翌日。クロウは早朝に目を覚ました。
顔を洗い、歯を磨いたりしていると、玄関先に何かいつもとは違うものが見える。
「…ん?」
ドアと床の間の隙間から差し込まれたらしい、手紙が入っていた。
「……」
手紙を広げると、簡潔な一文のみが綴られている。
『正午、街の中心部の聖堂で待つ』と。
「…迎えに行くとか昨日言ってなかったか…?」
正午。クロウは街の中心部に電車で向かっていた。
この数日で調べた事なのだが、この街の中心部にある大聖堂は世界的にも有名らしい。
毎日ミサが行われているのであまり公開時間は長くないのだが、この街有数の観光地となっているようだ。
電車から降りたクロウは、観光客に混じって聖堂の中へと足を踏み入れる。
聖堂内にはかなりの数の観光客がおり、この様子では果たして待っているであろうミストかテスタメントと合流できるのか不安になるクロウだった。
だが聖堂の最深部の辺りで、すぐにテスタメントが見つかった。
テスタメントはいつもと同じく白いロングコートにサングラスだったが、肩にあの大鷲は止まっていない。
最深部とは言っても観光客の行ける範囲での話であり、日の光で辺りの様子が窺えるほど入口からは近い場所だった。
「何故こんな所に俺を呼び出した」
クロウの問いに、テスタメントは無表情で答える。
「今のうちに、エンリコ・マルケスの顔を見せておこうと思ってな」
エンリコ・マルケス。あの書類によれば古き神々の一人、アルデバランである。
その事を思い出している間に、テスタメントの言葉は続いた。
「その後はディエス様の元へ向かう。着いてから答えを聞かせてもらおう」
「…分かった。で、その司教はどこにいるんだ?」
テスタメントはクロウの質問に対し、手振りで着いて来いと促す。
仕方なくクロウはその背についていった。
聖堂内は幾つかの部屋に別れており、その中の一つへテスタメントは入っていく。
その部屋は特に大きい部屋で、観光客の数も多く見られていた。
テスタメントは、観光客が特に多く集結している廊下の片隅に進んでいく。
観光客を押し退けて進んで行ったためクロウにはついていくのが一苦労だったが、ようやく観光客の姿が無くなった。
その観光客たちの一番先頭では、関係者以外立ち入り禁止のロープが彼らの行く手を塞ぎ、警備員がそれを監視している。
「…どこにもそれらしい奴はいないぞ?」
無感情な声で、テスタメントは言った。
「お前の目は節穴か?周りをよく見てみろ」
クロウは、周りの観光客を眺めた。彼らの視線は、一様にある方向へと向かっている。
彼らの視線の先は、立ち入り禁止のロープの先の、ある部屋の出入り口に向かっていた。
観光客に見せるためだろうか。その扉は大きく開け放たれ、その先から何者かが話をしているのが聞こえる。
部屋の中は、かなり大きな空間になっているようだ。多くの信者と見られる者達が椅子に座って頭を垂れて手を握り、祈りを捧げている。
「話をしているのがエンリコ・マルケス司教だ」
テスタメントの声を聞き、クロウは声を発している男の方を見た。
中肉中背で、皺の刻まれた顔。白い司教服に眼鏡と帽子。あの書類に写っていた写真の顔と、何一つ変わらない顔がそこにあった。
「…奴が古き神々の一人だというのか」
そう言ってテスタメントの方を向いたクロウだが、既に彼の姿はない。
急いで再び観光客を掻き分け、集団から抜け出たクロウは、腕を組んで待っていたテスタメントの姿を見た。
「用件は済んだな。時間が無い、行くぞ」
そう行ってさっさと歩き始めたテスタメントに、クロウは悪態をつく暇さえなかった。
再び建設中のマンションを地下まで降り、遺跡を進んで部屋に入る。
昨日と同じように、ミストとディエスが立っていた。
「急遽予定を変更してしまって、大変失礼いたしました」
丁寧な物腰で、ディエスはクロウに頭を下げる。
先程まではテスタメントに苛立ちを募らせていたクロウだったが、こうも素直に謝られると苦情を言う気など無くなってしまった。
