ビームサーベルをロックマン・エナミスの額に突きつけ、ロードは言った。
「まずはエデンのシステムを解放しろ」
しかしエナミスは全く動じる事無く、ただ口を開く。
「…いいだろう」
途端に、バチンと音がしたかと思うと、室内の壁に接続されていた無数の黒いコードが離れた。
同時にそのコードの重さに耐えられなくなったのか、エナミスの頭部からコードを接続していたメットのようなものが離れ、床に落ちる。
露になったエナミスの頭髪は、オレンジの短髪だった。
それをロードが認識した瞬間、彼女は崩れるように床に膝をつく。
「どうした」
「…脳を直接システムに接続していたんだ。消耗もするさ」
エナミスは冷や汗を流し、壁を背に座り込んだ。その表情に力は無い。
「視覚はその代償か」
「いや。ヘブンには視覚を保ったままこれをできる一等司政官が何人もいる」
これまで司政官について詳しく知らなかったロードは、そう語ったエナミスの言葉に少々驚いた。
そして、それを聞いて同時に思い出したのは、ロックマン・カーティスの話だった。
「お前もヘブンに処分されそうになったのか」
「…その通りだよ、ロックマン・ロード」
肩で息をしながら、エナミスは力無く、自嘲気味に笑う。そして、ゆっくりと話を始めた。
「ある任務で、イレギュラー化した司政官のいる遺跡のシステムに脳を接続した所、逆に脳にダメージを食らった…そういう仕掛けがなされてたんだ。その結果がこれさ」
「…その司政官は」
「システムを掌握できなかったんだ。何人もの粛清官が犠牲になったよ。でも最後はやはり、討ち取られた。ロックマン・シュミットの手で」
その名が出てきた事で、ロードは話の全貌が見えてきた気がした。
「マザーは多大な犠牲を強いた。俺の仲間が何人も死んだよ。だがな、奴らはそれを省みはしなかったんだ」
背を向け、シュミットは語る。
ミラージュはそんなシュミットを、片膝を付いて見守る事しかできないでいた。
「そして事もあろうに奴らは…あの任務で負傷した俺の仲間を、使えないからと処分しようとしたのだ。下半身不随となったカーティスも目の見えなくなったエナミスも…他にも何人もいたよ。…俺が救えたのは、あの二人だけだった」
「シュミット…」
シュミットは振り向き、言った。
「今からでも遅くはない。我々に付け、ミラージュ。お前もこのままならば、マザーに消耗品として使い潰されるだけの…空虚な人生しか待ってはいない」
ミラージュは目を瞑った。そして、意を決した様に目を開け、答えた。
「…俺の答えは変わらない」
静かに、しかしはっきりとミラージュは言う。
「お前の言っている事は分かる。だがたとえこれから先、ヘブンに使い潰されようと…それが俺の存在意義ならば、俺はヘブンに従うまでだ」
一拍の間を置き、ミラージュは続けた。
「何より、お前は…粛清官を救う為に行動していながら、自分を狙うからと、沢山の粛清官を殺した。俺にはそれが…許せない!」
ミラージュの言葉に、シュミットは目を見開いた。
「貴様…!」
「答えろシュミット!何故お前は、何が目的でエデンを占拠した!?」
ビームサーベルをシュミットに向け、ミラージュは言い放つ。
「粛清官達を虐殺し、エデンを占拠して、お前が何がやりたかったんだ!!?」
「地上でシュミットが、闘う理由はヘブンの為かと聞いた時、ロード、君はヘブンなど関係ないと言った。君なら分からないか?ヘブンの為に死んでいく粛清官や司政官の空しさが」
エナミスの言葉に、ロードは今回の任務を受ける直前に、マザーは死んだ粛清官達の事について一言も言及しなかった事を思い出した。
