ああ、私馬鹿だったんだ。今更だけど。
当然なんだ。早く元の体に戻りたいゼルさんが、ゲームに乗らないと思う方がおかしかったんだ。
やっぱり一般人ってそう簡単に生き残れないもんなんですね。拡声器支給された時点で薄々感づいてたけど。
夢小説(笑)みたいに一般人の非力な小娘を守ってくれるゼルさんなんて、いる訳ないんだ。
――ああ、暗いなあ。
いや、私の性格もですけど、周囲がさ。
真っ暗だよ、何も見えないよ。一瞬盲目になったかと思ったじゃないですか。レゾじーちゃーん。
……あ、虚しい。やっぱり1人ボケは虚しい。ノリツッコミする技量なんてないさはっはっは。
……なんか、長いなー。天からのお迎えは何時来るんだろう。
それとも、地獄とか。
……も、ももも申し訳ありませんえーき様! 年齢偽ってR18同人誌買ったりしてごめんなさい!
だから地獄だけはご勘弁を! どうか地獄だけはー!
――まあ、私が地獄に行くのもある意味仕方ないことなのかもしれないが。
勝手に夢見て、1人で騒いで、ゼルさんやアトワイトさんに迷惑をかけてしまった。
お母さん、ごめんなさい。私全然いい子じゃないですね。
出来ればお母さんのいる天国へ逝きたかったけど、私は地獄に落ちてもおかしくないかもしれません。

でも、もし私の我が侭が叶うなら。

アトワイトさん、それにゼルガディスさんに、迷惑をかけたことを謝りたいです。
……いい子じゃない偽善者の私に、そんな資格はないのかもしれませんが。
でも……もっと酷い我が侭を言うのなら、

もうちょっと、頑張りたかったなぁ。

あの世の何処かで会いましょう、お母さ――――

『…………トナ、コトナ!』

……アトワイトさん?
もしかして、私の我が侭が少しだけ通じたのかもしれない。はやく、はやくあやまらなくちゃ。

『コトナ……コトナ!』

ごめんなさい、アトワイトさん。怒られるのも仕方ないですよね。だってアトワイトさんに迷惑かけちゃっ――

『起きて! コトナ!!』
「大丈夫ですか? しっかりして!」

暗かった私の世界は、急に明るさを取り戻した。

   *   *   *

―合成獣の夢の行方―

ゲームに乗るかどうかなんて、決めていなかった。
落ち着いて決めようとした矢先に、まるで某セイルーンの王女のようにテンションがおかしい女と出会ったからだ。
いきなり湖に落とされるわ、女物の服を渡されるわ、たまったもんじゃない。
しかし、根はいい奴だったのかもしれない。湖に落としたことを土下座して謝った時にはコイツの実年齢が知りたくなった。
けれど俺は、あの時のゼロスの言葉が未だ忘れられないでいた。

『優勝者にはこの場からの帰還は勿論、もう一つ、何でも願いをかなえて差し上げます』

魔族の言葉、それもよりによってゼロスの言葉なんて信用していいものか。そうは思った。
その疑いに俺の『元の体に戻る』という目的が打ち勝った。ただ、それだけのこと。
だから俺はあいつを湖に突き落としてやった。……あいつが、最初に俺にやったように。悪意があるかないか、その程度の違い。
せめてアトワイトを奪うぐらいはやっておいてよかったかもしれないが、まあいい。
下手に騒がれて足を引っ張られては面倒だ。アトワイトの性格上、もし俺があいつを殺してから奪い取ったらとことん抵抗するだろう。
だからと言って、あいつを生かしたままだとあいつが俺の足を引っ張らないとは言い切れない。

後悔なんてしていない。する筈がない。

今までだって、何人も殺してきた。今更俺が殺しに躊躇する理由はない。
――少しあいつが気になるのは、武器(アトワイト)への未練の所為だろう。そうに違いない。
俺には魔術と、少し(というよりかなり)頼りないが包丁がある。
それに、誰かを殺して支給品を奪えばいい。簡単だ。

後悔なんてするものか。俺は残酷な魔剣士だ。

それにしても――この目の前の衣服はどうすればいい。


【C4 湖のほとり・昼前】

【名前・出展者】ゼルガディス=グレイワーズ@スレイヤーズ
【状態】健康
【装備】無し
【所持品】支給品一式、お料理セット@テイルズオブデスティニー2、ロリポップ@テイルズオブジアビス
マジカルポット@テイルズオブデスティニー2、ルルさんセット@スレイヤーズ
【思考】
基本:優勝して元の体に戻る
1:この服どうすれば良いんだ
2:さて、何処へ行こうか
※ルルさんセットの行く末は次の書き手にお任せします
※何処へ行くかは次の書き手にお任せします
※コトナのことは“殺害”したと思っています


