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プリズナの町にある病院。
ベッドに寝ていた少女は、その時目を覚ました。
肩上までの金髪に翠色の瞳をした、色の白い少女――ミラ・クラウスは、ゆっくりとベッドから身を起こす。

そこで手元から金属音が鳴り、彼女は自分が手錠でベッドに繋がれていることを知った。

時刻は早朝。その病室には彼女以外誰もいない。
既に日は出ているようで、窓辺から光が差し込んでいる。
彼女はゆっくりと目を瞑った。
脳裏に、昨夜の出来事が浮かぶ。
苦痛。後悔。絶望。
そんな感情が、脳裏を過ぎる。
何より、ジャック・アースガルドに見られてしまった。
それが、彼女に決断させた。

当直の職員達がいる部屋に、警報が鳴る。

その頃には当に、ミラ・クラウスは病室から姿を消していた。

手錠を切断して。


北の山にあった屋敷は消え去った。
後に残ったのは、初めからそこにあった――雪崩によって瓦礫と化した、建物の残骸のみ。
その残骸――朽ちた鉄骨の上を、バアルは姿勢を変えずに立っている。

そしてその周囲に、無数の紙が舞っていた。

彼の視線の先にいるクリス・セレナードもまた、微動だにせずそこにいる。
但し、もうそこは屋敷の入り口などではなく、雪に覆われた路上となっていた。
「これは…」
「つまらぬ兵器だよ。スクリーンのように、色の変わる紙で壁を、廊下を、建物を作っていた」
言いながら、バアルは左手に持った本を開け、掲げる。
すると、周囲の紙は全て、その本に吸い込まれるように殺到していく。
「つまり…全て偽りだ」
彼が本を閉じると、紙は一枚残さず消えていた。
「さて、君の名前を聞いておこう」
その様子を見据えながら、クリスは己の名を宣言する。

「ロックマン・ジェネシス」

目を細め、その名を頭に刻むと、バアルは言った。
「ここで戦えば、プリズナに影響が出るだろう。場所を移させてもらうぞ」
「それについては、貴方の手を煩わせる必要は無い」
そう言うと、今度はクリスが、左手を掲げる。

輪廻穿断(ローリングカッター)

「!!」
そしてその瞬間、二人はその場所から消えた。


「…」
見上げる。
空にはただただ暗い闇が広がっている。
光源は、足元の青く輝く幾何学模様のラインのみ。
それが、ここがどこであるのかを、如実に物語っていた。
「ヘブンズ・ゲート…地上とヘブンとを繋ぐ亜空間」

「そうだ」

バアルが振り向くと、そこに純白のアーマーを纏ったクリス・セレナード――ロックマン・ジェネシスが立っていた。
身体のラインに沿った鋭角的なデザインのアーマー。白い表面に、青いラインが走っている。そのデザインは、かつてロックマン・ジーザスが纏っていたものと瓜二つだった。
ただ一点を除いて。
「…翼が無いな」
バアルの指摘に、ジェネシスは答えない。
ただ、片腕をバスターへと変形させると、彼はそれをバアルへと向けた。
その動作をさして気にもかけず、バアルは周囲を見回しながら言葉を紡ぐ。
「ここは、特殊な鍵が無いと転移も出来ぬ筈だ。その鍵の複製に、ロゴスは三千年を費やした」
「その複製の更に複製が存在した。それだけの話だ」
「…あぁ、そういうことか」

瞬間、ジェネシスのバスターから放たれた光が、バアルへと向かう。

しかしその瞬間、彼の身体は無数の紙へと変化していた。

「!!」
何もない空間から、ハードカバーの本のページくらいの大きさの紙が溢れ出し、やがて周囲を覆い尽くしていく。
そして、無数の紙の中からバアルが再度姿を現した。
「手品は好きかね」
無数の紙が彼の手に集まり、そして再度飛散する。
再び見えた彼の手には、柄も刀身も黒いナイフが握られていた。
「さて、始めよう」
そう呟くバアルに対し、既にジェネシスは動いていた。
即座に距離を詰め、片腕から起動させたビームサーベルを薙ぎ払う。