「つまり…お前達は、誰かにそれを悟らせる為だけに、何人も粛清官を殺したというのか…!」
ロードの言葉に、エナミスは静かに頷いた。
「分かってる。私達はやり過ぎた。だからきっと…碌な最期は迎えられないだろう」
ロードは、そう語るエナミスを見つめた。
そして、胸中で自問し続けた。
目の前の少女を殺す事は簡単だ。目も見えず、今はエデンのシステムすら掌握していない、ただの無力な者なのだから。
だが、本当にこれで良いのかと。
「…確かにお前達は多くの粛清官を殺した。これは許される事ではない」
静かにロードはそう言った。エナミスは目を瞑ると、静かに頷いた。
「だが、お前達の主張はへブンに訴えても良い筈だ。折角こうやってエデンを乗っ取る事ができたのに、何故そうしなかった」
「無駄だよ。私とカーティスを問答無用で処分しようとしたんだ。聞き耳を持ってくれる筈など無い」
「では、何の為にエデンを乗っ取った…!?」
思わず、ロードは声を荒げていた。
この問いは彼がこの任務を受けた時から、胸中で考えていた疑問だ。それが自然と口に出てきてしまった形だった。
そのロードの問いに、エナミスはしばし沈黙していたが、やがて言った。
「旧世界の神が、ヘブンの奥深くに眠っている…そんな話を聞いた事はないか」
エナミスが何を言っているのか、しばらくロードには分からなかった。
「旧世界の神…?」
「そう。シュミットは『ラプラスの魔』と呼んでいた」
「いや…そんな話は聞いた事が無い」
そう答えながらもロードは、エナミスが何をしようとしていたのか推測する事が可能となっていた。
「つまり…お前はエデンからヘブンにハッキングを行い、その『旧世界の神』とやらを目覚めさせて、マザー達に反逆しようとでも思ったのか」
エナミスは、ゆっくり頷いた。
「もう私達が生きてゆく為には、マザーを倒すより方法が無い」
エナミスは諦め切った様に、そう言った。
「そんな馬鹿な方法が成功すると本気で思っていたのか…」
「…もう、それしか方法は無かったんだ」
そう語るエナミスの目からは、大粒の涙が流れ出していた。
そんなエナミスを見て、ロードはしばし考えてみた。
「(…本気にならざるを得なかったのか。確かにイレギュラーとされた奴がどんなに強くとも、送り込まれる粛清官を返り討ちにし続ければいずれ消耗する。ならばいっそ、マザーを倒そうとするより他は無いのかもしれない)」
だが、とロードは思った。
いるのかどうか分からない神に縋るより、もっといい打開策があるのではないかと。
彼は、密かに意を決した。
「…もっと現実的な方法がある筈だ、やってみなければ分からん」
静かに呟かれたロードの言葉に、エナミスは僅かに怪訝な表情をした。
「エナミス、もう一度だけエデンのシステムを掌握しろ。そしてヘブンに送るんだ。お前達の主張を。これだけの事をやったんだ。マザーもきっと、反応しないわけにはいかなくなる」
まだ頬に涙の残るエナミスだが、その表情は次第に綻んだ。
「やはり、君を選んで正解だったみたいだ」
だが次の瞬間、ロードの背後から、声が聞こえた。
「はぁ…こうなったか、やっぱり」
銃声は、その直後に響いた。
ミラージュの問いに、シュミットはしばらく沈黙していた。だがやがて目を細めると、先程のミラージュの様に、静かに言い放った。
「どうやら…お前には言っても分からんらしいな」
そう答えると、ミラージュが何かを言う前に、シュミットは続ける。
「ミラージュ、やはり貴様は私との決別を選ぶのだな」
そして、彼は大剣を構えた。
「よかろう、もう誘わん。二度とな」
ミラージュはそんなシュミットを見て、僅かに目を細める。
「言うつもりはないのか」
