「……ソラコ、物凄く言いにくいんだけどさ」
「えー、何?」
「……さっきの人、見失っちった」
もし森の中に鳥が生息しているのであれば、鳴き声を上げて一気に飛び立っていっただろう。
そのぐらいの勢いで、そらこは声を上げた。
「やー、ほんとごめんっ! 盗賊としてあるまじきことだよねー。ちょっと目を離した隙に見失うとは思ってなくてさ」
「……どうするアルヨー」
「……とりあえず、支給品の確認……かな?」
開始早々木に登って高いところからルイス達を探し、結果そらこの上に落ちてきたフレイア。
彼女は、自分の支給品を確認していなかった。
「出来れば役に立つ武器……傘辺りがいいなぁ」
「傘で戦うとか、それなんて某シルバーソウルのチャイナ娘ヨー」
「ぼう……? チャイナ……? それが何かは知らないけど、ボクにとっては傘が一番使いやすい武器だからさー」
そう喋りながら取りだしたのは……火炉、だろうか。角が八つあり、非常に不思議な形をしている。大きさはやや小さく、手のひらに乗るサイズだ。
説明書が付属しており、内容は――
☆ミニ八卦炉の使い方☆
撃つ時は精神を集中させ、優しく八卦炉に呪文をかけよう。
にっくきターゲットを狙い、放て、恋の魔砲!
――と、あった。
「要するに、魔術の威力増幅器ってとこかな? 参ったな、術中心に戦えってか」
確かにフレイアは実験で魔導注入を行ったことにより、人間でありながら魔術を扱うことが出来る。
派手な魔術で吹っ飛ばす! というのも好きだが、どちらかといえば武器を持って薙ぎ払う方が好きだったりする。
しかし、支給されてしまったものは仕方がない。早いところルイス達と合流して、支給品を確かめたいと切実に思った。
「さて、次は……お?」
青色の、星の紋章が描かれたペンダントのようなもの。――何処かで見たことがあるような気がした。
またまた付属していた説明書には“ミスティシンボル”と書かれている。
「……やっぱり、ミスティシンボルっ!」
「みすちーシンボル?」
どこの夜雀だよ、というツッコミを入れてくれる人物は残念ながらこの場にいなかった。それは置いといて。
……そういえば、アーリィの店で見たのを思い出した。
少なくともフレイアのいた世界では、ミスティシンボルはかなり高価なものだった。
その値段は四捨五入すると70万ガルドにもなり、一般人や普通の盗賊なんかにはとても手が出せないような価格なのである。
しかしその効果は値段に見合うものである。魔術や、法術といったものの詠唱時間を半減させることができる。つまり、通常より早く術が撃てるのだ。
魔術中心で戦うことを余儀なくされたフレイアにとって、これ程嬉しいものはない。あるとすれば、消費するマナが半分になるフェアリーリングくらいか。(こちらもかなり高価である)
フレイアはミスティシンボルを首から下げた。格好は全く魔術士に見えない彼女にそれは、少々ミスマッチであった。
「うん、まあ……これならまともに戦える、かな」
「うわっ、似合ってねえ」
「うるさいよ」
そう言って、奇妙な格好をした少女2人は笑った。――影で狙っている人物がいるとも知らずに。
* * *
「……仕舞うか」
自分が女装した時に着ていた服の前で、ゼルガディスはそう呟いた。
“置いていく”といった選択肢もあるのだが、そう簡単に捨てるのも何か勿体無いような気がする。
そうだ、女装以外に使えばいい。何かに使えるだろう。切って包帯代わりにしたりとか、破いたりとか。
“ルルさんセット”とかいうふざけた服をデイパックにしまい、万能包丁を取り出す。出来ればロングソード辺りがほしかった、とゼルガディスは溜息を吐いた。
荷物をまとめて立ち上がり、移動を始める。一度だけ立ち止まって湖の方を見つめ、また歩き出した。
早いところ元の体に戻りたい。元に戻った自分を見たら、リナ達はなんと言うだろう。
ここにはいない仲間だった人物達のことを思い浮かべ、ふっと笑った。
(まさか俺が殺し合いの場にいて、こうして殺し合いに乗ってるとは思わんだろうな)
そんなことはまずアメリアが許さないだろう。
「正義の鉄槌!」とかなんとか言いながら霊王結魔弾(ヴィスファランク)をかけた拳で殴りかかってくるか、上空からの飛び蹴りをかまされるに違いない。
セイルーンの王女でありどうしようもない正義オタクで、やたら高いところからの登場を好んで、結果着地に失敗するアメリア。
何時も明るく無邪気で、何処かズレてはいるが王女としての資格は十分にある彼女に、
――少しだけ、会いたいと思ってしまった。
その考えを急いで打ち消し、誰かいないか周囲を見回す。――いた。
どちらも子供だろうか。少年が1人、奇妙な格好をした少女が1人。
ゼルガディスは自分の岩の肌を隠す為にフードを被り、マスクで顔を隠す。そして、魔術の詠唱を始めた。
* * *
「……ソラコ、ちょっと見て。見るからに怪しい奴」
フレイアが“その存在”に気づいたのは、笑いあってから数分後。
全身真っ白な服で、これまた真っ白なフードを被っている。顔が隠れているのと離れているのがあって、性別を確認することが出来ない。
……見るからに、あやしい。
「ゲームに乗ってないのかもしれないヨー」
「それだとどんなにいいか……。とりあえずこっちに来てるみたいだし、少し様子を見よう」
言いながらも素早く荷物をまとめ、ミニ八卦炉を持つのを忘れない。
