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携帯電話が鳴った。
ある場所で、ビートルジュースはずっと佇んでいた。混乱していく町の様子を眺めながら。
ポケットから携帯を取り出し、耳に当てる。
「誰だ?始まったらもう、連絡はしねぇと…」

携帯から響いてきた声に、彼は言葉を失った。

そして次の瞬間、その顔が歓喜に染まる。

「ハハッ…ハハハハハハハ!!ヒャーッハッハッハッハハハハハハハ!!!」

その声をどこまでも響かせ、彼は一頻り笑い続ける。

「『アンタ』も来てたのか!丁度、客席が空いちまってテンション下がってた所だ!!いいさ、存分に楽しんでいってくれ!!」

そこまで言うと、彼は携帯を切る。
その顔は、これまで以上に楽しそうだった。


眼下の町で、所々から火や煙が見え始めたのを、プリズナの上空で飛行するゼゼは認識した。
やはり、警察という抑止力が無くなれば、暴徒が出てくるのも当然のことか。そう彼女は思考する。
そんな中、明らかに1ヵ所、様子の違う場所が存在しているのをゼゼは見て取った。
爆発や銃声が散発し、重火器と重火器が応酬し合っている。明らかに他の場所とは状況のレベルが違うように見える。
その場所を眼に内蔵されたスコープで拡大し、誰と誰が戦っているのかゼゼは確認した。
『レオン・トラヴァース…!』
いつの間にか民家の屋根に上っていたレオンが、片腕に取り付けた機関銃を掃射し、時折もう片方の手に持った盾で防御している。
相手がジャンゴ・ザネッティであることもゼゼは認識した。
加勢したい所だが、彼女の火力で迂闊に加勢すれば、民家ごと吹き飛ばしてしまいかねない。
幸い、今は似たような高さの民家の屋根を二人とも飛び回っているため、地上に居る民間人に銃弾が叩き込まれる可能性は低い様子だが、このまま続けばそちらにも巻き添えが出る確率は高いだろう。
クロウとスティーブはまだアーマーを取りに行っているのだろうか。
そう思い、ゼゼは彼らに通信しようとした。


――堕チヨ


頭上から、そんな声が聞こえた気がした。

『…っ!!?』

瞬間、空の全てが光り輝き。
無数の稲妻が、ゼゼの身体に叩き込まれた。


民家の屋上を駆け抜けながら、機関銃を掃射するレオン。
彼は、一種の焦りを感じていた。
相手はまだ片腕の機関銃しか用いておらず、他の装備を使用してくる気配は無い。
つまり、まだ様子見をしているということだ。
対して、こちらも片腕に着けた盾で銃弾を防御しながら、もう片腕の機関銃で対応しているが、昨日と違って奥の手の装備も持ってきている。
とはいえ、使える数は限られていた。だから、絶対に相手に当たるタイミングで使用しなければならない。
それが、今は互いに様子見の状態だ。どちらかが弾切れになるまでこの均衡が続くとしたら、装備の多い分相手の方が有利だろう。
加えて制限時間もある。このままでは町中に混乱が広がるばかりで、2時間後には自分も含めて町中の人間が死ぬ。

つまり、こうなれば自力で相手の隙をこじ開けるしかないというわけだ。

先程準備してくると言ったクロウ・エリュシオンの増援に頼るという手など、ハナからレオン・トラヴァースという人間は考えなかった。
自分の報復という目的に、他者に頼るなどという選択肢自体が彼には無かったのだ。
――イチかバチか、捨て身で特攻するより他は無いか…!
盾で銃弾を防ぎながら、一瞬でレオンはそう決断した。

頭上の空が一面眩く輝いたのは、その瞬間だった。

「何だ…!?」
一瞬気を取られ、レオンは頭上に視線を向けそうになるも、慌ててジャンゴの方へ視線を戻す。
その瞬間にレオンが危惧した通り、ジャンゴは頭上の変化になど目もくれず、彼に照準を向けようとしている所だった。
「くっ…!!」
飛んできた機関銃の掃射を、片腕に取り付けた盾で防御するレオン。
そんな彼の視界の隅で、黒い何かが山の中腹に落ちていくのが見えた。

