途中までは岩と土の洞窟だったが、その先に遺跡と思われる砂色の入口が現れた。
「ここが例の遺跡というわけか」
ダラスが長柄の得物を肩に担ぎつつ、一歩前に踏み出して言う。
ヨハネスは相変わらず無表情で、エドガーは明らかに緊張したような表情をしている。
シオンは表情にこそ出してはいなかったが、片手に持ったビームサーベルをいつでも起動できるようにしていた。
そんな各々の様子を一通り眺めると、ダラスは遺跡の入口に向き直る。
「全員、覚悟はできているみたいだな」
そして、扉が開いた。
しばらくは狭い廊下が続いていたが、やがて広い部屋に出た。
本格的なスポーツでもできそうなくらい広い部屋で、規則的に太くて丸い石柱が床から天井を繋いでいる。
広い部屋だったが、向かい側、そして左右の壁の中央に計三つの扉が見えていた。
柱の森とでも言うべきその部屋を、全員は周囲に気をつけつつ進んでいく。
彼らが部屋の中央付近まで進んでいった所で、変化は起こった。
「っ!!」
最初に立ち止まったのは口の利けないヨハネスだった。
それとほぼ同時に、何かが地面を蹴る音が聞こえた。
そして、ガシャリガシャリと金属的な足音。
「な、何だ!?」
周囲に視線を巡らせつつ、エドガーが言う。
だが、周囲には石柱があるばかりで、リーバードの姿は見えない。
「ステルスシャルクルスだな…しょっぱなから厄介なのがくる…」
エドガーと同じように周囲に視線を巡らせ、ダラスが呟いた。
「ステ…何だって…!?」
「ステルスシャルクルス。姿が見えないリーバードさ。鋭い爪を持ってて、人間を串刺しにしてくる奴だ」
ダラスの説明を聞いて、エドガーは泣きそうな声を上げた。
「そんなのとどう戦えってんだよ!?」
「音が反響してるせいで数も分からないな…」
独り言のように呟くダラス。その時、これまで喋っていなかったシオンが言った。
「…来る」
次の瞬間、彼女はビールサーベルを起動し、振るった。
下から上に放たれた斬撃。全員が視線をシオンの方に向ける。
次の瞬間、腕から分断されたシャルクルスの爪が、全員の中央に舞った。
もうシャルクルスの姿は現れている。シオンは相手に次のモーションを出させる前に、上段から袈裟斬りにその身体を切り裂いた。
シャルクルスの斬り裂かれた身体の部品と、ディフレクターがその場に散乱する。
それを見つつ冷静に、ダラスは言った。
「一匹仕留めたな。だがまだ残っているようだ」
ダラスの言う通り、室内にはシャルクルスの足音が響き続けていた。
『あと4体だ』
急にヨハネスが、そう紙に書いてダラスに渡した。
「…分かるのか?」
ダラスの問いに、ヨハネスは僅かに頷く。
「よし、散らばるぞ!俺とエドガー、シオンとヨハネスの二人ずつで互いの死角を補い、周囲を警戒しろ」
そう言うと、ダラスはエドガーと背中合わせになるよう移動した。ヨハネスもそれに続き、シオンの背中側に移動する。
「おい、いくら死角を無くしても、相手は姿が見えねぇんだぞ!」
「幸い部屋が柱で区切られてる。柱の間の空間にバスターを撃て。
聴覚に集中しろ。接近してきたと思ったら撃ちまくれ!!」
早口でアドバイスを続けるダラス。その言葉に勇気付けられたのか、エドガーはバスターを構えなおした。
その様子を横目で見つつ、シオンは再びビームサーベルを構えた。
確かに室内は足音が反響している。一定間隔ごとに設置された太い柱のせいで厄介な反響の仕方もしていた。
シオンは背後のヨハネスを一瞥すると、敵の接近を待った。
動いたのは背後のヨハネスの方が先だった。
おもむろに片手で持っていたスコップの柄を両手で掴むと、前方に掲げる。
次の瞬間、シャルクルスの爪をスコップが見事に受け止めていた。
そのまま掬い上げるように爪を上方へと弾き飛ばし、それからシャルクルスの頭部へスコップを叩きつける。
シオンは目を丸くした。これまで、スコップで本格的に戦っている者など見た事が無かったからだ。
