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「面会時間は10分です。囚人の手錠は外しますが、監視カメラで見てますので、万が一何か起こった場合もすぐに警備員が駆けつけます」
職員の言葉を聞きつつ、男は椅子に座り、煙草に火を点けながら頷いた。
「いいですか?本来なら禁煙ですが、今回は特別です。従って灰皿は用意してませんので、灰は自分で処理して下さいよ。床は汚さないようにしてください」
「ああ。分かってるよ」
大儀そうに男は頷く。男の視線は、目の前にある真っ白なテーブルに止まり、そして真っ白な壁、床、天井へと駆け回った。
そんな男を、太った黒人の刑務官は呆れた顔で見つめる。
「で、その囚人はいつ来るんだ?」
「もうすぐ来ますよ。ここで待っていて下さい」
その言葉の数秒後、室内に二つあるドアのうち、彼らから離れている方のドアが開いた。
男に説明を行っていた刑務官と同じ制服を着た男が二人、一人の囚人の両側に立ち、その肩を持って歩かせている。
そして机を挟んで男の正面にその囚人を座らせると、その手にかけられていた手錠を鍵で外した。
「もう一度言いますが、10分ですよ。10分経ったらまた来ます」
「分かってるって言っただろ」
男が煩わしそうに返事をしたのを確認すると、3人の刑務官は部屋を出て行った。
男は、携帯灰皿に煙草の灰を落とした。

スーツの上から薄い茶色のコートを身に纏い、同じ色の帽子を被った20代後半の優男風の顔立ちをしたその男は、目の前の囚人を眺めた。
白い簡素な囚人服を着たその囚人は、まだ10代後半といったくらいの顔立ちをした女性である。髪は肩下まで伸ばした薄い茶髪で、瞳の色は灰色。
その灰色の瞳を持つ目は、まだ10代後半とは思えぬほどの鋭さを持っていた。
男は、机に広げられていたその囚人の資料を手に取ると、読み上げ始めた。
「シオン・フルート。歳は18。殺人未遂で2年前この刑務所に収監。懲役5年。1年前に脱獄したが刑務所内で捕縛されている。お前で間違いないな?」
シオンと呼ばれた女は、俯いて男を見てはいなかったが、短く頷いた。
そんなシオンの反応など気に留めないかのように、男は内ポケットから手帳を取り出してページを捲ると、話を続ける。
「まずは自己紹介と行こう。俺はクロードという者だ。ある男に雇われて、ここに来た」
何の為に、とでも言いたい様な視線で、初めてシオンはクロードと名乗った男を見た。
「お前と、ある取引がしたい」
訝しげなシオンの視線など意に介さず、クロードはスラスラと話を進めていく。
「とにかく10分しか時間が無いんで、質問は最後に受け付けるな。
お前の刑期はあと3年だが、俺が今回持ってきた仕事の報酬はその残りの刑期ってとこだ。
ただし、ちゃんと仕事をしねぇと刑務所に逆戻りだし、お前の私物も仕事を終えてからじぇねぇと返さねぇ。仕事の内容だが、お前が答えてから聞かせてやろう。どうだ?」
スラスラとし過ぎている説明に、シオンは混乱せざるを得なかった。
「…どうだと言われても」
「すぐには決められないか?だが生憎こっちも待ってやるほど時間は無い。
この時点で決められないなら俺は次の候補のところに行かせて貰う。さて、どうする?」
一瞬視線を下に泳がし、迷いを見せたシオンだったが、急にその視線を上げてクロードを睨んだ。
「オマエ、雇われてここに来たって言ったな。自己紹介もファーストネームだけ。
そもそも明確な職業も言ってないし、少なくとも公的機関の人間じゃないな。
…という事は、オマエの雇い主とかいう奴も公的機関の人間じゃない。そんな奴が私の様な囚人にやらせる仕事なんて、ロクでもないものしか思い浮かばない」
急に饒舌になったシオンの推理に、一瞬驚いたように固まったクロードだったが、深い溜め息を吐くと、言った。
「あのな、お前さんの頭の回転の速さはよく分かったが、自分の立場理解してるか?
別にお前に振る仕事が汚れ仕事だったとして、何か問題があるのか?こっちはお前に報酬を既に提示してる。お前はやるかやらないか、それだけ決めりゃいいんだよ」
「やる」
「だからこっちはシンプルに選択肢だけ提示してんだからとっとと…え?」
「やると言ったんだ。早く仕事の内容を教えろ」
あっさりと引き受けたシオンに、クロードは面食らった。

