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翌日。
「昨日言った通り、今日は私が自由に動かせてもらうからね!!」
腕を組んでそう宣言するレベッカに、スティーブはため息を吐く。
現在時刻は早朝。スティーブとレベッカはゼゼの部屋に集まり、本日の予定を話し合っている。
「自由に動くったって、具体的に何する気だ?」
「そりゃ、関係者を見つけて話を聞くに決まってるじゃない」
自信満々に答えるレベッカ。が、スティーブは嫌な予感を益々募らせる。
「当てはあるのか?」
「…あんたが昨日行った酒場で」
「そこの証言なら取ったが、他に関係者がいないか探すのか?一日中入り浸って目を皿のようにして?」
「何か文句ある?」
殺意を込めたレベッカの視線に、スティーブは目を細めた。
「やめとけ。前にも言ったと思うが、ここはビートルジュースが何か画策してる場所だぞ。どこに敵がいるか分からん」
「そんなこと言ってたら何もできないじゃない」
レベッカの言もある意味正論だったため、スティーブは言葉に詰まる。
そんな時、それまで黙っていたゼゼが口を開いた。
「まずは本日すべきことを羅列しましょう。それで役割を割り振ればいいのでは」
「ああ、まぁ、それでいい」
「…分かったわよ」
賛同するスティーブと、項垂れたように頷くレベッカだった。

「まず、遺跡への調査が必要になった場合を考えて、市役所に届けが必要ですね。これは身を隠す衣服を昨日購入できましたので、私の方でやっておきます」
「大丈夫か?」
スティーブの言葉に、ゼゼは頷いた。
「ええ。髪や目は帽子で隠せますし、マフラーで口元も隠せば顔を知られずに済みます」
その言葉に、逆にスティーブは不安になる。
「市役所に入っても帽子被ったままにするのか?それは…逆に怪しまれそうだが」
「そうでしょうか…しかし、ディグアウト免許は私しか持っていませんし」
スティーブの言葉にそう返し、困った様子のゼゼ。
その場が沈黙するが、やがてスティーブは仕方なく言った。
「あー、分かった分かった。俺も同行して何とか誤魔化すから、それでいいだろ」
「すみません、お願いしますね」
ゼゼの返答に頷き、再度スティーブが口を開く。
「問題はそれ以外だな。昨日酒場に行ったが、クロウ・エリュシオンの情報は無かった。あの時話を聞いた少年がここに電話をかけてくれるといいんだが…まぁ望み薄だな」
「…じゃ、手掛かりは」
「ああ。現状無しだ」
レベッカの問いに答えたスティーブの言葉で、全員黙り込む。

「あの…」
「仕方ない」
ほぼ同時に声を発したのは、スティーブとゼゼだった。
顔を見合わせる二人と、置いてきぼりになるレベッカ。
「あ…お先にどうぞ」
ゼゼの言葉に、気を取り直してスティーブは言う。
「レイラに、町の人間の中にビートルジュースの息がかかった奴がいないか、思考を読んでもらうか」
「私も、それを提案しようと思っていました」
スティーブの言葉に、ゼゼも賛同する。
だが、レベッカの方は困惑していた。
「…何かそれ、不安なんだけど…」
レベッカの困惑に、スティーブも頷く。
「ああ。元々レイラを改造したのはビートルジュースだからな。こっちにレイラがいる以上、こういう手を使うことは奴も予想してるかもしれん」
「じゃ、やっぱりまずいんじゃ…」
「ですが、彼女というアドバンテージを上手く使えれば、こちらが大きく有利になります」
ゼゼの言葉に、スティーブは再度頷く。
レイラの、他人の思考を読むという能力を使えば、普通では手に入らない情報も手に入る可能性が高い。
ただでさえ、現在は人数が多過ぎてスティーブも自由に動けない状況だ。ならば、こういう手も使える時に使うべきだろう。
だが。
「…正直、嫌な予感がすることは確かだがな…」
スティーブは呟くようにそう言った。


