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数分前。

スティーブは病院の裏口を見張っていた。
携帯を耳に当てている。かけている先には、レベッカとレイラがいた。
今二人がいるのは、病院にほど近いショッピングモールの最上階である。
――ここからなら、広範囲に『受信』できるのではないかとスティーブが判断したためだ。
スティーブは今、携帯でレベッカに指示を出していた。
「ある人物から情報を得た。ビートルジュースに利用されたらしい娘が、今隣の病院の中にいる」
「それで、何で私達はこんな所にいなきゃならないのよ」
早朝だから不機嫌なのだろうレベッカの言葉にうんざりしつつ、スティーブは説明する。
「その娘が意識を取り戻したら、警察が情報を聞きに来る筈だ。ビートルジュースがその娘を始末しようと、手下を差し向けるかもしれない」
「なるほど…ってもう夜が明けてるわよ。そんなことするつもりなら、昨夜のうちにやってるんじゃない?」
レベッカにしては鋭い指摘だ。スティーブは思わず苦笑した。
「ああ。言ってみたが、俺もこれはもう可能性が低いと思う。で、もう一つが本題だ」
一泊を置き、スティーブは言う。
「あの娘が意識を取り戻して、どうするか考えてみた。看護婦が意識を取り戻したのを確認したら、警察が事情を聞きに来るだろう。それまで大人しくしてるか、とな」
「…娘娘って言ってるけど、その女の子?にどういう事情があるのか私は知らないんだけど?」
やっぱり言わなきゃならんか。そうスティーブは胸中で呟く。
クロウ・エリュシオンから話を聞いた限り、その娘――ミラ・クラウスは、レイラと同じくビートルジュースに身体を改造されたのだろう。そう彼は判断していた。
「…レイラと同じような事情、と言えば分かるか?」
「…つまり、その子も…」
「いや、レイラのように人間の思考が読めるというのじゃない」
首を振りつつ、スティーブは言う。
「どうやら身体を…」
説明しようとしていた所で、レベッカが声を上げた。

「待って、レイラが何か言ってる」

ゴソゴソと電話の向こうで何かやり取りが聞こえ、やがてレベッカではない声が届いた。
「女の子の声。病院から出た」
やっぱりか!スティーブはそう思いつつ、眼前の病院を見渡す。

最上階の窓の一つが開いている。そして、そこから何かが飛び出していったのが見えた。

「…嘘だろ…!!」
言いつつ、スティーブは走り出した。

それから、電話から聞こえるレイラの言う方角をひたすら走り、スティーブはやっとミラ・クラウスの元へと追いついたのだ。


ここは町の北部にある市庁舎から更に北上した、北の山への入り口となる山道である。
アスファルトの舗装された道路から、土の地面へと道が続き、そこを更に行くと北山へと登ることになる。
そんな山の入り口で、スティーブはミラ・クラウスと対峙していた。
雪が降り始めた中で。
「…誰?」
そのミラは、スティーブを警戒の色を帯びた目で見ている。
さて、無事に接触できたものの、これからどうするか。スティーブは考えながら言葉を紡ぎ始めた。
「事情は聞いた。ミラ・クラウス、お前がこれから何をしようとしてるか察しがついてる」
言いつつ、スティーブはミラの方へ近づこうとしたのだが。
「来ないで!!」
間髪入れずにミラが叫ぶ。
拒絶されることも考慮に入れていたスティーブは、冷静なまま言った。
「よく聞け、お前は今、何も信じられないでいる」
立ち止まったまま、スティーブは言う。
ミラはスティーブを睨みつけたまま、無言でその場に佇んでいた。
「そして、お前を騙して、お前の身体を改造した奴らの所へ行こうとしている。奴らを殺したいのか、真相を聞きたいのかまでは分からんが」
今だミラは無言で、自分の推測が当たっているのかスティーブには推し量れない。
だが、それは翻せば反論も無いということだ。正解だった可能性も半分はあると見ていい。
そう考えつつ、尚もスティーブは言う。
「さっき事情を聞いただけの俺がそこまで推測できたんだ。お前を改造した連中が、そこまで考えてないと思うか」
「!」
ミラが目を見開く。
頃合いと見て、スティーブが一歩彼女に近づいた。
ミラはそれを見て一歩後ろに後ずさる。
「じゃあ…じゃあ、どうすればいいって言うの…!?」
「早まるな。今の自分の姿を親しい人間に見られたくないのは分かる。だが、このまま黒幕の奴らの元へ行ったって状況は変わらない。それどころか悪化すると俺は思う」
しばらく、スティーブとミラは睨み合う。
既に言うべきことを言ったスティーブは、何とかミラが思い留まるよう固唾を呑んで見守った。
やがて、ミラが言う。
「でも私は、もう一度あの男に会わなきゃ…先へ進めない」
どう言えばいいのか分からないとでも言うように、言葉を選ぶのに苦心した様子で、それだけ言うミラ。
そんな彼女を見て、スティーブは少し考えてから言った。
「じゃあ一つ質問だ。身体はどこまで自由になってる?」
「どこ…まで…?」
ミラの問いにスティーブは頷くと、彼女の手首を指差した。
「その手錠、鎖が途中で切れているように見えるが、どうやって切った?」
スティーブの指摘に、ミラは暗い表情で言う。
「…こうした」

