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広い部屋だった。幾つかの広いテーブルと椅子が置かれている。照明は灯ってはおらず、室内は暗闇だった。
ドアの向かいにある壁際には、幾つかのカプセルが置かれている。
その中で、真ん中の一つのカプセルの内部だけがライトに照らされていた。
そんな部屋に、一人の科学者が入ってきた。
白衣を纏い、片眼鏡を付けた、金髪で長身の男。
彼は入ったと同時にカプセルの異変に気づき、しかしゆっくりとした歩みでそのカプセルの前まで行った。

カプセルは、割られていた。

その科学者が声を発しようとした途端、暗闇から伸びた手がその喉元にメスを押し付ける。
そして、その手の主は言った。
「誰だ。ここは、どこだ」
だがその科学者は、全く動じる様子も無く答える。
「これは驚いた。その身体でよくここまで」
「答えろ」
科学者はゆっくりと、言った。
「ここは地下にある、私の研究室だ」
「出口はどこだ」
彼の言葉に科学者は薄く笑みを浮かべ、言う。
「廊下に出ればすぐそこにエレベーターがある。そこから地上に出れる」
そう言うと、手の主が何か言う前に、科学者は言った。
「室内は調べたかね?そこのテーブルの上に必要なものが入った袋がある。出て行く気なら、それを持って行くがいい。その様子じゃ、まだ服すら着ていまい、少年よ」
科学者の言う通り、まだ10歳にも満たぬその手の主―少年は裸のまま、科学者の背後で彼の首筋にメスを突きつけていた。長身である科学者の首に手が届いているのは、手の主が手近なテーブルの上に立っているからだ。
「今の君の事情、これから君にしてもらいたい事、全てその袋の中に書かれている。従うかは君の勝手だがね」
そう言われた少年は動かぬまま、視線のみをテーブルの端に置かれた、その袋に向ける。
「それと一つ言っておく。君が死んでいた間に、ヘブンは滅んだよ」
科学者のその言葉に、返事は無かった。
だがやがて、彼の耳元に、声が聞こえた。
「邪魔したな」
その途端に、科学者の首元に突きつけられていたメスが離された。
手からも放したのだろう。金属的な甲高い音と共に、床にメスが落ちる。
科学者が振り向いた時、少年の姿は既に無かった。無論、テーブルにあった袋も。
「フフ・・・また会おう」
科学者は開いたドアを眺め、微笑みながらそう言った。


最終更新:2012年01月29日 22:44