「頼む!この通りだ!!」
目の前の男を、呆れた目でクロウは眺めた。
ここはクロウの住むアパートの廊下。彼の前には同年代の青年がいる。
その青年―トム・クレイブは、クロウに向かって土下座をしていた。
「もう一度訊くが、何故俺の協力が必要なんだ?」
「だってお前、ディグアウターだろ?そこらの人間より腕は立つんだろ?」
「それはそうだが、俺は暇じゃない」
「金なら払うから!」
「金の問題じゃない」
「ならどうしたら協力してくれるんだよ~」
この調子で、先程から問答が続いている。
クロウとしては適当にあしらうつもりだったのだが、今日はいつもとは様子が違う。
あまり関わりたくないクロウに対し、今日のトムは強情だった。
訊けば、最初にトムの話した用件は、簡単に言えば『護衛』だった。
何でもトムの現在付き合っている女性が、ストーカーの被害に遭っているらしい。
だから、夜にその女性の自宅周辺を警備してほしいという事だった。
クロウは真っ先に「警察に言え」と忠告したのだが、既に警察には通報済みで、警察の警備が入った途端にストーカーはなりを潜めたらしい。
だが、警察の警備が薄くなった現在になって、また出没を始めたというのだ。
具体的な被害としては、夜に後を尾けてくる、郵便物に不気味な手紙が入っているなど、実に典型的なものであるらしい。
「なぁ頼むよ。彼女、凄い怖がってるんだ」
「…大体、具体的に何時間警備するのかも分からないんじゃ、返事はできない。
日の入りから日の出までなんてのは御免だからな」
「人気の無くなる夜9時ごろから12時ごろの2時間か3時間でいいから」
意外な事に、クロウの注文に即座に答えが返ってきたが、尚も彼は言った。
「大体、俺はずっとここにいるわけじゃない。
他の町にディグアウトに行く必要も出てくるんだぞ」
「それでも、この町にいる間だけでも頼む!」
遂にクロウは、諦めた様にため息をついた。
「…分かった。が、一つ訊いておくぞ。そのストーカー、お前というオチは無いか?」
「ねぇよ!!」
「全く…」
呟きながら、クロウは自室へと戻る。
今、彼はジャケットとジーンズの私服姿で外出のついでに食事から帰ってきたところだ。
アパートに入ったところでトムと鉢合わせし、それから先程のやりとりの後今に至るというわけである。
クロウの思考は、既に先程の件から『古き神々』の事に移っていた。
「(この前倒した二体の古き神々…奴らに仲間がいないとは考え辛い。
そして後をつけられたという事は、この俺…すなわち『ロックマン・ミラージュ』がこの場所に住んでいることは知られている可能性が高い。それどころか、今も監視されている可能性がかなり高い状態だ。迂闊には動けない…しかし、どうすればいい?敵の規模がまるで分からない今の状態では…)」
異変が起こったのは、その時だった。
思考のど壷に嵌りつつあったクロウの視界に、急に異質なものが映り込んだ。
「っ…!!」
窓が、全開になっていた。だが、驚くのはその点ではない。
その窓枠に、一匹の鳥が止まっていたのだ。
いつか雪の町で見た、大鷲が。
大鷲は以前と同じように真っ直ぐクロウを見つめ、クロウもそれに見入られた様に呆然となったが、すぐに我に返った。
「く…!!」
即座に駆け出したクロウは、その大鷲に手を伸ばす。
だが一瞬早く大鷲は、その爪を窓枠から離し、飛び上がった。
窓から消えていくその姿を、窓枠から身を乗り出して目で追うクロウ。
大鷲はそのまま上昇を続けると、クロウのいるアパートの屋上の、柵の上に止まった。
そして、再びその視線を、見上げているクロウに向ける。
「…ついてこいと言うのか…?」
罠であるという考えが、即座に頭に浮かんだ。
だが先程の思考で、今の自分が手詰まりである事を十分理解してしまっていた彼は、追いかけざるを得なかった。
彼は近くに置いてあった片手用の刀二本を掴んで腰のベルトに挟むと、部屋を出た。