「いい!?昨日の約束忘れてないわよね!?すぐ帰ってくるのよ!?」
「分かった分かった、大声出すなっつーの」
レイラが起きて全員の支度が済むのを待ってから、スティーブ達は二手に分かれてプリズナの町へ歩き出す。
スティーブとゼゼは手続きのために市役所へ。レベッカとレイラは調査のため町中へ。
レベッカは、そんなスティーブに念を押す。市役所の用事が済んだらすぐ町中へ向かい、自分達と合流するようにと。
昨日の約束があるため、レベッカも自由に行動したいのだった。
「しかし、あいつ自由になった所で、どう調査するつもりだよ…」
愚痴るスティーブと無言のゼゼ。
今朝は所々に雲があるものの、太陽は見えている。前日から雪が降り積もっており、道路は雪に覆われていたが。
町中は通行人もまばらに増えていて、やがて所々でシャッターを開ける店が多く見えてきていた。

市役所に着き、ゼゼが書類に記入するのを見守るスティーブ。
やがて彼女は受付に書類と、持参していたディグアウト免許を提示する。
特に目立った諍いも無く、ゼゼの服装が怪しまれることも無いまま、ゼゼは受付から戻ってきた。
「これで完了です」
「何だ、随分早かったな」
「遺跡調査の許可だけですので、正規のディグアウト免許さえ持っていれば手続きはそんなにかかりません。ただ…」
「ただ?」
言葉を濁すゼゼ、スティーブが先を促す。
「1年前の出来事で遺跡の内部が崩落しているらしいので、あまりディグアウトは勧められないと注意はされましたね」
「1年前…昨日言っていた件か」
「ええ」
そう会話を行いつつ、二人が市役所を出た時だった。

「随分遅かったな」

視線の先に、男が立っていた。
テンガロンハットに葉巻を咥えた、茶色の外套に滑車の付いたブーツを履いた男。
この町へ出発する前に、会議室で会った男だ。
「レオン・トラヴァース。貴方も無事にこの町へ来たのですね」
隣のゼゼが無感情な声で言う。
煙を吐き出しながら、レオンは言った。
「ああ。あんたらは、ここへ来たのは今朝くらいか?」
「昨日の夜だ」
スティーブの言葉に頷くレオン。だがスティーブは、あまりこの展開は歓迎し難かった。

一先ず、市役所の前から道路の端まで移動し、スティーブはレオンに言う。
「プロのお前はとっくにご承知だと思うが、ここは敵地だ。公衆の面前で堂々と合流するような目立つ真似は避けたかったんだが」
「敵地?違うな。お前らよりもう1日早く着いてこの町を観察していたが、無害な市民しかここにはいない」
その言葉に、スティーブは尚もレオンを睨みつける。
レオンはそんなスティーブを見据えたまま言った。
「信じられないって顔だな」
「とりあえず、場所を移動しませんか。レベッカさん達とも合流する必要がありますし」
ゼゼの言葉に、スティーブは仕方なく気を取り直す。
そして、三人は歩き出した。

「で、合流場所がここか」
ダイナーの前で、レオンは呆れたようにそう呟いた。
「文句あるか。食事もできて一石二鳥だろうが」
「何故そう噛みつくんです、スティーブ・ハント」
呆れたように言うゼゼ。
それに答えるでもなく、不機嫌そうにスティーブはダイナーへと入っていった。

