前後の記憶は不確かだ。
自分がどうやってここに来たか
友と仰ぐあのトレーナーは何処へ行ったのか
いつ自らの首にこの首輪が取り付けられたのか
全て薄ぼんやりと曖昧で、いくら探っても答えは見つからない。
その結論に至るまでに、彼…レイヴンは15秒費やした。 とにもかくにも、この場でじっとしていても始まらない。
先ずは行動、情報収集が先決だ。 脱出するにしろなんにしろ、限りある情報をより多く握っていた者が勝ちを得る場合が殆どだと、彼は知っていた。
「…さてさて。 だとすれば、俺には一体何が与えられたんだかな……っと」
レイヴンは、自分の横に置かれたデイパックを漁る。
先ず地図、食料、メモ帳等等の確認。 与えられた情報どおり。 地図によればここはC1地区、遠くに墓標が幾つも並んで見えるのが確認できた。
墓の近くで誰かがたたずんでいるのが気になるが… 気付かれては居ない様子だし、レイヴンは先に支給品を確認することにした。
「さて、問題の…… っ!?」
レイヴンはその支給品を手にとって、絶句した。
丁度サッカーボール程度の程よい大きさ。
ちょうど手の平に乗せるといい感じに弾力、手触りが感じられる。
その青い玉を眺めているだけで、彼は一つの衝動に駆られた。
何も言わず、レイヴンはそのボールを丁度ボレーシュートの要領で力の限り蹴り飛ばした!
同時に、その青いボールに付属していた説明書がはらりと地面に舞い落ちる。
【ポケモンボール@みんなのポケモン牧場】ポケモンが見ると思わず蹴って転がしたくなるボール。
「ジューダスのには何が入ってたんだ?」
前置きなくネスが尋ねる。前置きが無さ過ぎて何の事か一瞬わからなかったが、すぐに支給品の事であろうと理解した。
「…これだ」
「あ、プッ●ンプリンじゃん」
懐から三連プリン(スプーン付き)を取り出て見せたジューダス。ネスには銘柄(?)まですぐにわかったらしく、即座に反応する。
「あのぷっちん、って瞬間が堪らないよな。 俺思うんだけどさ、あれってイチゴ豆腐でも似た様なの出したら受けると思うんだけど、どう思う?」
「僕に聞くな」
そもそもイチゴ豆腐ってなんだ、とジューダスは心の中で突っ込みを入れる。 イチゴはあの苺だろうが、豆腐? まさかアクアヴェイル発のあの豆腐の事か?
だとしたら誰が何故そんな組み合わせを思いつく? 確かに苺は美味だし僕も嫌いではない、あるとしたら一度は味わってみたくも… いや、待て。 どうしてそんな話が出てくるというんだ!
「あ、ちなみに俺の袋に入ってたのはさ」
ジューダスのそんな葛藤などお構いなしにネスは話を続けようとする。
「待て! さっきのイチゴ豆腐とやらについての話を… いや違う、僕はそんな話をしたい訳では」
「あ、ジューダス! 後ろ後ろっ!!」
ネスが叫びをあげる。 またしても一瞬理解が遅れたが、背後に何かが迫っていることにジューダスはその瞬間ようやく気が付いた。
だが、ジューダスも只者ではない。
反応は遅れたが、対応するには十分の間がある。それは時間にして1秒にも満たないが、不可能とするには彼にとって長すぎる時間だ。
彼、ジューダスにはそれだけの実力、そして豊富な実戦経験が備わっている。
だがこの場合不幸だったのは、一瞬反応が遅れたことにより、自身の状態や状況を完全に把握し切れなかったことだった。
「!!」
高速で飛来した人の頭ほどの青いものを、ジューダスは反射的に“手にしていた物を”振るって弾き飛ばした。
はっと彼が気づいた瞬間には遅かった。
棒状に三つ連なったプリンは、青いボールを弾き飛ばした衝撃で無惨にも包装が破けさり、しかも三つのうち二つがカップまで粉々に割れて地面にボトリボタリと落ちる。
ドロリと土の上に零れ出す茶色いカラメルソースが余計に涙を誘った。
ジューダスはキッ、とボールの飛来した先を見据える。
黒服帽子の男が、ボールを蹴り飛ばしたままの姿でこちらに気まずそうに微笑を送っているのがハッキリと見えた。
「じゅ、ジューダス…?」
「不届き者が…… 目に物を見せてやる!」
ネスは読心や透視などは使えないが、この瞬間のジューダスの仮面の下の顔が、怒りに満ち満ちているのがよくわかった。
ジューダスは剣はなくとも、晶術は放てる。 どこかで似た物を見たような、あのニヤケ面の不届き者をしばき倒すにはそれで十分だと踏んでいた。
「食らえ、『シャドウエッジ』!!」
「っと!!」
レイヴンはボールを当ててしまっただけにしては随分と派手な仕返しが飛んでくるモンだ、などと思いつつ…
真下からの不意の一撃を寸での所で見切る。
「本人の位置とは関係なく、対象の真下からの攻撃か。 やれやれ、厄介な相手だ!」
軽口は叩くが、攻撃されたことには変わりない。 攻撃を仕掛けられたら既に戦闘開始、ポケモンバトルのお約束とも言えることだ。
レイヴンはデイパックを引っ掴んで、仮面の男に向かって走り出した。 完膚なきまでに叩きのめすつもりはないが、相手の出方次第である。
もっとも、相手はどうやらポケモンではないが…
一方のジューダスは、初撃をかわされた事に驚きと、そして若干の納得を覚えていた。
(かわされたか。 全く、ああいう微笑をする手合いは大概食わせ者だと思ったが…!)