屋上。相変わらず軋んで激しい音を立てる鉄の扉を何とか閉めたクロウは、柵に止まった大鷲を見た。
左右を目で確認するが、彼の視界には監視者の姿は映らなかった。
粛清官として鍛えられた彼の感覚でも、現在何者かから見られているといった感覚は全く感じられない。目の前の大鷲を除いて。
「………」
クロウは、ゆっくりと大鷲に近づいた。
大鷲はずっとクロウに視線を向けているが、先程のように逃げ出す気配は無い。
だが、ある程度大鷲まで近づいた時、異変は起こった。
『久しぶりだな。ロックマン・ミラージュ』
「!!?」
声が、辺りに響いた。
声の発生源は大鷲から。その大鷲に注目していたお陰か、クロウはすぐにどこから声が聞こえてきたのか理解した。
大鷲の首にかかった首輪。そこから声が聞こえていたのだ。
声の主は、わざわざ思い出そうとしなくともすぐに分かった。
「ロックマン・テスタメント…!!」
『覚えていてくれて何よりだ』
クロウは怒りの表情も露に、声を上げる。
「何の用だ。この街も滅茶苦茶にする気か!?」
そんなクロウの言葉に対して、冷静な声が返ってきた。
『私の事を破壊者か何かと勘違いしているのか?だとすれば、残念ながら違う』
「事実がどうであれ、プリズナの町は滅茶苦茶になった!!」
『アレは必要だからやっただけの事。この街の場合は事情が違う』
「ならば何の用だ!」
『逸るな。すぐに用件を伝える』
クロウの怒声を冷静に受けたテスタメントの声は、一泊の間を置いて答えを返した。
『我が主、ディエス様が、お前と会いたがっている』
「お前の、主が…?」
『そうだ。ディエス様はお前との会見を望み、あわよくば協力を仰ぎたいと考えている』
唐突な提案。クロウは、状況を飲み込むのにしばらく時間がかかった。
「協力とは、つまり…どういう事だ?」
『そのままの意味だ。ディエス様は、お前と同じで『古き神々』を倒そうと考えている』
クロウは、プリズナの町でテスタメントの言った言葉を思い出しながら、言った。
「ケフェウスを処分した時、言っていたな。『古き神々』の一人・ディエスの命令だと。
何故『古き神々』の一員であるディエスという奴が、『古き神々』を倒そうとしている?」
『…詳しい話は会って、直接訊け』
取り付くシマも無い返答。クロウは、テスタメントに訊くよりそのディエスなる者に質問した方が手っ取り早いと判断した。
「…いいだろう。ならば、早く会わせろ」
だが、次の言葉から、クロウの想像を超えて状況が酷く変化する事となった。
『いいや。私はお前程度の実力の持ち主がディエス様と会う事に納得していない』
「…何?」
これまでの会話の流れを全く無視するような言葉だった。
クロウは耳を疑ったが、やはり同じような言葉が再び紡がれる。
『お前の実力では、ディエス様に相対しても無駄な話だと言っている』
クロウの胸中に凄まじい怒りがこみ上げるが、それをどうにか押し留め、彼は冷静に言った。
「ならばどうする」
だが、更に信じ難い言葉が返ってきたのだった。
『これからお前を私の部下が襲撃する。撃退しろ』
「な…」
呆気に取られるクロウ。だがそんな彼を無視し、更に大鷲の首輪から言葉が紡がれた。
『お前が有能だという事を、この私に見せてみろ。でなくば、話はこれで終わりだ』
「話を勝手に進めるな!そんな話唐突過ぎ…」
クロウが全ての言葉を言い終える前に、彼の視界の端に何かが映った。
クロウは即座にそれに視線を向けるが、『それ』は視線を向けても正体の分からないものだった。
銀色のリング。
それが大鷲の後ろ、斜め上の方に、浮遊していたのだ。
『気づいたようだな』
クロウがそのリングに視線を向けると同時に、テスタメントの声がそう言った。
「…何だアレは」
相手の口調からして、今自分の視線の先にあるものが何なのか知っている様子だと悟り、クロウは訊いてみたのだが、次の瞬間にその状況は変化した。