だがそのサーベルの光刃を、無数の紙が防いでいた。

「!?」
「ただの紙ではないことくらい、分かるだろう」
言いつつ、目の前のジェネシスに向けてナイフを振り抜くバアル。
だがジェネシスも即座に反応し、切っ先が届く寸前に地面を蹴ってナイフの間合いから逃れる。
「無駄だ」

その瞬間、ナイフが通過した空間から、無数のワームホールが開いていく。

そしてワームホールの中から無数のレーザーが射出され、次々とジェネシスへ殺到した。

「なるほど」
呟き、上空に離脱するジェネシス。
しかしレーザーの一群はその軌道を変え、ジェネシスの方を追尾してくる。
追いつかれながらも、自分に襲い来る無数のレーザーを紙一重で避けていくジェネシス。
そうしながら自身の指先からも5本のレーザーを射出して、相殺していく。
再度地面に降り立った時、彼の頬に焦げ跡こそ付いていたが、それ以外は無傷だった。

地面に降り立ち、即座に立ち上がるジェネシス。そして彼の方も攻勢を開始する。
左手を広げて頭上に掲げると、彼は言った。

太陽面の紅炎(ファイヤーストーム)

「!!」
目を見開くバアル。
同時に、彼は周囲にエネルギーフィールドを張り、炎を遮断すると共に転移する。
移動した先は、数キロ離れた上空だった。

瞬間、炎の渦がジェネシスを中心として巻き起こり、周囲の全てを包んでいく。

その炎は数万度を優に超え、その渦は転移した先のバアルをも飲み込まんばかりの規模で膨れ上がっていった。

漸く炎が収まった時、周囲には燃え落ちる紙と灰が降る光景となっていた。

「ビームコーティングされてるなら、別の方法で打開すればいい」
周囲を見回してそう呟きつつ、ジェネシスは改めてバアルを睨んだ。

ジェネシスの前まで再度ワープするバアル。
「…エネルギーフィールドを張っていなければ、私も今頃『白夜』と共に灰になっていた所だろう」
言いつつ彼もまたジェネシスを見据え、呟く。
「今の炎も、ここへ転送させた兵装も…本来は失われたものの筈だ」
彼の言葉に、ジェネシスは答えた。
「ああ。本来はジーザスが持っていた兵装だ。3千年前の戦いで、テスタメントが破壊した」
「その破壊された筈の兵装を、君は所持している訳か」
言いつつ、バアルは再度ジェネシスへとナイフを向ける。
「君が何者で、何故私を討ちに来たのか。理由をとやかく聞くつもりは無い。だが…そんな力を持ちながら、以前の戦いに君は姿を現さなかった。その理由がある筈だ」
彼の言葉に、ジェネシスはただ目を細める。

そして、両者は同時に、地面を蹴った。


再度ビームサーベルを起動し、バアルへと斬りかかるジェネシス。
だが、その時彼は気づいた。
目の前にいるバアルの姿が少し発光し、その像が若干ぼやけていることを。
「ホログラム!!」

「こっちだ」

目の前にいるバアルとは別に、背後から彼の声が響く。
即座に振り返り、眼前に迫りくる光を、ジェネシスはサーベルで受け止めた。
「っ!?それは…!!」

そこにいたのは、黒いアーマーを纏ったバアルの姿だった。

漆黒で、禍々しい造形のアーマー。身体の各部にリーバードの瞳があり、肩からの黒いマントが背中を覆っている。
頭に被ったメットのバイザーを上げて目元を露出させると、バアルは言った。
「君の相手をするなら、これくらいは持ち出す必要があろう」
そう言うとバイザーを下ろして目元を覆い、ジェネシスへと斬りかかっていたサーベルを弾いて後ろへと飛び退るバアル。
右手には高出力のビームサーベルを、左腕にエネルギーシールドを装備したその姿は、禍々しい騎士のようだった。

その姿を見据え、ジェネシスは言う。
「本番はここからか!!」
「あぁ…その通りだよ!!」
瞬間、サーベルの出力を上げて辺り一帯を薙ぎ払うバアル。
ジェネシスはその動きを見切って跳び、バスターを向ける。
しかしバアルもそれを予測していたのか、左手をバスターへと変えると、即座にジェネシスへ向けて発射した。
数発の黒い弾丸。それを見て何かを感じ、バスターを構えるのを止めて離脱するジェネシス。
「無駄だよ!!」

