古き神々の一人・アルデバランは、テスタメントの片腕を眺めた。
今しがた自分の護衛を全員消し去ったその腕を。
「なるほど…それが君の、バスターか」
「ほう、知っていたか」
テスタメントがその眼をアルデバランに向け、言う。
その金色の瞳は、アルデバランを逃がすつもりは無い事を物語っていた。
「ケフェウスを消したというシリウスの報告、最初は半信半疑でしたが、まんざら嘘というわけでもなさそうですね」
「ならばどうする」
テスタメントの問いに、アルデバランは両腕の袖を少し捲り上げ、言った。
「私の全力をもって、状況を打開する。それしか無さそうですな。例え…君の仲間が何人いようとね」
両腕の手首に、リーバードの瞳が付いていた。
その光景に、テスタメントは眼を細める。続けて、アルデバランは言った。
「これだけの作戦、実行犯があなた一人とは到底考え辛い。私の情報を君に与えた裏切り者の他にも協力者がいる筈だ。そしてその協力者は、君が敗れた場合を想定してここにいる。違いますか?」
アルデバランの推理に、しばしテスタメントは沈黙していたが、やがて言った。
「少し違うな」
「ほう?」
首を傾げるアルデバランに、テスタメントは冷静に言う。
「私が負ける事など想定していない。元から、複数でお前を討ち取る予定だった。
ただ、このトンネルは広い。だからここまで来るのに時間がかかった。違うか?」
テスタメントはそう言いつつ、視線をトンネルの奥に向けて問いかける。
程なくして、一人の姿が点滅する照明に照らし出された。
「その通りだ。一つ聞きたいがテスタメント。デコイは巻き込まないというディエスの命令、まだ従っているか」
白鞘の刀を抜きつつクロウは、テスタメントの足元に転がる手足に視線を向けていた。
現れたクロウの身体はアーマーやスカーフに土が付いているものの、五体満足である。
クロウの問いに、テスタメントは応じた。
「思っていたよりかなり早かったな。質問についてだが、今私が何を言おうとお前は信用しないだろう。事が終わった後自分の目で確かめろ」
「あなたは、ロックマン・ミラージュ…ですか」
「…随分と変わった位置に瞳があるな…エンリコ・マルケス司教?」
クロウはアルデバランに視線を向けると、そう言った。
増援の登場にも焦る様子を見せないアルデバランは言う。
「ええ。カストルのように額ではなかったのが幸いでした。お陰で今のようにデコイの社会に溶け込んでいられますのでね」
「そうやってプロキオンって奴が表面的な支配を、お前が内面の支配をしてきたのか」
クロウは、アルデバランを真っ直ぐ見据え、言う。
「ええそうですとも。躾ければ彼らは従順に懐いてくれる。今しがたそこの彼に消された者たちもそうでした。私の力を狂信し、地獄の苦しみにも勝る肉体改造の苦痛を乗り越えてくれていましたよ。…なのに、それがこうも簡単に水の泡となってしまうとは」
そこで一拍言葉を切り、アルデバランは言った。
「全く、何の為に巨額を投じたのか…役の立たなさに腹が立ちますな」
クロウは眼を閉じた。その脳裏に、同じ神を奉る職に就いていたジョエル・クラウス神父が浮かぶ。眼を開け、クロウは言った。
「しかしなエンリコ・マルケス司教…どんな気分なんだ、『古き神々』が神を奉る職業に就いてるってのは。少なくとも俺から見れば…滑稽だ!」
アルデバランは見下すような眼でクロウを見つめ、言った。
「シリウスと同程度の粛清官にすらそんな物言いにされるとは…反吐が、出る!!」
そう言った直後、アルデバランの二つのリーバードの瞳が、赤く輝いた。
そして、その瞳から湧き出るように、黒い液体がアルデバランの身体を覆っていく。
黒い塊と化したアルデバランは急速に膨張し、その姿を変化させていく。
やがて大幅に形を変え、変化し切った黒い液体はその表面に色を加えた。
「っ…!!」
その姿にクロウは、戦闘場所がトンネルの中になどなってしまった事を不運に思った。
照明も壊れ暗闇が多くなったこの場所は、アルデバランの真の姿を強烈に『映えさせた』からだ。
馬の様な四本足に人の姿の上半身、その頭は山羊の頭を模した、言わば悪魔とケンタウロスの合成されたような姿。