そのリングの中心の空間からレーザーが照射され、クロウの左肩を貫いた。
「ぐあっ!!?」
肩を押さえ蹲るクロウの頭に被せるように、テスタメントの言葉が容赦無く浴びせかけられる。
『アレはリングビットと言ってな。単体では攻撃力を持たない代物だ。
だが、遠距離からのレーザーをあのリングの中心に通過させると、そのエネルギーを増幅し、また方向を任意に変える事ができる』
顔を上げ、クロウは傷を負いながらも即座に状況を把握した。
「つまり、レーザーの射程距離と直線軌道の問題を解消した兵器…というわけか」
『そういう事だ』
この言葉と同時に大鷲は翼を広げ、飛び上がった。
『狙撃手を倒せ。以上だ』
飛び上がる大鷲の首輪から、言葉がクロウに降りかかる。
『ついでに言っておくが、一撃目はわざと急所を外すように言っておいた。
だが、二撃目からは射殺を許可してある。お前も殺す気で望まねば、死ぬ事になる』
その言葉を最後に、大鷲は大空の遥か彼方へと飛び立っていった。
「くそっ!!」
クロウは即座に、リングビットから物陰に身を隠した。
そして思案する。
「(あんな代物を使っているという事は、それを使う必要がある場所にいるという事だ。
つまり、この場所から見える位置にはいない)」
物陰から僅かに顔を出し、銀色のリングの様子を窺うクロウ。
リングは浮遊しながら、僅かに横方向に移動している。
「(狙撃手には観測手が付いているのが普通だが、奴は襲撃者を単独であるかのように言っていた。つまりあのビットは狙撃主自身が操っている可能性が高い…)」
クロウは移動するリングビットから、自身も移動して身を隠し続ける。
「(だが…どうやって俺の位置を探っている?)」
頭に残った疑問は、リングビットをよく観察する事で解けた。
リングの頂点の辺りに、小型のカメラが取り付けられているのが見えたからだ。
「(つまり、アレで俺の動向を探っているというわけか)」
クロウは物陰から後退し、後ろ手に柵を掴む。
「(状況は分かった。あのビットの位置から見える所に狙撃手はいる…!)」
とその時、軋んだ音を立てて、アパートの屋内から屋上に続く扉が開き始めた。
「!!?」
「開け難いなコレー」
トムの声が扉の奥から聞こえる。
何故この屋上に来たのか理由は分からないが、このままでは巻き込んでしまう事を悟り、クロウの胸中に激しい焦燥が湧き上がった。
そしてその焦燥はクロウに行動を起こさせる。
彼は物陰から走り出した。リングビットはクロウの姿を捉えると、それまでとは一変して高速でその姿を追い始める。
「(よし…思った通りだ!)」
そしてクロウは扉が開き切る前に屋上の柵に足をかけ、躊躇無く空中に身を躍らせた。
民家の屋根を飛び移りながら、クロウは周囲を見渡した。
「(こんな事をするのは銀行に行った時以来か…久しぶりだな)」
数年前の出来事を振り返りつつ、背後から追ってくるリングビットに視線を向ける。
その瞬間、思考が停止した。
「(ああ…そう言えば一つだけとは言ってなかったな…)」
いつのまにか、実に5つものリングビットがクロウを追ってきていた。
「っ!!」
リングビットからレーザーが別のリングビットに照射され、角度を変えてクロウへと襲い掛かる。
身を捻ってかわしたクロウだったが、危うく屋根から落ちるところだった。
「くそっ!!」
だが、今の一瞬でクロウは勝機を見出していた。
「(どうやら…レーザーがビットに入ってから出てくるのに一瞬のタイムラグがあるようだな…通常のレーザーならかわす間も無く着弾してしまうが、これなら避けられるぞ!)」
「そして…もう一つ!!」
目の前に一際高い建物が迫ったのを見て取ったクロウは足元の屋根を蹴り、その建物の壁を更に力強く蹴った。
そして身体を反転させ、刀を抜く。
一番近くにあったリングビットはその動きについてこれず、後退するのが遅れたようだ。