一条の光のように空中を舞うジェネシスを、合計三発の黒い弾丸が追尾する。
それを一瞥すると、空中で急停止して待ち受けるジェネシス。
飛来した弾丸が、ジェネシスの間近まで来て炸裂する。

瞬間、巨大なブラックホールが発生し、辺り一帯を飲み込んだ。

それが発射された弾頭の数だけ、空間に球状の黒い穴を穿っていく。
追尾性能も影響の規模も凄まじいその兵器を、しかしジェネシスは全て避け切った。
「っ!!」
休む暇など与えないとばかりに、続けて無数のレーザーが彼の眼前にワームホールを通して展開されていく。
それらを再度紙一重で避けていくジェネシス。
しかし、360度全ての角度から絶え間無く雨のように降り注ぐレーザーに、次第に動きが鈍っていく。
そして、頭上のレーザーを掻い潜って彼が地面へと降り立った瞬間。
「捕らえたぞ!!」
彼の背後からアーマー姿のバアルが、ビームサーベルを薙ぎ払った。

しかし。

次の瞬間、バアルのアーマーごと、周囲が凍り付いていた。
「…何!?」

嘆きの河(アイススラッシャー)

ゆっくりと振り返るジェネシス。
「僕が隙を見せれば、必ず貴方自身も攻撃に移るだろう。そう思った」
「ぐ…くっ…!!」
動こうと足掻く黒いアーマー。
だが、凍結はジェネシスの周囲を除き、瞬時に大規模な空間へと影響範囲を拡大していく。
そして遂にはバアルを飲み込んだ、巨大な氷塊が出現していた。
氷塊の中で、動きの止まったバアルを見据えたままバスターを向けるジェネシス。
「安心しろ。貴方ごと今、砕いて…」

その時、気づいた。アーマーのバイザーの奥に、光が無いことに。

瞬間、無数の斬撃が空から飛来し、その場の全てを切り裂いた。


ワームホールを糸のように細く展開し、それを幾重にも角度を変えて束ねた斬撃。
その性質上、物理的な防御手段は一切通用しない。
数キロ四方の規模にまで展開し、そして目標への到達の瞬間、離脱もされていないことを確認した。
それでも、遥か上空にいたバアルは油断なく眼下の光景を見つめている。
今しがた切り刻んだのと同じアーマーを纏ったまま。

氷塊と、それに覆われていたアーマーが諸共にコマ切れとなり、ガラスが割れるような音と共に崩壊していく。
しかし、その中心にいたジェネシスは、その場に立ったままだった。
「…ほう…」

見れば、ジェネシスに食らわせた斬撃の軌跡が、その身体に緑色の光となって残っている。
そして、その線は全てジェネシスの左手に移動し、消滅した。

万物への干渉(スーパーアーム)

左手に残った僅かな緑色の光を見ながら、言葉を紡ぐジェネシス。
「空間の断裂を利用するなら、それを修復すればいい」
そしてその手を握ると、彼は上空にいるバアルを見上げた。
「無駄だ。そんな手段で僕は殺せない」
「残念だ。内部の有機物まで再現した特製のダミーだったのだが」
自嘲気味にそう語るバアル。
そして彼はしばし考えを巡らせた末、地面へと降りる。

バアルは目を細め、視線の先にいるジェネシスを見据えると、言った。
「このままでは千日手だ。だが私も、早く観客席に戻る必要があるのでね」
そう言うと、両足を肩幅と同じ広さに広げるバアル。

瞬間、彼の両の踵の裏側に装着されていたアンカーが下り、地面に両足を固定する。

そして、彼のアーマーの背中に纏っていたマントが光り輝いた。
「そろそろ、幕引きと行こう」
そう言うとバアルはジェネシスへ向けて、アーマーのバスターを両手で構える。
その光景を見ていたジェネシスも、やがて言った。
「望む所だ」