「今のは…あのリーバードか…!!」

この町へ来る途中で古代人によるブリーフィングを受けた際に会った、高位のリーバードの女性。先程空を飛んでいるのを見かけたが、それが墜落したのだとレオンは合点した。
そうしながら、彼は再度視線をジャンゴへと向ける。
――行くぞ。ジャンゴ・ザネッティ!!
胸中で、彼はそう吠えた。


「ちっ、エレベーターが使えないとはな…」
ホテルに到達したクロウとスティーブは、階段を駆け上がる。どうも非常事態のせいかエレベーターが止まってしまったらしい。
受付に居たのは高齢らしいホテルの支配人のみで、彼から受け取った鍵をスティーブはクロウに投げ渡した。
「それがゼゼの部屋の鍵だ。でかいケースの中にお前の装備が入ってるらしい」
「分かった」

部屋まで来ると、クロウがゼゼの部屋に入るのを確認し、スティーブはレベッカの部屋のドアをノックした。
「おい、無事か!!」

返事は無い。

「おい、大丈夫…」

言いかけて、スティーブは気が付いた。

先程見たビートルジュースの映像。それには画面上部に空が映っていた。
そして、空を遮るようなビルの姿は無かった。

そう、プリズナの町で一番高い筈の、このホテルの姿も映っていなかったのだ。

角度の問題で偶々映っていなかっただけ。そう片付けようにも、スティーブにはどうしてもそうは思えない。
「…まさか。いや、まさか…!!」
即座に、目の前のレベッカの部屋のドアをタックルでこじ開ける。
「!!」

レベッカは、部屋の中央で倒れていた。

服装は今朝会った時のまま、特に外傷も無い。室内も特に乱れた様子は無かった。
そして、どこにもレイラの姿は無い。
スティーブは即座にレベッカに駆け寄り、抱き起こして彼女に呼びかける。
「おい!レベッカ!!おい!!」
「ぅ…うぅ…スティーブ…?」
スティーブの呼びかけに、薄く目を開けるレベッカ。
スティーブは懸命に自分を落ち着かせながら、レベッカに言葉をかけた。
「一体何があった…レイラはどこだ…!?」
「わから…ない…」
そう言い残して、レベッカは意識を失った。
「糞っ!!」
「スティーブ・ハント!!」
背後の開けっ放しのドアから、クロウの声がスティーブに届いた。
「どうした…!?」
「ゼゼが撃墜された!!」
「何!?」
背後を見やる。クロウは、愕然とした顔でスティーブを見ていた。
まだアーマーに着替えておらず、そうする前にその様子を見たらしい。
「それに地上ではあの男とファフニールが戦ってる…!!火の手が町の各所からも」
自分達がこれからどうすればいいか。焦りながらスティーブは、頭の中で目まぐるしく思考を回転させた。
「いいから早くアーマーを着ろ!でなきゃ何もできないだろうが!!」
「…分かった」


レベッカをベッドに寝かせると、スティーブは廊下を歩きだす。まだクロウはアーマーを着けている最中のようだった。
ドア越しに、スティーブはクロウに向かって呼びかける。
「着替え終わったら町へ出て、最善と思える行動をしろ!」
「お前はどうする!?」
彼の問いに、スティーブは声を低めて答えた。
「俺も同じだ…!」
そうして、彼はクロウが出てくるより前に、廊下を走っていった。
階段を昇るために。


「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」
片腕の機関銃を発砲しながら、レオンはジャンゴへの距離を詰めていく。
ジャンゴはアーマーのブースターを吹かして距離を取りながら、未だに機関銃のみで牽制を行っていた。
「どうした!?出し惜しみしてると死ぬぜ!!」
言いつつ、レオンは片腕の機関銃を操作し、砲身を換装する。
その様子にただならぬものを感じ取り、ジャンゴは一気にブースターの出力を上げ、空中へと退避した。
「逃がすか!!」
その瞬間、レオンの片腕から、一際反動の強い弾丸が発射される。

