「ご苦労だったね、ゼゼ」
重々しく響く扉の音を背に、椅子に座る白衣を着た金髪の男―ノアは言った。
彼の後ろ、扉の傍には、一人の子供を抱えた緑髪の女性―ゼゼが立っていた。
「見ての通り、準備はしてある。早速始めようか」
椅子ごと振り向いたノアは、研究室の中央に置かれた一台の椅子を指差した。
ゼゼはその椅子に子供を座らせ、その手足を金具でしっかり拘束し、頭に器材を取り付ける。
その作業を行いながら、ゼゼは口を開いた。
「ノア様、何故この粛清官をデコイの施設などに預けたのですか?」
ノアは、再びモニターの方に顔を向けると、答えた。
「ただの実験だよ。それ以上の意味は無い。まぁ…」
作業を終えたゼゼの方を振り向くと、ノアは言葉を続けた。
「思った以上に面白そうな結果が出てきそうだがね。
こんな事にならなければ、もっと観察期間が欲しいところだった」
ゼゼは困惑した様な表情で、再び口を開く。
「一体…どういう事ですか?」
ノアは、その口元に笑みを浮かべた。
「『彼』の経験はこれから消えてしまうが…それがどんな影響を及ぼすのか、という事さ」
そう言うと、ノアは少年の方へ向き直った。少年の方は、未だ意識を失ったままである。
ゼゼは、何かを手に持ち、ノアの傍らに歩いていった。
「ターゲットが私の元に来た際、持っていたものです。どうしますか?」
「ふむ、一応念の為、保管しておいてくれ。さて、始めるとしようか」
そう言うと、ノアは後ろにあるキーボードのボタンの一つを押した。
バチバチと少年の頭に繋がれた機械が音を立てる。
その出力は段々と上がり、その音も次第に大きくなっていった。
そして――
「あ……あああ……あああぁぁぁああああ!!!」
拘束された少年は、無意識にも拘らず悲鳴を上げる。
その拘束から逃れようと、身体はもがき、手足や頭はバタバタと振られ続けた。
ゼゼはその様子に顔をしかめるが、ノアはただ無表情にそれを眺め続けていた。
そして次第に、少年の眼や鼻から血が流れ始めた。
流石に堪えられなくなったのか、ゼゼが声を上げた。
「ノア様!このままではとても…!!」
だがノアは、無表情のまま、言った。
「いいや。これくらいの事に耐えられなければ、私の『駒』足り得ない」
「ですが……」
ゼゼが更に抗議の声を上げようとした時、機械が止まった。
「ゼゼ、彼の拘束を解く。離れていたまえ」
そう言うと、ノアは再びキーボードのボタンの一つを押した。
即座に少年の拘束は解除され、その身体がうつ伏せに床に倒れる。
床に倒れてから数秒して、少年はゆっくりと眼を開いた。
倒れたままの姿勢で、まず眼だけで周りの状況を確認し始めた。
「ふむ、脳死は免れた様だね」
ノアは満足そうに呟く。それに反応して、少年は起き上がった。
まずその顔から血が流れているのを感じ、少年は片手でそれを拭う。
そして両目の焦点をノアに合わせると、静かに言った。
「…ここはどこだ」
「会話も可能。どうやら大方、上手くいった様だね」
全く少年の問いに聞く耳を持たないノアに、少年は声を荒げる。
「ここはどこだ…!」
「その前に私から聞きたい。ここに来る前の君の記憶はどの様なものだったかね?」
少年は、有無を言わさぬノアの言葉にうんざりした様子だった。
だが、次の瞬間痛そうに少年は自分の頭に手を当てた。
「思い出せないかね?」
「俺は…死んだ筈だ」
少年の答えに、ノアは一層満足した様子である。
「自分が死ぬ直前の記憶はあるわけだね。では、それ以後の記憶は?