山羊型の頭に瞳は無く、背中に生えた蝙蝠の様な翼いっぱいに、無数のリーバードの瞳が輝いている。
それが、アルデバランの真の姿だった。
その右手に長柄の大鎌を携え、アルデバランは咆哮した。
まるで、地の底の亡者が呻いている様な、地面と心を掻き乱すような声。
トンネル内に反響するその唸り声に、クロウは戦慄していた。
暗闇に近いトンネルの中。黒い翼は闇に溶け、無数の赤い瞳が浮いている様に見える。
ケフェウスやポルックスの時には感じてはいたものの闘争心の方が勝っていたが、今回はその胸中で一番の勢力を持って、クロウを支配しようとしていた。
恐怖が。
「司教の正体がそれとは…皮肉だな、アルデバラン」
だがそんなクロウを他所に、テスタメントは涼しい顔でそう言った。
その顔に、全く臆している様子は見られない。
「お前がどこまで闇を広げようと…私の光が、どこまでも照らす」
その片手に、光を宿し。
しかしそんなテスタメントの様子も意に介さず、アルデバランも言い返した。
『ククク、よく周りを見ろテスタメント。お前達がトンネルを爆破したお陰で、この空間の天井は不安定となった。お前がバスターを完全に解放すれば、諸共に崩れる事となるだろう』
「だからどうした。お前如きに私の力を解放する必要など無い。だからこそ複数でお前を討ち取ると言ったのだ」
テスタメントの言葉に、クロウは刀を構えざるを得なかった。
だが、これまでとは全く系統の違う相手の姿に、足を進める気にもなれない。
どのような攻撃が来るのか、全く予想できなかった。
その片手に握られている鎌だけでも不利なのだ。オーゼスの時と同じで空間に限りがあり、リーチの差もある。
「(まだか…ミスト!!)」
クロウがそう考えた所で、アルデバランが大鎌を振りかぶるのが見えた。
凄まじい勢いで薙ぎ払われる大鎌。
テスタメントは跳躍し、クロウは後ろに跳んで避けた。
続けて、アルデバランの二本の角が発光する。
バチバチと電流が音を立てて二本の角に橋を渡し、一際大きな発光を起こした。
そして、アルデバランの周囲に雷が爆発した。
「ぐぅ…」
間一髪エネルギーシールドを起動して凌いだクロウだったが、アルデバランの雷は思わぬ効果をもたらしていた。
一部でも電気が点いていたとは言え、フィールドは暗闇に近かったのだ。暗闇に慣れていた眼に、激しい光が急に飛び込んだ。
エネルギーシールドを起動するだけで精一杯だったクロウにバイザーを調節する時間など無く、その眼は一時的にとは言え効かなくなっていた。
「くそっ…」
視界が白色に包まれている。アルデバランがどこにいるのか、どこから攻撃が飛んでくるのか分からない。
幸いにも刀は手元にあるが、それだけだ。
クロウは、腹を決めた。ここで死ねばそれまで。今は―耳を澄ませ。
そんなクロウをを見下ろし、テスタメントはため息をついた。
アルデバランは口元に笑みを浮かべ、言う。
『さて、こうも容易く貴様の仲間は動けなくなったぞ!そいつを守りながらどこまで戦えるかな!?』
「私の仲間がこいつだけだと、誰が言った?」
相変わらず無感情に言うテスタメント。そして彼は視線をアルデバランの後方へ向けた。
途端に、アルデバランの背中に小規模の爆発が連続して起こった。
そこに、紅いアーマーを着た男が立っていた。
背中にバックパックを背負い、そこから伸びたチューブが両手に握られたレーザーガンに接続されている。
だが最も特徴的なのが、肩から生えた翼だった。
否、翼ではない。複数のリングが組み合わさり、翼に見せているのだ。
それは紛れも無い、ロックマン・ミストだった。
『グゥ…またも増援とは小賢しい!!』
「リングビット…起動」
途端に、ミストの肩からリングが分離し、浮遊していく。その数8。
そして、ミストは両手のレーザーガンを連射した。
リングによって軌道を変え、あらゆる方向からレーザーがアルデバランに殺到していく。
『グ…グアアアアァ!!』
四本の足を動かし、アルデバランが即座にミストの方へ頭を向ける。
そして再び二本の角を発光させ、雷撃をミストへ向けて放った。
