走っている途中でも、やはりカッターは飛んでくる。
だがどれも接近を察知し、フォートが撃つかロードが叩き落した。
それもその筈、以前何人もの粛清官が倒された時は、夜の森の中という視覚が満足に機能しない場所であったが、今は照明の灯った廊下だ。しかも飛来してくるのは前方だけ。対処するのは簡単と言えた。
やがて視界の先に、ロードは一人の人物を見た。
「しぶとい奴らだ。おとなしく首を落とされればいいものを」
廊下の終わり。管制室へのゲートを背後にして、椅子に座り足を組んでいる人物が居た。
シュミットと同じく、薄汚れているが血痕は付着していないアーマー。
鼻の下と顎には、シュミットよりも大分長い髭が生えている。
灰色がかった頭髪は首より下まで伸びており、オールバックとなっていた。
ロードが何か言い返す前に、その人物は再び言葉を紡ぐ。
「仕方ない。ではこうするか」
その人物の手にはボタンが握られており、わざと見せ付けるように、その男はボタンを押した。
「っ!!?」
途端に、廊下の照明が消えた。
思わず足を止めるロード。横に居るフォートも同様だった。
「マジかよ!?おいおいどうする?」
囁く様にフォートが問う。ロードは冷静に言った。
「あいつがカッターの主だろう。奴の所まではまだ遠い。ならば…」
瞬間、再び空気を斬り裂く音。
ロードは剣を振り上げると、一瞬の間の後、振り下ろした。
直後に、金属が床に落ちる音が響く。
「自らの感覚を総動員して凌ぎ、奴の所まで辿り着く。それ以外に無い」
「この状況で進むのか」
「首を落とされるのは御免だろう」
「…そうだねぇ」
短い会話の後、ロードとフォートは歩き出した。
「オオオオオオッ!!」
ミラージュの繰り出す連撃に、シュミットは的確に対応していく。
「どうした、その程度か!」
手数は圧倒的にミラージュの方が上。にも関わらず、先程からシュミットへ一撃も入れる事ができないでいた。
その事実に直面し、次第にミラージュは焦り始める。
「確かに二刀となり、お前の手数は圧倒的に増した」
大剣で対応しながら、会話を続けられるほどシュミットには余裕があるように見える。対して、ミラージュの方はそれに応対する余裕も無いのは明らかだった。
先程から、一度もシュミットは攻勢をかけてなどいないのに。
「だがな、そんな単調な攻撃では、私の剣一本でも十分対応が可能なんだよっ!」
その瞬間、ミラージュは一回転しつつ両手のビームサーベルをシュミットへ向けて叩き付けた。
だが全体重を乗せた一撃も、それに合わせて繰り出されたシュミットの一撃を打ち破るどころか、逆にミラージュの方が吹っ飛ばされた。
「ぐうっ!!」
「失望したぞ。私が教えていた頃のお前には、もう少し才能を感じていたんだがな」
一歩、二歩。シュミットはミラージュへ向けて歩みを進める。
やがて、部屋の中央付近まで行って立ち止まると、彼は言った。
「さて、そろそろ時間だ。お前がそこで無様に這い蹲っている間に、難易度は上昇するぞ」
「…何?」
途端に、天地が逆転した。
「うあっ!!?」
床が天井に、天井が床に。重力の方向が突如逆転し、変化した重力に引かれミラージュが床に墜落する。
咄嗟に両手のビームサーベルのスイッチを切ったのは正解だった。そうしなければ自滅して手足のどこかが落ちていたかもしれない。
対して、シュミットはこれを予想していたかのように、華麗に着地する。
「ぐ…うっ…!」
「ここから先は、私が把握している時間に、室内の重力が操作される。お前の勝率はより低くなったわけだ」
ようやくゆっくりと立ち上がったミラージュは、両手のビームサーベルを再び起動した。
「勝率など関係ない。これが俺の…任務だ」
そして再び、ミラージュはシュミットへ向け突っ込んでいく。
それを見つめ、忌々しそうにシュミットは呟いた。
「この…愚か者が」
「チェックメイトだ」
肩で息をしながら、ロードは目の前にいる人物にビームサーベルの切っ先を向けた。
その光は暗闇となっていた廊下の一部を照らしている。
「…まさかここまで首を落とされずに走破するとはな」