やっとシオンの意思を理解したクロードは、仕事の説明を始める。
「お前にやらせる仕事、それは…ディグアウトだ」
もったいぶった言い方をするクロードに対し、シオンは冷ややかな目で見るのみ。
「そんだけ頭が良けりゃ分かってたろ?それなりにリスクのある仕事だって。
お前には、ある遺跡をディグアウトしてもらう。まだ発掘途中の危険な遺跡だ」
そしてクロードは、遺跡の場所と、ディグアウトの開始が1ヵ月後である事、武器は当日支給されるという点を説明した。
「で、その武器なんだが、希望はあるか?」
クロードの言葉に、シオンは即答した。
「ナイフ」
「接近戦型な、了解した」
そう言うと、クロードは広げていた手帳を内ポケットに戻す。

「これで俺の説明は終わりだが、質問はあるか?」
クロードの言葉にシオンは頷くと、静かに口を開いた。
「報酬は私の刑期と言ったが…お前達は公的機関じゃないんだろ?どうやって…」
「ああ、その事か。そうだな…」
そう言うと、おもむろにクロードはくわえていた煙草を持ち上げた。
「例えばだ。この刑務所内は全館禁煙だが、俺はこうして平気で吸ってる。
看守も監視カメラでしっかりこの俺の様子を見てる筈だ。というかそもそもお前が入ってきた時点で俺は煙草を吸ってたろ?何で禁煙の場所で俺は堂々と吸ってると思うね?」
そう言って、煙草の灰を携帯灰皿に落とすクロード。シオンは自分の質問とは関係無さそうなこの質問に、抗議の視線と共に口ごもった。
「まぁそうむくれんな。つまりだな、お前の質問と、俺の今の質問の答えは一緒なんだよ。つまり…これだ」
そう言うと、クロードは片手の人差し指と親指で円を作った。
「…つまりオマエの雇い主はこういう事で自分が金持ってるって自慢してるのか」
「そういう事。次の質問は?」

「…何でオマエの雇い主は私を選んだ?」
「そんな事が気になるのか?」
そう言うと、クロードは再び手帳を広げ、ページに視線を落としつつ言う。
「実を言うとな、人員の選定自体、俺が雇い主から依頼されてるんだ。つまりお前を選んだのは俺って事」
そう語るクロードに、シオンは目を細める。彼の話は続いた。
「単純に、お前が強そうだったからさ。何でも、逮捕時に十数人の警官をぶっ飛ばしたそうじゃないか。死人は出さなかったみたいだがな?」
「…同時に相手したわけじゃない。逃げながら一人ずつ倒しただけ」
「でも何人もの警官と連続タイマンして勝ち続けたんだろ。十分だ」
クロードがそういい終えた時、刑務官がドアを開けた。
「時間です」
クロードは刑務官を一瞥すると、笑顔でシオンに手を差し出した。
「じゃ、1ヵ月後に会おう」
シオンは苦い表情で、渋々握手を行った。


それから1ヶ月の月日が経ち、シオンの出所の手続きがなされた。
本来ならここで返される筈の私物が返されず、更に刑務所を出た途端に黒いスーツを着た一味に拘束された。
頭から黒い袋を被せられ、車でどこかへ運ばれる。
袋が取られたのは、どこかの部屋の椅子に座らされた時であった。
「っ…」
急に照明の眩い光が目に入ってきて、たまらず片手で目元を覆う。
その部屋は、刑務所の部屋とは趣の180度違う部屋だった。
壁には金色の装飾が施され、床には複雑な模様の絨毯。片側の壁には大きな絵画が飾られ、天井には暖色系の照明が光っている。
そんなシオンの耳に、話し声が響いてきた。
「クロード、大丈夫なのかね。まだ年端も行かぬ娘ではないか」
「ただの年端も行かぬ娘が警官10人以上殴り倒せますかね?」
1ヶ月前に聞いた、クロードと名乗った男の声が、傍らから聞こえてくる。どうやら被せられていた袋を取ったのはクロードだったらしい。
「それに、刑務所で面会した時から感じたんですがね、目が違うんですよ。他とは」
「…私が受けた仕事はディグアウトだった筈だ。見世物にされるなんて聞いてない」
呻く様にそう言ったシオンは、ようやく眼が照明に慣れたのを感じると、目を覆っていた手を下ろし、クロードの雇い主を見据えた。