凄まじい勢いで放たれた雷撃はミストのいる地面に着弾し、易々とコンクリートの道路が砕かれる。
だが、次の瞬間アルデバランは自身の頭上から殺気を感じた。
『何!?』
雷撃を避けて大きく跳躍したミストは、そのままアルデバランの頭上を飛び越えつつ、そ
の頭に向けレーザーガンを構えていた。
そして再び連射されたレーザーが、アルデバランの二本の角に着弾する。
『グガァッ!!』
煙を上げるアルデバランの角。ミストはテスタメントの横に着地した。
「遅かったな。他の作業があったミラージュよりも遅いとは」
「…チャンスを窺ってた」
襲撃の一瞬前にアルデバランに自身の存在を教えたテスタメントを非難するような眼で見つめるミスト。
「それは悪かったな。私が引き付けるからお前が狙え」
「…了解」
そして二人は、アルデバランへ視線を向けた。
『グゥ…三人がかりとは…』
煙は上げていたものの、アルデバランの角には傷一つ付いている様子は無い。
先程全角度から放たれたレーザーも、殆ど意味を成していないようだった。
「タフだな」
『三人とも…纏めて食らえ!!』
次の瞬間、アルデバランは再び角から雷撃を発生させた。
テスタメントは左手を前方に掲げると、雷撃をその手で受けた。
雷撃はテスタメントの手に着弾すると、拡散して周りに飛び散っている。
『シールドか!!』
テスタメントはその場から避ける事ができなかった。背後に視力の回復していないクロウがいたからだ。
その間にミストは雷撃を避けるように走り、再び跳躍した。
察知したアルデバランが大鎌を振るうが既に遅く、ミストはアルデバランの右肩に飛び乗った。
リーバード化しているとはいえ、ケフェウスやポルックスよりも大分小さいと言えるアルデバラン。
その肩という名の足場は大分不安定なものと言えた。
その上に、曲芸のようにミストは片足で着地して見せたのだ。
アルデバランの翼に付いた無数の瞳がミストを睨み、引きずりおろそうと片手を動かすが、雷撃を放ち続けながらでは上手くいかない様である。
だが、アルデバランも雷撃を止める事はできなかった。最大限の力を発揮できないとは言え、凄まじい戦闘力を持つテスタメントをこのまま拘束し続ける必要があるからだ。
「…これでどうだ」
そして、アルデバランが次の行動を起こす前にミストは両手のレーザーガンをアルデバランの頭に向け、その頭の一点に集中しレーザーガンを連射した。
『グッ…ガアアアアァァァ!!』
たちまちアルデバランが悲鳴を上げる。が、ミストはその悲鳴に一瞬油断してしまった。
相手が悲鳴を上げていながらもレーザーガンを連射していたミストは、アルデバランの眼が殺意を帯びて自分に向けられるのを視界に映し、悪寒を覚える。
彼が退避する前に、テスタメントに向けられていた雷撃がミストを襲った。
「っ!!」
叫び声すらままならぬ凄まじい電流が身体の中を駆け巡る。ミストは、その場に崩れ落ちた。
『テスタメント!貴様もこいつと同じように…』
再びテスタメントのいた位置に視線を向けるアルデバラン。
だが、そこにテスタメントはいなかった。それどころか、その傍に蹲っていた筈のクロウですら見当たらない。
『どこに…!!?』
探すまでも無く、二人のうち一人はすぐに見つかった。
クロウはすぐ上から刀を振りかぶり、こちらに飛び掛ってきていた。
視力が戻っているわけではないようだ。両目を瞑りながらも、的確に相手の位置を特定し、刀を振ろうとしていた。
『小賢しいっ!!』
アルデバランは、その手に持った大鎌を振るった。
その刃の射程より内側にいたため、クロウの身体は柄に叩きつけられ、吹き飛んだ。
「がはっ!!」
背後のコンクリートの壁がボロボロと崩れたのを見て、クロウは自分がどれほどの衝撃を受けたのかを悟る。
視線の先ではクロウが与えた隙に乗じてテスタメントが正面からアルデバランを討ち取ろうと片手を振りかぶるのが見えた。
だが一瞬早く、アルデバランは雷撃をテスタメントへと炸裂させる。
テスタメントは舌打ちすると、再び片手で雷撃を防御した。
『右手で攻撃し、左手で防御する。聞いていた通りだなテスタメント!!』