サーベルを向けられた男は、両手を上げていた。
「ヘブンのデータベースで見たぜ。お前さん、ロックマン・カーティスだな」
その顔を眺め、ロックマン・フォートが言う。
ロックマン・カーティスは、上げたままでいる右手を更に上げ、その掌の中にあるスイッチを示した。
「降参だ。照明を点けるが、いいか?」
一瞬躊躇したロードはフォートに視線を向ける。
フォートは少し思案すると、言った。
「ま、いいだろ」
次の瞬間、廊下の内部の照明が点灯する。
全身が露になった相手を見て、ロードは一拍の後、唸る様に言った。
「貴様…!」
相手は、足を組んでいた。至極余裕そうに。
「まだ何か策でも労しているのか!?」
「降参と言ったろう。何も仕込んでいやしない」
しかし、ロックマン・カーティスは組んだ足を解かない。それどころか、その足は微動だにしていなかった。
それを眺めつつ、不意にフォートが口を開く。
「足を動かさないんじゃない。動かせないんだろう?」
その言葉にロードが驚愕し、カーティスも少しばかり驚いたような視線をフォートに向けた。
二人の視線を受けたフォートは、当然の様に言う。
「敵の情報くらい事前に調べてるさ。と言うか、そうしないお前は非常識だぜ、ロード」
「…動かせない、とは?」
フォートの注意を無視し、ロードは疑問の声を上げる。
フォートはロックマン・カーティスの組まれたままの足を見つつ、言った。
「聞いての通りさ。こいつは元一等粛清官ロックマン・カーティス。ある任務で下半身不随になり、やがてヘブンから姿を消した」
「違うな。粛清官として使えなくなったこの俺を、奴らは処分しようとしたんだ!!俺を庇ったシュミットまで巻き込み、俺達はイレギュラー認定されたんだよ!!」
顔を紅潮させ、叫ぶカーティス。
それを聞いても、フォートの顔色は変わらなかった。どうやら彼はこの真相も知っていたらしい。
だが、ロードの方は確実に驚愕していた。
「つまり…お前達はヘブンに反逆などしていなかったと言うのか」
「当たり前だ!!結局の所、お払い箱となった俺達を生かしておく気などマザーには無かったんだよ!」
一拍置き、カーティスは言った。
「分かるか?お前らもいずれそうなる!」
カーティスの言葉。突きつけられた真実。ロードは、目を見開いてカーティスを見た。
これまで彼は、ヘブンに反逆した者だけがイレギュラーと認定され、粛清官が差し向けられるものだと思っていた。
だが、十分に機能を果たさなくなった者も、イレギュラーとされる。この事実は、ロードの持っていた常識を覆しかけていた。
「だからどうした?結局の所、君らは多くの粛清官を殺して本当のイレギュラーとなっただけだろう。今更そんな事を言われようと、君らが処分される事に変わりは無い」
ロードとは違い、全く動揺の色が見られないフォートはそう言うと、銃をカーティスの米神に向ける。
カーティスは顔色一つ変えず、言った。
「俺を殺して、後々困るのはお前らだぞ」
「…何?」
フォートとロードは、カーティスの言葉に顔を見合わせた。
「どうだ?」
「確かに、そちらさんの言う通りだ。端末がコンソールからの操作を受け付けない。使えるものと言えば、エデン内部への通信回路だけだ」
カーティスの背後にあった扉の奥の管制室で、端末を操作するフォートが答える。
管制室内は、もといた職員の遺体が転がり、各所が血に塗れていた。
ロードは舌打ちすると、車椅子を押して管制室の中まで移動させたカーティスへと視線を向ける。
「どうすれば元に戻る」
カーティスは薄く笑みを浮かべた。
「言うと思うか?先に言っておくが、俺はどんな拷問にも耐えられるよう訓練を受けているからな」
ロードは、カーティスをきつく睨んだ。
フォートの方はといえば、端末から離れて両手を上げている。
「完全にお手上げだ。何もできやしない。一体どんな魔法を使ったのかねぇ」
「…待て」
そう言うと、ロードは管制室の副モニターに映るエデン内部の地図に近寄った。
「どうした?」
フォートの疑問に答えず、ロードはずっと地図を眺めている。
そんなロードを見て、密かにカーティスは冷や汗を浮かべていた。