   *   *   *


アレンは休みながらも、移動を続けていた。
出来るだけ、気絶した少女から離れたいと言うのもあった。近くの町へ行ったら少女がまた追いかけてくるかもしれないという恐怖もあった。
C3、D3辺りの町ならば少女も追ってはこれないだろう。――それまでにアレンがどこまで移動出来るか、という問題もあるが。
どのくらい歩いたかは分からないが、木々の間から湖が見えた。
確か地図では、湖はD4の辺りに位置していた筈だ。目指していた町も近い。

(湖についたら、少し休もう……)

そう思って、湖まであと数十歩というところでアレンは湖付近に人影を見つけた。
誰かも分からない。ひょっとしたらゲームに乗っているかもしれない。アレンは身を潜め、様子をうかがった。
白い服を着た長身の男が1人、剣を持った少女が1人。計2人だ。
白い服の方は『怪しい』が服着て歩いているぐらい怪しく見えたが、少女の方は(剣を持っている以外は)普通に見える。
もしかしたら白い服の方が、普通の少女を保護したのかもしれない。アレンは少しだけ安心感を憶えた。

(もう少し様子を見て、安心出来る人達なら名乗り出よう)

アレンがそう思った矢先、

「決まってるだろ? ゲームにのったんだよ……俺は」

不吉な台詞が、不吉な水音が、聞こえた。
白い服の男は剣を持った少女を突き落としていた。――彼は、たった今ゲームに乗ったのだ。
思わず出て行きそうになる衝動を押さえた。男と戦っていたら、少女が溺死してしまうかもしれない。今なら、まだ間に合う。
男が完全にいなくなったのを確認し、即座に湖の方へ走る。

(空を飛べる呪文があった筈だ。これを利用すれば……)

呪文の紙を左腕に巻き、アレンは『力ある言葉』を唱えた。

「浮遊(レビテーション)」

ふわり、とアレンの体が宙に浮いた。アレンは息を大きく吸い、湖に飛び込んだ。
湖の中で目を開けると、幸い少女はまだそんなに深く沈んではいない。
少し潜って少女の腕を掴み、湖の上へと上がった。よっぽど大切なのか、少女の右手はあの剣を握ったままだった。

「ぷはぁっ!」

近くの草原に少女を寝かせる。――まだ息はある。どうやら間に合ったようだ。

『あなた、私の声が聞こえる?』

突然、何処かからか声が聞こえた。驚いて周囲を見回すも、誰もいない。
再びその声が『ここ、この子の剣よ』と言ったところでようやくその声の主が剣であることを理解した。(かなり理解し難いが)

『私の名はアトワイト。ソーディアンよ』
「これはどうもご丁寧に。僕はアレン・ローズクォーツです」
『厚かましいのを承知で頼むわ。私を使ってこの子を……コトナを助けて!』

表情こそ読み取ることは出来ないが、その声色からどれだけ必死なのかが分かる。
アレンは冷静に、けれど表情は穏やかに「そのつもりがなければ助けませんでしたよ」と答える。アトワイトは安息の息を吐いた。

『それじゃあ、まず私を持って。私の言う通りに、晶術を使って』
「……分かりました」

アトワイトを持ち、アトワイトの説明通りに詠唱を始める。対象は、コトナという少女。

「……ファーストエイド」

晶術を唱え終えると、コトナの体が白い光に包まれ、数秒もしない内に白い光が消えた。
心なしか、先程よりも顔色がいい。

「……けほっ」
『コトナっ!』

コトナが水を吐き出した。薄っすらと瞳が開いていくのが見える。

『コトナ……コトナ! 起きて! コトナ!!』
「大丈夫ですか? しっかりして!」

長月コトナは、目を覚ました。


   *   *   *


眩しい。目がまだ光に慣れていないのだろう。
私は生きているのだろうか。まだ実感がない。目の前に誰かいる。……助けて、くれたのだろうか。

「ゼル……さん……?」
「お目覚めですか?」

目の前にいる人がゼルさんじゃないと分かり、私は飛び起きた。
咳が出た。気管支に水とかが入って咳き込むような、そんな感覚に非常に酷似していた。

『コトナ! 生きているのね、よかった……』
「……ゼルさんは? ゼルさんは、どこですか?」
「……ゼルさん、というのは先程貴女を湖へ突き落とした方でしょうか。大丈夫ですよ、彼ならもういません」

