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午前4:30。
街中を荒れ狂っていた台風は去り、空には雲一つ無い。
つい先程、東から顔を出した太陽を、その男はじっと見つめていた。
彼は警察署の屋上に立っている。しばらくそこに佇んで朝日を眺めていたが、やがて彼のスーツの内ポケットから鳴り響いた携帯電話の着信音で、その一時は終わりを告げた。
「はい」
『私だ。報告を頼む』
名乗りもせず、単刀直入に用件を述べる。それが上司の癖である事を、彼は知っていた。
少し疲れの入り混じった声で、彼は現状の報告を淡々と告げる。
「説得に少々時間がかかりましたが、アルバートが顔見知りだった事もあり、地元の警察は協力してくれました。渋々、といった様子なのが表情に現れていましたがね」
苦笑交じりの報告にも意を介さず、彼の上司は無感情に先を促す。
『被害は出たか』
「少し、ややこしい事態になっていました。事が起こるほんの数時間前、街の一角で殺人事件が起こりましてね。犯人は逃走中で、警察は非常線を張っていました」
その報告に、これまで無感情だった上司の声が、僅かに動揺を見せたのが彼にはわかった。
『それで…どうなった』
「台風が上陸中だったのと、『奴ら』が移動に地下を使っていたのが逆に幸いしました。奴らと接触する前に命令が届きましてね。警察側に死亡者はゼロです。今のところは」
その報告に、上司は幾分か安堵した様だった。
『市民達の被害はどうだ』
「貧民街で暴行を受けたらしき者が多数。家屋を荒らされた者が多数。どちらも数はまだ分かっていません。奴らの装備ですが、防弾性の防具とガスマスクに、アサルトライフルを装備している様です。もし説得が失敗していたら、警察側に多数の死傷者が出たのは確実でしょう」
上司は、憂鬱そうに溜め息をつくと、言った。
『仮定の話はいい。今も、街にあやつらは闊歩しておるのか』
「いいえ。つい数時間前までは、街中で捜索行為らしき行動を続けていましたが、太陽が出る前に一人残らず姿を消しました。一体…どういうわけでしょう」
男の疑問の声に、上司は答える。
『私にも分からぬ。だが、大きな動きを起こしたのは間違いない。
先程、増援を派遣した。もしまた地上で何か事を起こす様なら、応戦を許可する。ただし、地元の警察と協力し、市民には決して被害を出さぬ様にだ』
上司の言葉に、男は生唾を飲み込んだ。
「承知しました。それと、もう一つ報告しておきたい事が」
『何だ』
「先程話しました、ここの警察が捜査していた殺人事件の最重要参考人ですが…アルバートの話していた男です」
その報告に、上司が一瞬、息を呑んだのが男には分かった。
『ロックマン・ミラージュか…!!』


街の中心部に位置する大聖堂。
その敷地面積は広大で、中央部分には建造物に取り囲まれた中庭が存在している。中庭といっても、150m四方という広大なものであるが。
建造物内部は多数の廊下と礼拝堂で構成されており、その全ての場所に宗教的な装飾が施され、廊下には石像、礼拝堂内には著名な絵画などが飾られている。
しかし、この建造物の中で一際眼を引くのが、正門から中庭を挟んで最も奥に造られた、半球状の屋根を持つドームであった。
ドームの内部は半径50mほどで、聖堂内のどの礼拝堂よりも広く作られており、数体の石像と十字架が掲げられた絢爛豪華な祭壇が安置されている。

大聖堂の中庭の中央に、砂色の大理石で建造された小さな建物が存在していた。この建物が地下遺跡への入口となっており、今その建物の中から、多数の兵士達が次々と姿を現していく。
兵士達と共に、一人の青年が中庭に姿を現した。
白いスーツに金髪、前髪が目元を覆ったその青年は、次々と大聖堂内部へ侵入していく兵士達を眺めている。
「リゲル様、何故地上に出たのですか?」
青年――リゲルの傍らに立つ、黒いスーツに軍帽を被った、褐色の肌と緑色の短髪、赤い眼の女性――ググが疑問の声を上げる。
「ディメンジョン・ゲートはここの地下にあるという話でしたが…」
「だからだよ」
そう言うと、リゲルは視線の先にある建物――大聖堂のドームを眺めた。
「ググ、兵士に伝えてくれ。邪魔なデコイは射殺して構わない。それ以外に異常があれば、すぐ伝えるようにと」
「分かりました」
そう言うと、ググは即座に無線機で指示を飛ばす。
だが、その無線機からは、予想外の答えが返ってきた。
「っ…!!?リゲル様、悪い知らせです!」


