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空中を自在に飛び回る、巨大な細長い龍の姿をした古き神々の一人・ポルックス。
山羊の頭部と下半身に、人型の上半身と蝙蝠型の翼を持つ、古き神々の一人・アルデバラン。
この二体の咆哮を受けながら、古き神々の一人・ベテルギウス――又の名をタナトス――は、重力を制御して空中に浮遊した。
アルデバランが地上から、ポルックスが更に上方の空中からタナトスを睨みつける。
タナトスは、不敵な笑みを口元に浮かべ、堂々と言った。
「さあ、来なさい。魂亡きかつての同胞よ」
攻撃が開始されたのは、次の瞬間だった。

まず攻撃を開始したのは、龍の姿のポルックス。
全身に設置されたマイクロミサイルポッドが大音響を立て、凄まじい煙と共にミサイルを撒き散らす。
ミサイルは全てタナトスに照準を合わせて突き進んでいく。タナトスはこれに対し、ただおもむろに、飛来するミサイルへ、指差した。
すると、間近まできたミサイルの軌道が逸れ、タナトスの身体に接触するギリギリの所を通過していく。
やがて標的を見失ったミサイル同士がタナトスの遥か後方で互いに接触し、大爆発を巻き起こしていった。
続いてポルックスは全身に備えられた砲塔から、タナトスに向けてレーザーを照射した。
赤い光がタナトスへ向けて殺到し、暗闇に満たされたヘブンズ・ゲートの内部を照らし出す。
タナトスは、流麗な動きで手に持っていた蝙蝠傘を展開すると、レーザーに向けた。
レーザーは蝙蝠傘に接触すると、何かに飲み込まれたかのように、消えていく。
それらの光景を見て、ノアはタナトスの戦力について思考を巡らせた。
「(ミサイルの起動を変化させたのは、先程私を拘束した糸だな。間近まで来たミサイルを糸が絡め取り、微細に軌道を変化させ、ギリギリの所で自分に当たらぬように偏向させたのだろう。だが、問題はあの傘だ。あちらはレーザーを弾くのではなく、吸収している。明らかにビームコーティングの類ではない。もっと高度な代物…!!)」
ポルックスは尚も、ミサイルとレーザーを織り交ぜた攻撃を続け、タナトスは文字通り『演じる』かのように、空中でダンスでも踊るかのような動きでそれらを凌いでいく。
気が付けば、ミサイルの爆発と赤いレーザーの光で、空は幻想的にさえ見えるほどの光に覆われていた。

しばらく、ポルックスの攻撃をタナトスがかわしていく光景が展開されたが、やがて地上にいるアルデバランが動きを見せた。
再度その口を開けて咆哮すると、頭部に付いた二本の角を発光させたのだ。
そして、それと同時に、空中でタナトスを攻撃するポルックスも、口腔内にエネルギーをチャージする。
それを見て、タナトスは再度微笑んだ。
「やれやれ…終幕を急ぐ必要など無いというのに」

次の瞬間、凄まじい閃光と共に、アルデバランの雷撃とポルックスのエネルギー砲がタナトスに向かい発射された。

凄まじい光が、タナトスへと殺到していく。
今度はタナトスは、先程のように避けはしなかった。代わりに、再び蝙蝠傘を展開すると、雷撃とエネルギー砲へ向けて翳す。
その様子を見たノアは、自然と声に出していた。
「まさか…!!」
果たして、先程のレーザーと同じ様に、エネルギー砲と雷撃は傘の中に吸い込まれ、それは二体の古き神々が雷撃とエネルギー砲を撃ち尽くすまで続いた。

「さて、まだ続けますか?」
余裕の表情のまま、タナトスは言葉を紡ぐ。だがその言葉を無視し、ポルックスは再度全身からミサイルを射出してタナトスへと殺到させた。
タナトスは再びミサイルを指差すと、その軌道を変え、かわしていく。
「ふむ、そろそろワンパターンとなってきましたね。終わりに…」
言葉を紡ぎ終える前に、タナトスは何かに気付くと、即座に振り返った。

いつの間にか、ノアが背後から、再度タナトスへ向けて貫手を繰り出した。

ギリギリでそれをかわしたタナトスが、空中で距離を取る。
だが、タナトスの頬は僅かに切れ、赤い血が流れ出していた。
「なるほど…ミサイルの爆発による煙に紛れ、奇襲に出ましたか」
「ワンパターンに、なってきたのだろう?」