そこにいたのは、痩せこけた老人だった。
髭は長く伸びて口元を完全に覆い、顎の下まで伸びている。白い髪の毛も髭と同じくらいの長さで、簾の様に顔にかかっていた。
その身体にはファーの付いた裾の長いコートが着せられており、安楽椅子に座る彼の鼻や手首からはチューブが伸びて背後の点滴に繋がっている。
その目は真っ赤に充血し、その血走った緑の瞳はシオンを一心に見つめていた。
「紹介しよう。俺の雇い主、バーグ・グローリーだ」
「よろしく、シオン・フルート」
「…よろしく」
その老人の姿にシオンはたじろがざるを得なかったが、彼女は生唾を飲み込むと、かろうじて平静を保った。
「うむ…確かに目つきが違う。クロード、その子は人を殺したのかな?」
「未遂ですよ。誰も殺しちゃいません。発覚している範囲ではね」
クロードの言い方に、シオンは鋭い視線を彼に投げなければ気が済まなくなった。
そして実際に彼を睨んだ途端、バーグ・グローリーが感嘆の声を上げた。
「おおぉ。凄い殺気じゃ。これは認めざるをえん」
「だとさ。良かったな」
このやりとりで、シオンはやっと理解した。
どうやらこれが最終審査で、クロードはわざとシオンを怒らせたらしい。
こちらの反応を完全に利用されたのが腹立たしかったが、どちらにしろ認められたのだ。
「私はここにいつまで座っていればいいんだ」
傍らのクロードに訊く。クロードは、腕を組んで笑みを浮かべつつ答えた。
「焦るなよ。お前がここにいるのは今の最終審査と…」
クロードの言葉が終わらないうちに、室内の扉が開いた。

「失礼致します」
眼鏡をかけた若い男が入ってくる。執事の様で、黒いタキシードに真っ赤な蝶ネクタイという格好だった。
男は、台車を押して入ってくると、シオンの前に台車を止めた。
「シオン・フルート様の支給品をお持ちしました」
「…これは…」
台車の上には、アーマー一式がケースに入れられ乗せてあった。
「これからお部屋へご案内します」

そこはまるでホテルの一室のようだった。
衣装箪笥やベッド、傘の付いたランプなどが置かれていたが、窓は無い。
シオンを部屋へ案内すると、執事らしい男は一歩部屋から出て、頭を下げた。
「遺跡への出発は明朝6時となります。後ほど、お食事をお持ち致します。
何か御用がございましたら、私ブレア・バニッシュが承りますので」
ブレアと名乗った執事は、そう言うとドアを閉めた。
それを無言で見送ったシオンは、ベッドの横にある小さな机に視線を向ける。
机の上には置時計があった。針は12時を指している。彼女は、自分が出所したのが夕方だったのを思い出し、今が丁度日付の変わる時刻なのだと理解した。
最後に摂った食事は、刑務所での昼食だった筈だ。
それを理解した途端、腹が空いてきたのが分かった。

やがてブレアが食事を用意して戻ってきて、台車ごと置いて部屋から消えた。
あまりの手際の良さに、抗議の声を上げる暇すらなかったほどだ。
食事は、陶製の白い器に入れられた、トマトスープだった。
ジャガイモやタマネギなどが丁寧に切り分けられた姿で、スープに入っている。
食器はスプーンのみだった。おそらくフォークなどを用意した場合、それを凶器にして暴れられる可能性があるからだろうとシオンは推測した。
スープを一口啜る。スープのみで腹が膨れるとは到底思えなかったが、そんな思いとは裏腹にとても美味しく、その暖かさが全身に伝わるのを感じた。


翌朝。部屋に入ってきたブレアは、支給されたアーマーを身に着けたシオンを見て少々驚いたような顔をした。
「着方が分からないと思いましてメイドを呼ぶつもりでしたが、必要は無い様ですね」
「出発は6時と聞いた。ここから遺跡までどれくらいかかる」
ブレアは手帳を取り出すと、中に書かれた内容を読み上げる。
「ここから2時間ほどでございますね。生憎、グローリー様は無闇に場所を知らせたくない方ですので、また頭に覆いをしてもらう形となりますが」
ここに連れて来られた時の事を思い出し、シオンの表情は自然と不快そうに変わった。
それには構わず、ブレアは説明を続ける。
「ちなみに、おそらく遺跡に付くまで顔を見ることはできないでしょうが、あなたと同じように集められた囚人…いえ、元囚人の方々と一緒に移動して頂きますので」
「私はもう準備できてる。そっちも早く準備してくれ」
不機嫌そうに言うシオンに対し、ブレアは彼女を見て微笑した。
「昨日に比べ、今朝は調子がいい様ですね。口数も多くなっている様ですし」