直後、ジャンゴが咄嗟にかざした盾が、粉々に砕け散った。

「何!?」
驚愕するジャンゴと、笑みを浮かべるレオン。
「対物用の特殊弾丸だ。これでもう貴様を守るものは無い…!!」
言いながら、先程の反動でぶれた機関銃を構え直すレオン。
「どうやら貴様にとっては俺は本命じゃないようだが、その隙を利用させてもらう」
そう宣言するレオンに対し、不気味なほど静かな声で、ジャンゴは言った。
「…何故俺が空中に逃げたと思う」
「何?」

その瞬間、ジャンゴの両脚部のアーマーが展開し、無数のマイクロミサイルが放たれた。

先日ホテルの前で放たれたのとは比べ物にならない弾数。それらが放射状に広がり、レオンの視界を埋め尽くす。
「なっ、ヤバいっ…!!」
呻き声と共に、レオンはそう呟く。言うが早いが、彼は走り出した。

我武者羅に民家の屋根を飛び回りながら走るレオン。
だが追尾するミサイルの飛行速度と、人間の脚力では歴然たる差がある。
それを知ってか知らずか、無数のミサイルが彼の背へと間近まで接近してきた。
「くっ!!っそがああああぁぁぁぁぁ!!」
絶叫しながら飛び、空中で後ろを向いて片腕の機関銃を向け、最大速度で連射する。
ミサイルの一つに銃弾がめり込み、その爆発が続けて追尾していたミサイルにまで誘爆を引き起こす。

結果として、民家の上で大規模な爆発が巻き起こった。

衝撃で、レオンの身体が10メートル以上吹っ飛ばされる。
「がっ!?ごっ!!ごはぁっ!!!」
民家の屋根の縁にぶつかり、跳ね返って反対側の民家の壁にぶつかり、路地裏に投げ出されるレオン。
「げほっ…ごほっ…ぶはぁっ…畜生…」
片腕に取り付けた機関銃の銃身を地面に突き立てて、やっとのことで立ち上がるレオン。
「はぁ…はぁ…ハッ、この程度か…!!」
荒く息をしながら悪態をつく。だが次の瞬間、頭上から返事が返ってきた。

「そんなわけがないだろう」

頭上の声に、即座に見上げる。
民家の屋根の縁から、ジャンゴがレオンを見下ろしていた。
「今の爆発で俺がお前を見失うとでも思ったか」
「なっ…手前ぇ…!!」
レオンがジャンゴを睨みつけるが、対してジャンゴは、メットの奥の冷ややかな眼でレオンを見下ろすだけだった。
だがその代わりに、彼は片腕の機関銃を満身創痍のレオンへ向ける。
「確かに甘く見ていた。俺の盾を破壊したのは評価してやる。だが結果は同じだ」
一泊を置き、ジャンゴは言葉の続きを紡いだ。
「今、仲間に会わせてやる」
「畜…生…!!」
そうして引き金を引こうとして――ジャンゴは即座に振り向いた。

彼の視線の先に、アーマー姿のクロウ・エリュシオンが立っていた。

紺色のアーマーに、バイザーの付いたヘルメット。腰の刀。
「漸く、現れたな…!!」


数歩、歩を進めて、ジャンゴがクロウ・エリュシオンを睨む。
「全盛期とは程遠い装備の貴様を殺しても何の自慢にもならない。最初はそう思った」
ジャンゴの言葉に、クロウはただ無言で彼を睨みつけている。
そんなクロウの様子を眺めながら、ジャンゴは続きの言葉を紡ぐ。
「認識を覆されたよ。護送中のお前に逃げられたこと、雪山で敗北したこと。それまで俺は、依頼された殺しをしくじったことなど無かった。一度もだ」
そして、彼は人差し指をクロウに向けた。
「だからもう、貴様がどんな状態であろうと油断はしない。全力で、貴様を殺す!!」

「ゴーストは何故こんなことをする!!」

「何…?」
突然発したクロウの声に、今まさに動き出そうとしたジャンゴがそう言葉を返す。
「殺しにかかるなら、俺だけを標的にすればいい!お前のようにだ!」
声を上げて、クロウは目の前の相手に対して、怒りを含んだ疑問の声を紡ぎ続ける。
「何故、この町全ての人間を虐殺しようなんて考えるんだ、あの男は!」
「狂人の論理を俺に聞くな!知りたければ、奴に直接聞け。俺を殺してからな!!」
クロウの言葉に取り合わず、大声でそう答えるジャンゴ。
その答えに、クロウは静かに目を細めた。
「…あぁ、承知した」

