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「だから言ってるだろ!コイツはディグアウターズギルドで預かる!!」
「ライセンスが何年も前に切れてる奴の言うことを信用できるか!」
「それでもライセンスだろうが!!」
「これ以上邪魔するなら公務執行妨害で逮捕するぞ!!」
「ハッ!やってみろよ!!原型も留めてない留置場にこの俺を一晩留められるならな!!」

耳障りな口論に不快感を覚えながら、ゼゼの意識は覚醒した。今、彼女は元のリーバード体のままだ。赤いモノアイを動かして、周囲の状況を見回す。
目の前で、二人の男が口論していた。
一人はテンガロンハットを被った、大柄な中年の男。もう一人は、スーツの上にコートを羽織った刑事のようだ。
「ろ、ローズウッド刑事……う、動……リーバードが動き出しましたっ……!!」
ゼゼの様子を観察していたのだろう、刑事の後ろに控えていた警官の一人が、慄きながら声を上げる。
刑事の方も警戒し、数歩後ずさる。それとは対照的に、テンガロンハットの男――レオン・トラヴァースは、安心した様子でゼゼの方を見た。
「やっと目が覚めたか。正直アンタが死んでたらどうすればいいか分からなかったぜ」

ゼゼはその言葉を聞きながら、状況の把握と自身の状態を精査していた。

確か、自分はベルカナ・フォン・ロワイアルとの戦いで撃墜され、この雑居ビルの屋上に落ちてきたのだった。
身体は動きそうにない。何せ、翼の片方がもげているのだ。
そして、恐らく自分を発見した警察が手を出そうとして、同じく自分を発見したレオンが保護しようと口論になったと推察された。
ただ、幾つか疑問が残る。
『あの……レオン・トラヴァース、でしたね』
「あぁ。どうした」
『ここに、クロウ・エリュシオンが倒れていませんでしたか?』
そう、警察やレオンがここに来る前、クロウが自分を発見してここに来た筈なのだ。そしてどういうわけか、ここで気を失った。
「あぁ、俺がここに来る前に、病院に運ばれてったらしい」
そう言うと、レオンはゼゼの頭部に顔を近づけ、囁いた。

「本部に連絡を取った。どうやら奴さん、警察に追われてるようだな」
『!』
「この町の騒動を聞きつけて、逮捕に来るらしい」

「何を話してる。町は鎮静化しつつあるんだ。もうすぐここに機動隊を呼べるぞ!」
ヒソヒソ話に苛立ったらしい。刑事が唸るようにレオンに叫ぶ。
レオンは、舌打ちをしてアクセル刑事を睨みつけた。

その瞬間、刑事と警官達がたじろいだ。

彼らの視線が、レオンではなくその背後に向いている。それに気づいて、レオンは振り返った。
そこには、人型に変形したゼゼが立っていた。
「驚いたな。その姿になれる余裕があったのか」
「……奇跡的に、変形機構は無事でした。体内で修復機能を稼働しているので、しばらく本来の姿には成れませんが」
「いや、それでも動けるだけ十分だ。後はここさえ突破できりゃあな」

「動くな!二人とも署に連行する!」
「だから、その署が無ぇだろうが」
うんざりした様子でレオンが言葉を返す。対してアクセルと刑事達は、益々殺気立って銃を取り出し、二人に構えていた。
「落ち着けよ、俺達は……」
「怪しい者じゃない、とでも?この状況で、お前達が怪しくないと?」
不味い。レオンは息を呑む。
先程の口論状態ならまだ良かった。しかし、ゼゼが刑事達の目の前で人型になったせいで、彼らは殺気立っている。
ただでさえ、昨夜に警察署を爆破され、町中が混乱したばかりだ。そこに自分達のような輩が現れれば、あのビートルジュースの関係者と思われても無理は無い。
そしてジャンゴとの戦闘で、既にレオンの武器は尽きている。
捕まるわけにはいかないが、かといって強引に突破しようとすれば、間違いなく発砲されるだろう。武器の無いレオンは無事では済まない。
一か八かの賭けに出るしかないのか。そう思いかけた時。

