不意に、ゼゼは目を開いた。
それでやっと、自分が意識を失っていたことを知る。
自分は確か、『神々の意図』に囚われた少女を救出していた筈だ。
その時に上半身と下半身を両断されたような気もする。
だが、自身はリーバードだ。人の身体に変形している時は、動力炉のある胸と、思考を司る頭部のどちらかを損傷するか、それを繋いでいる首を寸断されない限りは生存できる。故に、特攻染みた真似をしたのだ。
そこまで考え、そして今の自分がどこにいるのか、あの少女がどうなったのかが気になった。
瞬きし、周囲を見る。
そこは、天蓋付きのベッドだった。
周囲は薄暗い。ベッドの傍の机に置かれた、小さな電灯が点いているだけだ。窓もない。
その机と椅子に、床に敷かれた絨毯。比較的広い部屋の中には、ベッドの他にはそれくらいしかない。だが、その絨毯と壁紙には色とりどりの装飾が施されていた。
装飾の豪華さから考えても、ここは病院ではない。マザーの所有している施設というわけでもなさそうだ。
毛布を捲って自分の身体を見たが、切断されたと思った下半身は付いていた。
服も、あの時と変わっていない。
――何が起きて自分はここにいるのか。
どれだけ考えても、答えは出そうになかった。
ベッドから足を下ろす。やはり、足は自分の意思通りに動いた。
やはり、あの時下半身がビームサーベルに切断されたと思ったのは気のせいだったのか。
だがそうであれば、意識を失った理由が分からない。そしてここがどこなのかも。
――まさか、知らないうちに敵に攫われたのか。
そんな考えが頭を過ぎり、そして考えれば考えるほどその可能性が高いとしか思えなくなっていた。
そのため、ゼゼは用心して室内を進み、できるだけ音を立てないようにしながらドアを開け、外に出た。
部屋の外は廊下だった。
廊下には等間隔に窓があり、窓の外は雪の降る森しか見えない。
薄暗さからして、最初夕方かと思ったのだが、それにしては少し感覚が違う。そのため、現在時刻は朝に近いのだと判断した。
廊下は、右と左方向にずっと続いている。
突き当りは見えるが、数十メートル先だった。
今ゼゼの居た部屋と同じように、廊下には一定間隔ごとにドアがあるのが見える。
どのドアも一様に開いていて、その内部はゼゼの居た部屋と似たようなものらしかった。
だが、ゼゼの居た部屋の左隣の部屋だけは、ドアが閉まっている。
そこまで把握して、とりあえずゼゼはその部屋の様子も見てみることにした。
また音を立てずにドアの前まで行き、そしてドアを開ける。
「っ…!」
部屋の中は暗かった。
恐る恐る入って行ってみると、光源が一つだけ見える。
目を凝らすと、それは火の点いた燭台だった。
そして、その燭台の傍に一人の男が立っていた。
「やぁ、待ってたよ。ゼゼ」
男の声と、火に照らされたその顔に、ゼゼは驚愕した。
「あな、たは…」
同じ頃。
クロウ・エリュシオンもまた、目を覚ましていた。
身を起こす。
身体に痛みは無い。ミラ・クラウスに刺されたことと、ゼゼの声を聞いたことをすぐに思い出した。
――あれから、どれくらい時間が経った?
疑問が沸き、周囲を見回す。
白いベッドに毛布。同じようなベッドが室内に、クロウの居るものも含めて6台置いてある。
清潔な室内。真っ白な壁。どうやら病院の様だ。
自分の居るベッドは窓から一番遠く、廊下へ続く開けっ放しのドアの傍に置かれていた。
そして、自分の居る場所以外のベッドに人が入っている様子は無い。
今の自分は病衣を着させられており、元着ていた服は傍の椅子の上に置かれていた。
「目が覚めたか」
声が聞こえ、咄嗟に声のした方向を見る。
窓の傍で、壁に背を着けて立っている男がいた。
窓の外は雪が降っており、薄暗いせいで男の姿がよく見えない。
「…誰だ」
男を睨む。ゴーストの手の者であれば、まずい状況だ。
持っていた刀はどこにあるか分からない。つまり、戦うとなれば素手に頼るしかないだろう。
だが男は、そんなクロウの反応を見て両手を宙に振って見せた。
「待て、俺は敵じゃねぇ」
そう言いつつ、ゆっくりクロウの方へ近づく男。
その男は、同時に着ていたコートの内ポケットへ手を入れた。
「俺は…そうだな、お前達の言う所の『デコイ』って奴だ」
「何者だ?」
男の言葉にも、クロウは油断無く身構える。近づいてくる男が、内ポケットから銃でも取り出そうものなら反撃できるように。
「漸く会えたな、クロウ・エリュシオン」
そして男は、内ポケットから取り出した――名刺を差し出した。
「スティーブ・ハント。私立探偵だ」
最終更新:2018年06月04日 21:34