大聖堂のドーム。
ドーム内にあるステンドグラスを通して、七色となった太陽の光が降り注ぐ。
そこの中央で、白いロングコートを纏い、サングラスをかけた金髪に長身の男――ロックマン・テスタメントは立っていた。

既に兵士達が彼の周りを隙間無く取り囲んでいるが、リゲルからの直接的な命令が無い事と、テスタメント自身が発する強烈な殺気のせいか、発砲する者は誰一人としていなかった。
ドームへ続く長い直線の廊下を通り、リゲルはテスタメントの姿を認める。
「来ると思ってたよ。待ち伏せまでしてたのは予想外だったけどね」
兵士達はリゲルの声を聞くと左右へ身を引き、彼からテスタメントまで続く廊下を空けた。
リゲルはその光景を眺めながら推測する。この廊下に着くまで聖堂内にデコイの姿は無く、兵士からも射殺したという連絡は無い。おそらく、テスタメントが退去させたのだろう。
そして傍らのググと共に、ゆっくりドームへと歩みながら彼は言った。
「今一度聞こう。君は何の為に戦う?マザー・ディエスはもう死んだというのに」
テスタメントはサングラスの奥から真っ直ぐリゲルを睨みつけ、言った。
「この生涯、私が完遂していない任務はたった一つだけだ…それを果たす」
「いいや、違うね。言っただろ?戦いを求めているんだ、君もボクも」
これ以上議論するつもりは無い。そう言うかの様に、テスタメントはサングラスを外した。
そして、その金色の瞳でリゲルを再度睨む。リゲルは首だけ傾げると、低い声でググに言った。
「君も含めて、兵士には手を出させるな。事前に説明した通り、この大聖堂内を警備させてくれ」
リゲルの言葉を聞き、「了解」とだけ言ったググは、周囲の兵士へ向けて声を上げた。
「全員ドームから出なさい。各自事前に与えた役割の通りに動き、ドームには近づくな」
ググの言葉が合図となったのか、兵士達が雪崩のようにドームから出て行く。
ドーム内には三方向へ続く幅20mほどの廊下があり、そこから兵士達は次々に姿を消していった。
「私は見届けさせていただきます」
「勝手にするがいいさ」
僅かに目を細めてそう言うと、リゲルはゆっくりテスタメントに近づいた。

リゲルがテスタメントの前へと来た瞬間、その両腕と両足が淡い光で包まれていく。
やがてリゲルの両の手から肘までと、両の足先から膝までがアーマーに覆われた。
身体のラインに合わせた細身のアーマー。純白で、所々に金色のラインが走っている。
そしてリゲルが左手を広げると、その五本の指先から、光が輝いた。
まるで、雲の切れ間から地上へと降り注ぐ太陽の光のような、薄く明るい光。そして次の瞬間、その光は急激に発光し、五本の指先から発生するビームサーベルと化した。
そんなリゲルの様子を眺めながら、しかしテスタメントは未だアーマーを装着してすらいない。
リゲルの戦闘準備が済んだのを見計らったのか、やがて彼は口を開く。
「何故完全にアーマーを装着しない」
「3千年前に力の大半を失った君に、全力を出す必要も無いからさ」
笑みを浮かべながらそう語るリゲル。だがテスタメントはリゲルの挑発など聞こえないかのように、静かに言った。
「ならば…思い出させてやる。3千年前を」


大聖堂正門前。
ググの指示を受け、兵士達の何人かがそこで警備を行っていた。
その彼らの前に、一人の男が現れる。兵士達は、その男の姿を目にするや、一斉にライフルの銃口を向けた。
現れた者――白いアーマーに、フードの付いたマントを纏った、銀色の短髪の男は、彼らを眺めると、その顔いっぱいに笑みを浮かべた。
そしてその男――シリウスはゆっくり剣を抜くと同時に、兵士達を観察する。
最初は5名ほどだったが、シリウスの姿を発見するなり、周囲から更に5名が集まった。
彼らは手前と奥の2列に並び、手前の列は片膝を地面に着けて姿勢を低くすると、奥の列の兵士達と共にシリウスに銃口を向けている。
そんな彼らの様子を確認すると、即座にシリウスは走り出した。彼が走り出すと共に、交戦を悟った兵士の一人が叫ぶ。
「撃て」
凄まじい銃撃の音が、青い空に木霊した。