やがて、ロードは言った。
「見当が付いたぞ。そいつらがエデンに何をしたのか」
そう言った途端、ロードは管制室の扉へ歩いていった。
「どこへ?」
フォートの問いに、ロードは振り向かずに言う。
「エデンの中心部」
「こいつはどうする?」
続けてフォートはカーティスの米神に銃口を押し付けたまま、ロードに問う。
ロードは椅子に座るカーティスの姿を一瞥すると、言った。
「まだ情報を引き出せるかもしれない。お前はここでそいつを見張ってろ」
そう言うと、ロードは管制室の扉を開けた。
「行き道は知ってるのかい?」
「頭に入ってる」
そう言い残すと、ロードは部屋を出て行った。
それを確認し、フォートはカーティスへと視線を向ける。
カーティスは前方を見据えたまま、言った。
「お前も損な役回りだな」
「全くだ。何せ…俺の『本来の任務』がこれで遂行せざるを得なくなっちまった」
掌で銃を回転させながらロックマン・フォートはそう言った。
下っていくエレベーターの中で、ロードは佇む。
目を瞑り、考えを巡らせ続ける。
「(管制室の端末が操作できないにも関わらず、ロックマン・シュミットとロックマン・カーティスは離れた場所にいた。シュミットもカーティスも、いかにも俺達を待ち伏せていたという風だった)」
照明は狭い室内の隅々まで照らしている。
白い壁と床。円柱形の室内。それしか映らぬ視界は必要無いとでも言うかのように、ロードは目を瞑り続ける。
「(どちらも、俺達を待ち構える事ができたという事は、エデン内のカメラの映像を奴らは把握していたという事だ。どちらにしろ、管制室の端末は操作を受け付けていないにも関わらず、奴らはエデンのシステムを操作できるという事…つまり、奴らは独自の方法でエデンのシステムを乗っ取り、管制室の端末を使用不能にした上で、別の方法でシステムを操作しているという事だ…)」
そこまで考えて、やがて目を開く。
あえて声に出して、彼は言った。
「一つ聞く。エデンのシステムを『直接』乗っ取っているお前は、何者だ?」
ロードの予想通り、不意にスピーカーからエレベーター内へ声が響いた。
『マザーから名前を聞いている筈だ。私の名は、ロックマン・エナミス』
ロードは視線を変えず前方の閉じた扉を見つめ、言った。
「色々と聞きたい事はあるが…まずはお前の顔を直接見せてもらおうか」
「どうしたどうした!!」
ミラージュの連撃をかわしつつ、シュミットは叫ぶ。
尚も攻撃を続けるミラージュだが、決して相手に届きはしなかった。
そしてその連撃の隙間を縫ってシュミットの大剣が振られ、その重さに耐え切れぬミラージュは受け止めはするものの、踏ん張りが足りずに吹き飛ばされる。
先程からこれが何度か続いていた。
「さて、そろそろまた重力が変わるぞ」
そう言うと、シュミットは地面を蹴り、跳ぶ。ミラージュもその言葉を聞き、立ち上がって身構えた。
今度は、90度変わった。
やはりそれを予期していたシュミットは地面に着地するが、ミラージュは地面に身体を叩きつける事となった。
また180度変わると思い込んでいたからだろう。壁が地面になった瞬間に、即座に身体が反応し切れなかった。
「狐につままれた様な顔だな」
楽しそうにそう言うシュミットだったが、その言葉とは裏腹に彼は大剣を振りかぶり、体勢を崩しているミラージュへと跳びかかって来ていた。
「くっ!!」
咄嗟に2本のビームサーベルで大剣を防御するミラージュ。だが体勢を立て直す暇が無かったせいで、背中を地面に打ち付ける事となった。
シュミットは剣を退こうとはしない。仰向けに倒れたミラージュへ向けて、ギリギリと大剣を押し付ける。
苦悶の表情を浮かべながらも、ミラージュは必死に防御し続けた。
「これからどうなるか、教えてやろう」
そんなミラージュを眺め、不意にシュミットはそう言った。
「…何?」
怪訝な表情をするミラージュ。シュミットは少しも力を抜いていないので、彼は必死に防御し続けたままだ。
それでもシュミットは、話を続けた。
「これから1分後に重力が変わる。だがな、方向はそのままだ。そのまま…2倍の重力となる」