その瞬間、彼女の右腕をアーマーが覆い、そしてその手首の部分からビームサーベルが発生する。

スティーブはそれを見て、できるだけ顔色を変えないように努めながら言った。
「なるほど。奴らに改造された力をある程度は扱えるわけだな」
その言葉に、ミラは暗い表情のまま頷く。
その点はレイラと同じか。そう思いつつ、スティーブは言った。
「じゃあこうしよう。俺もお前についていく」
「!?」
スティーブの申し出に、予想外といった表情になるミラ。
彼は先を続ける。
「俺もビートルジュース…お前を改造した奴らと直接話がしたかった。ただ、奴らが殺そうとしてきた時に対抗する手段が無かった」
「…それが、私?」
「ああ。そういうギブアンドテイクでどうだ?」
ただ、とスティーブは胸中で言葉を続ける。
――もしビートルジュースが、目の前の少女の力を制御できる方法を持っていたなら、その時は詰みだ。そしてその可能性は決して低くない。
その言葉をスティーブは飲み込み、そして返答を待った。
「私は…まだあなたを信用できない」
「…それは当然だな。俺だって突然初対面の人間が出てきて取引を持ちかけてきたら警戒する」
スティーブの言葉にミラは頷き、しかし躊躇しながら続きを紡ぐ。
「でも…もう私には頼れる人がいないから…一緒に行ってくれるなら…お願いします」
その言葉に、スティーブは胸中で安堵した。
「よし。ならまず、一つ言わせてくれ」
「?」
言いながら、スティーブは着ていたコートを脱ぐと、それをミラに向けて放った。
「幾ら何でもこの雪の中、病衣だけで山道を歩くのは寒過ぎるだろ」
「あ…ごめんなさい」
申し訳なさそうにミラはスティーブのコートを羽織る。
そして、二人は山道を歩きだした。


「デコイとは、荒廃した地球環境を再生し、オリジナルの人間が再び住めるようにするための代替、言わばテスト機だ」
「ぐっ…」
胸に突き刺さったレイピアを抜かないまま、ジェネシスは膝をついた。
そして、目の前で語る男を見る。
「何故だ…」

「一体、何が狙いだ!!」

ジェネシスの言葉を聞いているそぶりを見せぬまま、彼は話を続ける。
「つまりデコイは、オリジナルの人間よりもある程度、頑丈にできている。そして簡単な施術を行うだけで手足のパーツを外せるほど、オリジナルの人間より四肢の独立性が高いということだ」
そう言って、彼は振り向いた。

バアルは、胸部に大穴を開けた状態で、それでもまだ生きていた。

「…さて」
言いつつ、巨大なワームホールを展開する。
次の瞬間、二人は元の、雪山の廃墟の中に戻ってきていた。
「どうやら君の最後のバスターは、『命を奪う』ことを主眼に置いたようだな。こうして見事に心臓が消滅した。だから…頭を残してくれたのは、好都合だよ」
米神を指差しながらそう言いつつ、バアルもまたその場に膝をつく。
「今言ったようにデコイの身体の特性故、死ぬまでにもう少し喋っていられる」
「そんなことを…聞いてるんじゃない…!」
その場から動かず、ジェネシスはバアルを睨む。

