戦闘開始の号砲となったのは銃撃音だった。

 彗星の手にした拳銃から、ミアージュに弾が放たれる。同時に、レイヴンとレイスが地を蹴って飛び出した。
 ミアージュは彗星のターゲットにされる事を予想済みだったのか、瞬間的に正面に鏡を展開して銃弾を吸収した。
 ――銃弾は一瞬遅れて、彗星ではなくレイスのすぐ真横に出現した鏡から放出された。 だがそれに反応できないレイスではないようで、銃弾を鏡ごと剣でぶった切る。
 レイヴンはそのタイミングにあわせ、翻ってレイスに刃を振るう。 無論、それすらもレイスは刃を返して受け止めた。
「――思ったより早く、お前さんとこうして再び会いまみえる事になるとはな」
「今度は見逃す気はないぞ、今のところ」
 死神と黒鳥が刃を交わし、目線を交わし、言葉を交わす。
「はは、ソイツは好都合だ。 …今度の俺に油断はない!」
 黒鳥から笑みが消える。 同時に、レイスに受け止められた刃を片腕で強引に巻き上げて弾く。
 それが少し意外だったらしく、レイスは顔にわずかに驚きの色が表れた。 以前に剣を合わせたときは、簡単に押し切れた相手だというのに――
「へぇ…」
「言っただろう、油断はないってな!」
 弾きあげた直後、即座にレイヴンはもう片手で、懐からリボルバー銃を構え発砲する。 身体を捻って回避するレイスだが、弾はわずかに身体を掠めた。

「私も。。。います!」
 巨大なハンマーを振り上げ、ミアージュが鏡でレイスの真横に出現する。
「…ぁははははははは!」
 さも楽しそうに、レイスが振り下ろされたハンマーを大剣で切り払って弾く。 その勢いでもう一回転してミアージュを切り裂こうとするが、翼を広げたレイヴンが再び割って入り、勢いを乗せた剣を短剣で受け止めた。
「レイヴン。。。さん。。。」
「悪いが、彼女を殺らせる訳にはいかない」
「前に会った時とはまるで別だな。 どんな小細工をしやがったんだ?」
 レイスのその問いかけに、レイヴンはニヤリと哂って答える。
「忘れかけていた感覚を思い出しただけさ!」
 レイヴンは今一度レイスの斬撃を弾き飛ばす。

 ――レイスがレイヴンにもたらしたのは恐怖。 恐怖に立ち向かう為に覚悟を持ち、捨て去るべきを捨て去る。
 以前はレイスが女性であったゆえに本気を出すつもりはなかった。 それで命を落としたとしても、レイヴンはその事を悔いる事はなかっただろう。 だが、今は違う。
 …もちろん、レイヴンが以前レイスと対峙したときと違うのはそれだけが理由ではないのだが。

「当たれッ!」
 彗星が再び発砲する。 今度はミアージュではなく、レイヴンに向けて。
 だが今のレイヴンは、その銃弾すらも短剣を振るって弾き、軌道を明後日の方向へと逸らした。 それが出来るほどの集中力と力が備わっている。
「…なるほどなぁ。 懐にしまってるモノのお陰かよ、レイヴン」
 着地したレイスが見透かすように言った。
「やれやれ、ご名答だ。 …言っただろう、お前さん相手に油断はない。 全力でかからないとな」
 答えながら、レイヴンは懐から紫に輝く珠を取り出す。 ――命の珠だ。 持ち主に劇的な強さをもたらす代わり、引き換えに生命を削られていく魔性の珠。
「! 。。。それは。。。」
 …ミアージュはそれに気付いていなかった様子で、レイヴンがそれを取り出した瞬間に小さく声をあげた。
「ミアージュ。 …あとで何と言ってくれても構わないが、彼女は俺が仕留める」
「。。。。。。。。。」

