「答え合わせをしたい」
火のある書斎で、黒いスーツに金色の長髪を後ろへ撫でつけた、ノアと同じ顔を持つ男――バアルはそう言った。
燭台を挟んで、幾何学模様のタトゥー――ゴーストが笑みを浮かべる。
「大歓迎だ」
椅子に座り、腕を組んだバアルは、火を見据えたまま口を開く。
「ミラ・クラウスは、激情に身を任せてミラージュ君に襲い掛かりはしなかった」
「そうだな」
目を瞑り、バアルは先を続ける。
「彼女の記憶を弄ったのは、彼に憎しみを向けさせるためだった。だがそれは失敗した」
「ああ。我ながら、杜撰な脚本だったな。アドリブが必要だった」
しばし沈黙した後、バアルは続ける。
「それでも、彼女が改造を受けた事実は変わらない。彼女は自分がもう、普通の人間ではないことを自覚していた。だから…」
「君は、自殺してみせた」
ゴーストが、笑みを浮かべて頷く。
「いいぞ。その調子だ」
バアルは目を開け、そして言った。
「君が死に、もう取り返しがつかないと分かって、彼女は絶望した」
一泊を置き、そして続ける。
「その絶望が、君が待ってたトリガーだったんだな」
「そうだ。絶望が、あの力を開花させるのに必要だった」
そう応じるゴースト。バアルは彼に視線を向け、言った。
「随分と、面倒な手順が必要なのだね」
「ああ。大本のジーザスもそうだった。あの力は、どうも感情がキーの様だ」
頷いて、バアルは先を続ける。
「『神々の意図』が機能し始めたのは、そこからか」
「そうだ。力が発現したなら最後、そこからは意思を乗っ取ればいい。そう思って糸を仕込んだ」
そう言ってから、ゴーストは肩を竦める。
「ま、すぐに役に立たなくなったがね」
「ゼゼは、『神々の意図』の存在について知っていた。それが彼女にとっての仇敵だった。それを君は知っていたのに、ミラ・クラウスに対して使ったのは、軽率だったのかもね」
バアルの言葉に、しかしゴーストは答えない。
仕方なさそうに、バアルは先を続ける。
「あの場にゼゼが現れる可能性が低かったとはいえ、現に現れ、そして彼女はミラ・クラウスから糸を抜き取って見せた。そうなった以上、最早あの娘は我々の手には…」
そこまで言って、バアルは目を見開いた。
「あぁ、そのための『リヴァイアサン』か」
「ビンゴ」
ゴーストが、笑みを深くしてそう告げる。
バアルは、考え込むように再度目を瞑り、やがて言う。
「ミラ・クラウスに施した力…感情によるトリガーが必要だったとはいえ、よくあそこまで再現できたものだ」
「そりゃ、古き神々はロックマン・ジーザスの生体情報を保有していたからな」
その答えに、バアルは目を開け、そしてゴーストを見つめた。
「それだけじゃあるまい」
ゴーストは笑みを浮かべ、そして先を促す。
しばしの沈黙の後、バアルは言った。
「死体を利用したな」
堪え切れなくなった様に、ゴーストが笑い出す。
「ああそうさ、満点だよバアル」
対照的に、全く無表情のバアルは、笑い声が響く中で話を続けた。
「ロックマン・ジーザスの死体は、マザーの配下に回収された。だが…」
「ああ、その通り」
一頻り笑い終えると、ゴーストは言う。
「デコイの手が入っている以上、『俺』なら、問題なく介入できる」
バアルは頷いた。
そして、何か考え込むように沈黙する。
「…何考えてる?」
「いや…何でもない」
もし、ミラ・クラウスの力を発動させる感情が、真逆のものだったら――そんな無駄な思考を、バアルは打ち切った。
「さて、そろそろ時間だ」
「生きていたら、また会おう。ゴースト」
「勿論だ。客席はいつでも空いてるぜ」
その瞬間、炎が揺らめき、ゴーストの姿は消えていた。