指先についた血を一瞥すると、ノアは再度思考する。
どうやら、今戦っているのが『本物』のタナトスであると、ようやく証明ができたようだ。
仮に戦っていたのが、身体を液体金属で構成したリーバード『アバター』であったならば、頬から血が流れる筈がない。
それに、糸も傘も、自身の身体から出しているわけではない、外部の装備だ。これだけの装備を分身に扱わせるとは、少し考え辛い。
そこまで考えて、ようやく戦況の進捗が進んだ事に、ノアは薄く笑みを浮かべた。

「ここからは、私も加わるとしよう」
「構いませんよ。進行役は貴方なのですから」
そう答えると、タナトスは微笑を浮かべる。

次の瞬間、ノアはタナトスへと突っ込んだ。

突進と同時に、片手に展開させたワームホールをタナトスへと射出しようと振りかぶる。
対して、タナトスはその場から跳躍した。
先程の様に、空中に足場があるかのような跳躍。その跳躍は丁度ノアを飛び越えるかの様な軌跡を辿っていた。
「(読んでいないとでも…思ったか!!)」
ノアは振りかぶった姿勢のままワームホールを片手に保持し、勢いよく振り返る。
ノアの視界に入ったタナトスは、前方に跳躍後の逆さまの姿勢のまま、ただ閉じた蝙蝠傘の先端をノアに向けていた。
「!!!」
その動作を視認した瞬間、ノアはその蝙蝠傘の特性を理解した。
正確には、予想していた幾つかの特性の中の一つが正解だった、と言えたのだが。
同時に、ノアは動作を即座に変更し、掌のワームホールを消滅させて左方向へと跳ぶ。

次の瞬間、極太のエネルギー砲が、タナトスの傘の先端から発射された。

エネルギー砲はノアを掠め、彼の遥か後方に位置していたポルックスに直撃した。
「っ…!!」
振り返ったノアの眼に、ポルックスが唸り声を上げながら爆炎と共にバラバラに分解し、地上に落ちていく様子が映る。
タナトスは楽しそうにその様子を見つめ、そして言った。
「ポルックス。貴方の大規模殲滅能力は、三千年前の大戦時には重宝されましたね。しかし、その後の時代にはあまり活躍の場が無かったことは残念でした」
片頬が焦げるのを感じながら、ノアはタナトスを睨んだ。
エネルギー砲が掠めた右半身が僅かに痺れる。あの多大なエネルギー量は、彼の周囲に張られたシールドでも防ぎ切れなかったのだ。
そして、『痺れて』いる事で、彼はより確信を強くした。
「(今のエネルギー砲…間違いなく、先程ポルックスの主砲とアルデバランの雷撃のエネルギーを吸収したものだ…つまり、あの傘の特性は、エネルギーの吸収と放出…)」
「今ので、検討は付きましたかね?」
言いながら、タナトスは降下を始めた。
その様子を訝しげに見るノアに対し、タナトスは相変わらずの微笑を浮かべたまま、言う。
「ポルックスも倒れましたし、空中戦はもういいかと思いましてね。でなければアルデバランも、遠距離攻撃しかできないでしょう?」
「……」
空中からタナトスを見下ろしたまま、ノアは思考を続ける。
「(傘の特性は分かった。後は吸収できるエネルギーの許容量だが…ポルックスの主砲を吸収し尽くした事から考えて、並みの量とは思えないな…)」
「さて、次はどちらから来ますか?」
ノアの思考を他所に、タナトスは堂々とした佇まいで、ノアとアルデバランの双方を見つめた。
アルデバランは、片手に携えていた大鎌を持ち上げると、再度咆哮を上げる。

咆哮と共に、アルデバランは背中の蝙蝠型の翼を広げた。
翼の中から、無数のリーバードの瞳が現れ、それら全てがタナトスの方を向く。
「アルデバラン。貴方の人心掌握能力は、他の誰よりも優れていましたね」
言いつつ、タナトスはアルデバランへ向けて、ゆっくりと歩き出した。
咆哮を上げたまま、アルデバランは頭部の角を青く発光させ、その一瞬後に雷撃を撃ち放つ。
だが、それは軽く掲げられたタナトスの傘は、雷撃を易々と吸収して行った。
「あの街が我々の拠点となれた理由は、ひとえにロゴスの組織力と貴方の能力があったからこそと言えるでしょう」
次第に、タナトスは歩みを速めていく。
傘を閉じ、片手に掲げると、遂に歩みから走りへと転じたタナトスは、一際大きく地面を蹴った。
接近を察知し、アルデバランは手に持っていた大鎌を振り上げ、横に大きく薙ぎ払う。
薙ぎ払われた一瞬後に、タナトスがいた筈の場所には、誰もいなかった。