5本の斬撃が、テスタメントに襲い掛かる。
だがそれらの攻撃は、全てテスタメントに届く前に防御されていた。
テスタメント自身は何の動作もせず、ただ一瞬現れた光の幕が、5本のビームサーベルによる斬撃を防ぎ切る。
その光景に、リゲルは舌打ちした。
「全身にエネルギーシールドを纏ったか…!」
「今のお前には、これで十分だ!!」
次の瞬間、テスタメントの腕がリゲルの襟首を掴むと、背後の廊下に向けて凄まじい力で投げつけた。
リゲルの身体は容易く投げ飛ばされ、大理石でできた床に数回バウンドしながら叩きつけられる。
「ぐっ…ちぃ!!」
しかし間髪入れずにリゲルも起き上がると、右手の人差し指をテスタメントに向けた。
その指から射出されたレーザーが、一直線にテスタメントへと向かっていく。だが、その結果は先程のビームサーベルと同じく、テスタメントの身体に纏った薄幕の様なシールドに阻まれるのみだった。
そして今度はテスタメントが、両手の手袋を脱ぎ捨てると、右の掌を広げてリゲルへと向ける。
「っ!!」
次の瞬間、テスタメントの腕が『分解』した。掌を中心に、その手が4つに分割され、その大きさを広げる。そして、丁度その手首に沿う様に、掌の中心よりやや下に、砲身――バスターが姿を現した。
鈍い銀色で覆われたその砲身は、次の瞬間にチャージを終えると、リゲルに向けて凄まじいエネルギーの奔流を浴びせた。
「ぐうっ!!」
リゲルのいた廊下はかなり広く作られたものだったが、それでも彼に逃げ場を与えないほど凄まじいエネルギーの本流だった。
リゲルも間髪入れずに右手を広げ、自身の周囲にエネルギーシールドを作り出す。
凄まじい威力のバスターに対し、リゲルのシールドはなんとか持ち堪えていた。その衝撃は周囲の壁・床・天井を抉り砕き、塵や埃を辺りに発生させていく。その様子を見守っていたググでさえ、身を屈める他無かった。
テスタメントのバスターに対し、最初は持ち堪えていたリゲルのシールドだったが、次第に押され始める。
「ぐっ…うう…!!」
「…はぁっ!!」
そしてテスタメントが叫ぶと同時に一際強くバスターを照射した瞬間、リゲルの周囲の壁や床が盛大に崩壊した。

ドームへと続く壁や床が大きく抉られ、大理石の破片が周囲に散らばる。そこでようやくテスタメントのバスターは収束した。
「くっ…どうやら…君を見くびっていたようだな…!!」
周囲の壁や床が破壊されながらも、何とか持ち堪えたリゲルはそう言いつつ、いつの間にか折っていた片膝を伸ばして立ち上がろうとする。

だが、顔を上げた彼の目の前に、既にテスタメントは立っていた。

彼は再びリゲルの襟首を掴むと、言う。
「いいや、まだだ!!」


「(やはり…プロキオンより彼…リゲルを選んだのは正解だったか)」
リゲルとテスタメント。その戦いを無言で観察するググは、冷静に思考し続けていた。
二人の攻撃は、彼女がヘブンにいた時代に見たどんな粛清官の武器よりも、規模や出力において遥かに上に見えた。
「(だがしかし、彼はプロキオンよりも危険だ。あくまで保守的だったプロキオンに比べて、全く考えが読めない。ここで倒れてくれるなら私にとっても僥倖だが、そう上手くは行かないだろう…)」
そこまで考えた所で、一瞬リゲルの視線が自分に向いたように見え、ググは焦りを隠しながら戦闘を見守る。リゲルの様子を確認したが、彼はずっとテスタメントに気を取られている様だ。視線が自分に向いたと思ったのは気のせいだったらしい。
その時、テスタメントが凄まじい威力のバスターをリゲルに直撃させた。その時発生した衝撃波に、彼女は被っていた帽子を押さえる。そうしながら、思考を続けた。
「(この闘いもいつかは終わる…そして幾らリゲルが強くとも、この闘いを無事には済ませられないだろう。古き神々の王が全力のリゲルより強い事も十分に有り得る。ならば…)」
衝撃が止んだ。戦闘場所はいつの間にか移動し、ドームから廊下へと場所を移している。
廊下で続けられる戦闘を観察しながら、ググはこれまで通り至極冷静に、リゲルという存在に見切りをつけた。