そして彼は、重力を操作して上空へと浮上し、そして片腕を掲げた。

そこに、光輪が現れる。

かつてロックマン・ジーザスが地上でその力を奮った時と同じように、彼は頭上に掲げた腕を、相手へと向ける。光輪もまた同じように、追従した。

「チャージショット…やはり、それも使えるのだな」
その光景を見上げ、バスターの照準を合わせるバアル。
彼の構えたバスターの砲身からも、エネルギーの奔流が渦巻くのが見える。
エネルギーは時間と共に更に光を増幅していき、今か今かと解放を待っていた。
バアルとジェネシス。二人の元を、眩い光が覆い尽くす。
「舞台を去るは、どちらか一人だ!!」

「さぁ…」

「貴方を…」

二人の言葉が合図となり、互いに増幅されたエネルギーが、解放される。

「来い!!」

「討つ!!」

そして、二つのバスターによる光の奔流が、激突した。


「はぁ…はぁ…」
肩で息をするバアル。
衝撃によりそのアーマーには所々に傷がつき、固定した筈の両足も衝撃で数メートル後退し、それに沿って地面が傷ついている。
だがそんな状態でも、彼はまだ生きていた。
「やはり…思った通りだ」
余波で周囲の地面が破壊され、バアルの周囲のみが最初と同様に、地面の青いラインが光っている。
彼は、視線の先にいるロックマン・ジェネシスを見た。

ジェネシスはその場に這い蹲り、吐血していた。

「以前の戦いに出てこなかったのは、それが理由か」
バアルの指摘にも、依然として顔を上げない。
それでもそのまま、彼は話し続けた。
「太陽が無いこの場所へ転送したのと、アーマーに翼が無かったことから、君はジーザスのようなエネルギー補給機能を持っていないと分かった」
ジェネシスの様子を見ながら、更にバアルは言葉を紡ぐ。
「君を創り出したのは…マザー・ディエスだろう?」

ジェネシスは目を見開き、顔を上げた。
「何故…」
「先程の、ヘブンズゲートの『鍵』の話だよ。鍵の複製の複製なんてものを作れるのは、プロキオンに近しくて、更に彼に対して翻意のあった者だけだ。そうなると可能性があるのは彼女かジーザスのみ。だがジーザスにはそんなものを作る知識など無い筈だし、必要なら力ずくで奪った筈だ。そうなると、そんな手間をかけるのは彼女だけだろう」
言いつつ、跪くジェネシスに向け、バスターを向けるバアル。
「そろそろ教えてくれるかね。一度きりしか切れない札を、何故彼女は自分が狙われた際に使わなかったのか」
バアルの問いに、ジェネシスは目を瞑る。
やがて彼が目を開けた時、その顔には、哀しみの入り混じった微笑みが浮かんでいた。
「そんなの、僕が知りたい」
そう言うと一泊の間を置き、彼は言う。
「僕は元々3千年前、ジーザスのデータを基に、失われた兵器の再現と共に造られた。役割は、テスタメントの後詰めだ」
彼の言葉に、バアルは頷く。
「後詰め。テスタメントが敗れた時のため、彼の役割を引き継いでジーザスを討つためのか。だが、ジーザスは手負いのまま長年姿を消し、この時代になって漸くテスタメントはジーザスを討った。君の役割は無くなったわけだ」
目を細め、ジェネシスは言う。
「目覚めた時、読み取った記録から、もう全て終わっていたことを知った。ディエス様も、テスタメントも死に、そしてジーザスは彼に討ち果たされたと」
「その記録は誰が?」
「テスタメントさ。最期の戦いに行く前に、僕の保存されている部屋に、記録を遺していた」
「だがジーザスが死んだことも君は知っている」
バアルの指摘に、ジェネシスは頷いた。
「それ以降の戦いがどう推移していったかは、自分で調査した。だから僕は、全て知ってるわけじゃない。推測も多分に交じってる」
聞きながら、バアルは目を細める。そして、考えを巡らせながら彼は言った。
「ここへは、何を考えて来たね」
「何を考えて?決まってるさ…ビートルジュースの映像を見たからだよ」
その言葉に、バアルは頷く。
「君の力なら、警察が厳重に保管している映像を見ることなど容易かったというわけか。だが…何故だ。ビートルジュースが指定したのはロックマン・ミラージュだった。君には、この戦いに介入する理由など無かった筈」
バアルの問いに、彼は顔を上げ、その顔を睨んだ。