瞬間、ジャンゴの眼前からクロウの姿が掻き消えていた。

「!!?」

即座に屈み込む。一瞬で眼前まで接近していたクロウが、横薙ぎに刀を振り抜いたのだ。
「!」
「ふんっ!!」
頭上を刃が通り過ぎたのを感じたジャンゴは、そのまま身体のバネを利用して至近距離まで来たクロウにハイキックを見舞う。
「くっ!!」
下から放たれた蹴りをかろうじて横に回避すると、振り抜いた刀を反転させて再度斬撃を放つが、その前に背中のメインブースターを起動していたジャンゴが、空中に跳躍してまたも刃を回避した。
続けてブースターを吹かし、クロウから距離を取るジャンゴ。
「驚いた顔だな。今の一撃に反応できたのが、そんなに意外か」
地面に着地しながらそう語るジャンゴ。
確かに、バイザーの奥のクロウの眼には、少しばかり驚愕の色が浮かんでいる。
「貴様ら古代人が、俺達のような人間を作ったと聞く。故に、貴様等と俺達とでは身体の作りが違うのだとな」
言いながら、ジャンゴのヘルメットの奥の眼が、クロウを睨んだ。
「だが、それがどうした。だからといって俺達が、貴様等より劣るなどという道理は無い…!!」
ジャンゴの言葉に、クロウは目を見開いた。
そして数瞬だけ、眉間に皺を寄せながら目を瞑る。そうして目を開くと、意を決した表情で彼は言葉を返した。
「俺も、そんなことは思っていない。生まれによる優劣など…考えたことが無かった」
「そいつは運が良かったな…!!」
言いながら、ジャンゴが片腕の機関銃をクロウに向けて発砲する。
即座にクロウも動き出し、近くの民家の屋根に降り立つと、傾斜を利用して機関銃の弾道から身をかわす。
「お前が俺を狙うのは、それが理由か!!」
「もうくだらない問答は無用だろう!クロウ・エリュシオン!!」

クロウは、左腕のアーマーに取り付けられた操作盤を開く。
正直、ここまで凄腕の、遠距離戦主体で近接戦でも決して弱くは無い相手と戦ったのは、粛清官時代を過ぎてからは初めてかもしれなかった。
このままでは無為に時間を消費するだけだ。となると、どんな手段を使っても短時間で相手を無力化する必要がある。
そう、たとえ卑怯な手段を用いても。

ジャンゴは、クロウが逃げ込んだ民家の屋根にゆっくりと接近していた。それでいて、どこから出てきても狙い撃ちにできるような場所で立ち止まる。
――おかしい。リアクションが無さ過ぎる。

そう判断して、ピンときた。

そして次の瞬間、横から迫った斬撃を身を捻って回避した。

「っ…!?」
「見えてるぞ…!!」
言いつつ、何もない虚空に向けて機関銃を発砲するジャンゴ。
対してクロウは、急いで地面を蹴り、弾道の射線から逃れる。
別の民家の屋根に着地して、クロウはジャンゴを見据えた。ジャンゴも、現在クロウの居る位置へ目を向けている。
――どういうことだ?どうやって俺の動きを追尾している!?

現在、クロウは光学迷彩を作動させていた。視覚で目視はできない筈だ。

加えて、ノアの制作したこの光学迷彩は、温度探知でも捉えられないよう、余分な熱をアーマー自体がシャットアウトするようにしている。
ならば、視覚でも温度でもない方法で探知しているということになる。
「お前の装備に、光学迷彩があることは事前の調査で把握している」
言いながら、ジャンゴがクロウへ向けて突進する。
「くっ!!」
クロウが刀を抜き、突進するジャンゴへ向けて振り下ろした。
だがジャンゴは、クロウが刀を振り下ろすと同時、その刀の射程のギリギリ外で足を止め、代わりに片腕の機関銃を向けて発砲した。
目を見開き、横っ飛びで回避するクロウ。
幸い以前とは違い、アーマーを着けていたお陰で深手は負わなかったが、数発の弾丸がアーマーを掠め、傷つけていた。
「だが、姿を消した程度で痕跡を全て消せると思うな」
ジャンゴのその言葉で、クロウは合点した。