特に、デコイに関係した記憶はあるかね?」
あからさまに疑念のある顔をして、しばらく少年は思案した。
数秒の沈黙の後、少年は答えた。
「無い」
それを聞き、ノアは少年に聞こえない位の声量で呟いた。
「ふむ、予測通りか」
「今度こそ俺の質問に答えろ。ここはどこで、お前らは何者だ」
少年の問いに、ノアは微笑みながら答えた。
「私はノアと言う名の科学者さ。以後、宜しく。
こっちは私の従者のゼゼ。見ての通り、高位のリーバードだ」
ノアがやっと質問に答えたので、少年は次の質問を口にした。
「俺は…死んだ筈だ。それが何故…?」
「私が君の身体をリセットさせたからだよ。そして赤子に戻った君を、ここに連れてきた。
そして十分に成長させ、粛清官の記憶を蘇らせた。これでいいかな?」
「なっ…」
ノアの答えに、少年は呆気に取られた。
『リセット』という技術だけなら彼も知っている。
致命傷を負った身体を赤子の状態まで退化させる事でその身体の修復を可能にする技術だ。
だが、それを使えば以前の記憶は二度と戻らない筈だった。
それを、さも当然の様に『蘇らせた』と言い放たれたのが、彼には信じられなかった。
「そう言えば、まだ君の名前を聞いていなかったね。粛清官君」
そんな少年の様子を楽しそうに見つつ、ノアはそう問い掛ける。
少年は半ば呆然としながらも、ノアの問いに答えた。
「…ロックマン・ミラージュ」
「では…ロックマン・ミラージュ君。君に、一つ残念なお知らせがある」
「…何?」
突然のノアの言葉に、少年―ミラージュは、訝しげな声を上げた。
ノアは、一拍間をおいてから、言った。
「ヘブンはもう、滅んだ」
「…は!?」
ミラージュは、驚愕に眼を見開いた。
「嘘をつくな!証明しろ…!!」
「勿論」
そう言うとノアは、背後のモニターに目を向け、キーボードを叩いた。
すると、そのモニターには、見紛う事なき、『ヘブン』の姿が映し出されていた。
モニターは数秒ごとに色々な角度からヘブンを映しているが、その表面に人の姿は無い。
「話はかなり前に遡る。マスターが、一人の粛清官にある願いを託して、死んだ」
「マスターが…死んだ…!?」
ミラージュの驚愕を他所に、ノアは話を進めていった。
「その願いとは『ヘブンのシステムを破壊してほしい』というものだった」
「マスターが…そんな事を…!?」
「だが、その粛清官ロックマン・トリッガーは、マスターの願いを叶えられなかった。
何故なら、ヘブンを管理するマザー・セラと地上で戦い、相打ちとなったからだ」
もはや驚愕し続けのミラージュには、少ししか言葉を発する事ができなくなっていた。
「相打ち…!?」
ノアは、淡々と文字を読み上げる様に、話を続けていった。
「だがね、ヘブンの管理者がいなくなったんだ。当然、ヘブンの機能は大部分が停止する。
結果、ヘブンの住人たちは全て息絶えてしまったよ。
もはや今のヘブンには、誰もいない」
ノアの言葉を証明するかのように、モニターに映されたヘブンには、いつまでも人影は現れなかった。
ノアは、話を締めくくった。
「君が私の話を簡単に信じるとは思っていない。
だが、それでも私は話した。それが真実だからさ。
それでも納得できなければ、君が自分でヘブンへ行って、確かめる事だ」
ミラージュは、床に座ったまま、俯いていた。
「そんな手段は無い。だが…そんな簡単に言われても…信じられるわけ無いだろう…」
片手を額に当て、眼を瞑り、ミラージュはその場に沈黙を続けた。
まるで、黙祷するかのように。
しばらく、沈黙がその場を覆っていたが、ノアは頃合を見計らって口を開いた。
「ま、どっちにしろ君は死んだ筈の人間だ。
君の今後としては…ここで暮らすか、それともデコイの中に紛れて暮らすか。
この二つだね」
ミラージュは、顔を上げた。
その表情は、既に先程の話のショックから立ち直っている様だった。