「誓ったからだ。生き残った者として…この力を持つ者の責務として、今度は僕が守ると…!!」

そう語るジェネシスの眼に、再度殺気が籠る。それをバアルは、眼を細めて見据えた。
「なるほど。それで君はここへ辿り着いた。だが結局の所、私に一歩及ばなかった。それが現実だ」
「いいや。そうでもないさ」
そう答え、ジェネシスは手の甲で口元を拭いつつ、立ち上がる。
「僕にも…分かったことがある」
そう言うと、ジェネシスはバアルを見据えた。

「この勝負、貴方の負けだ」

「!?」
言いながら、右腕をバスターに変え、頭上に掲げる。
その様子に、バアルは目を見開いた。
「まだ、手があるというのか…!!」
バスターの周囲に、先程と同じ光輪が出現する。
そうしながら、ジェネシスは言葉を紡いだ。

「特殊兵装、同時展開」

その光輪の外周に、6つの異なる色を持った光が発生する。

輪廻穿断(ローリングカッター)

万物への干渉(スーパーアーム)

原子核破壊弾(ハイパーボム)

太陽面の紅炎(ファイヤーストーム)

嘆きの河(アイススラッシャー)

神の雷霆(サンダービーム)

その光景を眺め、バアルも再度、ジェネシスへとバスターを向ける。
彼はその様子を見つめ、そして言った。

「貴方を目標としてロックした。どんな防御も、そして回避も最早…通用しない」

その言葉を聞くと、少し思案したバアルは、バスターを下ろす。
「どうやら、そうらしい。同時展開された兵装があらゆる防御手段を溶解し、そしてその光はどんな回避手段も潜り抜けて…私を殺すだろう。私がどんな抵抗をしようとも、ね」
そして彼は、ジェネシスに向かって宣告した。

「だが、引き換えに君も死ぬ」

ジェネシスも、迷いなく答える。

「元より、このための命だ」

「そうか。ならば…」
バアルがそう言うなり、彼のアーマーの各所から蒸気が噴出した。
同時にアーマーの各部が展開され、そしてバアルの身体から外れて落ちる。

そうして全てのパーツが外れ、元のスーツ姿のバアルが姿を現した。

そのスーツも所々が傷つき、そして彼の後ろに撫でつけた頭髪も、幾つかの房が前に降りてきている。
「ふーっ…やはりアーマーというのは私には合わないな。窮屈で息苦しい。オリジナルの私が使わなかったのも頷ける」
そう言うと、彼はパージしたアーマーの部品を避けるように数歩横へ移動し、小さなワームホールを展開して、その中から何かを取り出す。

それは、銀色のレイピアだった。

「さて、君がそうするというのなら、私のやることは一つだ」
一連の動作を見守っていたジェネシスは、そんな彼に言葉を返す。
「…いいだろう」

瞬間、両者が目を見開き、行動を開始した。

ジェネシスのバスターから閃光が迸り。

バアルは一気に間合いを詰め、ジェネシスへ向けてレイピアを突き出した。



雪道を、病衣姿の少女が歩く。
その光景は一見幻想的で、まるで幻であるかのようだった。
だがその少女は実際にそこに存在しており、更に寒さに震えながらも歩き続けている。
――こんな身体になっても、寒さは感じるんだ。
そう胸中で呟きながら。
彼女は、これから自分を『こう』した者達の元へ向かっていた。
もう後戻りはできず、かといって最初に抱いた復讐心も、与えられた偽りによるものだった。
それならば、後はもう、彼らを滅ぼして死ぬ。そう決めていた。

「やっぱな、そう考えると思った」

いつの間にか、彼女の数メートル後ろを男が立っていた。
片手に携帯電話を持ち、息を切らせて。
「ええと、初めましてと言っておこうか。お嬢さん」
振り返る彼女を見据え、スティーブ・ハントはそう言った。



最終更新:2018年12月16日 21:50