シュミットの言葉に、ミラージュの表情が驚愕に満ちた。
「そうなればどうなるか…今のお前ならば、分かるだろう?」
「…くっ!!」
ミラージュはこの体勢から脱出しようと力を込めるが、それでもシュミットの大剣を押し切る事はできなかった。
「だがな、お前の命を奪うのは、私の剣ではない。お前自身の武器だ」
ビームサーベル。その形状から、刀身全てが刃と言っていいもので、当然ながら峰など無い。
シュミットの言う通り、このまま重力が2倍となり、押し切られれば、シュミットの大剣よりも先にミラージュ自身が持つビームサーベルの方が先にミラージュの身体に接触するだろう。
「理解したか?この様に、武器の重量自体を使って攻撃する事ができる。私がこの実体剣を選んだのは、それが理由だ」
一拍を置いて、シュミットは続けた。
「お前も来世では、もう少しマシな武器を使うんだな」
「ぐぅ…!!」
ミラージュはもがくが、やはり剣は動かない。
「さあ、あと10秒…さらばだ、我が愚鈍な弟子よ」
ドアの開く音。
ロードは目の前に開けた光景に、息を呑まざるを得なかった。
円柱形の部屋。同じ形をしていたエレベーターの内部よりも幾分広い位の大きさだ。
中央に、その人物は立っていた。
粛清官や司政官が身に付けているものと同じ、白いアーマー。
メットは被っていないが顔は見えない。何故なら――その人物は、銀色の仮面をその顔に被っていたからだ。
その仮面には、目の部分に穴が開いており、穴の奥の眼は開いていた。
だが、その赤い瞳はロードを捉えている様子は無い。
しかし何よりもロードの眼を引いたのは、その人物の後頭部だった。
髪の毛かと思われた黒い線。それはコードであり、何百本ものコードはその人物の後頭部から、部屋中の壁に接続されていた。
まるで、非常に長い黒髪が部屋の壁の至る所に張り付けられているかの様だった。
「お前がロックマン・エナミスか」
その人物は仮面の奥で、言った。
「そうだ。君はあの時森でシュミットと闘った、ロックマン・ロードだな」
そう言うと、ロックマン・エナミスはおもむろに、顔を覆う仮面に手をかけた。
そしてゆっくりと顔から仮面を外すと、下ろしていく。
その顔を見て、ロードは最初にエナミスの声を聞いた時と、部屋に入ってその外見を見た時から感じていた推測を確信した。
「やはり、女だったんだな」
エナミスはその言葉に、反応を示さない。
その顔を、そしてその動かない瞳を観察しながら、尚もロードは言った。
「お前、視覚が機能していないな?」
「その通りだ」
エナミスは僅かに目を細める。
「どうする、私を殺すか?」
「…まだだ」
そう言うと、ロードは数歩エナミスに近づき、言った。
「このシステムの中枢部にそんな事をしている以上、システムを掌握しているのは本当だったと分かった。その上で聞きたい。俺がここへ到達する前に、隔壁を下ろせば俺を閉じ込める事ができた筈だ。なのに何故、俺をここまで通した」
ロードの疑問。それを聞いたエナミスは、僅かに微笑んだ。
「やはり、シュミットの目に狂いは無かったな」
突如腹に食らった衝撃で、シュミットは一瞬体勢を崩した。
途端に、剣が押される。押し返そうとするが既に遅く、ミラージュの勢いが上回った。
「ちぃっ!!」
一旦地面を蹴り、シュミットはミラージュから距離を取る。
途端に、体重が倍化した。
「確信した。お前は…もうロックマン・シュミットではない…!!」
目の前のミラージュは、そんなシュミットを見据え、そう言った。
「ほう…」
そんなミラージュを睨み返しながら、先程の出来事を思い返す。
おそらく、一瞬でも油断した自分の腹に、ミラージュは蹴りを入れたのだろう。
それでできた隙を利用し、こうして脱出したのだ。
「俺が憧れたのは、そんな風に無駄な事を喋る男ではなかった」
「フフ…随分と今更過ぎるな」
倍加した重力が元に戻る。
シュミットは再び大剣を構えた。
「無益な事を口にすれば死に繋がる…そんな事も教えてやったっけな」
そんなシュミットに、再びミラージュは跳びかかった。