「何故僕の身体に…エネルギーを…!!」

そんなジェネシスを見据え、力無く微笑むバアル。そして彼は言った。
「どうせ死ぬなら、君の予想外になることをして死のうと思った。それだけだ」
バアルの答えに、愕然とした表情となるジェネシス。
「馬鹿な…そんな簡単に諦めたというのか…」
バアルは顔から笑みを消し、やがて言う。
「もう分かってるだろう。私は首謀者と、確かにそう言った」
言いながら、視線を上に向ける。空から降る、雪に。
「そういう役割だった。観客でいたかったが…君が悪いんだ。想定外の役者が舞台に上がっては、臨時の要員が必要になる」
「何を…言ってる…!?」
「…哀れだな、君は」
狼狽するジェネシスに、バアルは言った。
「一度しか切れぬ切り札を、君の主は使わなかった。それ故、君は不本意に生き残った」
そこまで言って改めてジェネシスへと視線を向けて、バアルは言葉を紡ぐ。
「だからこんな無謀な特攻をしたんだろう?ここを死に場所と定めて」
そこまで言うと、バアルは深く溜息を吐く。
「残念だったな。君がその命と引き換えに殺したのは、ただのデコイだよ。」

「マザーや古き神々とは違う、老いて病にも罹る…『ノア』の記憶と能力、そして容姿を与えられただけの、文字通りの、デコイだ」

「…馬鹿な…」
愕然とした表情のジェネシスと、それを見て笑みを浮かべるバアル。
「私は君の身体に、強引に少々のエネルギーを送り込んだ。君が生きられるのは、もってあと一週間ほどだろう」

そして、彼は目を瞑る。

「残りの余生で、思い知るがいい。自分の行いが、どれほど無意味なものだったか」

そこまで言うと、バアルは動きを止めた。

そして見る間に彼の身体は灰と化し。

「ま…待て!!」

伸ばされたジェネシスの手の指先をすり抜けて。

その存在は、風に吹かれて消えた。

同時に、ジェネシスに刺さっていたレイピアもまた、ガラスが割れるように砕け散る。

後に残ったのは、アーマーが消失して元のコート姿となった、クリス・セレナードだけだった。


「…ぜぇ、ぜぇ…」
坂道を延々と登ったために息が上がるスティーブ。
その様子に、ミラも流石に気遣わざるを得なくなる。
「だ、大丈夫ですか…?」
「山沿いに住む人間ってのは…こういう坂には慣れてんのか…」
「もうすぐ目的地に着きますから…が、頑張って…」
おずおずとそう言うミラに対し、何度か深呼吸したスティーブは言う。
「それなんだがな…屋敷が見える所まで来たら、一旦様子を見たい。何人で待ち構えてるか確認したいからな」
「待ち構えてる…?」
ミラの問いに、スティーブは頷く。
「ああ。こんな細い一本道、監視するなら好都合だろう。俺達が屋敷に向けて歩いてるのも既に気づかれてるかもな」
言いつつ、再度スティーブは歩き出す。
彼の話に、ミラは周囲に目を配りながら進み始めた。
だが今の彼女にも、周囲に監視しているような人影は見つからないのだった。


「…どう、なってるの…!?」
坂道を登り終えた地点で、ミラは茫然となった。
後から続いて登ってきたスティーブは、そんなミラの様子に恐る恐る声をかける。
「どうした?」
「確かに…確かにここにあった筈…なのに…」

彼らの眼前には、広い空間を挟んで廃墟と化した建物があるだけだった。

その廃墟は雪崩で崩壊したのだろう、古い建物のそこかしこに人が通れそうな穴が開いており、窓ガラスなども無く、かつて窓だったらしい穴が幾つかあるのみである。
「確かにここに…大きな屋敷が立ってたのに…」
「あそこに見えるのは廃墟だけだがな」
素早く周囲に視線を走らせるスティーブ。
特に敵の襲撃の気配は無い。そう判断すると、彼は愕然としたままのミラに言った。
「とにかく、あの廃墟が元々大きな屋敷だったんなら、あそこに何か手掛かりがあるかもしれない。行けるか?」
ミラはスティーブの顔を見つめ、そして向こうの廃墟を見つめてから、やがて言った。
「はい。お願いします」