その代わり、その瞬間に書斎のドアが開く。
入ってきたのは、ゼゼだった。
彼女が自身の姿を見つけたのを感じ、バアルは椅子から腰を上げる。
「やぁ、待ってたよ、ゼゼ」
「あな…たは…」
「あなたは…誰ですか…?」
困惑と哀しみがない交ぜになった表情で、ゼゼはそう、言葉を紡いだ。
その言葉に、バアルが硬直する。
やがて、彼は言った。
「見て分からないかね?」
彼の言葉に、ゼゼは未だに表情を変えぬまま、沈黙する。
「私だよ。何故そんな顔でいる?」
バアルの言葉は、ゼゼの表情に哀しみの色を濃くするだけだった。
「…全く、ミラージュ君は予想通りの反応だったのにね」
溜息をつき、バアルはやがて、そう言った。
「君の思う通りだ。私はこの顔の男――ノアではない」
彼がそう言うと、漸くゼゼは口を開いた。
「あの時…ヘブンズゲートの中で、私はあの方が死んだのだと悟りました」
今度は、バアルの方が黙ってゼゼの話を聞く番だった。
彼女は続けて言葉を紡ぐ。
「イデアという方が、ノア様の言葉で、私に別れを告げて下さった。だから私は、今でもこうして先に進めています」
「…そうか。だから君は…ここに来たわけだな」
無表情のまま、しかし納得したような調子でバアルはそう言った。
やがて、彼は椅子から立ち上がると、傍らの本棚へと向かう。
そして指先で数々の本の背表紙をなぞっていくと、やがて一冊の本を棚から取り出した。
次に、本棚のうち本の収められていない箇所へ行くと、そこにあった小さな立方体の箱を手に取る。
それは掌大の大きさで、茶色の箱だった。
それを確認した後、バアルは漸く視線を再度ゼゼの方へと向けた。
「少し歩こう。ついてくるといい」
「あの、ここは一体…?」
「道すがら説明しよう」
そう言うと、バアルはゼゼの横を通り、書斎を出て行った。
おずおずと、ゼゼもその後ろを歩いていく。
廊下を歩く二人の足音だけが聞こえる。
それくらい、屋敷の中は静まり返っていた。
その中を、バアルの声が響く。
「知りたいことは色々あるだろう。ここはどこか。私が何者か」
警戒の色を滲ませた表情で、ゼゼはバアルの後について歩く。
バアルは話を続けた。
「ここは私の住居だ。私が君をここに連れてきた」
それを聞き、ゼゼはここで意識を取り戻す前の記憶を、懸命に思い出そうとした。
僅かに時間がかかったが、やがて記憶が蘇ってくる。
「あ、あの…」
「何だね」
おずおずと、ゼゼは言葉を紡いだ。
「ここで目覚める前、私は…身体を斬られたような記憶があるんです」
「あぁ、そのことか」
バアルの返答に、ゼゼは彼の顔を見る。
「貴方が直してくださったのですか?」
「ああ。君と話して、知りたいことがあったからね」
「知りたい事…?」
バアルはゼゼの疑問に答えず、とあるドアの前で足を止めた。
そして、彼はそのドアを開く。
「っ!?」
そこには、様々な部品が並べられていた。
どうやら何らかの武器を分解した部品らしい。そういう分野には詳しくないゼゼにも、それらを見てそう判断できるだけの量だった。
そして、それらの部品の中央に、一人の人物が座っていた。
紫色のアーマーに身を包み、少し痩せた色白の、金色の短髪の男。左目に眼帯を巻いている。
それが以前資料で見た顔だと、ゼゼはすぐに気が付いた。
「ジャンゴ・ザネッティ…!!」
手近な部品の手入れをしていたジャンゴ・ザネッティ――ファフニールは、ゼゼの方へと視線を向け、睨みつける。
「何の用だ、バアル」
バアルは、書斎から持ってきた小さな立方体の箱を、ファフニールへと投げ渡す。
片手でキャッチし、それを見つめた後、再度バアルへと視線を向けるファフニール。