「…そんな事はいい。返事を伝えに来た」
クロウが二の句を告げる前に、ディエスは言った。
「二人とも、できれば席を外してもらいたいのですが、お願いできますか?」
ディエスの言葉にテスタメントは一回頭を下げてから、ミストは無言で、二人とも部屋を出て行く。
それからクロウは返事を改めて言おうとしたのだが、ディエスはそれを手で制した。
「現時点でのお返事は、まだ取って置いてください。その前に、あなたに一つ話すべき事があります」
「…昨日の時点では言えない話だったのか?」
ディエスは頷く。
「あの書類を全て見て頂いてからの方が、理解がし易いでしょうから」
そう言うとディエスは部屋の片隅に置いてある椅子を示し、言った。
「まずはお座りください。長い話になります」
白い机を挟んでディエスとクロウは向かい合って座っていた。
ディエスは両手を机の上で組むと、静かに口を開く。
「私の素性を、あなたは古き神々の一人としてしか、認識していませんでしたね」
クロウは頷いた。
「あんたも、三千年前にヘブンと戦った古き神々なんだろ?何故今古き神々を滅ぼそうとしているかは分からないが」
クロウの言葉に反して、ディエスは首を振る。
「いいえ。私は三千年前は、ヘブンの側に属していました。ディエスという名も、その時のものです。現在は『カペラ』という別の名を名乗って、古き神々に属しています」
「…わざわざ名を偽っているわけは?」
少し考えるような素振りを見せてから、ディエスは答えた。
「そうですね…あなたが資料で見た古き神々たちと、接触しているからです」
「…つまり、あんたは三千年前はヘブンの側の者だったが、現在はその正体を隠して古き神々たちをスパイしている…そういう事か」
「ええ」
「あの書類に記載されていた情報の出所は、あんたが直接調べた事という事か」
「ええ。昨日質問された空族退治の件の情報も、古き神々達の情報網から得たものです」
クロウはしばし考え、そして言った。
「そこまで話したのなら、三千年前のあんたの正体も、今教えてもらって構わないか」
ディエスは、ゆっくりと頷いた。
「まず、今あなたが相対しているこの私の姿。これも、三千年前の私とは違っています」
ディエスの言葉を聞いた瞬間、クロウの頭の中にある可能性が浮上する。
「…まさか」
「既に予想はついているでしょうね…私の本名はマザー・ディエス。三千年前の、マザーでした」
クロウは目を細め、ディエスを見つめた。
「テスタメントもミストも、それを知っているのか」
ディエスは無言で頷く。
クロウはこれまで最大の疑問だった、ヘブンの復活を望んでいるミストが何故古き神々に加担しているのかという事がようやく頭の中で氷解したのを感じた。
同時に、目の前のディエスに新しい疑念が沸いたのだが。
「話が上手なあんたなら、ミストにこう言ったんじゃないか?」
クロウの言葉に、ディエスは疑問の表情を浮かべる。
「『協力してくれたらヘブンの復活を約束する』と…!」
クロウはもしこの問いにディエスが肯定を示した場合、協力を断るつもりだった。
しかしクロウの予想に反して、ディエスは苦笑を浮かべながら首を振る。
「もう私に、ヘブンのシステムにアクセスする権限などありません。私は三千年前の時点でヘブンの側には死んだ事になっているのですから」
そう言って一泊を置き、ディエスは話を続ける。
「ミストは、確かにヘブンの再興を望んでいました。ですが、彼の回復を待つ間にマザー・セラの封印が解け、彼女はロックマン・トリッガーに敗北した。この出来事を動けぬまま見ている事しかできなかった彼は、もう以前の望みを捨てたのです」
「だが…!」
尚も言い募るクロウを、ディエスは手で制した。
「確かに、おそらく彼の胸中ではまだその望みを捨て切れてはいないでしょうね。おそらく、彼は死ぬまでその望みを諦め切れないに違いありません。ですが、こうして元マザーである私に協力し、ヘブンの敵であった古き神々を共に倒そうとする彼の行動は、信用してもいいのではないでしょうか?」