スコップを叩きつけられたシャルクルスは地面に倒れ、動かなくなっていた。
その時、シオンはヨハネスの目が自分の方を見ているのに気づく。警戒の眼で。
それで、既に自分にもシャルクルスが接近している事に気づいた。
「くっ!!」
瞬間的に身体を横に動かす。数秒前に自分の顔があった所に、シャルクルスの爪が伸びてきていた。
「このっ!!」
反射的にビームサーベルで、シャルクルスの頭部を斬り裂いた。
自分が気を抜いてしまった一瞬を見られた気恥ずかしさからか、苦々しい顔でシオンはヨハネスを見る。
が、ヨハネスは、いつの間にか二人から随分離れた所にいたダラスとエドガーの方を見ていた。
シオンもそちらへ視線を向けると、ダラスが大立ち回りを演じていた。
ダラスとエドガー、それぞれを一体ずつシャルクルスが狙っているようだ。
エドガーが慌てた様子でバスターを連射し続ける。シャルクルスの一体は時折姿を見せつつ、エドガーのバスターを避け続けていた。
ダラスは接近するシャルクルスの足音を冷静に聞き、長柄のビームサーベルを構えた。
そして、次の瞬間にはシャルクルスを、ビームサーベルの刀身で串刺しにしていた。
だが、凄いのはそこからだった。
「ひいいいぃぃぃぃ!!」
エドガーに接近するシャルクルスはバスターを避け続けながら、次第に距離を狭めてくる。ダラスはエドガーと背中合わせになっているので、すぐにはそちらに対応できない。
だがここでダラスは、シャルクルスを串刺しにしたまま長柄のビームサーベルを持ち上げ、そのままエドガーの方へ振り下ろしたのだ。
結果、串刺しにされたシャルクルスの身体に、エドガーへ接近していたシャルクルスが丁度押し潰される形となった。
「これで一丁上がりだな」
爽やかにダラスが言いのける横で、エドガーはぜいぜいと肩で息をしながらその場にへたり込む。
「そっちの二人も無事だな。さて、進むか?それとも休むか?」
ダラスがそう言った時だった。
急にその場に振動が起こったかと思うと、室内に変化が訪れた。
部屋を二分するように、中央の列になっている柱同士の間に電磁バリヤーが張られた。
「なっ!!?」
「っ…!?」
ダラスとエドガー、シオンとヨハネスは、バリヤーによってその組に分断されていた。
バリヤーのバチバチとした音が、室内に響き続ける。
「おい、どうなってんだこれ…!?」
呆然とエドガーがその光景を見て、言う。
「どうやらシャルクルスを倒したら発動するようになってたみたいだな…」
そう呟くダラスを他所に、シオンはビームサーベルを起動し、バリアーの間近まで歩いてからその中に突き入れた。
だがバチリと激しい閃光と衝撃音と共に、ビームサーベルは弾かれる。
シオンの向かい側まで歩いてきたダラスは、言った。
「無駄だ。どこかで解除しないとここは通れんだろう。どうする?」
ダラスは最初に見えた出口の方を、シオンはこの部屋に入ってきた入口の方を見た。
どちらも、その周りの柱と壁にバリアーが張られ、通れなくなっている。
「二手に分断されて、通れる道は二つだけ。やるべき事はもう決まっているだろう」
そう、最初に部屋に来た時に見た左右の壁にある扉。今はこの二つだけが行く先だった。
「いいのか?どう考えても罠だぞ」
ダラスの問いに、シオンはそっけなく答えた。
「ここで餓死するよりマシ」
そしてシオンは踵を返し、扉へ向かう。ヨハネスはダラスに頷くと、シオンを追った。
扉の奥には細い廊下が続き、その先はエレベーターになっていた。
二人がそれに乗ると、エレベーターは段々と速度を速めて下がっていく。
その時、急にヨハネスがシオンの肩を叩いた。
「…?」
鋭い目で睨むシオンに、ヨハネスは言葉を書いた紙を見せる。
『生き残れると思うか』
その言葉をしばし見つめていたシオンだったが急にヨハネスから顔を背けると、言った。
「どうでもいい」
そんなシオンを、ヨハネスは眺めていた。
エレベーターの先にはまた細い廊下があり、その先には部屋があった。
