旧法との関係 施規三七条、三八条
趣旨
本条は、特許出願をする際に提出すべき願書等の作成要領について規定したものである。旧法においては、施行規則中に記載されていたものであるが、規定の性質上法律をもって規定すべき事項であるのでここに規定することとした。
一項は旧法と同様なものであるが、平成八年の一部改正において、商標法条約が願書・各種申請書の記載事項を簡素化し、条約上で定める要件以外の要件を課すことを禁止していることから(同条約三条(7))、
特許法でも、これに対応する改正をした。すなわち、一号中、従前は代理人の有無にかかわらず常に記載することを義務付けていた「(出願人が)法人にあつては代表者の氏名」を、代理人がいる場合には不要とする趣旨で削除した。また、平成八年の一部改正前の二号に規定していた「提出の年月日」も、願書を作成する際に出願人がその提出の年月日を確定できないこと及び願書の年月日を認定するのは特許庁であること等の趣旨により削除した。
また、平成一〇年の一部改正において、願書と明細書の結合を表すべく願書と明細書の双方に記載を求めていた「発明の名称」について、ペーパーレスを前提とした業務処理において、こうした機能は不要である等の趣旨により、旧二号に規定していた「発明の名称」を削除した。これにより、願書においては「発明の名称」の記載を求めず、特許情報等の利用においては明細書中に記載の「発明の名称」を利用する。
二項は願書に添付して提出すべき書類について規定したものである。要約書は、平成二年の一部改正により願書に添付して提出することが義務付けられたもので、特許協力条約をはじめとして欧米主要国において既に採用されているものと同様のものであり、その目的は、明細書等の内容の迅速かつ的確な把握を可能とする点にある。なお、要約書は、もっぱら技術情報として用いることをその目的とするものであり、その記載は、特許発明の技術的範囲を定めるに当たって考慮されない(七〇条三項)。また、平成一四年の一部改正において、電子国際出願の受付開始に合わせて国内出願の出願様式を特許協力条約に定める出願様式と整合させるため、「特許請求の範囲」を「明細書」から独立した書類にする変更が行われた。なお、この改正に伴い、本条三項、五項から七項及びその他関係する条文にも同様の修正が加えられた。
三項は明細書に記載すべき事項について規定したものである。本項は、平成二年の一部改正前の二項の一部を分割し、別項で規定したものである。
四項は発明の詳細な説明記載要領を規定したものである。一条の説明において述べたように、特許制度は発明を公開した者にその代償として一定期間一定の条件を付与するものであるが、発明の詳細な説明の記載が明確になされていないときは、発明の公開の意義も失われ、ひいては特許制度の目的も失われてくることになる。その意味で本項はきわめて重要な規定である。本項は、平成一四年の一部改正までは、発明の詳細な説明の記載要綱のうち、特許出願に係る発明についての記載要領のみを規定しており、一号及び二号という構成を採っていなかったが、同改正により先行技術文献情報の開示についても規定することとされ、一号及び二号に列挙する構成とされた。
一号に相当する内容として、平成六年の一部改正前は、発明の詳細な説明においては、①発明の目的、構成及び効果の記載を通じて発明の技術上の意義が理解され、②当事者が容易にその実施をすることができるような記載を求めていた。同改正後は、前者については、経済産業省で定めることとし、施規二四条の二において「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載する」旨規定するとともに、後者においては本項において、当事者がその実施をすることができるような記載をすべきことを規定し、従来と同様に発明の詳細な説明が有する機能を担保した。なお、同改正では、「容易にその実施をすることができる程度に」と規定されていたのを「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に」と改めているが、これは制度の国際的調和の観点から法文上の整合性を担保したものであり、実体上の改正を企図したものではない。同行に違反した場合は拒絶理由になり(四九条四号)、特許無効の理由にもなる(一二三条一項四号)。
二号は、平成一四年の一部改正により新設されたものであり、出願人の有する先行技術文献情報を有効活用するため、改正前は努力規定となっていた先行技術文献情報の開示を義務化することにより、信義誠実の原則の下、出願人による積極的な情報開示を促すものである。本号に基づいて、先行技術文献情報が開示されれば、審査官及び第三者にとって従来技術の客観的な理解が容易となり、その結果、その情報に基づいた本願発明の把握及び先行技術調査が容易となる。開示がない場合には、審査官から通知(四八条の七)をして開示を促し、それでもなお開示しない場合には拒絶理由(四九条五号)を構成する。すぐに拒絶理由とされないのは、開示義務違反を常に審査対象とすると審査の遅延等を招く可能性があるためである。また、開示義務違反を理由とした無効裁判請求が多発する可能性があることを考慮して、無効理由とはされていない。なお、「文献公知発明に関する情報」とは、その発明そのものを内容とする情報を意味し、その情報の「所在」とは、頒布された刊行物に記載された発明にあってはその情報が記載された刊行物の名称を、また電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明にあってはその情報を特定するURL等を、それぞれ意味する。