目の前の男は、視覚以外の情報でもってクロウの位置を特定しているのだ。

クロウの出す僅かな音を聴覚で。アーマーから漏れ出る僅かな臭いを嗅覚で。動いた際の気流の乱れを触覚で。

そんなことができるのは、数多くの修羅場を潜り抜けた歴戦の猛者だけだ。
クロウは、自分が戦っているのが想像以上の相手であると実感した。
「ならば…小細工はよそう!!」
「!!?」
その瞬間、クロウは光学迷彩を解除しながら全力で、ジャンゴに詰め寄った。
刀を鞘に納め、その柄に手をかけて。
その速さは、ジャンゴがナイフを取り出す暇も与えないほどだった。

そしてその瞬間、クロウの一閃がジャンゴを襲う。

血が何滴も流れ落ちる。
「ぐぅっ…!!」
クロウの居合を、ジャンゴは片腕のアーマーで防御していた。
刀の位置に合わせて片膝を折り、構えた腕と肩のアーマーで、確かに彼は刃を防御しきっていた。
とはいえ、浅くは無いほど刃が食い込んでいる。
機関銃の仕込まれた方の腕で防御していたため、その機関銃に刃が食い込んで火花を散らす。最早使用は不可能に見えた。
「ふ…防いだぞ…!!」
「ぐっ…!!」
もう片腕で拳を見舞い、クロウが数歩後退する。
その隙にジャンゴはブースターを吹かして、再度空中へ躍り出た。
「今度は…俺の番だ!!」
そして同時に、先程レオンにも仕掛けた、脚部のミサイルを一斉に射出する。
視界を埋め尽くすほどの無数のミサイル群に、クロウは米神に冷や汗を流した。
「なんて数…!!」
再度ジャンゴに近づくには、間の空間を埋め尽くすミサイルを何とかする必要がある。
シールドアームで防御は可能だが、そうするとミサイルが1ヵ所で全て起爆するだろう。1ヵ所であんな数のミサイルが一斉に起爆すれば、自分の足元の民家と、その中に住んでいるであろう住人達に、被害が及ぶ。
一瞬でクロウはそう判断し、一旦退避を優先せざるをえなかった。
離脱しながら、少しずつミサイル同士の距離を離していけば、1ヵ所に被害が集中することは無くなるからだ。
屋根から屋根へ飛び、自分へ向かってくる弾頭へ向けてシールドアームを起動するクロウ。

「あぁ、そうすると思っていたぞ…!!」
離脱していくクロウを見ながらジャンゴは、肩の砲身の照準を彼に向けた。

民家の屋根を飛び回り、ミサイルの爆風をシールドアームで防御していくクロウ。
やがて彼が一際強く跳び、空中でミサイルを防御した瞬間。ジャンゴは、その一瞬を狙い撃った。

ジャンゴの肩、その後部に据え付けられた、円盤のようなものの外周で、一筋の光が高速で回転していく。

砲身に、凄まじい電流が走る。

そしてその砲口が輝いた瞬間。

凄まじい閃光が、遠距離にまで離脱していた、空中にいるクロウを狙い撃った、。

――その光は、あるディグアウターが使用していた『シャイニングレーザー』と呼ばれる兵器に酷似していた。

「なっ…ぐああああぁぁぁぁ!!?」
展開したシールドごと、凄まじい閃光に飲み込まれるクロウ。
そのままエネルギーの奔流は彼の身体を遥か方向へと押し流していく。
やがて数十メートルの距離まで吹き飛ばされたクロウは、アーマーの各所に火花を散らせながら地面へと落下した。
「かはっ…何だ…今の武器は…!!」
何とか身体を起こし、顔を上げるクロウ。ジャンゴの追撃が無いことをまず確認し、自分の状態がどうなっているのか調べる。
咄嗟に閃光へ向けてシールドアームで防御したが、それでもアーマーやそのシールドアームに甚大な被害を被っているのは明白だった。
左腕の制御盤も火花を散らして黒煙を上げており、光学迷彩はおろか反重力装置まで使えるか怪しい。シールドアームも、エネルギーの大半を消費している。
そこまで把握したクロウは周囲を見回して、今どこにいるのか気づいた。
「ここは…!!」

