夜。
雪の降る北山の屋敷。
その廊下に、黒いスーツに金色の長髪を後ろへ撫でつけた、ノアと同じ顔を持つ男――バアルはいた。
彼はとあるドアの前にいて、そのドアノブに手をかけている。
その前に、片手の指を弾いた。
そして、ノブを回してドアを開ける。
ドアの先に部屋は無く、プリズナの町の裏路地が広がっていた。
降っている雪が空中で静止している。
それを横目に、バアルは雪の降り積もる裏路地を歩いた。
その先には、教会に面した大通りが広がっている。
路上に、複数の人影。
倒れている少女。それに駆け寄ろうとする少年。
立ち尽くす金髪の青年。
壁際に、白髪にボロボロのコートを着た、気絶した様子の男。
それらを見回して、バアルは歩き出す。
倒れている少女の近くに転がるモノに向けて。
それは、上半身と下半身が真っ二つとなった、一人の女性――ゼゼだった。
ゆっくりとした動作で、彼女の身体を抱え上げるバアル。
その動作を終える前に、声が響いた。
「貴方は」
声のした方向へ、バアルは振り向く。
「何者だ?」
声を出したのは、立ち尽くしていた金髪の青年――クリストファー・セレナードだった。
「止まった時の中を、君は認識できるのだね」
言いながら、ゼゼの身体を両の手に抱えたバアルは、クリスの方へと向き直る。
「北山の途中に屋敷がある。そこが私の住処だ。用があるなら、そこへ来るといい」
そう言うと、バアルは自分が出てきた裏路地へと歩き出す。
その姿をクリスは目で追うが、動こうとはしなかった。
そして、バアルは裏路地へと消えた。
止まった時が動き出し、少年――ジャック・アースガルドが、倒れている少女――ミラ・クラウスへと駆け寄る。
クリスは、バアルが消えた裏路地を、ずっと睨みつけていた。
「何で、その女を連れてきたんだ?」
「何故か?決まっている」
「私が何者であるかを、知るためだよ」
最終更新:2018年10月02日 22:31