「義眼だよ。射撃が主体の君が、いつまでも片目だと不便だろうと思ってね」
「…ふん」
ファフニールは気に食わなそうな表情だが、緩慢な動作でその箱を開け、中身を取り出して見せる。
「…!」
ゼゼの視界にも入ったそれは、確かに人間の眼球に見えた。
ファフニールは眼帯を外し、左の眼窩にそれを嵌め込む。
最初は焦点が合っていないように見えたが、やがてその眼球の瞳が動き、右目と同じようにバアルを焦点に当てた。
「これでいいか」
「ああ。見えるかね」
ファフニールはゆっくりと頷く。その様子を見届けると、バアルは言った。
「自動的に神経に接続する。もう視覚に不自由はしないだろう」
近くの部品の手入れに戻りながら、ファフニールは無言で頷く。
バアルは踵を返して部屋を出ようとしたが、出る前に彼は足を止めた。
「それと、荷物を纏めておきたまえ」
手入れの手を止めないファフニール。そんな彼を尻目に、バアルは部屋を後にし、ゼゼはその後についていく。
再び、バアルとゼゼは廊下を歩いて行った。
「ジャンゴ…今の男も、ここに住んでいるのですか…!?」
ゼゼの言葉に、バアルはあっさりと頷く。
「そうだよ。食事も装備の調整も、彼はここでやってる」
「あの男は…!!」
「ミラージュ君を襲撃した」
ゼゼの言葉を引き取り、バアルはそう言った。
「知っている。全て見ていた」
しばらく、彼は歩いていたが、ゼゼが付いてこないのに気付いて足を止める。
ゼゼは、ショックを受けたように立ち尽くしていた。
「何故です…?」
「言ったろ。私はノアではないと」
「それは分かっています…!!」
バアルの言葉に、ゼゼは首を振る。
「そうでは、なくて…。何故…あの方のように呼んだのですか、ロックマン・ミラージュを…」
そう問うゼゼの言葉は、震えていた。
バアルはゆっくりと瞬きをすると、やがて言う。
「それについては後で答えよう。今は付いてきたまえ」
そう言うと、彼は踵を返して歩き始めた。
ゼゼはしばらく躊躇していたが、やがて足早に歩きだす。バアルの後へ。
今度は、上の階へ向かって階段を昇っていくバアル。
ゼゼは、ただそれについていく事しかできなかった。
やがて、階段の一番上まで来ると、そのドアを開け、その先へと入っていく。
そこは屋上だった。
端に手摺りが付いているが、そこも床も全て雪に覆われている。
その屋上の中央に、一人の女性が立っていた。
蝶の髪飾りをつけ、金色の長髪を結い上げた、黒いドレスの女性。
その女性は目を瞑り、両手を左右に広げている。
その全身から、光の粒子が空へと舞い上がっていくのが見えた。
身体の表面、肌から出ているらしく、そのドレスの隙間から粒子が出てくるのが見える。
一体何が起きているのかが分からず、ゼゼは困惑した。
「その方は…一体、何をしているんです…?」
女性に聞こえないよう、小声で言った筈だった。
しかし、その声は女性に届いていたらしい。
瞬時に自分へ向けられた視線が、凄まじい殺気を帯びていることにゼゼは気づいた。
「何故、その女がここにいるの」
低く、押し殺したような声で、女性はバアルに問う。
視線はバアルに向けられはしたが、殺気はまだ自分に向いていることにゼゼは戦慄した。
何故、自分がこんな殺意を向けられるのか。心当たりが無く、彼女は戸惑う。
しかし、それでも分かったことがある。その女性の整った顔は、以前資料で見覚えのある顔――ベルカナ・フォン・ロワイアルであると。
だが、何故彼女が自分に殺意を向けるのか。理由が分からず、益々ゼゼは混乱した。
「ハーピー。私の客だ。手出しは無用だよ」
そんな彼女の殺気を前にしても無表情のまま、そうバアルは答える。