「…それはあんた次第だな。あんたが、明確に自分の正体を明かしてくれるかどうかだ。
それができないなら、俺は後者を選ぶ」
しばらく、ミラージュの睨みとそれを余裕の笑みで受け流すノアの光景が続いた。
だが、その沈黙を破ったのは、先程と同じくノアの方だった。
「それはできないね、今は。まぁ、時期が来たら話す可能性も出てくるが」
「…そうか」
失望した様な顔で、ミラージュは後ろを向いた。
「命を救ってくれた事には感謝する。じゃあ…」
「待ちたまえ」
ミラージュの言葉を遮る様に、ノアの声はその場に響いた。
無表情のまま、ミラージュは振り向く。
「何だ?」
「ロックマン・ミラージュ君。私の駒にならないかね?」
「駒だと…!?」
ミラージュは不信感を露にして、疑問の声を上げた。
「君は元粛清官。その君が、このままデコイ達に紛れて暮らすなど無茶もいいところだ。
どうだね。しばらくここで、デコイ達の社会に紛れ込む為の準備をするというのは。
そして今後、私は君の役に立つアイテムを開発し、提供しよう。
君はそれを使うだけでいい。データは私の元に自動的に入ってくる」
「つまり、取引…か」
ミラージュの言葉を受けて、ノアはニヤリと唇の両端を吊り上げた。
「そういう事さ」
「ディグアウター?」
ミラージュの声が上がる。ノアが、ミラージュに最適な職業を紹介した時だった。
「そう、ディグアウター。世界中の遺跡を周って、地下資源を採取し、人々に提供する。
君にとっては過去に触れる様な、あまり良い気分のしない仕事だろうがね。
だが、リーバードを相手にするのだから戦闘力が必要な職業だ。
君にとって最適な職業だと思えるがね」
ミラージュはしばらく考え込んでから、言った。
「だが、そういう職業には装備が必要だろう。それも金のかかりそうな」
「その点については問題ない。私がその装備を開発する」
「…そういう事か」
ノアの説明に、納得せざるを得ないミラージュだった。
「何だそれは」
ゼゼが持ってきたものを見て、ミラージュは言った。
ノアはゼゼから渡されたその品を手に取ると、答える。
「記憶の目覚める前の君が持っていた品だよ。見覚えは無いかね?」
それは、変色して真っ黒となった、血の付着した布だった。
「いや…無いな」
ミラージュは、再び記憶を探ると、そう答えた。
「これは…マフラーかスカーフだね。しかし…捨てるかね?酷い血の臭いだ」
ミラージュは、ノアが持ち上げたスカーフを見た。
最初見た時はその血の量に少しばかり驚いた。
だが、原因が分からない以上、狼狽していても仕方が無い。
しかし何故か、ミラージュはその布を処分する気にはならなかった。
「臭い…何とかできないか?」
「ほう、身に着けたいのかね?臭いに関しては全く問題は無いが…」
「なら、頼む」
ノアは口元に少しばかり笑みを浮かべつつ、言った。
「じゃ、洗っておくよ。
あとは…君の服に『カラスの羽根』がついてた」
「…カラスの羽根?」
ミラージュは、訝しげにその羽根を見た。
真っ黒な一枚の羽根。
「まるで不吉の象徴の様だな」
「ああ。一度死んだ君に、お似合いじゃないか」
ノアの言動に、ミラージュは不愉快な視線を向ける。
ノアは小声で「失礼」とは言ったが、その顔に全く反省の色は無かった。
その後、ミラージュはノアの開発したアーマーを身に着け、軽く運動をしてみた。
その紺色のアーマーは、彼の動きを全く阻害せず、彼は一応の満足感を得た。
「武器は何にする?」
「粛清官の時はビームサーベルを使っていたが…できれば実体の剣が二つ欲しいな」
その当時から、ミラージュは長時間の任務では肝心な時にエネルギーが切れてしまうビームサーベルをあまり良く思っていなかったのである。
「ふむ…ではちょっと最近研究している、特徴的な形の剣を使ってみよう。
数日ほど待ってくれ。君を満足させる武器を作ってあげよう」