「あぁ、もう! どんな超人対決よ!」
 彗星は半ば嫌気が差したような発言をしつつ、小気味よく二回発砲する。
 ミアージュはまたそれを鏡で吸収、放出した。 今度は、彗星の真後ろに出現した鏡から。
「おい、彗星!」
 レイスが叫んだときには、すでに若干遅かった。
 真後ろに出現した鏡に反応するのが遅れ、彗星の背に銃弾が二発撃ち込まれる。 衝撃で前によろけ、彗星の身体はうつ伏せに倒れこんだ。

「。。。これで。。。 邪魔も入らないし、あの人に私を狙う理由が出来ました。。。」
「…ミアージュ、お前さんまさか――」
 静かに言うミアージュに、レイヴンは何かを察する。
「レイヴンさんに死なれたら困ります。。。二人で打ち倒して、生き残るのです。。。」
「いい度胸だ、ラブラブカップル。 面白い、こっちも生き残らなきゃならないから叩き斬るぞ!」



 岩陰の傍観者は、気がついていた。 彗星がまだ死んでいないことに。
 撃たれた彗星は、思っていた。 みろるんハァハァ、みろるんマンセー、みろるんの為ならしんでもいいがそれ以外にただ殺られるのは納得が行かないと。

「さて、まだまだ行くぜ!」
 レイヴンがレイス目掛けて真正面から疾走する。 レイスは迎え撃とうとして――妙な違和感を覚える。レイヴンがただ真正面からそのまま突っ込んでくるとは思い難いからだ。
 …そして気付く。 なるほど、真正面からむかって来るのはダミー――影分身だ。
「つまらない小細工しやがって、本命は――」
 レイスは自分の真後ろに何かを察知し、振り向くと同時に切り払う。 高速でレイス目掛けて飛んで来たそれは……グシャ、と安っぽいプラスティックの破壊音を立てて粉々に砕けた。 
「アヒ…ル?」
 アヒルのオモチャだ。 間違いない、黄色いボディにパッチリおめめ、愛らしいくちばし…が、無惨に砕けた姿。 可哀想にー―
 …ではなくて、これもまたダミーと言う事は――
「残念、正解はこっちだ!」
 真上からレイヴンが襲撃する。 影分身と同時にミアージュの鏡の中に身を隠し、持っていたアヒルのオモチャだけ背後に投げ込み、レイヴンは真上から現れた。
 落下しながらリボルバーで牽制射撃を行う。 レイスは最低限の動きで回避するが、レイヴンはそのわずかな隙にタイミングが合うよう射撃を行っている。
 レイヴンの短剣でのひと薙ぎを当然レイスは受け止めるが、それを見越して着地と同時にレイヴンはレイスに脚払いをかける。 流石にきれいに転んだりはしないが、レイスはかわしきれずわずかに体勢を崩した。
 そこへミアージュ。 ハンマーを下方から振り上げるようにレイスに食らわせる。クリーンヒットではないが…レイスは受けきれずに軽く吹っ飛ぶ。

「っつ… やってくれたな!」
 レイスの表情が歪んでいるあたり、今の一撃は多少なりともレイスに効いたらしい。
「少しは。。。勝ち目が見えてきました。。。」
「まだだ、ミアージュ。 止めを刺せるまで油断せずに――っ…」
 言いかけて、レイヴンはわずかに目眩を覚える。 呼吸が荒い。身体に伝わる自らの心拍が異常を告げている。
「…ああ、成る程な。 こっちが痛い思いしてる分、そっちも命削ってるんだっけなぁ」
「……なに。コレぐらい掛ける物がなきゃ、お前さんには勝てないと思ったモンでな」
 何とか呼吸を落ち着かせ、レイヴンは返した。 だがその額にはじっとりと汗がにじみ、明らかな消耗を顕わにしていた。
「だったら、後は私が粘ってるだけでお前は珠に命削られて自滅確定…だな」
 嘲うようにレイスが言い放つ。 それを聞いてか、ミアージュはレイヴンの前に出て巨大ハンマーを構えなおした。
「。。。レイヴンさん、後は。。。私が。。。」
「…ソイツは見過ごせないな。 彼女は俺が仕留める、そう言った筈だ」
 あくまで平静に、レイヴンはミアージュを遮るように立つ。
「でも。。。。。。」
「それに、だ。 まさかお前さん、しにぞこない相手に怯えて縮こまってる訳じゃないよな?」
 レイヴンがレイスを挑発するように言う。 …いや、これはまさに《挑発》である。