「遅かったわね。こっちは買い物して朝食食べちゃった所よ」
そう言ったレベッカと、サンドイッチを食べているレイラは、昨日のスティーブとゼゼのように衣服を買っていたらしく、冬物の上着を着ていた。
レベッカは茶色のコート、レイラは白いジャンパーを着ている。二人とも手袋も買っていたらしく、テーブルの上に畳んで置かれていた。
レベッカの前のテーブルには、新品らしいカメラも置いてある。
「何だそのカメラ?」
「何って、私が記者なの知ってるでしょ」
これ以上何か言っても面倒事になるだけだ。そう内心の苛立ちを抑えながら、スティーブは背後にいるレオンを目線で指しながら言う。
「ちょっとこの男と話がある。手掛かりならレイラとゼゼと一緒に探しててくれ」
スティーブの言葉にムッとするレベッカ。
「昨日と話が違うじゃないの!?」
「悪いな、だが遭遇しちまったもんは仕方ないんだ」
レベッカが殺意を込めた視線でスティーブを睨み、スティーブも今朝から抑えていた苛立ちを込めてレベッカを睨み返す。
一触即発の雰囲気の中、ゼゼがおずおずと口を出した。
「お二人とも落ち着いて下さい。特にスティーブ・ハント、進展がないからといって苛立ってても何も進みませんよ」
ゼゼの言葉を聞いてからたっぷり数秒後、漸く睨み合っていたスティーブとレベッカが視線を外す。
「仕方ないわね。とっとと話とやらは終わらせてよ!?」
「悪いなお嬢さん」
一連の様子を面白そうに眺めていたレオン・トラヴァースは、笑みを浮かべながらそうレベッカに言った。
レベッカはそんなレオンを一瞥すると、苛立ったように顔を背ける。
そんな一悶着を経て、漸くレベッカとレイラ、ゼゼの三人がダイナーを後にし、スティーブとレオンが残って席に座った。