「言った筈だぞ。力尽くで聞き出してみろと。だがな…もはやお前に言う気は無くなった」
どこまでも静かにそう話すシュミット。だがミラージュには分かっていた。この話し方は、限りない憤怒を押し殺している話し方だと。
そしてミラージュは一瞬だけ目を伏せると、言った。
「できる事なら、こんな決別はしたくはなかった」
「ミラージュ、現実は自分の思った通りには進まない。今までも、そしてこれからもな」
シュミットの言葉に、ミラージュはビームサーベルを起動し、構える。
それを確認すると、シュミットは言った。
「これで最後だ」
「ああ…終わりにしよう…!」
そして、二人は同時に駆け出した。
「ロックマン…フォート」
脇腹から流れる血。傷口を必死に押さえ、ロードは目の前の人物を見上げた。
痛みから、足が動かない。立つ事すらままならなくなったロードは、その場に片膝をつくしかなかった。
「ジジ様はこうなる事を危惧してた。お前は普段からヘブンに対して忠誠心が薄かったからな」
そう言うと、フォートは右手に持った銃のグリップの底を、ロードの米神に叩き付けた。
悲鳴を上げる暇も無く、ロードは部屋の壁に叩き付けられる。
ヘルメット越しでなかったら間違い無く昏倒していただろう。
今の一撃で僅かに歪んだそのヘルメットを、フォートは無造作にロードの頭から引き抜き、背後の開いた扉の先の廊下へ投げ捨てた。
「とっととお前を銃殺するべきなんだろうが、先に本来の任務を済ませるとしよう。とりあえず…気絶しろや」
そう言ったフォートはうつ伏せに倒れているロードの首を掴むと、上半身ごと持ち上げる。
「貴…様…」
ロードはそれだけしか言う事ができなかった。
次の瞬間、フォートは思い切りロードの頭を床に叩き付けた。
ビシャリと血が飛び散り、ロードの頭から床へと赤い円が次第に出来上がる。
ロードはそれ以上、一言も発さなかった。
ロードが気絶した、或いはそれ以上の状態となったのを確認すると、フォートはエナミスに視線を向けた。
「言っておくが、俺は女子供だろうと、敵であれば容赦しない」
エナミスは、既に覚悟を済ませたかのような顔で、ただ黙っている。
フォートは眉間に皺を寄せ、左手で頭を押さえながら、右手で銃を突きつけた。
「いいか…楽に死ねると思うなよ?」
銃声と共に、エナミスの手から銀色の仮面が転げ落ちた。
疾走したシュミットとミラージュ。
だがまだ両者が接触する前に、シュミットは強く地面を蹴った。
「(重力操作がもう終わったと思ったのなら…大間違いだ!)」
途端に、再び重力が180度反転し、シュミットは空中で姿勢を変えると、地面に降り立った。
そこで気づいた。どこにもミラージュの姿が無い事を。
「何!?まさか…」
周囲の『地面』にいない。そうすることのできる可能性のある行動は一つしかない。
シュミットは即座に天井を見上げた。
「簡単な、事だった…!」
ロックマン・ミラージュは、床にビームサーベルを突き刺していた。
そうして自分の体重を支え、重力の反転を凌いだのだった。
シュミットがそれを確認したのと全く同じタイミングで、ミラージュは天井に突き刺したビームサーベルを引き抜く。
そして、天井を蹴り、シュミットへと斬りかかって行った。
「シュミット…!!」
シュミットは、全力で大剣を振るい、ミラージュを迎え撃つ。
「このっ…愚か者がぁ!!」
甲高い音。
刃を振り切り、ミラージュは床に激突すると、しばらく転がり、やがて仰向けに倒れた。
「…これが、お前の全力か」
ポツリと、シュミットは言う。
ミラージュは答えない。
「まだまだ未熟!!だが…」
次の瞬間、シュミットはガクリと片膝を付く。