ゼゼは、ゆっくりと目を覚ました。
周囲が暗い。一瞬夜なのかと思ったが、それにしては暗すぎる。何も見えない。
「…?」
感覚で、自分が仰向けに寝かされていることを知る。
両手を上げてみると、何かに触れた。
「これは…?」
重い。だが、かろうじて持ち上げられない重さではない。何か、自分がいるこの空間に蓋をしているものに思えた。
力を込めて、それを外そうと試してみる。
しばらくして、漸くそれが横にずれて、光が入ってきた。
そのまま、蓋のようなものを横にどかしていく。
衝撃と音が鳴り、やがて視界が眩い光で包まれた。

「ここは…!?」
起き上がると、自分の入っていたものが棺桶だったと分かった。
周囲は経年劣化で黒く染まった壁で、風が吹いてくる。
天井もボロボロで所々に穴が開き、そこから雪が降り注いでいた。
立ち上がりながら周囲を見回して困惑するゼゼ。
「一体…?」
棺桶から抜け出して、そんな廃墟の中を彼女は歩いて行った。


そして彼女は、地面に跪くクリス・セレナードと、消え去る瞬間のバアルの姿を見た。

「ノア…様…!!?」

一瞬、しかし確実に見た。見てしまった。

たとえ別人だったと分かっていても、ノアと同じ顔の人間が、消え去る場面を。

その眼に、自然と涙が溢れるゼゼ。
「…まさか…」
そう言い残し、その場に座ったまま俯くクリス。
ショックで立ち尽くしたままのゼゼの耳に、瓦礫を踏みしめる音が聞こえたのは、それからどのくらいの時が経ってからだったろうか。

「…何があった、ゼゼ!!」

スティーブの声がその場に響く。
涙を流したままのゼゼの眼が、廃墟の中を歩いてやってきたスティーブとミラの姿を映した。
そんなゼゼに駆け寄るスティーブ。
「一体、ここには何が…!?」
「あぁ…ノア…様が…ノア様が…」
うわごとの様に繰り返すゼゼの肩をスティーブが掴む。
「どうした、落ち着け!どうしたんだ!!」
「あの…!」
そんなスティーブに、俯いたままのクリスの様子を見ていたミラが声を上げる。
「どうした!?」
「この人…怪我は無いみたいですけど…一体…」
ミラの言葉に、益々混乱したスティーブは頭を抱えた。
「ああもう、一体どうなってんだ糞…!!」


廃墟の片隅にゼゼを座らせ、落ち着くのを待つ間、スティーブとミラはクリスの様子を窺う。
「…僕は間違ったのか…いや、しかし…」
目を瞑ったまま呟き続けるクリス。
彼に話しかけられずにいるミラはスティーブの方に視線を向けるが、彼も肩を竦めるしかない。
雪は降り続き、壁も屋根もあまり多くない廃墟の中では、寒さも益々募るばかりだった。
「…ああ糞!もう待つのも我慢ならん!!」
突如そう叫ぶと、スティーブはクリスの前へと歩を進める。
「おい!いい加減呆けるのを止めろ!!」
その声に、クリスは目を見開いた。
「スティーブ・ハント…何故ここに?」
「何、俺を知ってるのか…!?」
一瞬驚愕した後、少し距離を開けてスティーブはクリスに問う。
「お前…何者だ…?」

息を整え、漸くクリスは立ち上がった。

彼は周囲の者達の顔を見回す。
困惑するスティーブ。同じくクリスの様子を見ているミラ。隅で荒く息を吐いているゼゼ。
「僕の死に場所は、ここじゃなかったらしい」
ポツリとそう言うと、彼は歩き出す。
「おい待て!」
歩き始めたクリスに、すかさずスティーブが声をかけた。
数歩歩いたクリスは足を止める。
「一体何者だ!ここで何があった!?お前は何を知ってる!!」
言いながら、銃を取り出すスティーブ。
「…一応聞いておくぞ。お前もビートルジュースの仲間か?」