先程の部屋と同じくらい広く、柱は無い。
入口の向かいの壁際に、コントロールパネルが置かれている。
「あれでバリヤーを解除するという事か」
シオンはそう呟きながら、コントロールパネルに向かう。
勿論警戒しながら歩いたが、リーバードは出てこなかった。
ヨハネスが周囲を警戒する間に、シオンはコントロールパネルを操作し始める。
どうやら、この場所からは上階のバリヤーのうち半分しか解除できないらしい。
おそらく、もう半分はダラスとエドガーが行った先で解除できるのだろうとシオンは推測した。
そして、バリヤーの半分を解除する。
次の瞬間、二人のいる部屋の中央に、巨大なリーバードが地面から現れた。
「やっぱり…何も無いわけが無いか!!」
そのリーバードは両腕に巨大なハンマーを持つ、ハンムルドールと呼ばれるリーバードに酷似していた。
だが、脚部が違っている。蟲の様な節くれだった足が六本、胴体から生えて地面に突き刺さっていた。
巨大なリーバードはその六本の足を動かし、二人に向かってハンマーを振り上げた。
「なぁエドガー、何の罪でムショに入った?」
細い廊下を歩いているダラスは、得物を肩に担ぎつつそう言った。
小柄なエドガーはその横で、不愉快そうな顔で答える。
「何だ藪から棒に…ケチな強盗だよ。そういうお前は何でムショに入った?」
「そうだな…俺は元々ある会社の経理係だったんだが、会社ぐるみでやってた脱税がある時警察にバレてな。社長をはじめとした幹部連中は、全ての責任を俺に押し付けた。その結果がこれさ」
ダラスが語っている間にエレベーターが彼らの視界に現れ、二人はそれに乗った。
エレベーターが下方へと移動していく。
「意外だな。経理係にしちゃさっきの闘いじゃ大立ち回りを演じてたじゃないか」
「元々、趣味でディグアウトを齧ってたんだよ。ライセンスも持ってる。もう15年にはなるかな。学生時代からディグアウト関連の雑誌を読み漁って、就職して収入が安定した頃から装備を買い漁ってはそれほど危険の無い遺跡に潜ったりしてた。7、8年も経つともっと危険な遺跡にも出向くようになってな。多分脱税の件が無かったら俺は趣味のディグアウトで死んでたと思う」
そこまで語ってから、ダラスは苦笑しつつこう締め括った。
「そう考えると、俺に責任押し付けた連中には感謝すべきかな」
「おいおい、凄ぇな。世の中ディグアウトだけで食ってる奴はごまんといるのに、会社で経理やりつつディグアウトするなんて奴初めて見たぜ」
エレベーターが到着した。
その先はまた細い廊下で、二人は話しつつゆっくりと進んでいく。
「そういうあんたは、何で強盗なんかやらかした?」
「お前さんとじゃ住む世界が違うらしいな。俺は無職で、金が欲しくて仲間と一緒に商店のレジスターをかっぱらう日々だったよ。しまいにゃ警察に追われ、俺だけ転んで仲間が逃げ去る後ろで警察に取り押さえられてた。そんなだから警察の尋問に耐えられる筈も無く、仲間を売っちまって、今じゃムショには俺に復讐したい奴らが結構いる」
エドガーの話に、ダラスは愉快そうに笑った。
「ハッハッハ!どうやら住む世界は違ったようだが、仲間から見捨てられたって点は同じようだな。悪い、この遺跡に入る前にあんたがあの嬢ちゃんに言い寄ってたの見た時、あんたをただの下種野郎と思ってたんだが、意外と俺ら似たもの同士だったんだな」
ダラスの爽やかな笑みと貶してるのか同情してるのか分からない発言に、エドガーは複雑な表情を浮かべた。
やがて廊下の先には扉があり、二人はそこを抜けて広い部屋に入った。
部屋の向かい側にコントロールパネルがあるのを見て取ったダラスが言う。
「どうやらあれでバリアーを解除するようだな」
しかし、そう言ったダラスは動かなかった。
「どうした?」
そんなダラスの表情を窺いエドガーが問う。ダラスは首を傾げつつ答えた。
「いや、この部屋の広さを見てみろ。操作パネル置くには広過ぎると思わんか?」
「…確かに。罠って事か?」