ああそうか、やっぱり私ゼルさんに突き落とされたのか。現実ってキビシイ。
……じゃなくて。

「ゼルさん……死んじゃったんですか?」
「分かりません。彼が何処かに去ってから貴女を湖から引き上げたものですから……。しかし、そんな短時間で彼が死ぬとは考えにくいでしょう」
『それよりも、あなたはまずアレンに言うことがあるのではなくて? 彼が、あなたを助けてくれたのよ』

アトワイトさんの言葉を聞いて、私はアレンさんを見上げた。(アレンって聞いて某灰男が浮かんだのは秘密だ)
白いスカーフで顔を隠している。ぽたぽたと白い髪から水滴が垂れている辺り、飛び込んで私を助けてくれたのだろう。

「……ごめんなさい」
「いいえ。僕が聞きたいのは謝罪の言葉ではありません」
「……え? あの、えっと、すみません」
「誰かに助けてもらった時には、『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』でしょう?」

……正直、驚いた。そんなことを指摘されるとは思っていなかったのだ。
何時も、兎に角必死で謝ればいいと思っていた。兎に角謝ればいい。そうすれば、少なくとも自分は救われると思った。
でも実際は、謝っても救われない。罪悪感が重く圧し掛かるだけで、何も変わってない。その内罪悪感すら忘れてしまう。

「……ありがとう、ございます」
「よく出来ました」

14にもなって、こんなことを指摘されるのは少し恥ずかしい気がした。

「さて、服がびしょびしょですね。少し絞ってから町へ向かいましょう。それとも、もう少し休みますか?」
「い、いえ、大丈夫です。歩けます。全然元気です」
『あまり無理はしないで。あなたはあくまで一般人なんだから。それに、私はあくまで剣でしかないの。いざとなったらあなたを助けることは出来ない』

だいじょうぶ、だいじょうぶ。

『それだけは分かって。いいわね?』
「あはは、大丈夫ですよー」

だいじょうぶ、理解してる。ゼルさんに湖に落とされたことで、よく理解したから。
私を守れるのは、私だけ。自分を守れるのは自分自身だけ。それを理解してなかったから、ゼルさんに迷惑かけちゃったんだ。

「服、絞り終わりましたか?」
「はーい。何時でも出発オーケーでーす」

ゼルさん。次――もし、次に会えることがあったのなら、謝らせてください。
「迷惑かけて、ごめんなさい」って。


【F4 草原・昼前】

【名前・出展者】アレン・ローズクォーツ@セイラ
【状態】かなりの疲労(戦闘に支障は出るかもしれないが、歩くのには問題は無い)、服が濡れている(びしょびしょって程ではない)
【装備】スレイヤーズの呪文の紙束@ゴキブリ 糸
【所持品】基本支給品一式
【思考】
基本:出きる限りの人を救い、このゲームを終了させる
1:D3の町へ向かう
2:仲間を探す
3:コトナの言う“ゼルさん”を警戒
※アトワイトから晶術の知識を得ました

【名前・出展者】長月コトナ@リアクション学院の夏休みエピローグ
【状態】少し疲労。服が濡れている(びしょびしょって程ではない)
【装備】ソーディアン・アトワイト@テイルズオブディスティニー
【所持品】基本支給品一式 拡声器
【思考】
基本:早く帰りたい、ゲームには乗らない
1:わーたし、つーいていくーよなんてね
2:アレンさんには迷惑かけないようにしよう
2:ゼルさんに謝りたい
※ルルさんセットはゼルガディスのところにおいて来ました。

【名前・出展者】ソーディアン・アトワイト@テイルズオブデスティニー
【思考】
1:くれぐれも、無理はしないでね
2:コトナが少し心配
基本:出来る限り助言はする。また、もし持ち主が殺し合いに乗ったらなんとか説得する
※ロワ内では誰でもソーディアンの声を聞くことができます
※また、威力は落ちるもののソーディアンさえ持てば誰でも晶術を扱えます


【スレイヤーズの呪文の束@ゴキブリ】(残り18枚)

『呪文を唱えることのできる紙、それを読み上げて、左腕に巻きつけ、最後に『力ある言葉』を唱えると呪文を使うことが出きる。ゼロ…ゴキブリお手製』
残りの呪文一覧
火炎球×1
炎の矢×1
眠り ×1
烈閃槍×2
氷の矢×4
治癒 ×2
浮遊 ×1
竜破斬×2
神滅斬×2(未完成版、完成版一枚ずつ)
重破斬×2(未完成版、完成版一枚ずつ)


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最終更新:2008年11月19日 20:05