「どうやら、お前は女に振り回されっぱなしの様だな」
笑みを浮かべつつそう言ったレオンに、スティーブは不快そうに一瞥を投げる。
「あんたのためにこうして場を設けてやったんだ。笑われる謂れは無い」
「ほう、俺のために」
目を細め、スティーブは言う。
「余計なギャラリーがいる場じゃ何も話さんタイプだろう、あんた」
「さてな…」
そこでウェイトレスが注文を聞きに来たので、スティーブは適当な朝食を頼む。レオンはコーヒーのみだった。
会話がタイミングよく中断されたため、スティーブは本題に入ることにした。
「で、あんたは俺達より一日早くこの町に来たと言ったな」
葉巻の先端を切り落として火を点けながら、レオンは返答する。
「一昨日の晩だ」
そんなレオンの様子を眺めながら、スティーブは言った。
「無害な市民しかいないと言ったが、この町について、何も変わったことは無かったのか?」
「ああ。この町については、な」
そう言うと、レオンは灰皿に灰を落とす。
「あのビートルジュースという輩が暗躍してると聞いて、この二日身構えてたんだがな、驚くほど何も無い。町は平穏そのものだ」
「俺も同じ印象だ。昨日得た情報は、酒場の場所くらいだな。その酒場でクロウ・エリュシオンについて情報がないか聞いてみたが、収穫はゼロだ」
スティーブの言葉に、レオンは頷く。
「さっきこの町については、と言ったが、それ以外には情報があるのか」
「流石にそこは聞き逃さなかったか」
スティーブの言葉にレオンは再度笑みを浮かべた。
こいつ、俺を試してやがる。そう見抜いて、益々スティーブは内心の苛立ちを募らせる。
「勿体ぶるな。話す気があるなら早くしろ」
「まぁ落ち着け。こっちは幾つか情報を得た。が、あからさま過ぎて二の足を踏んでる」
「あからさま?」
レオンは再度頷いた。
「さっきお前が出てきた市庁舎。あそこの裏に山があったろう」
「この町は南以外は山に囲まれてるからな」
スティーブがそう返したところで、朝食のサンドイッチとコーヒーが運ばれてくる。
サンドイッチが視界に入った所で、スティーブが自分が思いの外腹が減っていたのを自覚した。
サンドイッチを頬張りながら、彼は先を促す。
「その北山を上ると、洋館があるそうだ」
「洋館?」
スティーブが聞き返すと、レオンはコーヒーを飲みながら頷いた。
「一夜にして出現したらしい。証言した猟師はその場所をかなりの頻度で通るそうだが、前日までは確かに無かったんだと」
眉唾物だな、とスティーブは思った。だが、ここに来る前に信じられない話を聞いたばかりだ。ということは、ビートルジュースが一晩で洋館を拵えるような輩であることも否定できない。
「そして昨日の夜の話だ。その猟師の話じゃ、洋館のある方角から連続して爆発音が聞こえたらしい」
「爆発音?採掘作業でもしてたってか」
スティーブの言葉に、特に表情を変えぬままレオンは首を振る。
「戦闘だ。まず間違いなくな」
「馬鹿な」
レオンの言葉にスティーブは半信半疑にそう言うが、それに構わず彼は話を続けた。
「とにかく、相当大きな爆発音だったようだ。小規模だが雪崩も起こったらしい。家屋の倒壊は無かったし、死傷者も出ていないが」
「仮に戦闘だとしよう。何でそんな所で?第一、誰と誰が雪山で爆発物を使った戦闘なんて繰り広げるんだ?」
レオンはスティーブの言葉に、僅かに口元に笑みを浮かべ、声を低めて言った。
「少なくとも一方はジャンゴ・ザネッティだ。間違いなく」
その言葉に、スティーブは片眉を上げる。
「何故そう言い切れる?」
「奴を長年追ってたからだ。奴は森林だろうが市街地だろうが、豊富な火力を用いた射撃や爆撃で仕事を完遂する傾向がある。特に手榴弾やマイクロミサイルなんかを使ってな。その結果、巻き添えで人が死のうが山火事が起きようが知ったこっちゃない。そういう外道だ」
「…雪崩も気にしないってわけか」
レオンは頷く。
では、ジャンゴの相手は誰だ?と聞こうとした所で、スティーブの頭に閃くものがあった。
「…相手はクロウ・エリュシオンとでも言うつもりか?」
「そいつ以外に誰がいる」
言い当てられたことで、開き直ったようにレオンはそう返す。
スティーブは眉根に皺を寄せ、言った。
「あんたの仲間の賞金稼ぎで、あんた以外にジャンゴを追ってるようなのはいないのか」
「いないと言いたい所だが、俺のようにどこかの修羅場で奴に殺されかかり、それでも生き延びて復讐しようとしてる奴がいないとも限らない。だが…そういう奴が仮にいて、この町に来たって可能性と、クロウ・エリュシオンが相手だった可能性。どちらが高いかは考えるまでもないだろう?」
レオンの言葉に、スティーブは頷かざるを得なかった。
そして、頭の中で考える。
賞金稼ぎの情報という、信用がイマイチ怪しいものではある。だが、ここに来て漸く手掛かりらしいものが掴めたと言えるのは進展と言えるだろう。
だが、その情報から行動するには、更に慎重を期す必要があると言える。
何せ、山の中の洋館という、この町以上に隔絶された空間なのだ。
そこまで考えた所で、レオンがスティーブと接触した理由が分かってきた。
「整理しよう。その洋館の持ち主がビートルジュースで、そこをジャンゴが警備してた。そこにクロウ・エリュシオンが奇襲をかけて、ジャンゴと戦闘になったと」
「俺はそう推理してる」
スティーブの話に、レオンは再度頷く。
「戦闘の結果は分かっていない。どっちかが死んだか、クロウ・エリュシオンが洋館に囚われたか、それとも離脱してこの町のどこかにいるか」
「どれも有り得るな。ジャンゴにしろクロウ・エリュシオンにしろ、死んでたら拍子抜けだが」
スティーブはどの可能性が高いか考えてみたが、それを判断する材料は今持っていないし、レオンも持っていなさそうだと判断してやめた。
「それで、その洋館は今もあるのか?」
「猟師から情報を得たのは、お前達と合流する少し前だ。昨日は確かにあったと猟師は言っていた。今日はまだ見ていないそうだが」
「…まぁ、それならまだあると仮定しておいた方が良さそうだな」
そう言ってから、今回の調査は随分仮定が多いな、とスティーブは思う。
「それで、あんたがその洋館へ突撃せず二の足を踏んでるのは…」
「ああ。単独では難しいからだ。内部図も無く突入するのは死にに行くようなものだ」
レオンの言葉にスティーブも頷いた。