数日後、ノアは片刃の特徴的な剣――刀を二振り、ミラージュに渡した。
「これは、特殊な素材を使っている。
手入れさえ怠らなければ、どんなリーバードでも斬り裂く事が可能だ」
「…一応、礼は言っておこう」
二振りの刀を慎重に見定めながら、ミラージュはそう言った。
壁、床、天井。全てが真っ白な六角形をした部屋。
その部屋の中央に、ミラージュは立っていた。
紺色のアーマーにヘルメット、両手には刀を持ち。
少し俯いたその瞳は閉じられている。
『始めるよ』
室内にノアの声が響く。ミラージュは無言だった。
その時、室内に変化がおきた。
ミラージュの真上から、剣を構えた人影が現れたのだ。
その剣がミラージュの頭に到達する刹那、彼の身体は動いた。
身体を沈み込ませ、横っ飛びに転がり、迫り来る剣閃をかわす。
そして立ち上がり、壁を背にして彼は刀を構えた。
それを皮切りに、部屋の各所から、様々な人影が現れ始めた。
人の姿だけでなく、四足の獣の姿も見える。
立ち上がり、それらの姿を見たミラージュは、初めて口を開いた。
「何故リーバードじゃない?」
再び、室内にノアの声が響き、問いに答える。
『そう焦る必要は無い。じきリーバードも出すさ。
それに、そう不満を言う余裕が今の君に果たしてあるかな?』
次の瞬間、人影の一体がバスターを放ってきた。
ミラージュは辛うじてそれをかわし、飛び掛ってきた一体の剣を受け止める。
即座にその一体に足払いをかけ、ミラージュはその一体にとどめを刺そうとした。
「…!!」
しかし、構えた刀を振るう事ができなかった。
だがその時、その一体の存在など意に介さず、他の多数の人影がバスターを放ってきた。
「何…!?」
『君の相手が、仲間を気遣う連中だと思わない事だ』
ミラージュがとどめを刺そうとした人影にバスターが直撃し、その姿が煙の様に霧散する。
だが、次に弾雨に晒されるのはミラージュの方だった。
「ぐうっ…!!」
たまらずその場から跳ぼうとするミラージュだったが、その足にバスターが直撃する。
結局、弾雨の雨にミラージュは力尽きた。
『これで一回死亡。まだまだ訓練は足らんね』
ミラージュは身体を横たえたまま、砕けた自身のアーマーを見やった。
「(何故だ…?何故あの時、とどめを刺す事ができなかった…?)」
メットを外すと、アーマーの砕けた部分は何ともなくなっている。
『まだやるかね?このシミュレーション』
「…ああ」
ミラージュは、静かに拳を握り、メットを被り直した。
それから数日、ミラージュは訓練を続けた。
最初は満足に敵を倒す事もできなかったが、標的をリーバードに変更すると、彼の成果は瞬く間に上がっていった。
それと共にノアから、デコイ達に紛れて上手く暮らす方法を教えてもらった。
彼は、まだ目の前の自称科学者に騙されている可能性を捨てたわけではなかった。
だが、自分は一度確かに死んだのだし、もうどうなってもいいという気持ちもあった。
だから、試しにこのゲームに乗ってみよう、という結論を出したのだった。
そして、それからおよそ一週間後。
ノアは、言いにくそうに口を開いた。
「ええと、この前洗ったスカーフなんだがね…」
ゼゼが持ってきたそのスカーフを見て、ミラージュは少しばかり驚愕した。
血の臭いは取れていたが、その色は漆黒に染まっていた。
「何度洗っても、この色だけは落ちなかったらしい。
それどころか、時が経つにつれてこの黒は深みを増していた、とゼゼは言ってたよ。
もはや、元が血であったとは思えない色だ。やはり…捨てるかね?」
ノアの言葉に、ミラージュは首を振った。
「俺が、持っていく」
「…世話になったな。礼を言う」
そう言うと、ミラージュは今度こそノアに背を向け、歩き出した。
「待ちたまえ」
だが、数日前と同じ様に、ノアは彼を呼び止めた。
顔に疑問の色を浮かべて、ミラージュは振り向いた。
「もう一つ、大事な事を忘れていた。