ここまで言われると、クロウとしてはもう何も言う事など無くなっていた。
クロウの表情に彼が納得した事を見て取ったディエスは、再び言葉を紡ぐ。
「私からロックマン・ミストについて伝えられる事はこれだけです。他に質問は?」
クロウはしばし考え、ディエスの協力者のうちもう一人について口にした。
「あのケフェウスを簡単に殺して見せたロックマン・テスタメントは何者だ?」
ディエスは少し嬉しそうに顔を綻ばせながら、言った。
「彼は三千年前から私に協力してくれている、元一等粛清官です」
「奴も三千年前の…!」
「ええ、私が自分の死を偽装してまで古き神々を倒そうと決心した時、彼は影ながら私に協力すると願い出てくれました。そして、今も表立って古き神々とは戦えない私の代わりに、プリズナの町のように今でも重要な施設となっている場所を、古き神々から守っているのです」
「三千年前の粛清官は、あんなに圧倒的な力を持っていたのか…」
クロウの呟きに、ディエスはゆっくりと呟いた。
「ええ、あなた達の世代の粛清官は数が多い上に、その存在目的が施設の『防衛』など守る事を主眼に置いています。ですが三千年前はまだ粛清官の数が多くない上に、古き神々たちを積極的に『殲滅』する性能が粛清官たちには求められていましたから」
ディエスの説明に、自分とテスタメントとの明確な違いを理解するクロウ。
そして、彼は最後の質問に移る事にした。
「最後に一つ訊きたい。何故マザーという高位についていたあんたが、古き神々達の間に潜入してスパイするなんて行動に出たんだ?」
この疑問に対し、ディエスは、クロウの予期していなかった単語を口にした。
「ある人と、約束したのです。必ず…『古き神々の王』を倒すと。
どんな手を使っても、必ず」
「『古き神々の王』…!」
クロウの表情を読み取ったのか、ディエスは少し暗い表情をしながらも、言った。
「知っているようですね。三千年前の時点では、封印する事しかできなかった『古き神々の王』…それを、完全に消滅させると私は誓いました。ある人と一緒にね」
「その人物は現在は…?」
クロウは、ディエスの言う『ある人』と聞いて、ノアを思い浮かべた。
まだディエスの語る事から読み取れる情報は少ないが、ノアの性格から考えて、そんな誓いを目の前の元マザーとするとは考えにくい。だが、わざわざ『ある人』と呼んでいる事からテスタメントとは考えにくく、現状考えられるのは彼しかいなかった。
しかし、ディエスの答えは違っていた。
「今はもう、この世にはいません」
暗い表情で答えるディエスに、クロウは自分が踏み込んでいい領域を超えた質問をしてしまった事を感じ、少し反省した。
「すまない。あまりに無遠慮過ぎた」
「いえ、あなたは事情を知らないのですし、構いません」
そろそろ答えをディエスに伝える時だと、クロウは感じた。
既に答えなど決まっている。ディエスは心から古き神々と戦う事を選んでいるし、何度もクロウに選択の自由を与えてくれた。その上、幾度も身内の無礼を詫びてくれた。
ノアの性格に慣れていたクロウにとっては、申し分無いと言わざるを得ない。
テスタメントもミストも無愛想だが、味方となると心強いのは確かだ。
「ディエス。あんたの事情はよく分かった。俺は、あんたに協力する」
クロウの言葉に、ディエスは少し驚いたような顔をして、言った。
「こんなに早く決めて下さって、いいのですか…?」
ディエスの言葉に、クロウは一瞬頭に掠めたプリズナの町での出来事を改めて思い返し、肯定だけで済まそうとした言葉に一つ付け加える。
「ああ。だが一つ条件がある。いいか?」
「ええ、私達の可能な範囲でなら…何でしょう?」
訝しげな顔で尋ねるディエスに、クロウは言った。
「例え古き神々を倒す為とは言え…一般のデコイを巻き込む真似はしないでほしい。テスタメントもミストも」
この町でテスタメントに接触した際の出来事を考えても、あの二人がディエスの言う事を100%聞く保証は無い。