「だろうが、あの操作パネルからしかバリアーを解除できないのも確かだ。つまり…」
「…つまり?」
「死ぬかも知れねぇから覚悟しとけって事だ」
ダラスの言葉にエドガーは絶望的な表情を浮かべる。
「マジかよ…!嫌なこった!!」
「だが向こうの部屋の出口もバリアーが張られて脱出できない。てことはバリアー解除しない限り餓死するしかないぜ?」
「外にゃ俺らを送り込んだ奴らがいる!そいつらが」
エドガーの言葉が終わらないうちに、ダラスが突き放すように言った。
「助けてくれる、か?こういう事が起こった時に助ける必要が無いから、刑務所送りになった俺らに危険な遺跡をディグアウトさせてるんだと思ったんだが、違うのか?」
エドガーは何か反論しようとしたが、何も言葉が出てこないらしかった。
そして、やがて顔を上げ、エドガーは言った。
「わかったよ。腹括る。さっさとあのバリアー解除してくれ」
「了解した。俺がバリアー解除した途端逃げるとかは無しだぜ?」
エドガーが頷く。ダラスは得物を肩に担ぐと、操作パネルに向かって歩き出した。
巨大なハンマー状の腕が地面に振り下ろされる。
シオンは左に跳び、ヨハネスは右に転がって避けた。
ビームサーベルを構え、シオンはリーバードが次にどんな挙動をするのか観察する。
リーバードは無数の脚を器用に動かし、瞬時にシオンの方へ身体を向けた。
その回転の速さは、シオンの予想を遥かに上回っていた。
「くっ!!」
危険を感じ再び跳ぼうとするシオンだが、その時リーバードの身体がガクリと傾いた。
見ると、ヨハネスがスコップで、リーバードの脚の一つをへし折っていた。
「(なるほど…小回りは効くが反面、脆いのか…!)」
そう頭の中で結論を出しつつ、シオンは前転を行い、その勢いのままビームサーベルでリーバードの脚を切り裂いた。
だが、まだ四本の脚が残っている。リーバードはこれ以上脚を落とされまいと、再び身体を回転させてシオンとヨハネスに向き合った。
次の瞬間、リーバードの肩部が変形し、細い砲塔が出現した。
「っ!!?」
反応する間も無く、砲塔が火を吹き、辺りが爆発する。
咄嗟にヨハネスは横へ転がり、シオンは後ろへ跳んだ。
だがシオンは、その選択が間違っていた事を思い知った。砲塔は更にシオンの方へ向けて砲撃を続けてきたのだ。
咄嗟に腕で顔を庇ったシオン。次の瞬間、その彼女の身体に砲撃が着弾した。
鞠のように軽く吹っ飛ばされたシオンは、意識が朦朧としながらも身体を起こす。
そんな彼女の前へ、既にリーバードは接近していた。
「!?くっ…!」
今度は避ける暇も無く、リーバードは腕を彼女に振り下ろす。
死を覚悟したシオンは、たまらず目を瞑った。
だが、衝撃はやってこない。恐る恐る目を開けると、ヨハネスが両腕で掴んだスコップの柄で、リーバードの腕を受け止めていた。
「っ…!!」
次の瞬間、砲塔の片方からの砲撃がヨハネスの胴に直撃し、ヨハネスは血を吐き出した。しかし、彼はその場から一歩も動かない。
「…う…ああああぁぁぁぁ!!」
シオンは叫びながらビームサーベルを起動し、ヨハネスの身体を回り込んでリーバードに接近した。
突如動いた標的にリーバードが反応できる暇も無く、シオンは跳んだ。
そのままリーバードの身体を駆け上がり、その瞳にビームサーベルを突き入れた。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」
崩れ落ちるリーバードを背に、シオンは膝をついているヨハネスに近づく。
「…大丈夫か」
その声は言葉とは裏腹に、あまり感情が篭っていなかった。
だが次の瞬間、シオンは自らも膝を折ってヨハネスと同じ目線になると、彼を睨んだ。
「…何で私を助けた。それでオマエが死んだら意味が無いだろ…!」
その言葉には、幾分かの怒りが篭っている。
そのせいなのか、ヨハネスはそのまま仰向けに地面に倒れた。
そしてペンとメモ帳を取り出すと、その体勢で何事か書き綴る。