銃声が鳴り響いた瞬間、シリウスの姿は兵士達の眼前から消えていた。
一瞬、発砲したばかりの兵士達に動揺の色が広がる。だが、その兵士達の中の一人が「上だ!」と叫んだ瞬間から、状況が一変した。

見上げた兵士の一人のガスマスクに剣を突き立てて、シリウスは着地した。

剣は易々とガスマスクを貫通し、そしてそれを被った兵士の頭蓋骨すら突き通す。
倒れた兵士から剣を引き抜くと同時に、辺りに血飛沫が飛び散った。
その倒れた兵士は集合した兵士達のうち丁度中ほどにいた兵士だったため、当然ながらシリウスの360度全てに敵がいる状況となる。
これは一見シリウスにとって不利に見えたが、武装がアサルトライフルである兵士達には同士討ちの危険がある為、容易に発砲ができなくなり、逆に彼に有利な状況となっていた。
そんな中、シリウスは手近な兵へと突進する。
背後にも左右にも味方がいたせいで身動きできないその兵士は、慌ててシリウスに向けて発砲するが、それを察知していたシリウスは銃口の向きから射線を予測し、剣で防御する。
弾は剣に跳弾すると、シリウスの近くにいた別の兵士に直撃した。
そしてシリウスは大きく剣を薙ぎ払い、発砲した兵士の喉笛を切断して、その血飛沫を浴びる。
数こそ大差があるとはいえ、彼と兵士達との身体能力の差は歴然であり、優劣は既に逆転していた。
それでも古き神々によって感情を抑制された兵士達は、まるで機械の様にシリウスに狙いを定めてくる。そんな兵士達を眺め、彼は再び口元を歪めた。
「喉が…渇いたな」
そう呟くと、再びシリウスは手近な兵士へと突進する。
次の兵士とはさして距離が開いていなかった為、発砲すら相手に許さずシリウスは跳びかかった。
次の瞬間、下から上方向への凄まじい斬撃で、その兵士は宙を飛んだ。

そしてそのままシリウスは、上へ向けて剣を掲げた。
落ちてきた兵士が、掲げられた剣に串刺しにされたのはその瞬間であった。

衝撃で、串刺しにされた兵士の全身が痙攣を起こす。
剣に突き刺さった兵士の身体から、血が噴出していく。シリウスは見上げると、頭上から雨の様に降るその血を飲んだ。

あっという間に、シリウスの全身が鮮血で染まる。

「さて…」
串刺しになった兵士をその場に置いて剣を引き抜くと、ようやくシリウスは大聖堂を眺めた。
場所は正門であったが、一番奥に位置するドームはここからでも十分見える。
一瞬、その内部で光が輝くのを彼は見て取った。
「リゲルは、あそこだな」
そう言うと、再び彼は兵士達の中へと突進していった。


「(何故だ…!?)」
瞬時にテスタメントへ跳びかかったリゲルは、その頭に向けてアーマーで強化された蹴りを繰り出すが、当たる寸前にその足を掴まれる。
テスタメントはリゲルの足を持ったまま振り向き様に、リゲルの身体を壁へと叩き付けた。
「ぐぅっ…!!」
壁にヒビが入るほどの衝撃を受けたリゲルだが、即座にその場から飛び退くと、指先からレーザーをテスタメントへ向けて乱射するが、いずれも彼のエネルギーシールドに阻まれた。
「(何故だ…何故ボクは、奴を倒す事ができない…!?)」
レーザーでは歯が立たない事を把握したリゲルは、今度はテスタメントの真上の天井に向けてレーザーを連射した。
レーザーは易々と大聖堂の天井の一部を崩壊させ、大量の瓦礫がテスタメントに向けて降り注ぐ。だが彼は、頭上に向けてバスターを発射するだけで良かった。
瓦礫は大半が吹き飛ばされ、テスタメントの周囲にのみ降り注いだ。それを見て、リゲルは歯噛みする。
「(アーマーすら着けていないんだぞ。あいつ如きに、このボクが、遅れを取るなど…!!)」
「まだ分かっていない様だな…!!」
テスタメントは、一瞬膝を折ると、次の瞬間一気にリゲルの至近距離まで跳びかかった。
「っ…!!?」
リゲルが反応する間も無く、テスタメントは彼の顔面を掴むと、凄まじい力で床に叩き付ける。
叩きつけられた床に小規模のクレーターができ、周囲の床にまで大きくヒビが入るほどの衝撃。リゲルの意識は一瞬飛びかけた。
「3千年前のお前は、今とは違っていた。今のお前のような傲慢さも、油断も、無意味な挑発も…何も無かった筈だ…!」
言葉と共に、テスタメントはリゲルの顔面を掴んだまま、その腕をそのままバスターへと変形させる。
「この3千年で…お前が得たのはそんなものか!!」
次の瞬間、リゲルの顔面にチャージしたバスターが撃ち込まれた。
クレーターが更に大きくなり、行き場を無くしたエネルギーの奔流が周囲の床へと走っていく。