「何してるの!?」

刑事達の後ろから、年配の女性の声が響いた。
その声に、アクセルが即座に振り返る。
「警部!!?」

そこに居たのは、頭に包帯を巻いたサマンサ・スペード警部だった。警官達が道を譲り、彼女がアクセルの前に進み出る。
「ご無事で!?」
「何か嫌な予感がしてね、警察署を出た途端に爆発に巻き込まれたのよ。病院で目覚めたのはついさっき」
スペード警部の言葉に、アクセル刑事は安心したように溜め息を吐く。
「てっきり僕は……」
「死んだかもって?私もよ。それで、これは一体何の騒ぎ?」
警部の問いに、アクセルは視線をレオンとゼゼの方へと向けた。
「俺達は……」
「ただの旅行者です」
弁明を図ろうとするレオンを制するように、ゼゼがそう告げる。しかし内容が内容だけに、信じられないものを見るような目でレオンはゼゼを見つめた。
「旅行者?この状況でそれを信じろと?」
当のゼゼは、そんな追及にも平然とした様子で答える。
「それと、ディグアウターです。ほら、許可証ならここに」
そう言うと、彼女はこの町に来た翌日に、市庁舎で手続きして受領した許可証を取り出した。
差し出された許可証を受け取ると、サマンサ警部は訝しげにそれを見つめる。
「確かに、そっちの人はさっきディグアウターズギルドと言ってた」
「しかし警部、奴のライセンスは……!」
「えぇ、ライセンスはちゃんと更新しなさいね」
話を振られて、レオンは渋々といった様子で頷いた。それを確認すると、サマンサ警部は改めて視線をゼゼの方に向ける。
正確には、彼女の額にあるリーバードの瞳に。
「それで、貴方の素性だけど」
「何か、問題でも?」
しばし、警部もゼゼも他の人間も沈黙する。その間、アクセル刑事は生唾を呑み込んだ。

「いいえ。何も」

急に緊張を解いて、警部は肩を竦める。
「し、しかし警部……!!」
「えぇ。先程の騒動が騒動、貴方の素性を追及する権限は無いけど、この一連の騒動と貴方が無関係とは考え難い」
言いながら、警部はゼゼとレオンに背を向けた。
「だから、今日の夕方にでも、警察署に来てくれる?話だけでも聞きたいから」
「分かりました。できる限り事情をお話しします」
ゼゼの返答に、警部は満足そうに頷いた。そして、アクセル刑事を始めとした部下達に促し、彼らは撤収していった。

「クク、ハッハッハッハ!!」
堪え切れずに、レオンが笑い出す。
「ったく、俺が馬鹿みたいじゃねぇか」
まだ笑いを抑えきれないままそう呟く。そんな彼に、ゼゼは頭を下げた。
「私が目覚めるまで警察を止めていてくれて、感謝します」
「感謝するならお前の上司にだ。たまたまお前を発見して処遇をどうするか連絡したら、絶対に警察に渡すなと凄まれたんだからな」
「そうですか、セラ様とユーナ様が……」
「それじゃ、とっとと病院に行くか」
レオンの言葉に、ゼゼは頷いた。そうして二人は、雑居ビルを出てクロウの運ばれた病院へと向かう。


「医者の私でも見たことないくらい傷だらけ。凄い」
医者らしからぬ言葉に、クロウは戸惑う他無かった。
彼が目覚めたのはプリズナの病院で、一度世話になった医者のルーシー・ミッドナイトに診てもらっている。
背中にヒンヤリとした聴診器の感触を感じながら、彼は深呼吸した。
やがて、ルーシーはクロウから離れると、ボードに記入しながら言う。
「うん、身体に目立った異常は無い。その眼以外はね」
クロウは自分の左目に手を当てた。今は、包帯で覆われている。
「もっと大きな病院に行けば、治療する術はあるかもしれない」
ルーシーの言葉に、彼は首を振った。
「この眼以外に異常が無いなら、出て行く」
「待って、まだ異常が出ないだけかもしれない。せめて明日まで経過を診させて」
真剣な表情でそう訴えるルーシーを、しばらくクロウは見つめた。