だが、少なくともディエスの命令が無いよりはマシになる筈だ。
「分かりました。あの二人にも言い聞かせておきましょう」
それからクロウは、ディエスの室内にあった機材の情報を教えてもらい、無線でノアに伝えた。
その間に、ディエスはテスタメントとミストを部屋に呼び戻し、先程クロウと約束した事を二人に命じていた。
やがて室内にあったモニタとマイクがノアの所に繋がれる。これまでクロウはノアとの連絡は無線でしか行ってこなかった為、繋がるかどうか不安だった。
だが、やがて画面が砂嵐から徐々に回復し、ノアの声と姿が映り始める。
クロウは、内心で冷や汗をかいた。
ディエスとノアの人柄は大分違う。妙な事にならないとも限らない。
クロウの心配を他所に、彼とテスタメント、ミストの同席のもと、ノアとディエスの会談が始まった。
事前に通信機で話していた段階で、クロウはノアにディエスの素性を話しておいた。
これはディエスから提案された事で、それにより信用を得るためだったらしい。
画面に映ったノアはテーブルの上で両手を組んだ格好で座っている。
そして、彼は口を開いた。
「ごきげんよう。お揃いで」
ディエスはその画面を見上げた。
画面の上の部分にカメラがついており、そこから映像があちらに送られているのだ。
ディエスはノアを見つめ、言った。
「ええ、ごきげんよう。何とお呼びすればよろしいですかね?やはり…クロノスと?」
クロノス。ノアが語ったところによれば彼が以前持っていた名らしい。
そう言えば、三千年前のノアについてディエスは何か知っているのだろうか。疑問がクロウの頭を掠めたが、今は黙って見守る事にした。
「いや、対外的には『ノア』と名乗っている。そう呼んで貰って構わない」
「そうですか…ではノア。こちらから質問してもよろしいでしょうか?」
クロウはミストやテスタメントと同じくディエスの後ろから会談の様子を眺めている為、ディエスの表情を見る事はできない。
ノアは薄い笑みを口元に浮かべ、頷いた。
「では…あなたの目的は何です?」
ディエスの質問に、ノアはやはり笑みを浮かべたまま、言った。
「君と同じだよ。古き神々…引いては三千年前彼らの指導者とされた『古き神々の王』…いや、こう呼んでおこうか。『デウス・エクス・マキナ』。彼を倒す事が私の望みだ」
『古き神々の王』の名、それが『デウス・エクス・マキナ』というものである事を、クロウは初めて知った。
だがそれ以外は、ディエスが彼に言って聞かせた内容と全く変わらぬものだった。
「なるほど…あなたはあの存在を、そう呼んでいるのですね」
続けて返されたディエスの話の内容に、クロウは疑念を覚えた。
横を見ると、ミストは目を細め、話に聞き入っている。その集中ぶりから見るに、彼の把握する古き神々の情報はクロウと同程度のものらしい。
「ふむ、まぁ君は勿論別の呼び方をしているのだろうね」
テスタメントもミストと同じくらい集中し、話を聞いている様子だ。もっとも、彼の場合はノアがどのくらいの情報を所有しているかを確認するためである可能性が高いが。
「では、私達は同じ目的を持つ者同士…あなたを味方と認識して、構いませんね?」
このディエスの言葉に対し、ノアはほんの少し目を細めると、言った。
「それは君次第だよ。マザー・ディエス」
このノアの言葉に、クロウの横にいるテスタメントの視線に僅かばかり殺気が篭るのをクロウは感じ取った。
クロウは内心でため息をつく。ノアの思わせぶりな態度はあまりこの会談にいい影響を与えないだろう事はクロウも予想していたのだ。
ディエスは、ノアに向かって冷静に言葉を返した。
「あなたの素性は、こちらにはお教えできませんか?」
ディエスの言葉にノアは挑発的な笑みを浮かべ、答える。
「ディエス、君が知る以上の事は何も無い。
私は三千年前は古き神々の一人・クロノスだった。以上だ」
「…分かりました。ではここから先は、あなたのサポートを受けているロックマン・ミラージュを私の指揮下に置かせて頂いても構いませんか?