五項及び六項もまた四項と同様きわめて重要な意義を有する。発明の詳細な説明の記載が発明の公開という点から重要な意義を有するものであるのに対し、特許請求の範囲の記載は、権利範囲がこれによって定まるという点において重要な意味を有する(七〇条一項)。本項の記載が正確でないときは、その権利の制約を受ける公衆が困るのみならず、権利者自信も無用の争いに対処しなければならず、不利不便をまぬかれない。本項の記載が正確であるためには、特許請求の範囲の外延が明瞭に示されているのみでは足らず、発明の詳細な説明に記載した発明の範囲をこえた部分について記載するものであってはならない(もし発明の詳細な説明に記載しない部分について特許請求の範囲に記載することになれば、公開しない発明について権利を請求することになる)。逆に、発明の詳細な説明に記載した発明の一部についてのみ特許請求の範囲に記載し(記載された一部のみによっても発明が完全に構成されていなければならない)、他の一部の発明については記載されていないときは、必ずしも本項違反になるとは限らない。このような場合は、公開したにもかかわらず権利の請求をしなかったということになる。
五項前段は、特許請求の範囲に記載すべき事項について規定したものであり、従来の五項二号を改正したものである。
この旧五項二号は、昭和六二年の一部改正により、「請求項」を「特許を受けようとする発明の構成に書くことができない事項のみ記載した項」と定義し、欧米のa claimに相当する概念として我が国の法律に請求項という概念を導入するとともに、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載することにより、一の請求項から必ず発明が把握されるように記載しなければならないことを担保した規定である。しかしながら、この「発明の構成を欠くことができない事項のみ」を記載するとの規定では、特許請求の範囲の記載が制約され、発明をより適切に記載できない場合が生じることもあった。
このため、平成六年の一部改正では、この規定を改正し、「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」を記載する旨規定することによって、発明の構成にかかわらず、技術の多様性に柔軟に対応した特許請求の範囲の記載を可能とした。なお、昭和六二年の一部改正においては、従来、単に「発明」と規定されていたのを「特許を受けようとする発明」と規定することにより、特許請求の範囲の位置付けを明確にしたが、平成六年の一部改では、この趣旨を受けて「特許出願人が特許を受けようとする発明」と規定することとした。
この規定により、特許請求の範囲には、①特許出願人が自らの判断で特許を受けることによって保護を求めようとする発明について記載するのであり、②そこに記載した事項は、特許出願人自らが「発明を特定するために必要と認める事項のすべて」と判断した事項であることが明確となる。
なお、本項は、特許出願人が特許請求の範囲の記載にあたって何を記載すべきかを規定することによって、前記のような特許請求の範囲の位置付けを明らかにしたものであるから、その位置付けからみて、特許出願人の意思にかかわらず、審査官が特許を受けようとする発明を認定し、その発明を特定するために必要と認められる事項のすべてが記載されているかどうかを判断することは適当ではない。このため四九条四号等の規定中から本項を削除し、「発明を特定するために必要と認められる事項のすべて」が記載されているかどうかは、拒絶又は無効の理由とはしないこととした。
これに対し、四項又は六項の規定に違反する場合は、従来と同様に拒絶又は無効の理由となる。これは、五項とは異なり、四項は、特許による保護を与える前提として発明の詳細な説明による発明の公開を義務づける規定であり、六項は、公開された発明について特許による保護を与えるとともに、特許権の権利範囲を明確とすること等を担保する規定であるからである。
五項後段は昭和六二年の一部改正により全面的に改正された旧六項を平成六年の一部改正において移動したものであり、「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを防げない。」と規定することにより、発明の詳細な説明に段階的に開示した開示した発明のうちから出願人が任意に選び出した発明について、それらの発明が相互に同一であるか否かを問わず、特許請求の範囲に記載できることとなった。
六項一号は、昭和六二年の一部改正前の四項「発明の詳細な説明に記載した発明の……」に対応する規定であり、特許請求の詳細な説明に記載していない発明について特許請求の範囲に記載することになれば、公開しない発明について権利を請求することとなるわけであり、これを防止する規定である点で改正前の規定と同様である。
六項二号及び三号は、平成六年の一部改正において新設された規定である。
特許請求の範囲の記載は、特許権の権利範囲がこれによって確定されるという点において重要な意義を有するものであるから、その記載は正確でなければならず、一の請求項から必ず発明が把握されることが必要である。