「今となっては、全てが、懐かしい」

気付けば、薙ぎ払った大鎌の刃の上に、タナトスは立っていた。
そして次の瞬間、タナトスは勢い良く跳躍し、その傘の先端をアルデバランの胸に突き刺していた。
傘を引き抜き、地面に着地すると、タナトスは後ろへと向き直る。
だが、胸を突き刺されただけで、アルデバランは倒れはしなかった。後ろを向いているタナトスの身体を今度こそ両断しようと、大鎌を振り上げる。

しかし、その両腕が、火花と共に小規模な爆発を起こし、大鎌ごと地面へと崩れ落ちる。

それを契機として、アルデバランの身体中から、小規模の爆発が巻き起こった。
それでもアルデバランはタナトスに攻撃を加えんと、残った頭部の角を発光させ、雷撃を発生させようとする。
だが、角が発光した途端に、これまでよりも大きな爆発がアルデバランを包み込んだ。
タナトスが、肩越しにアルデバランのいた方を一瞥する。煙が晴れた時、アルデバランは既に残骸と化していた。
寂しさを含んだ一瞥を終え、タナトスは今度は上方へと視線を向け、好戦的な笑みを浮かべる。

空一面に、無数のノアのビットが出現していた。

「なるほど、遊びは終わりと言うわけですか」
空中で、ノアは無表情のままに言う。
「観客のいないこの場で、遊びなどただの時間の無駄だ」

そして次の瞬間、凄まじい閃光が空一面を満たし、地上に無数の爆発が巻き起こった。

爆発と同時に、タナトスが地を蹴り、無数のレーザーを掻い潜ってノアへと接近する。
その動きに無駄は無く、確実に自分に当たるレーザーのみを傘で防御していた。
「ならば!こんなものでは、終わらないのでしょう!?」
遂にノアの至近距離へと飛来したタナトスが手に持っていた傘を閉じ、その先端をノアへと向ける。
「いいや!これで、終わりだ!!」
だがノアもそれに合わせて、片手にワームホールを展開していた。
ただのワームホールではない。薄く引き延ばし、防御不可能な刃と化したそれを幾十にも編み込んだ奥の手。
それを、ノアは接近してきたタナトスに向けて、解放した。

「…!!」
次の瞬間、ノアは驚愕した。
幾重もの刃と化したワームホールに気付いたタナトスが起こした行動は、単純なものだった。
ノアに向けた傘を、広げる。ただそれだけの事。
ここからの状況を飲み込むのに、ノアは幾許かの時間を使わざるを得なかった。

何せ、タナトスの傘は、ワームホールすらも飲み込んだのだから。

ノアの、その様な思考の空白を、タナトスは逃しはしなかった。
傘を閉じると同時に素早くノアに接近すると、対応の遅れた彼の心臓に向けて、傘の先端を突き刺す。
「ぐ、がぁっ!!」
が、痛みも手伝った結果、ノアの思考の空白時間は、その瞬間に終了した。
即座に彼は目を見開き、自らの胸に突き刺さった傘を握り締める
「っ!!」
今度はタナトスの方が虚を突かれる番だった。
ノアは掴んだ傘ごとタナトスの身体を振り回すと、地上へ向かってに勢い良く投げつける。
そして同時に、上空に展開させたビットのレーザーを、タナトスの身体へと連射した。
タナトスの身体が地上へ激突するのと同時に、その身体へとレーザーが殺到していくのを、ノアは空中で眺め続ける
「(一体、どういう事だ。空間に発生した後のワームホールに干渉するには、同じワームホールで効果を打ち消すしか方法は無いと踏んでいたが…あの傘は、一体…何だ…?)」
肩で息をしながら、ノアは思考を巡らせた。
今は煙で何も見えないが、視線はビットの集中砲火を浴びせたタナトスがいるであろう場所に油断無く注いでいる。
穿たれた筈の心臓と胸は既にナノマシンが治療し、間も無く傷跡も消えるだろう。
しかし、ノアの表情は曇っていた。
この程度でタナトスを殺せるのなら何も文句は無い。が、恐らくそれは有り得ないだろう。

「なるほど…少し貴方の事を見縊っていた様ですね」
果たして、煙の晴れた所にタナトスはいた。
服が僅かに汚れており、顔にも僅かに煤が付いているが、変化はそれだけだ。
そして、そんな変化など気にも留めないかのように、タナトスは笑顔を浮かべた。
「さて、貴方の出し物は十分に楽しませて頂きました。今度は、私の出し物を貴方に楽しんで頂きましょう」
「ほう。ようやく手の内を見せる気になったのか」
降下し、地上に着地しながらノアは言う。
タナトスはそんなノアを笑顔で眺めながら、燕尾服の内ポケットから何かを取り出した。