「少なくとも私を超える程度には…見込みはあった様だな…!」
シュミットの大剣は、中ほどから折れていた。折れた刀身は、彼らの遥か遠くの壁に突き刺さっている。
そしてシュミットの胸には、明らかに内臓に達する傷が刻まれていた。彼は額に冷や汗を浮かべると、口元に笑みを浮かべ、次の瞬間床に仰向けに倒れた。
「…シュミット…」
そこでようやく立ち上がると、倒れたシュミットにミラージュは近づく。その顔は勝利者とは程遠い、苦しそうな表情をしている。
「何て顔だ。まぁ、お前は昔から笑顔が得意ではなかったがな」
対してシュミットは、満足そうに微笑んでいた。
「私の戦術をよくぞ見抜き、越えたな」
「…簡単な、事だった」
ミラージュは先程と同じ言葉を紡ぐ。そして、その続きの言葉を。
「お前の挙動をよく観察すれば、重力がどう変わるのか、予測できたんだ」
ミラージュの言葉に、シュミットは一頻り、苦しそうに笑った。
「正解だ。お前なら、そうやって攻略すると、信じていたぞ」
そう言いながらも咳き込み、やがて血を吐くシュミット。
それからしばらく沈黙し、やがて彼はポツリと言った。
「だがなミラージュ。お前には突出するほどの才能は無い。それが…あいつとの違いだな」
「…何?」
『あいつ』とは。その疑問をミラージュが問おうとする前に、シュミットは言った。
「だから…お前は勝てんよ。ロックマン・ロードには」
「一体…何を言っている…!?」
ミラージュの言葉に、シュミットはただ、微笑んだ。
「すまんな…タナトス…」
ミラージュにも聞えないほどの声量で、最期にシュミットはそう言うと、目を閉じた。
「ここまで悲鳴も呻き声も上げないとはな。流石エデンを掌握しただけの事はある」
部屋全体が、血塗れとなっていた。
肩、腹、胸、腕、足。身体中に銃弾を浴びせられ、白かったアーマーがもはや赤い色しか見えなくなったロックマン・エナミスは、それでもまだ生きていた。
いや、生かされていたと言った方が正しい。
どう見ても致命傷となりうる箇所に何発も銃弾を浴びせておきながら、しかしロックマン・フォートは即死するような場所には決して銃を向けようとはしない。
もはやか細くなり、時折血を吐きながら、エナミスは必死で呼吸をしていた。
「勘違いするなよ、別に拷問じゃない」
そう言うと横たわったエナミスの肩を足で踏みつけ、フォートは彼女の額に銃口を向けた。
「エデンを占拠するなんて類を見ない犯罪を犯した張本人を、できるだけ苦しめて殺せと、ジジ様から指示があったからだ。おそらく見せしめだろうな。今後同じ事をイレギュラー化した者にやらせない為の」
それでも尚、エナミスは表情を変えず、機能しない瞳はただただ虚空を見つめている。
「…じゃあな」
そう言うと、フォートは引き金を絞った。
その刹那、ロックマン・エナミスの口元が、僅かに空気を震わせた。
「…ジーザス…」
銃声が鳴り響いた。
額から血を流し、ロックマン・エナミスは絶命した。
静かに、フォートは溜め息をつく。
「我ながら酷い貧乏籤だよ、全く」
決してこんな役回りを望んでいたわけでも、好んでいたわけでもない。
自らの行いに反吐が出そうな感覚。フォートは、苦いものを飲み込むように、顔を歪めた。
頭痛が、先程より圧倒的な強さで頭蓋に響いてくるのを必死に押しとどめながら、彼は視線を上げた。
そこで、彼は凍りついた。
一人の男が立っていた。
顔に、血に濡れた仮面を付けて。まるで、血の涙を流しているかの様に。
仮面の穴から、不気味なほど血走った目を覗かせ、ロックマン・ロードは、そこにいた。
「礼を言おう。お前のお陰で、一つ分かった」
「お、お前……誰、だ…?」