だが。

光が収まった時、テスタメントは気付いた。途中からその腕に、リゲルの頭の感触が無くなっていた事に。
そして、床にできたクレーターの中心にも、自分の周囲にも、リゲルの姿が無い事に。
テスタメントは油断無く辺りを窺った。今の攻撃で、リゲルが完全に消滅する事などありえない。途中から彼の頭を掴んでいた感触が消えた事を考えても、ギリギリで自分の攻撃から脱出したとしか思えなかった。

突然、背筋に悪寒を覚え、テスタメントは見上げた。

先程崩れた天井に開いた穴。そこから降り注ぐ太陽の光。そのすぐ下に、リゲルは浮かんでいた。
右手の掌を、テスタメントに向けて。

その、普段は翠色をした両目のうち、右目だけが金色に輝いていた。

「(…まさか…!!)」
テスタメントが結論を脳内で出す前に、凄まじい威力のバスターが、彼の全身に襲い掛かった。


その頃、数刻前に多数の兵士達とリゲル・ググが出てきた、大聖堂に繋がる遺跡の入口。
その男は、幽鬼の様にユラリとそこから現れた。
先程までは多数の兵士達がいた場所だったが、その遺跡の入り口は先程まで自分達が使っていたという事実からか、そこを警備している兵士は一人もいなくなっていた。
他の兵士達は全て、大聖堂の内部か外側を警備している。遺跡から出てきた男は、そんな事実など知る由も無いのだが。
男が中庭に出て足を一歩進めた途端に、凄まじい爆発音と共に、大聖堂のドームから少し離れた辺りから、煙が上がるのが見えた。


「はぁ…はぁ…」
床に降り立ち、リゲルは肩で息をしながら額に浮かんだ汗を拭い、目の前の光景を眺めた。
彼の目の前には、周囲の建物ごと崩壊し、その真下にある遺跡にまで崩落した巨大な穴があった。
それも、遺跡の地下1階などという生易しいものではなく、地下5、6階は優に超えるほど深いものとなっている。
確かに直撃を浴びたはずのテスタメントの姿は見えなかった。先程のリゲル自身とは違い、気配も完全に消えている。
「防御中に足場が崩れれば、如何な君でも落ちるしか選択肢は無かったろう」
未だに穴の中では、瓦礫が音を立てて崩れ続けている。
リゲルはその穴の中を眺めつつ、言った。
「でも分かってるよ。この程度で君が死ぬ訳が無い。だが、相当なダメージを負った筈だ。もう一度ここまで来るのには時間がかかるだろう」
リゲルは振り返ると、大聖堂のドームの方へと歩いていった。

「見届けさせて頂きました」
ドームでググは待っていた。彼女はリゲルの姿を認めると、話を始める。
「幾つか不安要素はまだ残っておりますが…一先ず、障害の一つは取り除けましたね」
「ああ、そうだね」
リゲルは少し疲れを帯びた表情でそう言うと、薄く笑った。
それに釣られてググの口元にも笑みが浮かぶ。彼女はリゲルに手を差し伸べながら、言った。
「では、ディメンジョン・ゲートへ向かいましょう、リゲルさ…」

その手だけが床に落ちたのは、その時だった。

リーバードであるググの身体。斬られた腕の傷口から、機械の破片と血のような液体が流れ落ちる。
「え…ぁ、あ…!!」
心底驚愕するググ。皮肉な事に、その時彼女の脳裏に数時間前に全く同じ事をされたかつての主の姿が浮かび上がった。
「な、何を…するのです…!!?」
斬られた腕を押さえ、苦悶の表情でググはリゲルを見る。

リゲルは微笑んでいた。いつもの様に。

「下手な茶番は飽きたんだよ、ググ」


最終更新:2012年10月07日 00:59