昨日と同じように頭に袋を被せられ、シオンは移動させられた。
やがて外気が感じられるようになり、外に出たのが分かると、声が聞こえた。
「手錠は外しました。頭の覆いを取って頂いて構いません」
声を聞き、シオンは恐る恐る頭の覆いを取る。
そこは草も生えていない岩場で、背後を見ると大きな遺跡の入口があった。
遺跡の入口を囲むように岩の足場が広く存在していたが、その周りは海で囲まれていた。
どうやらここは岸壁の様だ。下の方から、波が岩に打ち寄せる音が聞こえる。
目の前に広がる海に陸地は見えず、ただずっと水平線が続いているだけだ。
その場には、4人の人物がいた。その中でも女性はシオンただ一人だけ。
彼女は一番後ろにいたためどの人物の顔も見えなかったが、どれもシオンと同じく囚人だったのだろう。背丈や体格の差があるとは言え、皆屈強そうな身体つきをしていた。
そして、彼らに向かい合うようにして、海を背にブレアが立っていた。
その手には、重そうな袋を持っている。
「これから、皆さんに武器をお渡し致します」
そう言うと、おもむろにブレアは袋に手を入れると、取り出したものを一番近くの男に投げ渡した。
突然投げられたその男は難無く受け取ったが、不快そうに鼻を鳴らした。
やがてシオンも武器を投げ渡される。それは、ビームサーベルの柄だった。
自分が注文したのはナイフだった筈だと、彼女は思い返す。
「(ナイフでは都合が悪い理由でもあるのか…)」
その答えは、最後の一人に大きなスコップが渡された後の出来事ですぐに分かった。
「おい、パシリ。分かってんのか?俺達にこれを渡した意味が」
見るからに柄の悪そうな男が、急にブレアに詰め寄る。
「ええ。無論承知しております」
「いいや、分かっちゃいねぇな。俺はこの7年ずっと娑婆に出たいと願い続けてきたんだ。
そんな俺に武器を渡すって事はだ。あんたを殺して自由になれるって事だ!!」
そう言った瞬間、男は支給されたバスターをブレアに向けた。
が、弾は出なかった。
「皆様の武器は、こちらの意向一つで使えなくできますので、あしからず」
そう言われ、ブレアに詰め寄った男は力無く後ろに下がるしかなかった。
そこに、別の男が声をかける。
「じゃあ、あいつに渡したのはどうなんだ。あれならあんたを撲殺できるぞ」
そう言って、男は最後の男に渡されたスコップを指差した。
「遺跡ですから、穴を掘る道具くらいは必要と思いまして」
眼鏡の位置を直しつつ、ブレアは言った。質問した男は微妙に納得していない表情だが、それ以上は追求しなかった。
ブレアが説明を続ける。
「それでは、ここに人数分のエネルギーボトルを置いていきます。
私はこの近くにある飛空船に戻りますが、何かあればすぐに戻って来れますので」

小型の飛空船が飛んできてブレアを拾い上げ、どこかへ飛んでいった。
それを見送った元囚人たちは、互いに顔を見交わす。
だが、シオンの顔を見た者が急に声を上げた。
「女だ!!」
それは先程ブレアにバスターを向けた男だった。
その声に、全員の顔が一斉にシオンの方へと向く。
「……」
そんな全員に対し、シオンはただ無言で殺気だけを周囲に放った。
そのナイフの様な殺気に、二人は口ごもったが、最初に声をあげた男だけはそれに気づかず、嫌らしい笑みを浮かべてシオンに近づいてきた。
「まさか女も参加してるとはなぁ」
その男の言葉を最後まで聞かずに、シオンは遺跡の方へ歩き出した。とっとと仕事を終えてこの男達から離れたいという思いが、彼女の脚を遺跡へ向かわせたのだ。
が、彼女へ歩み寄った男はそれで納得する筈も無い。それどころか、怒りを覚えたらしいその男は、更に彼女へ近寄ってきた。
「おい、お嬢ちゃん。大人の話は最後まで…聞くもんだぜ!!」
そう言ってシオンに飛びかかる男。だがそれを予想していたシオンは、振り向き様にビームサーベルを起動し、地面を蹴った男の鼻先に突きつけた。
出力を最低にまで弱めたビームサーベルの光る刀身が、男の視界に広がる。
慌てた様子で男は止まった。その額に脂汗が沸いている。
「…今ここで、あとほんの少し出力を上げれば、汚い串焼きが出来上がるな」
そう語るシオンの瞳にはほんの少し、狂気じみたものが宿っていた。