ここまでで、手掛かりはその洋館だけだ。
スティーブは逡巡した。残りの手がかりがありそうなものは、レイラの能力による人々の思考を探ることか。後一つ、今朝の方針決めでは出さなかったが、カーネルの名刺を使って警察署に乗り込むという手もある。
だが、それはできれば最後の手段に取っておきたかった。警察署に乗り込んでカーネルの言っていたサマンサ・スペードに面会すれば、確かに調査は前進するだろう。
しかし、ビートルジュースの手の者が警察署に及んでいれば、奴らにこちらの動きが筒抜けになる可能性がある。
ロワイアル・ファミリーが警察署にスパイを放っていたらしい事実と照らし合わせると、その可能性は高いように思えた。

「さて…どうするかな…」
サンドイッチの残りを口に入れ、スティーブは呟いた。
「あんたはどうするつもりだ。その北山にある洋館ってのを見張るのか?」
レオンは首を振った。
「待つ」
「何?」
彼の言葉に、スティーブは聞き返す。
「何か起きるまで待つと言ったんだ。俺に不意打ちを仕掛けてくる奴がいれば、そいつを組み伏せて情報が聞ける。それが無ければ、この町に何かが起こるまで待つさ。酒でも飲んでな」
その豪胆さに、スティーブは面食らった。が、次の瞬間には納得していた。
「そんな服装で町を闊歩するような奴なら、そんな手もできるってわけか」
「そういうことだ」
悪びれもせずにそう言い切るレオンに、半ばスティーブは呆れる。
「じゃあ洋館は放っておくのか。ビートルジュースやジャンゴの本拠地かもしれんのに」
「…食料を買い込んで監視し続けることも考えた。が…」
そう言ってから一泊の間を置き、レオンは言った。
「逆に言えば、ビートルジュースとジャンゴ、どちらも『居る』という確証は無い。ならば奴らが必ず行動するであろう、この町で待った方が得策だ」
レオンの言っていることは確かに正しい。敵がこの町で何かするという情報がある以上、この町で待つのは合理的と言える。
だが、そうして手を拱いている間に、敵が準備を済ませてこの町の住人を全滅させるような事態は避けなければならない。
スティーブは悩んだ。北山にあるという洋館に調査に行くか否か。
そうして悩んでいる間に、レオンが紙片に何かを走り書きして、テーブルに広げていた。
「お前に俺の連絡先を渡しておこう」
電話番号の書かれたその紙片を見て、スティーブは声を上げずにはいられなかった。

「同じホテルじゃねーか!!」

彼のツッコミに、レオンが声を上げて笑う。
「お客様、お静かに…!」
あまりの声の大きさに、ウェイトレスが注意の言葉を飛ばす。
そんな様子のレオンを、スティーブは睨んだ。
「通りでこっちの動きを把握してるわけだ。今朝から尾行してたってわけか」
「つまらん真似はやめておけ。俺が尾行してたらお前じゃなくても気づくだろ」
試しにカマをかけてみたが、やはり通用しないか。そうスティーブは思った。
「じゃ、あんたは、さっき言った北の館の情報を手に入れた以外は、ずっと酒場で飲んだくれてたってのか」
「その通りだ。アレ以外に情報は無い。だが合流できたのは幸いだ。ずっと一人で飲んでるのもつまらんからな」
スティーブは、メモに自分の部屋番号を書くと、自分の注文した分の代金、チップと共にテーブルに叩き付ける。
「俺はお前と飲み比べしてる暇は無いんだよ」
そして、彼はダイナーを出て行った。
「グッドラック」
そんなスティーブの背に、レオンはそう声をかける。スティーブは無視した。


ダイナーの外に出ると、レベッカが待っていた。
何故だ?とっくにゼゼとレイラと共に調査に向かったと思っていたのだが。そうスティーブは訝しむ。
「スティーブ!!」
彼女の焦り様に、彼は何かが起きたのだと悟った。