「何…!?」
アルデバランの言葉に、テスタメントは眼を見開いた。
『相手を分析していたのが自分達だけだと思ったか!?お前のデータは全て、リゲルから聞いているのだ!!』
「(リゲルだと…?)」
クロウは、ディエスから貰った古き神々の資料の内容を思い返す。
確か、『リゲル』という名の古き神々のデータは殆ど無かった筈だ。
テスタメントの方は、アルデバランの言葉に全くリアクションを返してはいなかった。
『ふんっ!!』
アルデバランが頭を振り上げる。途端に、雷撃の光がこれまでよりも更に輝いた。
「(更に出力を上げられるのか…!)」
クロウは回復してきた視界を確認すると、刀を手に取った。
「ぐぅっ!!」
増加された雷撃の出力に、次第にテスタメントの身体が後方へと押し出されていく。
『ククク、このまま…!』
言葉を続けようとしたアルデバランは視界の隅に一瞬映った影に気づいた。
それは、鞘に入った刀を片手に持ったクロウだった。
アルデバランから見て雷撃の左側を走りながら、クロウは抜刀する。
アルデバランは雷撃を放ち続けたまま右手に握る鎌を振るのは得策ではないと悟り、左手を振り上げ、地面に叩きつけた。
『っ…!!』
だが、仕留めた感触は無い。
気が付けば、クロウはその腕よりも内側でアルデバランに向かって刀を突き出している。
その刃は、アルデバランの脇の下、翼の根元の下端に突き刺さっていた。
思わず雷撃を止めるアルデバラン。だがテスタメントはその場から動く様子は無い。
『クッ…ハッハッハッハッハ!!惜しかったな!もう少し狙いをつけていれば、私を串刺しにできたかも知れぬのになぁ!?』
アルデバランは今しがた振り下ろした左腕でクロウを吹き飛ばそうとした。
『っ…!!?』
だが、その腕は動かなかった。
その場に、落ち着いたクロウの声が響く。
彼の視線は、アルデバランの翼に浮かぶ無数のリーバードの瞳に注がれていた。
「違う。刺したんじゃない。斬ったんだ…俺の、恐怖を!」
次の瞬間、アルデバランの左腕と左の翼が、地面に落ちた。
『グアアアアァァァァ!!!』
その傷口から、赤い液体が噴出する。
アルデバランに視線を向けたまま、クロウが退避していく。
そして次の瞬間、その傷口が連続して爆発した。
いつのまにかアルデバランの背後で、立ち上がったミストが両腕のレーザーガンを傷口へ向けている。
「外側が駄目なら、内側はどうだ…!!」
アルデバランの傷口に、無数のレーザーがリングによって方向を変え、殺到していく。
呻きながらもアルデバランはもがき、そして言った。
『まだだ…こんな所で私は終わらぬ!!人心を掌握し社会を掌握し、そして『王』の下へと到り…この世を古き神々で、支配するまではっ!!』
そして、再び雷撃を放とうと角を発光させた。
だが、アルデバランは気づいてしまった。
いつのまにか視界の真下に、テスタメントが屈んでいた事を。
鎌を振るう時間も雷撃を放つ時間も与えず、テスタメントは片腕を光らせる。
「…チェックメイトだ」
そして、光を纏ったテスタメントの片腕が、アルデバランの腹に突き込まれた。
『バ…カな…!!』
そのまま、テスタメントが片腕を振り抜く。
アルデバランの上半身は下半身と分割され、その胴体が地面に仰向けに倒れ付した。
翼は既に片方無く、そもそも彼の翼は飛べるようにできてはいなかった。
「全員、無事か?」
地面に横たわるアルデバランを見下ろしつつ、テスタメントはそう言った。
「何とかな…」
クロウはその場に立ち尽くしながら、口から流れた血を拳で拭きつつそう答える。ミストも無言だったが、身体の各所から煙を吹きつつも立ち上がっていた。
テスタメントはクロウに視線を向け、問いかける。
「脱出路の準備は?」
「済んでいる」
そうやりとりをかわしつつも、クロウは視界の端でミストがアルデバランにとどめを刺そうとレーザーガンを構えるのを見て取った。
だが、その耳に急にアルデバランの声が響き渡る。
『許さん…許さんぞ……貴様らも、道連れだ!!』
次の瞬間、アルデバランの頭部の角が発光する。
「ちっ!!」