そこは、教会の近くの墓地だった。

墓地も教会も、先日ビートルジュースと会った時のまま、目立って変わった様子は無い。
ミラと戦闘を行った後に警察が介入したせいか、壊れた柵と教会の入り口には黄色いテープが張られている。
墓地や教会より更に外側の町の様子は、やはり時間が経ったせいか事態は深刻化しているようだった。
あちこちで悲鳴や怒号が飛び交い、火の手が上がっている所もある。
一刻も早く町を囲む戦闘端末を排除する必要がある。しかしゼゼは倒れ、自分もファフニール――ジャンゴ・ザネッティを斃すのは一筋縄ではなかった。
このままではまずい。そう考えていた時だった。
「糞っ!!」

再び、無数のミサイルがクロウへ向かって飛来してくる。

再度シールドアームを起動し、走り出すクロウ。
ミサイルの大半を避け、自分に直撃しそうなミサイルのみシールドアームでやり過ごせたが、舞い上がった土煙で視界が効かなくなる。
「!しまっ…!!」

その土煙の中から、ジャンゴがクロウへと襲い掛かった。

幅広のナイフを握ったジャンゴが一気にクロウへと距離を詰める。
辛うじてナイフの一撃を刀で防御したクロウだが、更に二度三度とジャンゴがナイフで切りつける。
それらも刀で防御しながら、後ずさりしていたクロウだったが。

「っ…!!?」

片足が、墓石に躓いていた。
その瞬間、一気に距離を詰められ、更に顔面を掴まれる。
「この程度か…!!」
そう呟くジャンゴの声を耳にしながらも、そのまま後頭部を墓石に叩きつけられ、更に――

投げ飛ばされ、その先にはドアが開いた教会があった。

警察の設けた黄色いテープなど何の障害にもならず、そのまま教会の奥まで転がるクロウ。


彼が教会の中まで転がっていったのを確認したジャンゴは、声を張り上げた。
「古代人とは、粛清官とはその程度か!!」
そのままブースターを起動し、教会を正面に見据えたまま肩のレーザーの照準を合わせる。

そして再度の閃光と共に、レーザーが教会を貫いた。

脚部のミサイルも発射され、教会を爆発と炎が包み込んでいく。

やがて、衝撃に耐えきれず、教会は崩壊を始めた。

炎上し、崩れ行く教会を見つめジャンゴは、声高らかに叫ぶ。
「真の強者は、貴様等ではない!!この俺こそが、最強だ!!」


数分前。
「もうすぐパメラさんの所だよ!ミラ!」
走りながら、後ろを走るミラに向かってジャックは言う。
一先ず酒場はケインが守り、その間にジャックとミラで、ミラの養母であるパメラを迎えに行く段取りで、二人は店を出たのだった。
「うん…!」
後ろにいるミラも、走りながらジャックの言葉に頷く。
もう少しで、パメラのいる筈のパン屋に着く筈だった。

頭上で凄まじい光が発生したのは、その時だった。

「えっ、何!?」
頭上を見やるジャックとミラ。
最初は、何が起こったのか分からなかった。
しかし次の瞬間、黒い鳥のような何かが山の中腹に落ちていくのが見えた。
「今のは…何だろう…」
ゼゼの正体を知らないジャックは、その光景に混乱を覚える。
「と、とにかく、パメラさんの所に行こう!!」
後ろのミラにそう言って、ジャックは走り出そうとした。

しかし、ミラは動かなかった。

「…ミラ?」
ミラは、先程黒い鳥――ゼゼが落ちた山の中腹を、呆然と見つめている。
「ジャック…やっぱり、私がやらないと、駄目みたい」
囁くように、ミラはそう言った。
彼女の言っている言葉の意味をジャックが理解する前に、ミラは再び言葉を紡ぐ。
「本当に、ごめんね」
「な…何、何を言ってるの…ミラ…?」
そこで初めてジャックの顔を見ると、ミラは言った。

「さよなら」

泣きそうな顔で、それでも――確かな、言葉で。



最終更新:2019年05月30日 21:31