「いい加減にしろ、お前ら」
その時、もう一人の囚人が腕を組みつつ、呆れた目でシオンと男に声をかけた。
「それとそこの女。勝手に一人で行くな」
シオンはそう言った男に対し、敵意の目を向ける。
「私は私の好きにやる」
「いいや、そうはいかない。ただでさえ戦力が少ないんだ。それに考えてもみろ、わざわざ囚人を金で雇って探らせる遺跡だ。ただの遺跡でないことは目に見えている。どれだけ自信があるのか知らんが、お前一人で行けば碌な目に合わんぞ」
シオンから遺跡の入口へと視線を巡らせつつ、そう男は語った。
それまでシオンの中で、他の囚人に対する敵対心から苛立ちが沸いていたが、その男の話の説得力は、彼女の脚を止めさせるくらいはあった。
仕方なくシオンは、未だ目の前で釘付けになっている男の眼前からビームサーベルを外す。溜まらずその男はその場に尻餅をついた。
その様子に、シオンを説得した男は安心した様に表情を緩めた。
「それでいい。じゃあまず互いに自己紹介と行こうじゃないか」

「俺はダラスだ。よろしく」
シオンを説得した男は、愛想のいい顔で全員を見回す。長身で暗い青色のアーマーとヘルメットを纏っており、その顔は20代前半くらいで、とても刑務所出とは思えない爽やかな顔つきをしている。その手には長柄の棒を持っているが、どうやら先端からビームサーベルが出る仕掛けになっているらしい。
「エドガー。娑婆ではエドで通ってた」
シオンにビームサーベルを突きつけられていた男は、その場に座ったままそう言う。30代か40代くらいに見える子男で、顎に汚らしく無精髭が生えている。着ているアーマーとヘルメットは茶色で、武器は先程ブレアに向けたバスターであった。
「…シオン」
エドと名乗った男の後に最後の男が喋り出さないので、シオンは渋々名乗った。支給されたのは先程の通りビームサーベルで、アーマーの色は暗い赤色である。
が、シオンが名乗った後も、最後の男は喋り出さなかった。
「ん?どうした、喋るつもりも無しか?」
ダラスがその男に声をかける。その男はこの場の全員よりも背が高く体つきもがっしりしていて、まさに大男と言える風貌だった。
身長はおそらく190くらいあるだろう。顔も顎の形などががっしりしているが、どうやら顔つきからして20代後半から30代くらいの年齢のようだとシオンは思った。
その男の持つ雰囲気は独特で、周囲を自然と沈黙させるような何かを持っており、全身に纏ったアーマーとヘルメットが漆黒なのもそれを増強させている。
「(まるで…フランケンシュタインだな)」
シオンは男の外見を見てそう思う。その男が持っているのがスコップだという事も尚一層その印象を深くしていた。
「おい、頼むから何か言ってくれ」
うんざりした声でダラスが男に話しかける。それに対し男は、おもむろにアーマーから何かを取り出した。
全員が疑問符を浮かべる中、男は取り出したもの―ペンとメモ帳―で何事か書き込み、目の前に掲げた。
『喋れない。喉を潰している』
「喋れない。喉を潰している」
メモを凝視し、エドが読み上げる。ダラスは、笑いながら男の背中を叩いた。
「アッハッハッハッハ!それならそうと早く言ってくれ。と言うかあの執事もそれくらい言ってくれても良かっただろうに」
そんなダラスを意に介さず、男はただ黙々とメモ帳に何かを書き、再び掲げた。
『ヨハネスだ』