それは、銀色の仮面だった。

かつてシリウス――ロックマン・ロードが、プリズナの町で付けていたのと同じ形をした代物。
楕円形をした、眼の部分にのみ切れ込みの入った銀色の仮面。
それを、タナトスは自らの顔に被せる。
「一体、何のつもりだね」
無表情でノアは言った。対して、やはり堂々とした口調でタナトスは告げる。
「では、存分にお楽しみ下さい…仮面舞踏会(マスカレイド)を」

突然、ノアは気付いた。
タナトスの背後に、同じ銀色の仮面が、幾つも存在している事に。
いや、仮面だけではない。暗闇の中から銀色に光る仮面だけが見えた為に一瞬そう錯覚したが、仮面を被る者の姿も見えた。
全員、黒装束で全身を覆っており、その身長は様々だ。
目を引くのはその顔に被る仮面と、そしてその両手だった。手のある筈の部分を、青白い炎が覆っている。
その者達はタナトスの背後だけではなく、ノアとタナトスの周囲を取り囲んでいた。
周囲に目を配るだけでも、その数は数え切れない。
そしてタナトスは、後退を始めた。ゆっくりと、しかし確かな足取りで。
ノアはタナトスを追おうとするが、周囲の者達の動きが読めないため、迂闊には動けない。
タナトスの背後にいる集団が割れ、タナトスがその中に消えると、もうノアの周囲には仮面を被った者達しかいなくなっていた。
「(一体、何者だ…『アバター』か?改造されたデコイの兵士か?それとも…)」
やがて、その集団が動きを始めた。
ノアの周囲をゆっくりと回り始めたのだ。
同時に、歌が聞こえ始めた。
「随分…ふざけた趣向じゃないか…!!」
歌は、周囲の仮面を被った者達が歌っていた。

この世に生きる者達を祝福する歌を。
全ての罪を許す歌を。

そして何より不気味なのは、声が全て女性のものだったという事だ。
つまり、この仮面を被った者達は、全て女性だった。
「…こんなもので、私が心を乱すとでも?」
ノアの問いに答える者はいない。ただ全員、ノアの周囲を回りながら歌うだけだった。
いつまでも、同じ歌詞の歌を。
「こんな茶番に、この私がいつまでも付き合うと思うか?」
上空に浮上し、仮面の集団をビットで爆撃しようと、ノアは重力操作を開始しようとした。
だが、そうする前に気付いた。

仮面の集団の中に、一人だけ動きの違う者がいると。

その人物だけが、ノアの周囲を回っておらず、ただじっとノアに視線を向け、静止したままだ。
丁度、ノアの背中側にいる為、彼は視認できなかったが、それでも気配と、向けられている視線は感じ取れる。
「(無数の兵士と歌で私の感覚を狂わせ、奇襲しようとでもいうのか?そんな手が通用すると、タナトスは本気で考えているのか…!?)」
浮遊するか、それとも一人だけ静止した者の動きを見定めるのか、ノアは一瞬迷った。
その瞬間に、静止した人物が動きを開始した。
意外にも、真っ直ぐにノアに向かい、歩いてきたのだ。
「(まさか…本当に?)」
その人物が背後まで来た瞬間、疑問と共にノアは振り返る。
果たして、その仮面を被った人物は、手に拳銃を構えていた。そしてその人物だけは、手が青白い炎ではなかった。
「(…やはり、浅はかだったな…タナトス!!)」
ノアはその人物が引き金を引く前に、その首を掴む。
その衝撃で、その人物の仮面が顔から外れ、落ちた。
「!!?」

暗闇の中で、二つの赤い瞳を持ったモノが、囁く。

『全てを消滅させるエネルギー。次元を穿断する力。命を奪うという行為にそんなモノ、必要ありません』

仮面が、地面に落ちる。
その顔が、ノアには信じられなかった。

『たった一人の刺客』

信じられなかったがために、ノアの思考に、僅かな空白が生じる。

『たった一発の銃弾』

そしてその空白は、その人物が銃を構え直し、引き金を引くのに十分なだけの時間だった。

『たった一滴の毒で』

その人物の名を、ノアは自然と呟く。

『人は、殺せるのですよ』

「ゼゼ」

銃声と共に、銃弾は寸分の狂い無く、ノアの心臓に食い込んだ。



最終更新:2013年12月07日 23:36