本人の了承は既に取っているのですが」
このディエスの言葉に、ノアの顔から笑みが失せた。
「ほう?私の知らぬ所で随分と勝手に話が進んでいるじゃないか」
クロウは、表情が見えないながらもディエスが緊張しているのを如実に感じ取った。
「一応言っておくがね、ミラージュ君は私の駒だ。そういう取り決めになっている」
クロウは目を細めた。確かに自分はノアの『駒にならないか』という誘いに乗ってしまったのだ。
「ミラージュ君を君の指揮下に置く事で、私の利益になる事はあるのかね?」
「……」
ディエスは押し黙っていた。
ミストは変わらず会話に集中しているが、テスタメントは顔をしかめている。
クロウは、改めてノアを眺めた。
昨日自分の目の前で抉り出した筈の片目は普通の目に戻っている上に、砕けていた筈の片眼鏡も付けていた。
ノアの背後の光景はいつもの研究室内だ。画面内にゼゼの姿は見られない。
そこまでクロウが把握したところで、再びディエスが言葉を紡いだ。
「『ディメンジョン・ゲート』の鍵を所有しているとこちらが言ったら、どうします?」
「ディエス様…!?」
ディエスの言葉を聞いた瞬間、テスタメントが声を上げた。
聞き慣れぬ単語。クロウは頭で考えるより、会話に集中する事に神経を使う事にした。
ノアは、片眉を上げる。
「それは本当かね」
「ええ。かなり危険な方法を取りましたが、古き神々達が所有していたそれを、奪取しました」
クロウは、先程声を上げたテスタメントを一瞥した。
テスタメントはサングラス越しに目を見開いている。
その間にも、ノアとディエスの会話は進んでいた。
「今頃古き神々達…特にプロキオンとアルデバランは、血眼になってあれを探しているでしょう。どうです、あの鍵をあなたに渡す、というのは?」
ディエスの提案に、ノアはしばし黙る。
だがしばらくして、その顔に微笑を浮かべると彼は言った。
「いや、渡す必要は無い。だが、君はそういうアドバンテージを持っているわけか。
いいだろう。ミラージュ君を君に貸そう。その方が、状況が分かりやすそうだ」
そのノアの言葉を聞くと、ディエスは頭を下げた。
「感謝します、クロノス…いえ、ノア」
会談は終わった。モニターの通信が切れると、ディエスは疲れたように息を吐いた。
ミストはクロウが一瞬目を放した隙に消え、テスタメントは腕を組み、壁に寄りかかっている。
そして、まず言葉を発したのはそのテスタメントだった。
「ロックマン・ミラージュ。お前の主があのような者だったとはな」
クロウは疲れたように言った。
「俺もあの態度には難儀している。すまないディエス、先に言っておくべきだった。」
「ありがとう。ですが大丈夫です。むしろこの位で済んでホッとしました」
そのディエスの言葉を聞くと、クロウは言った。
「『ディメンジョン・ゲート』とその鍵…その説明は俺にしてくれるのか?」
「ええ、勿論です。ですがその前に…」
そういって顔を上げると、ディエスはクロウに視線を向け、言った。
「ロックマン・ミラージュ。これから言う事をよく聞いて下さい」
「…何だ?」
訝しげなクロウの表情に、ディエスは真剣な目で言った。
「明日、古き神々の一人を討ち取る計画があるのです。何ヶ月も前から準備をしてきました…あなたにも、手伝ってもらいたいのです」
「明日…!?随分突然な話だな…」
「ええ、知らせるのがこうして唐突になってしまったのは謝らざるを得ませんね。
詳しい話はテスタメントから聞いてください。私は…ちょっと休む必要がありそうです」
そう言うと、ディエスは片手を目元に当て、俯いた。
それを見て取ったテスタメントは、目線だけでクロウについてこいと指示する。
仕方なく、クロウは足音を立てずに去っていくテスタメントについていった。
砂色の廊下を、二人は進んでいく。
「言っておくが、明日になったのはお前のせいでもある」
テスタメントは歩きながら、無愛想な声でクロウにそう言った。