「安っぽい挑発だなー…  いいぞ。乗ってやるよ、しにぞこないが!」
 そう言って、レイスが剣を構えて突っ込んでくる。 ――ミアージュに。
「。。。っ!!」
 突き出された剣を、ミアージュはハンマーの頭部分で受ける。衝撃でミアージュ自身吹き飛ばされそうなその突きは、頑丈なハンマーヘッドに剣が突き刺さる程だった。
「――伸びろ!」
 ハンマーに突き刺さったまま、剣が強引に伸びてハンマーヘッドを貫通する。そのまま先にあったミアージュの顔面を――
「ぉぉぉおおおおッ!!」
 寸前でレイヴンが剣の腹に拳を突き上げ、その切っ先をわずかに跳ね上げた。 衝撃でレイヴンの左の拳が砕けかけたが…
 レイスはというと、跳ね上げられた剣をそのまま返してレイヴンに振り下ろす――つもりだった。 だが、レイヴンの壊れかけの左手が、そのまま刃を掴んで食い止めていた。
「おまっ…! 正気か!?」
「残念だが、愛に狂った生き方が好きなモンでな!」
 当然だが、そんな状態が長く持つはずはない。 じりじりと左腕が押されながらも、レイヴンは右手の短剣をレイスの右腕に突き立てた。
 ぐぅっ、と小さく悲鳴がレイスから漏れる。 同時に力が緩み、レイヴンの左腕がわずかに剣を押し返した。

「さて、と…質問だ。 ……満身創痍の俺が、化け物じみた強さのお前さんを仕留める方法はなんだと思う…?」
 言いながらレイヴンは組み合ったままの状態から、レイスに短剣を突き刺した右手を、そのままレイスの首にはまっている"首輪"にかけた。
「…化け物だって言うなら、心臓刺しても私は死なないと思ってるのか?」
「ソイツは知らないが。 …この首輪を外してお前さんが死なないなら、とっくにお前さんは首輪を外していただろうさ」
「その理屈はなんかおかしい気がするな…」
 レイスはそう言いつつ、酷く冷や汗をかいている。
「レ。。。レイヴンさん!」
「離れるんだ、ミアージュ!!」
 声の限りにレイヴンが言った言葉に、ビクリとミアージュは竦み、数歩後ずさる。
「…本気でやる気か、お前」
「ああ…」
「……あの時殺っておけば良かったと今思うぞ。  あー、運がなかったかな…」
「鴉は不運を運ぶ黒鳥さ。 …じゃあ、縁があれば向こうで会おうぜ」
「――ああ、また会おう」

 次の瞬間、レイスの嵌めていた首輪が『強引に外されそうになった為』爆発を引き起こし、周囲はその閃光に包まれた。



「。。。レイヴン、さん。。。!」
 ミアージュは直後、すぐ傍まで吹っ飛ばされてきたレイヴンに駆け寄る。
 辛うじて呼吸がある所を見ると、奇跡的に命は繋ぎとめられているらしい。 だがレイヴンの右半身は顔から脚までかなり酷く焼けており、右腕に至っては肩口から消失していた。
 火傷の軽い左側も無事とは言いがたい。 左の拳は砕けている様子で、掌の裂傷はかなり深い。
「な。。。なんとか、しないと――」
 このままではわずかな命も消えてしまう。 早く手当てをしなければ――