ミストが引き金を引こうとするが、テスタメントがその手を止めた。
「もう遅い。下手な事をすれば逆に自爆されかねん。とっとと脱出する」
テスタメントがそう言っている間にも、アルデバランの角から発されていた光が、その頭部、そして上半身全体を包み始める。
「それに…どの道ここは崩すつもりだった」
危険だと思いながらもアルデバランの様子を眺めていたクロウは、そう言ったテスタメントの声に我に返った。
「お前が準備した脱出路だ。案内しろ」
クロウは発光するアルデバランを尻目に、脱出路へ走り始めた。
クロウは、事前にジャンク屋からドリルアームを買い取っていた。
本来ならば大型の接続機器に取り付けて作動させる代物で、数年前銀行強盗はこれを使って銀行の地下に穴を掘り、下水道と繋げて脱出路を作っていたものだ。
クロウは最低限の機能だけを搭載した部分を大型の鞄に入れ、この場に持ってきた。
そして爆弾でトンネルの入口が崩落したのをギリギリで巻き込まれないようにしつつ確認し、その後このドリルで脱出路を作っていた。
とは言え、銀行強盗の時の様に穴を掘った先に別の空洞が無ければ、脱出路の構築は数時間の時を要してしまうだろう。
だがそこは、ディエス達が事前にこの街の地下に広がる遺跡を調査し、トンネルの下にも遺跡が存在しているのを確認していた。
また、事前の段階ではこの脱出路の構築にトラブルが起こる事を考慮し、最悪クロウが戦力にならない事もテスタメントは計算に入れていた。結果としてクロウはミストよりも早く戦線に現れたのだが。
また作戦を聞かされた段階で、当然ながらクロウはテスタメントに異議を唱えていた。脱出路の構築という、この作戦において最重要ともいえる役割がクロウ一人に割り振られたも同然だったからだ。
「ディエス様の指示だ。お前に口を出す権利は無い」
異議に対して、テスタメントはこの一点張りだった。
クロウは今でも、協力関係を築いたばかりである自分にこんな大役を任せられた理由が分からない。
だが、そんな胸中の思いも突然背後から聞こえた轟音に吹き飛んでしまった。
視線を後ろに向けると、アルデバランの雷撃だけが見えた。
「振り返るな!走れ!!」
テスタメントの声も、雷が直接トンネル内に炸裂したかの様な轟音に掻き消される。
だが、既にクロウは自身が作り出した脱出路の目印を見つけていた。
トンネルの壁に『×』と刀で斬り付けておいた目印。その下の地面に、クロウはドリルで穴を開けていた。
幸いにも固い地盤に当たる様な事は無く、かなり深くまで掘らざるを得なかったものの、ドリルアームが高性能だったお陰で短時間で掘る事ができた。
ここは、ジャンク屋の腕に感謝しなければならない事だった。
そして、クロウ、ミスト、テスタメントの順で、穴に滑り込んだ。
埃の舞う、薄暗い遺跡の中。
濃い色をした土と天井。その天井に穴が開き、ほぼ垂直にトンネルに向かっている。
半ば飛び降りる様な動きで、クロウは遺跡内の床に着地した。続けてミストも着地すると、傍らの壁に背をついて片膝を付いた。
二人より少し遅れて着地したテスタメントは、即座に上を見上げる。
「お前達、少しこの穴から離れていた方がいい」
ポケットからサングラスを取り出して付けつつ、テスタメントはそう言った。
今も穴の先から轟音が響いている。おそらくアルデバランが最期の足掻きを続けているのだろう。
そして一際高い轟音が鳴り響いたかと思うと、土砂が穴から降ってきた。
その穴を観察するテスタメントとミストに、クロウは言った。
「ここから最短で地上に出られる経路を教えてくれないか」
視線を動かさず、テスタメントは言う。
「何故だ?」
「アルデバランの最期を見届けるだけなら、三人も要らない」
クロウの言葉に、ゆっくりテスタメントは彼に視線を向けた。
「自分の仕事の責任は最後まで持て、と言いたい所だがお前の意見にも一理はある。
それに、こうして脱出路の確保は確かにこなした。いいだろう、好きにしろ」
クロウは頷くと、無線機を取り出した。
そして遺跡内に置いておいたドリルアームを回収して鞄に入れるとそれを担いだ。
最終更新:2012年01月21日 23:46