次々に振るわれるビームサーベルを、シュミットはステップを踏んで避け、当たりそうな一撃だけ大剣で防御する。
そうしながら、彼は余裕のある声で言った。
「だがな…今のお前には、殺されるとは思えんなっ!!」
続けて振るわれたシュミットの大剣。それをミラージュは、二本のビームサーベルで挟む様に、真っ向から受け止める。
だが、すぐにミラージュは押され始めた。
「まだ分からんか。二刀流は多数の敵相手には有効だが、1対1の戦いではそうは言えん。そもそも…防御を重視した型なのだからな!」
その瞬間、押し負けたミラージュは吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられる。
それを見据え、シュミットは言った。
「今もそうだ。全身の力が二つの刃に分散し、私の剣に押し負けた。実体剣である私の剣の重量も加算された重さに、重みの無い武器を持ったお前の力では抗い切れるわけが無い」
「くっ…」
地面に吸い寄せられそうになるミラージュは、しかし必死に立ち上がる。
「講義は終わりだ。死して学べ、ロックマン・ミラージュ!!」
そんなミラージュに、シュミットは容赦なく襲い掛かった。
『すまない、シュミット』
突如室内に響いた声。
その声に、シュミットは足を止めざるを得なくなった。
「カーティス?どうした」
『しくじった。俺はもう、お前と共に闘えない』
天井を見上げ、シュミットは目を見開く。
「…馬鹿野郎。そんな事で謝るな」
シュミットの言葉に、カーティスは薄く笑った様だった。
だがやがて、彼は言った。
『お前と過ごした日々、悪くなかったぞ。じゃあな、先に地獄で…』
カーティスの言葉は、しかし最後まで紡がれる前に、銃声に断ち切られた。
「…カーティス?カーティス!!」
「くっ…」
カーティスの名を呼ぶシュミット。その彼の動揺を、ミラージュは突くしかなかった。
ビームサーベルを一本捨てると、彼は残った一本のビームサーベルを両手で構え、シュミットへ向けて突撃する。
だが接触の直前、シュミットの方もミラージュに気づいた。
「ちぃっ!!」
「はぁっ!!」
大剣とビームサーベルが振られたのは、ほぼ同時だった。
次の瞬間、シュミットの肩口から胸にかけて、焼かれたような傷がアーマーを抉って生身にまで届いた。
同時にミラージュの胴体も斬られ、血飛沫が舞う。
「グゥッ!!?」
「ガハッ!!」
両者共に片膝を付く。双方の傷は共に重傷のレベルだったが、それでもどちらも倒れはしない。
シュミットは傷口を押さえ、言った。
「そうだ。相手の虚を突け。それが我々だ。それでこそ我々なのだ。どんな手を使ってでも敵を倒す、それが粛清官たる我々の存在意義なのだから」
振り向いたシュミットの顔には、若干の哀しさが篭っていた。ミラージュの方も背を向けていたせいで、彼にはそんなシュミットの表情は見えなかったのだが。
「だから私は、ヘブンを裏切ったのだ」
「…な…に…!?」
この言葉を聞き、肩で息をしていたミラージュも、ようやく振り向いた。
管制室は、新しい血が床に滴り落ちていた。
端末に付いたマイクの横に、ロックマン・カーティスが突っ伏している。
その後頭部には、銃弾で開けられた赤黒い穴が開いていた。
フォートは銃弾を装填しながら、目を伏せている。
「ったく…慣れねぇな…この頭痛」
これまで彼は、人を殺した後に決まって頭痛を覚えていた。
銃を撃った時ではなく、人を殺した時に。決まって、必ず。
それでも何の巡り会わせか、こうした汚れ仕事がいつしか彼に回ってくるようになってしまっていた。
彼はそれを断らなかった。頭痛には慣れないが、こうした仕事には既に慣れてしまったからだ。
ただ、このところは『その時』に起こる頭痛が、抗い難いほどに強くなっていた。
特に今日は、治まる気配も無い。
頭痛と戦いながらようやく装填を終えると、フォートは管制室を出て行った。
ジジから聞かされた『ある可能性』が現実にならない事を切に祈りながら。
「頼むから、最悪の展開にしてくれるなよ、ロード」
最終更新:2012年02月04日 00:03