 ――パァン、と乾いた銃声が一つ響いた。
「ぁ ぁあ"あ"あ"あ"あああああああっっっ!!!」
 ミアージュの左肩に激痛が走る。 一体何が…と理解、いや思考する前に、ミアージュは声をあげずには居られなかった。
「…ふ、ふふぅふふふふぅふふふっ…  私は、みろるん、みろるんの……私はぁぁぁ」
 その声で、ようやくミアージュは振り向いて何が起きたか悟る。 ボロボロの状態で、立っているのが不思議な状態なのに……彗星が立っていた。
 全身が砕けて血みどろになり、その様相はある意味不気味とも言えた。 そんな状態の彼女が、拳銃を構えてミアージュを睨んでいるのだ。
 様子からして、極限状態で精神も崩壊気味のようだ。
「こんな所でやられるわけにはいかないのよぉ!!」
 彗星がミアージュに再び銃口を向ける。 撃たれた左肩を抑えて、ミアージュは立ち上がる。
 …持っていたハンマーは、随分遠くに落ちているのが見えた。
「。。。。。。え。。。」
 そのすぐ近く…デイパックやなにやらと一緒に、レイスの手にしていた剣が落ちているのも見えた…が、その剣だけは周囲のレイスの肉片と共にかき消えていった。
「なに余所見してるの… ふふ、ふふふふっ  消えなさい!!」


 ――パァン、と再び乾いた銃声。

 そして……仰向けに倒れる彗星。 ミアージュは左肩以外の痛みは感じていなかった。
「。。。。。。誰、が。。。。。。」
 ミアージュは向こうに人影を見た。 ――そういえば、さっき誰か岩陰に居た…
 だがその姿を確認する前に、ミアージュは痛みに耐えかね、レイヴンの横に倒れこんでしまった。


「………」
 そしてその人影……カヤは、寄り添うように倒れこんでいる二人を見下ろしていた。





【D3 草原・夕方】


【名前・出展者】レイス@レイスの短編帳 【死亡】 


【名前・出展者】流 彗星@リアクション学院の夏休み 【死亡】 




【名前・出展者】レイヴン@反乱
【状態】意識不明、右半身火傷、右腕喪失、左手骨ヒビ、左掌に裂傷
【装備】リボルバー銃(残り1発)、命の玉@ポケットモンスターDPt
【所持品】基本支給品一式 ジューダスの仮面@テイルズオブデスティニー2
【思考】基本:降りかかる火の粉を払うため、ゲームを早々に終わらせる(自分が勝者になるにしても、主催を打ち倒すにしても、終わらせる)
0:(意識不明)
1:ミアージュに協力する
2:もしかなわぬ恋でも、ミアージュを想い続ける
3:女性を相手にコロシをするのは心が傷付くが、もしもミアージュが望むならそれも仕方が無い
4:あの小説家って奴は、敵にするのは危険だな…
※ミアージュの目的をまだ聞いていませんが、本人が話すまで自分から聞くつもりはありません
※ガイウスの短剣・改@ベアルファレス は付近に落ちているようです
※死に掛けているので早急な治療がない場合死にます(およそ一時間ぐらいで)


【名前・出展者】ミアージュマリアウェル=Åм@空婿(ry
【状態】意識混濁、左肩損傷(銃撃を受けたので銃創あり)、左手の中指が無い、脚が凍結(氷タイプなので問題無し)
【装備】―――
【所持品】基本支給品一式
【思考】基本:ゲームには乗って願いをかなえる
0:(痛みで意識が朦朧としている)
1:レイヴンを助けたい
※巨大ハンマーは付近に落ちているようです


【名前・出展者】暁茅野@セイラ
【状態】健康
【装備】拳銃 コルトパイソン
【所持品】基本支給品一式×2 詳細名簿 サイン色紙@製作者不明
【思考】基本:己の身を守り、ゲーム終了まで何とか生き残る
1:目の前の二人を助けるか、それとも…
2:兎に角逃げる


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最終更新:2008年12月27日 19:19