それでも女性――ハーピーはその殺意を隠さず、バアルに詰め寄った。
「なら、私の視界から消えて」
「『掌握』は完了かね」
ハーピーの言葉も意に介さず、彼は問う。
彼女は不快そうな態度を崩さぬまま、答えた。
「ええ、これで完了。まさかそれを聞くためだけにここに来たの?」
バアルは首を振った。
「君はファフニールと移動しろ。もうすぐ、客人が来る」
その言葉に、ハーピーは目を細めた。
「その女だけでなく?」
「ああ。言っておくが、君が望む相手でもない」
「なら、誰?」
「それを確かめるのだよ」
溜息を吐き、ハーピーはバアルとゼゼの横を通り過ぎる。
「いいわ。その代わり――」
その瞬間、頭上から凄まじい閃光と轟音が炸裂した。
溜まらず、ゼゼが目を伏せる。
気が付くと、三人の周囲何カ所かに、黒い焦げ跡が付き、煙が立ち上っていた。
「手出しは無用と、言った筈だが」
「ただの…稼働確認よ」
そう言い残し、ハーピーは屋上から出て行こうとした。
「ハーピー」
バアルの呼び止める声に、彼女は足を止める。
「何」
「君のアーマーを、ゴーストに渡してある」
バアルの言葉を聞くと、ハーピーは無言で出て行った。
「今…何が…」
空から聞こえる雷鳴。
それ以上の言葉を紡ぐ前に、ゼゼはその音で何が起こったのかを理解した。
落ちたのだ。今しがたここに、雷が。
だが、もしそれが本当なら、今しがた交わされたバアルとハーピーの会話から、意識的にそれを引き起こしたということになる。
「彼女は…一体…」
彼女の力も、そして自分に向けられる憎悪も理解できず、ゼゼは途方に暮れていた。
「一つ教えよう」
そんなゼゼの様子を眺めていたバアルが口を開く。
ゼゼは戸惑いを隠せぬまま、視線をバアルへと向けた。
「彼女は憎んでいる。自らの育ての親――プロキオンと呼ばれた古き神々の一人を殺した、あの戦いの生存者全員を」
「あの戦いの…」
バアルはゼゼの言葉に頷いた。
「プロキオンの事は聞いているかね」
「ええ…古き神々の一人で、あの戦いの最中に精神に異常をきたし、入院したけれど突然死したと…」
「プロキオンを殺したのが彼女だよ」
バアルの言葉に、ゼゼは驚愕する。彼は話を続けた。
「プロキオンは、ノアによってナノマシンを投与されていた。『自分が死にたくないと思った瞬間に死ぬ』…そう言われたらしい。それで、プロキオンは死に怯えて精神を患った」
「ノア様が…そんなことを…」
バアルは頷く。
「だから、彼女は手を下した。自分を育ててくれた、親と言っていい人物を」
「つまり…彼女は…」
ゼゼが言葉を紡ぐ前に、バアルは空を見ながら言葉を紡いでいた。
「私が彼女と初めて会った時は大変だったよ。ノアと同じ顔をしているものだから、彼女が幾度も本気で殺しに来た」
「彼女は…ノア様の事も、あの戦いに関わった者の事も、全て知っているのですか」
あっさりとバアルは頷く。
「そうだ。ゴーストが教えたのだろう。だから彼女は、君もロックマン・ミラージュの事も許さない。次に会った時、君の事も本気で殺しに来るだろう」
ゼゼは、息を呑んだ。
「一体…ゴースト、いえビートルジュースとは何者なんです?」
ゼゼの言葉に、バアルはただ首を振り、言った。
「一つ確かなのは、ゴーストは全て知っていたということだ。あの戦いの事を全て。ノアも、タナトスも死んでいることさえ把握していた」
その言葉に、ゼゼが思考を巡らせる。ゴースト――ビートルジュースは一体何者なのか。古き神々の一人であったなら、何故以前の戦いに介入してこなかったのか。
そんなゼゼを横目に、バアルは歩き出した。屋上から、館の内部へ。それに気づき、ゼゼは再度彼についていく。