一通りの自己紹介が終わり、元囚人たちが遺跡の中に入っていく様子が、4つのテレビに映し出されている。
元囚人たちのアーマーには、彼ら自身には知らされていないが、超小型カメラが内蔵されていたのだ。
それを安楽椅子の上で眺め、バーグ・グローリーは口の中でもごもごと言った。
「今回こそ何か成果を掴んでくれるか…」
そんな主の様子を眺め、クロードは言った。
「ま、奴らなら遺跡の序盤は何とかクリアできるでしょう。エドガーは微妙ですが」
そしてクロードは、バーグに背を向けて歩き出した。
「まだ奴らが遺跡の奥に行くまで時間がかかる。ちょっと席を外します」
バーグはそんなクロードに一瞥を投げたが、すぐにまた画面に視線を戻した。

音を立てないように、バーグの私室にクロードは入って行った。
そして、バーグの机の上に散乱された新聞の切り抜きを一つ一つ、手に取って眺める。
「(律儀に自分への報道を残してるとは…大した自意識過剰ぶりだな、あの爺さん。
まぁいい。お陰でおさらいがしやすくなったってもんだ)」
そして、彼は切り抜きの中で一番日付が古いものを手に取った。
「(始まりは約1年前。この何も無いと思われた島に遺跡が見つかった時だ。
嵐の影響による津波で岩盤が砕かれ、内部にあったものが露出したと専門家は分析。
早速ディグアウターズギルドから一団が派遣され、島の所有者であるバーグ・グローリー氏に許可を得て、ディグアウトが開始された)」
やがて彼は次の切り抜きに手を伸ばし、読み漁る。
「(島の規模からしても大した遺跡ではないだろう。誰もがそう思っていた。実際、海に浮かぶ比較的大きな岩、ってのが適切なその島の認識だったんだから。
だが、その関係者の予測は見事に外れたってわけだ)」
やがてバーグの座る椅子に腰を下ろし、クロードは寛ぎつつも切抜きを読み続ける。
「(一団は一人を残して全滅。だがその生き残った一人はこう証言したらしい。これまで見た事も無い色をした巨大なディフレクターを見たと)」
ここでクロードは視線を入口へ向けた。だが、廊下に誰かがいる気配は無い。
「(だが、一団を全滅させたリーバードは相当凶悪な奴だったんだろう。再び新たな一団が組織され、遺跡に派遣されるが、半数が死に、残り半数が命辛々撤退した)」
そこまで読んだところで、クロードは切抜きとは別に置かれていた黒革の覆いがされたノートに手を取った。
その中には、震えた指で書かれたのか、不恰好な文字が並んでいる。
「(その流れの一方、土地の所有者だったバーグ・グローリーはディグアウターズ・ギルドとは別に、自らが雇うという形で遺跡を探る者を広く募り、派遣している。
今から2ヶ月前の事だ。だが、所詮プロには遠く及ばないアマチュアの集団だった。
結果は全員逃げ出すという惨憺たるもんで終わった)」
そう考えつつ、クロードは最後に近い位置までページをめくる。
「(バーグ・グローリーがそんな事をした理由は明白だ。最初に全滅した一団の生き残りが言ったディフレクター。これを自分のものにしたかったんだろう。
では何故ディグアウターズギルドを無視してまでアマチュアの集団を行かせるという強硬手段に打って出たのか)」
ノートに書かれた震える文字を、目を細めてクロードは眺める。
「(答えは簡単。奴には時間が無い事が今から3ヶ月前に判明したからだ。
奴の主治医は無慈悲にも余命半年と診断した。ま、この場合無慈悲なのは主治医でなく神だろうが。
で、1回目に失敗した奴は、今回囚人を使うという前回以上の強硬策に打って出たわけだ)」
ノートを閉じると、クロードは一番日付の新しい、そして一番クシャクシャにされている新聞の切抜きを手に取った。
「(だがな、ディグアウターズギルド側がバーグ・グローリーの動きを感知してない訳が無かった。奴らは次に島に派遣される一団の名簿を一般に公開。今度の一団は危険な遺跡を幾つもディグアウトしてきたプロフェッショナル達を中心に編成されている。つまり次で終わらせるという奴らの意思表示だ。何でもあの『青き英雄』まで名簿に載っている位だからな)」
やがてクロードは席を立ち、出口まで歩いて行った。
「(にしても、バーグも小心者だよな。そんなにあの遺跡の宝が欲しけりゃディグアウターズギルドの介入を土地の所有権限で断りゃいいのに、最初に許可しちまったからって何も口を出せないでいる)」
ドアを開け、部屋の中を一瞥しつつ彼は部屋を出た。
「(ま、俺は俺の目的さえ果たせりゃ後はどうでもいいがな)」


最終更新:2012年01月21日 23:39