従来は、こうした機能は、「発明の構成に欠くことができない事項のみ」を記載させることにより担保していたが、平成六年の一部改正においては、五項前段に加え本項に二号及び三号の規定を設けることにより引き続き担保し、併せて制度の国際的調和を図ることとした。
二号は、こうした従来からの特許請求の範囲の機能を担保する上で重要となる規定であり、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定したものである。この規定により、特許権の権利範囲を確定する際の前提となる特許請求の範囲の記載の明確性が担保されることになる。
三号は、請求項ごとの記載が簡潔でなければならない旨を規定したものである。特許請求の範囲の記載は、七〇条一項に規定されているように権利解釈にあたっての基礎となるものであるから、二号の要件を満たすことは勿論のこと、第三者にとって理解しやすいように簡潔な記載とすることが適当である。このため、制度の国際的調和の観点をも踏まえ、請求項ごとの記載に必要以上に重複した記載があるなど冗長であるときは、本号に基づき四九条四号の拒絶理由の対象とすることとした。
六項四号は、昭和六二年の一部改正前の五項「特許請求の範囲の記載は、通商産業省令で定めるところにより、しなければならない。」に対応する規定であり、改正前と同様、特許法施行規則二四条の三に請求の範囲の記載に関する技術的な規則、例えば、請求項ごとに行を改めて記載すること、全請求項を通して記載する順序により連続番号を付さなければならないこと等が具体的に規定されている。
七項は平成二年の一部改正により追加された規定であり、要約書に記載すべき事項について規定したものである。要約書には、明細書または図面に記載した発明の概要及び経済産業省令で定める事項を記載しなければならないが、これを受けて、特許法施行規則二五条の二では、出願公開等の際に、明細書又は図面に記載した発明の概要と共に特許公報に掲載することが最も適当な図に付されている番号を規定している。
[参考]
<請求項>昭和六二年の一部改正により、「請求項」の概念が導入され、一発明を複数の請求項で記載することが可能となったが、改正当時の請求項の定義には、「発明の構成に欠くことができない事項のみ」と規定されていたことから、同一の技術的思想たる発明については、一の請求項しか記載できないことになるのではないか、あるいは、従来の実施態様項に相当する請求項は記載できないことになるではないか、という危惧もあった。
平成六年の一部改正では、「発明の構成に欠くことができない事項のみ」との規定は改められたため、こうした危惧が生じる余地はなくなったが、「請求項」についての理解を深めるうえで参考になるため、昭和六二年の一部改正当時の考え方を記しておく。
我が国の特許制度においては、大正一〇年法以来「構成に書くことが出来ない事項のみ(構成ニ欠クヘカラサル事項ノミ)」と規定されていたが、「のみ」の趣旨は、特許後において特許請求の範囲に記載した事項の一部を発明の構成上の必須要件でない旨主張することを防止することにあり、この「のみ」は、特許請求の範囲の中に記載されるべき内容を規定しているものであり、同一の発明について、一の請求項しか記載できないことを規定しているものではない(このことは、大正一〇年法において「特許請求ノ範囲ニハ発明ノ構成ニ欠クヘカラサル事項ノミヲ一項ニ記載スヘシ」と規定されており、「一項ニ」という字句で単項制が規定されていることからも明らかである)。昭和三四年法において、この「一項ニ」という字句は、句点をつけることなく一文章で記載しなければならない、との誤解を生じるということで、削除されたが、もちろん多項制が採用されたわけではない。
そして、昭和五〇年の一部改正により、「実施様態項」を導入することにより、一発明を複数項で記載することができるようになった。しかし、実施態様項として記載できるものは、「発明の構成に欠くことができない事項」を記載した必須要件項(又は他の実施様態項)を技術的に限定して具体化したものに限られており、その部分に発明性が認められれば、実施様態項として記載できないが、技術的に限定してあるか否かという判断は、他の請求項すなわち、必須要件項(又は他の実施様態項)と比べることによって初めて可能となるものである。昭和六二年の一部改正においては、各請求項からそれぞれ独立に、発明を把握し、異なった請求項から把握される同一となることを妨げないこととされたため、一発明を複数の請求項で記載することが可能となった(改正前においても、「発明の詳細な説明」には、様々なレベルの発明が記載されており、その中から、特許請求範囲に「発明の詳細な説明に記載した発明の……」を記載する場合に、どのレベルのもの(上位か下位か)を選択するのは出願人の自由であり、ある場合には、実態態様項として記載できるクレームでも、単項で、特許請求の範囲に、必須要件項として記載することは妨げられていなかった。しかしながら、一の技術思想たる「発明」については、一の必須要件項を記載することしか許容されていなかったため、必須要件項としては、同一発明とされるもののうちからあるレベルでの発明について記載することしかできず、その他のレベルの発明については、必須要件項に記載された事項を技術的に限定し具体化したものに限り、実施態様項として記載できるにすぎなかった)。(青本第17版)