ビートルジュースの一派は壊滅した。もう危険は無い、その筈だ。

だが、何か重要なことを忘れている。そんな直感がある。

とはいえ、当面の危機を退けたのは確かだ。それに、体力も消耗している。

「分かった。明日の朝に退院させてもらう」
「決まりね」
「礼を言う。素性の怪しい俺みたいな人間を診てくれて」
「それが仕事だもの」
微笑むルーシーと、クロウは握手を交わした。
「それに貴方は多分、良い人だと告げてるの。私の勘がね」
「……そう、か」
ルーシーの言葉に、クロウは苦笑する。
そうして、また時間ができたら見に来ると言って、ルーシーはクロウの病室を出て行った。


そしてクロウは、やることも無いのでベッドに横になっていたのだが。
窓を叩く音で、彼は再び目を覚ました。
「ゼゼ……!?」
窓を開けると、そこにはゼゼが居た。
ここは二階だ。彼女はリーバードの姿ではなく人間の姿である。
クロウは窓を開け、ゼゼの状態を確認した。

「おーい、ずっとこうしてるのはしんどいんだが」

ゼゼの両足を両肩に乗せたレオン・トラヴァースが、そう呼びかけていた。
「申し訳ありません、もう少しお待ちを」
「何やってる、ゼゼ」
言いながら窓を開け、ゼゼを招き入れるクロウ。彼女は窓枠を乗り越えて病室に入ってきた。
「今すぐ支度を。貴方に追手がかかっています」
ゼゼの言葉に、クロウは目を見開く。
「……感づかれたか」
「えぇ、この町の騒動が外部に拡散し、貴方の存在も嗅ぎ付けられました」
ゼゼの言葉に、クロウは舌打ちする。
「……分かった。すぐに町を出る」
言いながら、クロウは病室の隅にある装備一式を見た。昨日の戦いでかなり破損しているが、アーマーも刀もここにある。逃げようと思えばすぐに逃げられる状態だ。
「少し待っててくれ」
「何を?」
ゼゼの疑問には答えず、クロウはベッドから降りると、病室を横切った。
ゆっくりとドアを開ける。

病室の傍には、階段がある。その階段の先から、口論の声が聞こえてきていた。

「ですから!患者は面会謝絶です!!」
「申し訳ありません、しかし退くわけには行きません。容疑者は重要な案件に絡んでいます」
「しかし、今患者は警察に話せるような状況じゃ……」
「それは我々が判断します、どうか通してください!」

「お前の言う通りの様だ。もう警察がここまで来てる」
クロウの言葉に、ゼゼは即座に病室の隅の装備一式を広げた。
「ならば早く!」
「ああ!」
手早くテキパキと、クロウはアーマー姿へと着替えていく。
その間も病室の外の口論に耳を澄ませた。ルーシーは数分間警察を引き留めてくれている。
「あの医者に言っておいてくれないか。感謝すると」
「……はい」
「それと、あの二人……ジャック・アースガルドとミラ・クラウス」
「あの少年少女ですか」
着替えながらクロウは頷いた。
「ミラの方の身体を、診てやってくれないか」
「分かりました。何とかやってみましょう」
ゼゼの返答に、クロウは安堵する。
そうして、アーマーを纏って刀を手に取ったクロウは、窓を開けた。
「ゼゼ。思えばノアを介してとは言え、お前とは長い付き合いだったな」
「えぇ、それがどうかしました?」
「いや、お前に何度も助けられたことを、ふと思い出した。礼も碌に言ってなかったな」

