘密保持命令により営業秘密の保護の実効性を確保する観点から、秘密保持命令違反行為を行った者の属する法人に対しても、法人重課を導入し、法人に対する罰金額の上限を一億円とした。
さらに、平成一七年の不正競争防止法等の改正に伴って、秘密保持命令違反行為を行った者の属する法人に対する罰金額が引き上げられ、その上限を一億五〇〇〇万円とした。平成一八年の一部改正においては、企業経営における特許権の重要性や、侵害による損害額が高額化している状況等を勘案し、罰金額の上限が三億円に引き上げられた。
二項は、平成一六年の裁判所法等の一部改正に伴って新設された規定であり、一項に規定する両罰規定の場合においても、①行為者の罰則と同様に親告罰であることを確認的に明らかにするとともに、②共犯の場合の告訴不可分の原則(刑事訴訟法二三八条一項)と同様に、秘密保持命令違反行為を行った者に対する告訴の効力が事業主に対しても不可分的に及ぶことを確認的に明らかにしものである。
三項は、一項の規定により、侵害行為者である自然人のほか、法人に罰金刑が適用される場合において、刑事訴訟法二五〇条の規定により、自然人と法人とで公訴時効の期間が異なってしまう事態となることを避けるため、その場合は、法人についての時効の期間は、自然人の侵害罰についての時効の期間による旨の規定であり、平成一八年の一部改正において追加された。(青本第17版)