何処かの国の“自称”詩人の男がジューダスの脳裏を過ぎる。 どこか似ていると思ったが、やはりか…などと舌打ちしつつ、次の晶術を詠唱する。
「…っておいジューダス! 本当に敵かどうかもわからない相手に――」
「『デルタレイ』!!」
複数の光弾が、黒服帽子の男に高速で放たれる。
今度はどう出るかと見極めようとした瞬間、男の背に黒い翼が現れて、男は高く“飛んだ”。
「やれやれ、どうやら誘導性は『スピードスター』ほど高くないらしい。 …有り難い限りだ!」
空中に飛び上がることでデルタレイを回避したレイヴンは、即座に仮面の男目掛けて急降下する。
そして落下速度その他諸々を乗せた拳を、次の攻撃を待たずして繰り出した!
「甘い!」
早いが、直線的な攻撃だ。 ジューダスはバックステップで攻撃を避けると、黒服帽子の男と距離を置いた。
「仕方ない、手を組んだからには俺も手伝わないと!」
その隙を埋めるように、ネスがPSIを発動する。…『PKひっさつβ』。 相手の出方を伺うのと、それから若干の迷いがΩではなくβを選ばせたようだ。
このタイミングなら相手もかわせない筈…βならいきなり即死する程の威力は出ないよな、などとネスは思いつつ… PSIが攻撃直後の隙を突いてレイヴンに命中する。
…が、レイヴンは命中の瞬間に一瞬怯んだものの、まるで何ともないようにそこに立っていた。
「げっ…… PKひっさつが、効いてないっ!?」
「ふむふむ…驚いたな。コイツはエスパー技とは違うが、まるで同じだ。 …お前さん、ただのサイキッカーとはちょいと違うみたいだな」
レイヴンは悪タイプと飛行タイプを併せ持つ、ドンカラスである(都合上人間と同じ姿になっているが)。
エスパー技とは根本的に性質の近い“PSI”が通じないのも当然かもしれない。 …だが、ジューダスもネスもポケモンに遭遇したことなどないので、そんな理屈は知らないわけだが。
「…貴様、何者だ」
ジューダスが距離を置いたまま尋ねる。
「おいおい…名を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀ってモンだ。 …まあ、礼儀も何も先におイタしちまったのはこっちだが」
そう言ってレイヴンは、ばつが悪そうに微笑して返す。
「…ま、いいさ。 ちょいと俺はまだ名簿をしっかり確認してなくてな。 俺はレイヴンって言うんだ、お前さん達は?」
「俺はネスだよ、レイ"ブ"ンさん」
「おいおい、発音に気を付けてくれ… 俺はレイ"ヴ"ンだ、BじゃなくてV音で頼む」
苦笑するようにレイヴンが訂正する。 …しょっちゅう間違われるのだろうか。
「……僕はジューダスだ」
「ジューダス、か。 …やれやれ、とある物語だと“裏切り者”の名だな」
悪くない響きだが、と後に付け足してレイヴンは微笑を向ける。
「お前には関係のない事だ。 …それと、そのニヤけ面を止めろ」
裏切り者と言われたからか、レイヴンの顔が気に入らなかったのか、ジューダスはやや不機嫌そうな声色で返す。
「はは…悪いな、このツラはちょっとしたクセみたいなモンでな。 …直りそうにない」
やはり変わらず、どこか不敵な微笑のままのレイヴン。
クセと言うのは間違ったことではなく、必ずと言っていいほどレイヴンには微笑み顔を造るクセがあった。
「ならば力尽くで止めさせるまでだ」
「おいおい…女性にならまだしも、男に力尽くで襲われるのは遠慮したいモンだな」
互いに隙を作らず、間合いを測るように動かない。
完全に一触即発のレイヴンとジューダス(特にジューダス)に、ネスはと言うと
(プリンが発端で死ぬなんてゴメンだよぉっ!!)
などと心の中で叫んでいた。
【C1 墓場 朝~昼前】
【名前・出展者】レイヴン@反乱
【状態】問題無し
【装備】特になし(ポケモンなので素手でも十分だが)
【所持品】ポケモンボール@みんなのポケモン牧場 他、未確認支給品
【思考】基本:ゲームには乗らない、だが降りかかる火の粉は払う
1:ジューダスとネスの実力を確かめ、危険ならば排除
2:残りの支給品を確かめる
3:ボール何処にいったかな…見つけたら蹴ろうかな
【ポケモンボール@みんなのポケモン牧場】
箱から出てくる「おもちゃ」の一種。置いておくとポケモンが転がして遊ぶ
【名前・出展者】ジューダス@テイルズオブデスティニー2
【状態】ダメージなし
【装備】骨仮面@テイルズオブデスティニー2
【所持品】支給品一式、プリン×1@現実、未確認支給品
【思考】基本:ゲームには乗らないが、襲ってくる輩には容赦しない
1:僕のプリンを……! ただで済むと思うな!
2:支給品や地図を確認する
3:残ったプリンを死守する
【名前・出展者】ネス@MOTHER2 ギーグの逆襲
【状態】健康、少々の疲労(殆ど支障無し)
【装備】緋緋色金の光剣@世界樹の迷宮Ⅱ 諸王の聖杯
【所持品】緋緋色金の光剣@世界樹の迷宮Ⅱ 諸王の聖杯、チャーシュー@現実、毛糸玉@現実
【思考】基本:殺しはしたく無い。でも、向こうに敵意が有れば仕方ない
1:とりあえずジューダスを止めたい
2:相手にPSIが効かないとなると… どうしようか
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最終更新:2008年11月16日 15:15