そう言うと、クロウはゼゼの目を見た。

「ありがとう」

そして、病室の窓から跳躍した。
敷地内の庭に着地すると、そのまま走って再び跳躍し、塀を越えて消えていく。
「あれが人間の速さかよ……古代人ってのは何というか、えげつないな」
瞬く間に消えて行ったクロウを眺め、レオンはそう呟く。
それを見送りながらゼゼも、病室の窓を乗り越え着地した。
「さて、こっちもグズグズしてると警察に怪しまれる。行くぞ!」
そう発破をかけるとレオンが先導し、ゼゼも走り出す。
そんな彼女の表情が曇っているのに、レオンは気づいた。
「どうした、何かしくじったか?」
「いえ、大丈夫です。ただ……」

「もう二度と、会えない気がして」


「ふぁ~~」
大欠伸しながら店に入ってきたジャックは、店先に居るケインを見つけた。何やら難しい顔をしている。
「ん、おはよう親父」
「ジャックか。お前、ここに来る前にミラちゃんの様子を見てきたらどうだ」
「もう行ってきたよ。まだミラは寝てるからって、ノービルさんに怒られた」
「ハッハッハ、そりゃそうか。昨日は大変だったもんな」
ケインの言葉に頷きつつ、ジャックはカウンターの奥へと入っていく。
「店の支度はまだ途中?」
「おう。悪いが、後で買い出し頼む」
「うん、分かった」
そう相槌を打つが、ジャックはあることに気づいた。
店に入った瞬間に見たケインが、何やら難しい顔をしていたことに。
「ねぇ親父、何かあったの?」
「いや何でも……ある、か」
言い淀むが、観念したようにそう告げるケイン。
言い知れぬ不安に駆られるジャックを安心させるように、彼は言った。
「そんな深刻な話じゃない。今朝会ったジョンの言葉が気にかかってな」
「ジョンさん?」
ケインは頷くと、早朝にジョン・クラフトと交わした会話を思い返す。
「世話になった、ってな。何事か聞く前に出て行っちまった」
「それ……まるで別れの挨拶みたいだ」
「あぁ。さっきアイツの自宅に電話してみたが、案の定出ない。どこに行ったんだか……アイツのことだから、どこでだってやって行けるとは思うが」
ケインの言葉に、ジャックは好奇心を駆られた。
「ねぇ、あの人って、仕事は何してるの?」
彼の疑問に、ケインはあからさまに言い難そうに頭を掻く。
「んー……時々マーカス爺さんの狩りを手伝ってるって聞いたことはあるが……定職には就いてねぇんじゃねぇかな……」
「それでよく生活できてるね」
「そりゃ、現役時代の貯金があるからな」
「現役時代?」
「あぁ、お前にゃ言ってなかったっけか」

「ジョンはな、昔……ディグアウターだったのさ」


様々な疑念がある。
当面の脅威は退けたが、本当にこの事件は解決したのか。
何か重要なことを知った気がしたのだが、病院を脱出した今も、それがどうしても思い出せない。
そんな思いを抱きながら、クロウは山道を歩き続けていた。
アーマー、刀。それにスカーフ。プリズナの町に来た際は浮浪者同然の格好だったので、かなりマシになったと言えるだろう。
とはいえ、これからどうするか考えねばならない。
一先ず、一番近くの町に着いたらマザー達に連絡を取る。それから次の行動を決めるべきだろうか。
ふと、道を見た。
確か、ここはジャックとケインの親子と出会った道だ。
あれから随分と時間が経った。何もかも変わってしまったが、それでもあの親子が元気にやっていて、恐らくこれからも彼らは彼らなりの生活を、人生を歩んでいくのだろう。そう確認できたのは、クロウにとって幸運と言えた。
やがて、崖下と森に挟まれた所に道が至る。

そこで、目の前に広がる光景にクロウは足を止めた。

道は、雪崩で塞がっていた。
山から発生した雪崩は木々を薙ぎ倒し、すっかり道を覆ってしまっている。
そして。

一人の男が立っていた。

雪崩を背にして。まるで墓標のように。

十字架を背負って、ジョン・クラフトはそこにいた。


「ロックマン・ミラージュ……だな?」


最終更新:2022年10月23日 23:56