「どういう事だ」
クロウの問いにテスタメントは振り返らぬまま言う。
「協力の条件にデコイを巻き込まぬ事と指定しただろう。その条件に合致する計画が明日のものしかなかったのだ」
「つまり…俺があの条件を出さなかった場合、お前らはデコイを巻き込む事も厭わない作戦を実行していたということか」
テスタメントを睨み、クロウはそう毒づいた。
すると、テスタメントは足を止め、クロウの方へ顔を向ける。
「一つ言っておくぞ、ロックマン・ミラージュ」
テスタメントもクロウも、ほぼ睨んでいると言っていい目つきで相手を見ていた。
「この先、デコイを巻き込まぬまま古き神々達と戦っていけるなどとは思わぬ事だ」
クロウは、間髪入れずに言い返す。
「百も承知だ。だがな、巻き込まなくていいものをわざわざ巻き込む必要など無い」
しばらく、二人はずっと睨みあっていた。
だが、殺気を先に収めたのはテスタメントの方だった。
彼は再び進行方向に向き、歩き始めると共に言う。
「だから我々も明日の計画を選んだ。お前も死ぬ気で働いてもらうぞ」
「ああ…分かってる」
次に着いた部屋も、先程の部屋と大差無い所だった。
机と椅子があるばかりの殺風景な部屋。先程の部屋のようなモニターや機材すら無い。
ただ、机の上に数冊の書類がある。
おそらく、この部屋で襲撃の計画などをしているのだろうという事が見て取れた。
テスタメントは机に近づくと、書類の束の中から一枚を取り出した。
その一枚はクロウが昨日渡された古き神々のデータが記されているものの一つだった。
テスタメントはそれをクロウに見せつけ、言った。
「ターゲットは、こいつだ」
司教服を着た男の写真と、『アルデバラン』と書かれた名前欄。
「なるほど…先程わざわざ大聖堂に呼んだのも、この為か…!」
テスタメントは書類の束を再び手に取り、もう一枚の資料を今度は机の上に広げた。
「これを見ろ」
クロウが近寄ると、その紙が地図である事が見て取れる。
テスタメントは、その地図の一角を指差した。
そこには、赤いペンで丸印が記されていた。
「これはこの街の地図だ。この地点に何があるか分かるか」
「いや…」
テスタメントの指差しているのは、丁度街の北端に位置する地点であった。
大きな山の手前の辺りに、丸印は記されている。
「トンネルの入口だ」
「そうなのか」
「ここを始点として、山を貫き、緩いカーブを描いてほぼ1キロ先に出口がある」
地図は、山の中程辺りで終わっている。
だが、確かに山の手前には高速道路の線が走っており、そこにトンネルがあるのだろうという事が見て取れた。
「これがどうした」
クロウの質問に、テスタメントはアルデバランの資料を手に取った。
「こいつは明日、隣町のミサに出席する為、ここを通る。
隣町と言ってもかなり遠い。本来ならば飛空船で向かう予定だったが、計器の故障の為自動車で向かう事となった」
クロウは、テスタメントの言いたい事が段々見えてきた。
つまり、このトンネルで待ち伏せするという事なのだろう。
だが、次の言葉はクロウの予想を大きく裏切ったものだった。
「明日、このトンネルを爆破する」
「何…!?」
そう聞いた瞬間、クロウはテスタメントの襟首を掴んだ。
「デコイは巻き込まないんじゃなかったのか!?」
クロウの激昂にも、テスタメントは涼しい顔のままだった。
「っ!?」
そして次の瞬間、クロウの身体は投げ飛ばされていた。
咄嗟に受身を取って落下するクロウ。
「正式に協力するとお前は言ったな。良い機会だ、説明のついでに…」
そう言うとテスタメントは片手を手刀の形にして、水平に構えた。
「少し稽古をつけてやろう」
それから数時間、クロウは徒手空拳でテスタメントに立ち向かった。
だがプリズナの町の時と同じく、その実力差は歴然で、全く太刀打ちできなかった。
そして、日が傾き、西に沈みそうになった時刻に、やっと『稽古』は終わった。
最終更新:2012年01月21日 23:45