そしてクロウは、リングビットのうち一つを真っ二つに斬り裂いた。
「おそらくは…俺から一番遠い位置にあるビットから狙撃手のいる位置が見える筈だ!」
民家の塀の上に着地したクロウは、残りのリングビットを見た。
再びレーザーの緑色の閃光がビット同士を繋ぎ始めたのを見て、クロウは塀を蹴る。
一瞬前までクロウの頭のあった空間を、レーザーが通り過ぎた。
「(…長引けば一般人に迷惑がかかる。一気に終わらせてもらうぞ!)」
そしてクロウは、残りのビットに向かって駆け出した。
建設中のマンション。
灰色のコンクリートの壁と天井と柱だけの空間。
『狙撃手』は、自らの持つ長銃のエネルギー残量を確認しつつ、スコープを覗いた。
スコープのダイヤルを切り替えることで、リングビットの視点からターゲットを視る事ができる。
だが、そのリングビットは瞬く間に破壊され、残りは一つとなっていた。
ターゲットはもう自らのすぐ近くまでやってきている。
おそらく、狙撃できるチャンスはあと一度きりだろう。
『狙撃手』は、一度だけ呟いた。
「久しぶりだな、ロックマン・ミラージュ…」
光の速さであるレーザーは、リングビットによるタイムラグのお陰で避ける事ができる。
それはつまり、リングビットを破壊する事によって避ける事が難しくなる事を意味していた。
クロウ自身もそれは分かっている。だが、残りの一つのレーザーがどの角度からリングビットに入るのか、それを見極めねば狙撃手の位置は分からない。
クロウは民家の屋根に立ち、リングビットを見据えた。
「さぁ…来い!!」
そして、緑色の閃光がクロウに迫った。
閃光がリングビットを通し、クロウに着弾する寸前、彼は刀を抜いた。
そして、レーザーは着弾した。
クロウの持つ、刀の刃に。
レーザーは磨き抜かれた刃に反射され、逆にリングビットの輪の部分に着弾する。
そして、ビットは小規模の爆発を起こし、落ちた。
足元の屋根を蹴り、炎を上げて落ち行くリングビットをキャッチするクロウ。
「…あそこだな」
そして彼は、レーザーの放たれた方角―建設中のマンションを見据えた。
そして民家の屋根から飛び降りると、マンションから死角になるよう身を隠しつつ、路地を進み始めた。
光学迷彩を起動しつつ、マンションの周りを覆う柵を飛び越え、クロウは着地した。
先程の一瞬で、既に発射地点の階数は見当が付いている。
問題は、どの部屋にいるかだ。
クロウはできるだけ足音を立てずにマンションへ踏み込んだ。
まだ塗装も済んでおらず、灰色の壁が延々と続く廊下、そして階段。
クロウは6階まで来ると、廊下へと進み、足を止めた。
各部屋には窓があるらしく、その窓から零れる明かりが、廊下を縞模様に照らしている。
ここからは各部屋を見なければならないが、不用意に部屋に入れば銃撃される可能性があるだろう。
クロウは手榴弾を取り出すと、ピンを抜かずに、勢い良く転がした。
各部屋の前を転がっていく手榴弾。音が周囲に響き渡る。
そして、手榴弾がとある部屋の前まで来た時、凄まじい銃撃の音が鳴り響いた。
部屋の前の廊下の壁に、たちまち無数の弾痕が穿たれる。
「(今度は実弾か…ライフルの類のようだが)」
クロウは、その部屋の前まで音も立てずに行くと、壁を背にして刀を抜いた。
そして、今度は閃光手榴弾を取り出し、ピンを抜くと部屋の中に投げ入れた。
凄まじい閃光と高周波が室内に轟く。
クロウは、刀を抜くと一気に踏み込んだ。
「…!?」
だが、部屋の中には誰もいなかった。
そこには灰色の壁・床・天井と、ガラスも無い窓、そして先程までクロウを狙っていた代物であろうスコープの付いたレーザーライフルが床に置かれていた。
光学迷彩を解除し、室内を観察する。
「(確かに銃撃はこの部屋からだった筈だ。部屋を出るなら廊下にしか出口は無い
このライフルがここにある以上、狙撃手がここにいた事は確かな筈だ)」