勿論、目の前にいるのがロックマン・ロードだという事はフォートには分かっている筈だった。
だが、自然とフォートの口からは、その問いが出てきてしまっていた。
フォートは自分が震えているのが分かったが、しかしその理由は分からない。
「(何故だ?奴はただ仮面を被っただけだ。何も恐れる必要など無い…その筈だ)」
フォートの様子など意に介さず、ロードは喋り続ける。
「そこで目の見えない無力な女が無様に死んでいるのは、お前の責任ではない」
「何を…言ってる?」
「お前に命を下したジジでも、俺達に命を下したセラでもない」
語りながら、仮面の奥の瞳は不気味なほど見開かれ、フォートに向けられている。
その視線に睨まれて、フォートは動けなかった。
「俺はずっと思っていた。この世には救いなど無いと。だが…違ったよ。救いが無いんじゃない…救いようが無かったんだ」
一拍置いて、ロードは、言った。
「ああ、全てそのせいだ。これから…お前が死ぬのも、全て」
「糞っ!」
一瞬殺気を感じ取り、フォートは呻くと共にロードへ銃を向けた。
だが、銃は向かなかった。
フォートの手首から先が、もう無かったのだから。
「…え?」
手首から先には、焼け焦げた傷口が広がるばかりで、何もありはしなかった。
フォートは、視線を己の手首から再びロードへ向ける。
いつの間にかロードは、その手に持ったビームサーベルを起動させ、高々と掲げていた。
ロックマン・フォートをその光景を眺め、自嘲気味な笑みを最期に浮かべた。
「…ああ、ようやく…頭痛が…治まっ……」
首の離れた死体。それと化したロックマン・フォートが室内に転がる。
しばし、ロードは入口に背を向け、その場に立ち尽くしていた。
自分が完全にヘブンに反旗を翻した事を確認する様に、ゆっくりと深呼吸をする。
そこに、カチャリと銃を向ける音が響いた。
「一体・・・どういう事だ」
ロックマン・ミラージュが、そこにいた。
足元に転がったフォートの右手から銃を取り、油断無くロードに向けて。
「答えろロード。何があった」
ロードはゆっくりと、ミラージュに顔を向けた。仮面を付けたまま。
何も言わずに黙ったまま。
「・・・何をふざけている。仮面を取れ、ロード!」
「分かってる筈だ」
恐ろしく冷たいロードの言葉に、ミラージュは思わず一歩後ずさる。
それでもやはり銃を向け、辛抱強くミラージュは言った。
「いいや、まだだ。今ならまだ引き返せる。フォートは奴らにやられたと言えば…」
「何も分かっちゃいないな」
容赦ないロードの声が、室内に響いた。
「だから裏切られるんだ…師にも、俺にも…!」
次の瞬間、鋭い殺気がミラージュに向けられた。
ミラージュはそれを感じた瞬間、引き金を引く。
だが弾丸が発射する前に、斬り上げられたロードのビームサーベルが、銃身を切り裂いた。
銃身とその他の部品が、その場に飛び散った。
「っ・・・!!」
そうして、ゆっくりとロードは歩き出す。
ミラージュはそれを止める事もできないまま、ただ立ち尽くした。
それからどれほど経っただろう。やがてミラージュは、自分の、身体の異変に気が付いた。
右手が、熱い。
「っ!!?」
見ると、右手の人差し指が消失していた。
視線を落とすと、床に銃の部品と共に、彼の人差し指が落ちていた。
ロードは引き金にかかっていた彼の指ごと、銃を斬ったのだ。
人差し指が無くなったという事実が、痛みとなってようやく届いてきた。まるで、ロックマン・ロードはイレギュラー化したのだという厳然とした事実を、ミラージュに突きつけるかのように。
溜まらず、彼は叫んだ。それしかできなかった。
「ロードオオオオオオォォォォォォォ!!!」