「レイラが急に走って行っちゃったのよ!!」
「何っ…!?」
そう言いつつ、レベッカが自分の携帯を見つめる。
「急なことだったから咄嗟にゼゼさんが追いかけて、連れて戻ってくるって言ってたけど」
「だからお前はここで待ってたわけか」
スティーブの言葉にレベッカが頷く。
ビートルジュースがレイラを狙う理由は十分にあり、そして既にこの町に来てから色々と動いたため、ビートルジュースに自分達の存在がバレている可能性は高いとスティーブは踏んでいる。
故に、レイラの様子には逐一注意を払えとレベッカには言っておいたのだが。
それでも、咄嗟に二手に分かれたのは最善と言えるだろうとスティーブは思い直した。
「にしても、随分急だな。走り出す前、レイラの様子に変わった所は無かったのか」
「…変わった所…うーん…」
スティーブの言葉に、レベッカは懸命に思い出そうと考えこむ。
「確かに、何か放心してたような感じだったかも」
「放心?何でそんなに曖昧なんだ」
「それがね…」


「?どうしたの、レイラ?」
レベッカ、ゼゼ、レイラは、ダイナーを出てから三人並んで歩いていた。
が、レベッカは、レイラが急に立ち止まったのに少し経ってから気付く。
後ろにいるレイラを見て、レベッカはその様子がおかしいことに気づいた。
「は…」
「?」
周囲を見回して、何かを探している様子のレイラ。
それにつられてレベッカも周囲を見る。周囲は通行人がまばらにいるだけで、特に変わった様子は無い。そう彼女は思った。
そんな中、レイラが呟く。

「話し…かけられた…」

その瞬間、後ろを振り向いて、レイラは走り出していく。
「ちょ、どこ行くの!?レイラ!!」
レベッカが思っていた以上に、レイラの足は速かった。
見る間にどんどん先へ行き、そして民家の間にある路地裏へと入っていく。
走り出そうとするレベッカ。
それを手で制したのはゼゼだった。
「レベッカ、貴方はここでスティーブ・ハントを待って下さい。私が迎えに行きます」
「えっ、でも…」
「何かあった時のために、彼に事情を話してください。レイラは私が連れて戻ってきます。何かあった場合は貴方の携帯に連絡しますから」
そう言いながら、ゼゼは走り始めた。
既にレイラが姿を消した路地裏へ向けて。


「話しかけられた…!?」
「うん、あの言葉、今思うと…」
そう話すレベッカが、スティーブと同じ想像をしているのは明白だった。
「やっぱりこの町は何かあるな…!」


僅かだが、雪が降り始めた。
路地裏に降り行く雪は、表の喧騒から隔絶されているせいか、どこか幻想的な雰囲気を漂わせている。
そんな路地裏の一角で、レイラは立ち尽くしていた。
彼女から少し離れた場所に立っていた、一人の男に視線を向けたまま。

「そうか。君は、思い悩んでいるのか」

雪が降り続け、頭にも雪片が付いてくるが、それにも構わず、レイラはその男を見つめたまま、黙って頷く。

「自分に残された時間が少ないことにも気づいてる…でも、どうすればいいか分からないんだね」

再度頷いたレイラの眼には、涙が溜まっていた。

ゼゼが路地裏を走り、漸くレイラを視界に捉えたのは、その時だった。
「レイラ、勝手に走っては駄目ですよ」
ゼゼは、立ち尽くしているレイラにゆっくり近づく。
「あ、ご、ごめん…なさい…」
ゼゼに気づいたレイラが、おずおずとそう謝った。
そしてゼゼは、彼女から少し離れた場所に立っていた、その男に視線を向ける。
「…あなたは何者です?」
クリーム色のコートに身を包んだその人物は、毛の付いたフードで頭を覆っている。
その人物は翠色の瞳の上に眼鏡をかけ、20代前半くらいの、女性的にさえ見えるほど整った顔立ちをしていた。
「幸いですね、来てくれたのが貴方で」
その人物は、ゼゼの姿を見るなりそう言った。
そしてフードを取る。その人物は金色の長髪を後ろで纏めていた。
「私はクリストファー・セレナード。貴方方と、目的を同じくする者です」


最終更新:2018年08月05日 22:10