デコイ達に紛れて暮らすには、君に新たな名前が必要だ」
ミラージュは、それを聞いてしばらく考え込んだ。
だが、突然新しい名前を考えろと言われても、思いつかなかった。
彼の姿を眺めながら、ノアは言った。
「一つ、考えたんだがね。
君の持っていたカラスの羽根にちなみ、『レイヴン』なんてどうだね」
ミラージュは、あまりいい顔をしなかった。
「レイヴン…『大ガラス』か。
今の俺はむしろ、身体的にも精神的にも小ガラス…『クロウ』だな」
そう言いつつ、未だ10歳児分の大きさしかない自らの右の掌をミラージュは眺めた。
ノアは、満足そうに頷いた。
「じゃあそれで決まりだ。ファミリーネームはどうするね?」
「ファミリーネーム……ファミリー……家族か……」
再び、ミラージュは顎に手を当てつつ、考え始めた。
今度はノアからではなく、ミラージュの方から考えが浮かんできた。
「『エリュシオン』というのはどうだ?」
その言葉を聞いて、ノアは一瞬眼を見開いた後、満足そうに微笑み、言った。
「ほう、『エリュシオン』とは楽園を意味する言葉だね。何故それが浮かんだのだね?」
ミラージュは少し考えてから、答えた。
「何となく…自然と浮かんできただけだ。深い意味など無い」
そんなミラージュを眺めつつ、意味ありげに微笑むと、ノアは言った。
「ならば…これからも宜しく。ミラージュ君…いや、『クロウ・エリュシオン』君」
ミラージュは無表情でノアの言葉を聞き終えると、振り返り、歩き出した。
ミラージュが研究室から出て行ったのを確認すると、ノアは微笑みながら静かに呟いた。
「ゼゼ、気づいたかね?やはり…あの実験は無駄ではなかったようだよ。
彼の人格の幾つかの部分…特に戦闘面で、彼の…無い筈の記憶からの影響が顕著に現れている」
一連のやりとりを無言で見ていたゼゼは答える。
「そうかもしれませんね。
ですがむしろ、それは戦闘行為を阻害するだけに見受けられました。それに…」
少し言い難そうに、ゼゼは語った。
「もし彼の記憶が蘇る事があっても、辛いだけなのでは?」
ゼゼの言葉を受け、ノアはモニターの方に椅子を回し、キーボードを叩いた。
モニターの画面が切り替わり、ある光景が映し出された。
「…そうだね」
崩壊した孤児院。
目茶目茶になった畑。
かつて森だった部分は、殆ど全ての木々が薙ぎ倒されている。
そしてその全ての場所に、生き物の気配は微塵も無い。
「改めて礼を言うよ、ゼゼ。よく巻き込まれずに帰ってきてくれた。
あの規模の竜巻に巻き込まれれば、おそらく君でも無事では済まなかっただろう」
ゼゼはノアに向かって跪きながら、答えた。
「いえ、ノア様のご命令とあらば、どんな事でも遂行致します」
ノアは、満足そうに微笑んだ。
「これからも宜しく頼むよ、ゼゼ。
それから…ロックマン・ミラージュ君もね」
これよりおよそ7年。
ミラージュはひたすらデコイ達の世に生きた。
時折ノアに呼び出されては装備の点検や改良を行った。
最初は放浪の旅を続けていたが、ノアの助言で、ある町に彼は身を置く事になる。
―そして現在―
「………!」
クロウ・エリュシオンは目を覚ました。
即座に彼は周りを見る。自分が寝かされていたのは無骨な鉄製のベッド。
周りはどこにも窓が無い、白い壁と天井と床。あまりスペースは広くない。
装備は気絶した時のまま、アーマーとメット、そして武器である二本の刀。
彼は、ベッドに腰掛け、呟いた。
「くそ…ノアめ…!!」
その顔には、並々ならぬ怒りの表情が浮かんでいる。
その時、声が響いた。
「おはようミラージュ君。そこを開けるから、すぐに来てくれ」
次の瞬間、クロウのすぐ横の壁が、突如として消失した。
「………」
クロウは、そこから続いている廊下をしばし睨んでいたが、ついに諦めたのか立ち上がり、歩き出した。
最終更新:2012年01月21日 23:19