シオンは渡された言葉を見た。
『お前は、死にたがっているように見える』
「…それがどうした…オマエには関係ない!」
投げるような勢いで突き返されたメモ帳を受け取り、ヨハネスは再び言葉を書き、シオンに見せた。
『何故お前がそんな心境にいるのか俺は知らない。
だが、まだお前は若い。この先に未来もある。死ぬ必要など無い』
シオンは、再びヨハネスを睨むと、吼えるように叫んだ。
「関係ないって言っているだろう!オマエみたいな…オマエみたいな奴がいたせいで、私は今独りなんだ!!」
ヨハネスは冷静な目でシオンを眺め、しばらく考えてから再びメモ帳に言葉を書いた。
『そうだな…きっと俺のような不器用な人間が、知らずに人を傷つけるのだろう。だが覚えておいてほしい。お前の言う「俺のような奴」もきっと悔やんでいるだろう。お前を傷つけてしまった事に』
「…知った風な…知った風な事を言うな…」
拒絶の意思を込めた言葉。だがシオンの頬には、涙が流れていた。
「そっちもボロボロだな」
バリアーの張られてあった部屋に、シオンとヨハネスは戻ってきた。
ヨハネスの傷が酷かったので、シオンはその肩を支えてやっている。
部屋には既にダラスとエドガーも戻ってきていた。こちらも同じように、今にも倒れそうなエドガーの肩をダラスが担いでやっている。
二人ともボロボロでアーマーの各所が黒く焦げ、ダラスは口の端から血を流し、エドガーに至っては顔全体が血塗れとなっていた。
「…そっちも、今にも死にそうな顔だ」
ダラスにそう言いながら、シオンはバリアーに阻まれていた奥の扉を見た。
「序盤の時点であれほどの勢力が攻めてきたんだ。これ以上進めば命は無いだろう」
力無くダラスはそう言った。
「でも…何の成果も出さないと刑務所に逆戻りだ」
「一旦ここで休もう」
そう言うと、ダラスはエドガーをその場に座らせる。そのエドガーは見るからに虫の息で、意識を保っているのかも怪しく見えた。
シオンもゆっくりヨハネスの身体をその場に座らせる。
ヨハネスは座ると、メモ帳にまた何事か書き込んだ。
『俺は大丈夫だ。行くというのならついて行こう』
「無理するなヨハネス。あんたもそうしてるのがやっとに見える」
ダラスの言葉に、ヨハネスは自嘲気味に口元に笑みを浮かべる。
それを眺めてから、全員を制するかのようにダラスは一際声を高くして言った。
「なぁ、確かに刑期を今日までにしてくれるってのは魅力的な提案さ。刑務所は飯も不味いしどこに行ったって汚い。一分一秒でも早く出たいと思うのも無理はない事だろう。だがそれ以前に、命あっての物種だとは思わんか?なぁ皆、ここで無意味に、死ぬか生きるか大博打を打つのと、刑務所で何年か待ってから外に出るのと、どっちがいい?」
「お、俺は刑務所に戻るのに賛成だ。もうリーバードなんざ見たくねぇ…」
ダラスの言葉に、意識を保っているか怪しいと思われたエドガーが意思を表明する。
「ヨハネス、お前さんは?」
ダラスの質問に、ヨハネスがメモに書き込んだ。
『脱出するというのなら、俺も反対するつもりは無い』
「決まりだな。脱出するぞ、皆」
ダラスの言葉に、安堵の雰囲気が全員を包んだ。
シオンを除いて。
「おいシオン。どうした?」
突然立ち上がったシオンに、ダラスが戸惑いの声を上げる。
シオンは部屋の奥の扉を見つめ、言った。
「私は…無駄に生きるより、命を懸けて戦う」
「おい…何を馬鹿な事を…」
ダラスの言葉にも構わず、シオンは歩き出した。遺跡の奥へ向けて。
「おい、どこへ向かってる!?そっちじゃない、戻れ!」
ダラスの言葉に、シオンは歩き続けながら、言った。
「私は、気高く生きたかったんだ!これが最後のチャンスなら、答えは決まっている!」
そして、シオンは奥へ続く扉を開け、進んでいった。
見送ったダラスは、呆れた目で扉を眺め続ける。
「あいつも何か訳アリか…馬鹿な女だ。
よし、全員脱出するぞ。準備はいいな?」
最終更新:2012年01月21日 23:39