「そろそろ…教えて頂けますか?」
階段を降り、廊下を歩き始めた所で、ゼゼは眼前にいるバアルへと言葉をかける。
バアルはゼゼに背を向けたまま、足を止めた。
「あなたは、あの方とそっくりの顔をしています。でも、あなたがノア様だとはどうしても思えないんです」
呟くように紡がれたゼゼの言葉。
バアルは未だ、彼女に背を向けている。
「ですが、ノア様のように私やロックマン・ミラージュの事を呼び、そしてノア様のやったことを知っている」
これを問うことで、自分はどうなるのか。
どうなってもいい覚悟で、ゼゼは言葉を紡いだ。
「それでいて…あなたは、私達と敵対している方々に協力している」
「あなたは…一体何者なのですか…?」
バアルは振り向き、微笑んだ。
「私も、その答えを探している」
その答えの意味を理解しかねたゼゼ。
しかし彼女が何か言う前に、バアルの方が言葉を紡いだ。
「私も聞きたかったことがある」
先程の言葉の意味を理解できぬままのゼゼに、バアルは言った。
「君は、何のために生きてる?」
「え?」
その質問に、ゼゼは目を見開いた。
「…私、は…」
言い淀むゼゼに対して、バアルが続ける。
「君は、主を失った時に全て捨てて静かに暮らすこともできた。けれど、君はそれをせず、今もマザーに従うという形で古き神々と戦い続けている。それは何故だ」
ゼゼは、その答えにしばし沈黙し、やがて。
「確かに、それも考えました。けれど…思ったんです。きっと世界には、まだ私とノア様のように、他の古き神々と戦っている人達がいる筈だと」
「ヘブンに仕える者として生まれ、そしてノア様のお陰で自由になれた…だからこそ、私は自分の意思でそんな人達を助けたいと、そう思ったんです」
バアルの眼を真っ直ぐ見据え、ゼゼはそう言った。
彼は目を閉じ、ただ微笑む。
「…ところで」
そう言って目を開いた時、彼の顔には元の無表情が戻っていた。
「君もググもリーバードであるのに、人のように感情が豊かだった。ガガとジジもある程度その素養はあったようだが、君達二人ほどではない」
そう言うと、バアルは急にゼゼに近づく。
その動作に、言い知れぬ不安を感じるゼゼ。
「或いはそれが、君たち二人のバグだったのかもしれない。その感情は…喜怒哀楽は、どこから出るモノなのか」
「君の頭蓋を開けば、それが判るだろうか」
ゾクリと、背筋に悪寒を感じるゼゼ。
バアルは、眼を細めた。
目を瞑り。
今しがた彼女と行った、そんなやりとりを思い返す。
そうしてバアルは、目を開いた。
視線の先に、屋敷の入り口に立つ、フードの付いたコートを纏った若い男――クリストファー・セレナードが見える。
「私を討ちに来たと、そう聞こえたが」
クリスは無言のまま頷くと、真っ直ぐバアルを見据えた。
バアルはそんなクリスを眺め、微笑む。
「君にそんな真似ができるとは、とても思えないが」
クリスは僅かに目を細めると、言葉を紡ぐ。
「できるかできないかじゃない。やるかやらないかだ」
そうして彼は目を瞑り、眼鏡を外す。
「元を正せば私も、ジーザスと同じ――」
言いながら彼は、眼を開いた。
「貴方のような『イレギュラー』を排除するため、この世に生まれ落ちたのだから」
その瞳は、金色に輝いていた。
バアルは僅かに目を見開くと、やがて言う。
「そうか。君は、そういう存在か」
目を瞑り、そしてバアルもまた、声高く宣言した。
「ならば…受けて立とう」
そして彼は、傍らに持っていた本を、片手に乗せて広げる。
「『白夜』…起動」
その瞬間、山の中腹にあったその屋敷は、跡形も無く消え去った。
最終更新:2018年11月03日 23:24