クリスは振り返り、スティーブの方に視線を向けると、言う。
「僕はもう何もできない。話なら何でも話すよ。ただ…ここでは場所が悪いのでは?」
力無くそう話すクリス。
スティーブはそんなクリスの様子をしばし眺めると、銃を下ろした。
「アースガルドの酒場。そこで2時間後ならどうだ」
クリスは頷き、そして再度歩き出した。
だが、途中で足を止め、彼は再度振り返る。
「スティーブ・ハント」
「何だ?」
スティーブは油断無くクリスの顔を見据える。
「言っても無駄だろうが、言っておく」
クリスの表情には疲労が滲んでいたが、それでもその顔には、何か決意したような感情が読み取れた。

「チャンスは今しかない。レイラを殺すんだ」

「な…に…!!?」
クリスの言っていることが理解できず、絶句するスティーブ。
その言葉の意味を理解しようとしている間に、クリスは歩き去ってしまっていた。
「おい、待て!!」
即座に駆け出すスティーブ。
彼は廃墟の出口まで辿り着いたが、既にクリスは山を下り始めていた。
このままゼゼとミラをここに置いておくわけにもいかない。
それでもスティーブは、山を下りていくクリスの背中に向かって吠える。
「今のはどういう意味だ!!説明しろ!!」
しかしクリスは、振り返らずただ手を振り、そしてスティーブの視界から消えた。


「ちっ…」
不機嫌な様子で、ミラとゼゼの所へと戻るスティーブ。
気を取り直し、彼はゼゼの方へ視線を向けた。
「で、ゼゼ…落ち着いたか」
「ええ…ご心配おかけしました」
そう言ったゼゼの表情は、まだ暗い。
これは何か聞き出せるのは当分後になってからだな。そうスティーブは判断せざるを得なかった。
そして彼は、ミラの方へ視線を向ける。
「結局、お前を改造した連中はここを引き上げた後だった。そう判断するしかない」
「はい…」
ミラもまた、その表情に暗さが残る。
ゼゼはともかく、ミラの方はスティーブが説得するまで、敵の本拠地に特攻という半ば自殺に近い考えを持っていた。
となると、このまま野放しにするわけには行かない。そうスティーブは思考した。
「お前、無断で病院抜け出してただろ。このまま町へ帰ったら警察に拘束されるかもな」
暗いままの表情で、ミラはただ無言で頷く。
スティーブは溜息を吐くと、言った。
「諦めるな。変わっちまったもんはしょうがねぇ。こうなったらその身体で今後どうしていくか、よく考えれば方策が見つかる筈だ」
「でも、私…」
言い淀むミラに、尚もスティーブは言う。
「お前を改造した奴らの技術は、どうも古代のオーバーテクノロジーとかいうのが関係しているらしい。そして今の俺の依頼人は、その辺に詳しい奴らだ。だからそいつらに連絡して、お前を保護させてやる。それでどうだ?」
スティーブの提案に、ミラは呆気に取られたように彼の顔を見つめた。
「どうして、そこまで…?」
その疑問に、スティーブは目を瞑って過去を思い出しながら、ゆっくり答える。
「もう嫌なんだよ。無為に人が死ぬのはな」

しばしミラは沈黙し、やがて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「一度、私は憎しみに憑りつかれました…こんな身体になったのは、その報いだと思ったんです。けど、その憎しみが偽りのものだったと思い知って…私、もうどうすればいいか、分からないんです」
そして彼女は目に涙を浮かべ、スティーブを見る。
「お願いです…助けて、下さい…」

「ああ。お前も含めて、もう誰も死なせやしない」
決然とした表情で、スティーブはそう答えた。


山を下りていくクリス・セレナードは、俯いていた顔を上げた。
その視線は、雪の降る空を見つめ続ける。
山を下りる足は止めず、しかしその表情はただ虚無だけが渦巻いていた。
「僕は…愚かだったのか?」
答える者はどこにもいない。
例え誰かが聞いていたとしても、答えてくれる者などいなかっただろう。
彼と同じ境遇を持つ者など、この世にはいないのだから。

「ディエス様…何故私を、使い潰して下さらなかったのですか…?」

彼の言葉は、虚空に消えた。


最終更新:2018年12月16日 21:55