クロウは、廊下の壁にあいた弾痕とベランダの無い窓の外を交互に見た。
だが、周りに誰もいない事は紛れも無い事実だった。
「(しょうがない。虱潰しに別の部屋を見て回…)」
廊下に向かいつつそう考えていたクロウの背筋に、凄まじい悪寒が走る。
窓の外から、逆さまになった襲撃者が、サブマシンガンを構えて突如現れた。
納めようとしていた刀の刃にその姿が映り込まなかったら、気づかなかっただろう。
襲撃者は暗い赤色のコートを身に纏い、頭は黒いヘルメットが覆っていた。
クロウは咄嗟に振り向きつつ横っ飛びでマシンガンの掃射を回避し、ナイフを取り出して投げつける。
襲撃者の側からしてみれば、クロウの刀に姿が映った事が予想外だったのだろう。その反応速度に驚いた襲撃者は、手に持っていたサブマシンガンでナイフを叩き落とした。
クロウはそれを見て取ると一気に間合いを詰め、襲撃者がサブマシンガンを構え直す前にその銃身を斬り落とす。
即座に刀を反転させて第二撃を繰り出そうとしたクロウだったが、襲撃者は身体を吊っていたワイヤーを操り、上方へ身体を移動させた。
「くっ!!」
窓から身を乗り出し上へ視線を向けるクロウ。偶然にもこの動作は本日で二度目だった。
視線の先の襲撃者は、ワイヤーの吊られた先―屋上まで向かって壁を駆け上がっていた。
片手に拳銃を持って、それを眼下のクロウへと向けながら。
クロウは発砲の直前に頭を引っ込め、廊下へ向かって駆け出した。
屋上も、ドアなどは無く風の吹き抜ける出入り口のみだった。
クロウは出入り口から外には出ず、その横の壁を背にして立っている。
狙撃手であった襲撃者は、片手に拳銃を持ったまま、無言で出入り口を見据えていた。
「(テスタメントは…まだ現れる気配は無いか)」
既に状況は有利だったが、クロウは完全に相手を武装解除する事を決意した。
腰には片手用の刀二本。両手用の長尺の刀は、アパートに置いてきてしまっている。
相手と自分の距離は、およそ10メートル。大股に一歩踏み込んでも刃は届かない。
一方、左右は割と広い空間がある。直線的な拳銃の軌道を避けるには十分だ。
クロウは一気に踏み込もうと刀に手をかけた。襲撃者もその気配を察したのか、拳銃の銃口を出入り口に向ける。
だが、その時だった。
『もういい。十分だ』
突如上空から声が二人に降りかかった。
上を見るまでもなく、二人の丁度中間の辺りに大鷲が着地した。
『ここでは場所が悪い。二人とも、地下まで降りて来い』
それだけ伝えられると、大鷲は再び飛び立っていく。
「全く…」
そう呟くと、クロウは刀を納めた。
ふと襲撃者に目をやると、ヘルメットを脱いでいるところだった。
「っ…!!?」
襲撃者の顔を見た瞬間、クロウの胸中を衝撃が襲った。
その顔が、見覚えのあるものだったからだ。
自分と同じくらいの年齢。後ろで纏めた金髪と、そして細く鋭い両眼。
以前と違うのは、およそ顔半分にもなろうかという規模の火傷の痕。
自然と、その名前が口から出ていた。
「ロックマン・ミスト…!!」
ロックマン・ミスト。かつて敵として対峙した事のある粛清官。
戦艦の爆発に巻き込まれ、死んだ筈だ。瓦礫に押し潰される所を確かに見た筈だった。
当のミストは屋上の出入り口に向かい歩き始めていた。クロウを無表情で見つめながら。そして、事も無げに言った。
「何を驚いている。死んだ筈の人間が生きていた事など、幾らでもあった筈だ」
確かに、ミストの言う通りではあった。
つい数ヶ月前にもプリズナの町で、死んだ筈のロックマン・ロードと交戦している。
「確かにそうだが…腑に落ちないな。どうやってあの状況から生き残った…!?」
「俺が説明せずとも、ディエスがしてくれる」
そう言うと、ミストは屋上から出て行った。
クロウは死んだ筈の人間と再会した事で、胸中に何とも言えぬ不安感が漂うのを感じた。
最終更新:2012年01月21日 23:44