「…それで、そのままお主はロックマン・ロードを見逃したわけだな」
ヘブンの者達がエデンに突入した時、既にロックマン・ロードは消えていた。
いたのは憔悴したロックマン・ミラージュのみだった。
そうしてヘブンに連れて来られ、マザー・セラに無理矢理にでも報告を迫られた。
一通り報告をした後、返ってきた言葉はそれだけで、ミラージュはただ頷く事しかできなかった。
そんな彼を眺めるとマザー・セラは溜め息をつき、やがて言った。
「お主には引き続き、他の粛清官と共に、ロックマン・ロード討伐の任に着いてもらう。よいな?」
ミラージュはしばし沈黙していたが、やがて頷いた。
風の吹く荒野。
辺りには乾いた土が広がり、所々に萎びた雑草が見える。
日は西に傾き、もうすぐ夜が近い。
風によって乾いた砂が巻き上げられ、辺りは砂埃で覆われている。
この何も無い荒野で、遂にミラージュはロードを追い詰めた。
何日も闘った両者はボロボロで、しかし傷はロードの方が多く負っていた。
別の粛清官達からも追撃されたから、当然の話だった。
「お前はもう…終わりだ」
その言葉を聞き、ロードは溜め息を一つついて、言う。
「最後に戦うのがお前とは…皮肉だな」
ロードの言葉を聞きながら、ミラージュはビームサーベルを向けた。
目を瞑り、やがて開け、彼は静かに言う。
「何故ヘブンを裏切った」
その問いに、ロードは笑みを浮かべ、言った。
「お前には…分からん」
そう語るロードの眼を、ミラージュは見据える。
同じ眼だった。ロックマン・シュミットと。
その言葉を最後に、二人は黙った。
しばらく、荒野に静寂が訪れた。
二人ともサーベルを構え、大地に足を踏みしめる。
だが、この静寂は、意を決したミラージュの叫びで唐突に終わりを告げた。
「これで…終わりだ!!」
その言葉を合図に、二人の男は大地を蹴り、走り出した。
走りながら、ミラージュは思う。
「(きっと俺は、一生分からないのだろう。シュミットの事も、ロードの事も。けれど…俺は、この生き方しかできない…!!)」
この数秒後、再び荒野は静寂を取り戻した。
太陽は、日差しを荒野に浴びせ続けている。
二つの影は交差し、再び地面に降り立った。
両者ともしばらくは動かなかったが、数秒後、その片方に変化が訪れた。
悲鳴も、苦痛からの呻きも無いまま、ロードは倒れた。
シュミットの時と全く同じように、ミラージュは倒れたロードに歩み寄る。
「ロード…」
熱風が吹き荒び、砂埃はいつまでもその場を覆っている。
勝者である男は、笑う事も、泣く事も無く、ただ視線を頭上に向けた。
風の強い日だった。
雲は時折空に出現しては、すぐに彼方へ吹き飛ばされていく。
西に傾いた太陽は、もうすぐ沈むだろう。
ミラージュは、自分に言い聞かせる様に、強い語調で言った。
「俺は…粛清官だ。何人の仲間が倒れようと、何人の仲間が裏切ろうと、やる事は一つだけだ。そこに感情など…必要無い…!」
彼はそこでようやく視線を、倒れているロードへ向ける。
そして、最後の一撃を加えるべく、更にロードに近づいた。
そこで、彼は気づいた。
ロックマン・ロードは笑っていた。
虚ろな目で、ただ口元を歪ませ。
声を上げる事もなく。
「う…うおおおおああああああぁぁぁぁ!!!」
ミラージュは、震える手でビームサーベルを振り下ろした。
「それが、この話の顛末だったな」
モニターを眺め、科学者はそう言った。
彼が振り向くと、そこには割られたカプセルが安置されている。
「さて…彼はどうするかな?」
そう言うと、科学者はモニターを切り、部屋を出て行った。
最終更新:2012年02月05日 19:12