――此処が殺し合いの場だということを忘れてはいけない。ほんの少しの油断が、死を招くのだ。
暫く近づいてくると、何か喋っているのが聞こえた。こちらにはよく聞こえない。……嫌な予感がした。
――全ての力の源よ 輝き燃える赤き炎よ 我が手に集いて力となれ――
フレイアはそれが“何か”の詠唱であることが分かった。けれど、こんな詠唱は聞いたことがない。
内容からしておそらく炎の魔術だろう。……そう、相手は自分達に攻撃するつもりなのだ。
「ソラコ、伏せてっ!」
そらこが行動を起こす前に腕を引っ張り、自分も詠唱を始める。ミスティシンボルの効果で、元々早い下級魔術の詠唱を更に素早く行うことが出来る。
「火炎球(ファイアーボール)!」
「アクアエッジ!」
白服は炎の球を放ち、フレイアは水の刃アクアエッジを放つ。炎が出てきたのはフレイアの予想通りである。
それに水属性の“アクアエッジ”を放つことで互いに相殺するというのが彼女の作戦だった。
けれど、炎の球の威力の方がアクアエッジに勝っていたのだろう。少々威力は落としたものの、そのままフレイア達のもとへ炎の球は飛んできた。
「っ、グレイブ!」
寸前のところで岩の槍が現れる。炎の球は岩の槍に着弾し、岩の槍は粉々に吹き飛んでしまった。結果的には、炎の球から逃れることは出来た。
腕を急に引っ張られたことで尻餅をついたそらこが立ち上がる。フレイアはその腕をまた掴み、森の中へ駆け込んだ。
そらこが抗議の声を上げるが、フレイアはそのまま森の奥に進んでいった。
「逃がすものか――!」
白い服の――ゼルガディス=グレイワーズはフレイア達を追いかけ、森の中へ入っていった。
* * *
「くそっ、どこへ逃げた……」
森の中に逃げ込んだ2人を探すが、見当たらない。同じような木々が続くばかりだ。
(子供の体力でそう遠くへ行けるとは思えん……どこかに隠れているのか?)
しかし、紅い髪の子供は魔術を使っていた。ゼルガディスが見たことも聞いたこともない魔術を。
ただの子供ではないかもしれない。深追いはやめるか、それとも――
相当悩んでいたのか、ゼルガディスは近くで茂みが鳴る音に気づかなかった。
「――ファイアボール!」
「何っ!」
行き成り飛んできた3つの火球を、急いでかわす。かわしきれなかった1つは包丁で払い、かき消した。
はっとして包丁を見るが、目立った傷はついていない。実は当たり武器だったのかもしれない。
どうやら相手は、森の木々に隠れて攻撃を仕掛けてくるつもりらしい。
子供だと思って舐め切ってしまっていた。ゼルガディスは悔しげに舌打ちをした。
* * *
『そらこ。今からボクの言うことを覚えて』
正直、いきなり別人になったのかと思った。二重人格かとも思った。あ、一緒か。
『ボクも出来る限り強力はするけれど、そらこにはあの白い服の奴をひきつけてほしい』
『えーっ』
『このミニ八卦炉で強力な魔術を放って、あいつに死なない程度の傷を負わせる。多分、そうすれば逃げてくれると思う』
『逃がすのが……目的?』
『そ。ボクだって赤の他人殺したくはないよ。だから……』
“協力して、そらこ”
断ることは出来なかった。
一番最初に出会った参加者と言うのもあるし、下手をすれば自分があの白服に自分が殺されてしまうかもしれないからだ。
フレイアと分かれて暫く走った場所で身を潜めた。付近をさっきの白服が歩いている。自分達を探しているのだろう。
白服の方に火の玉が飛んだのが見えた。おそらくフレイアだ。しかし、殆どかわされてしまった。
今度は自分の番だ。あの時のように“あの構え”をする。
青白い光が手に収束する。大体サッカーボールほどの大きさになったところで、白服に波導弾を放った。
「!!」
白服は波導弾を避ける。波導弾が木に着弾した瞬間轟音が鳴り、ひしゃげてしまった。
速さはそれなりにあるが、範囲はそんなに広くないようだ。相手が素早いと、中々当たらない。
白服は相当素早いようで、波導弾を当てるのは難しいだろう。それに、波導弾が飛んできた位置でこちらの場所がバレてしまうかもしれない。
しかし、動きを止めないことにはフレイアの魔術を当てることが出来ない。もう一度構え、波導弾を撃った。
撃ち出した瞬間、出来るだけ身を潜めながら移動する。こちらの居場所がバレないようにだ。
またしても先ほどと同じような轟音。また避けられたのだろう。ひしゃげた木と、白服が舌打ちするのが見えた。
「チッ。ちょこまかと……!」
白服がイライラしているのが分かった。もし、魔術を滅茶苦茶に撃ってきたらどうしよう、そんな不安に駆られる。
こうして波導弾を避けられている以上、フレイアも下手に魔術を撃つことが出来ないのだろう。けれどこのままでは、自分が見つかるのも時間の問題である。
しかしフレイアの方があまりフォローに回ると、“強力な魔術”を撃つ為の詠唱時間を確保することが出来ない。
――自分が、なんとか気を逸らさねばならないのだ。
また、波導弾の構えを取る。そして、撃ち出す。あっさりと避けられる。
避けたのと同時に、小さな波導弾を撃ち出した! 威力こそないものの、隙を作ることぐらいは出来る筈だ。
当たったけれど、僅かによろめいた程度だった。しかし十分だ。この戦法でいけば何時か大きな隙を見せる筈――!
もう一度波導弾を撃ち出そうとした時、白服の男が何か喋っているのが聞こえた。
―光よ 我が手に集いて閃光となり 深淵なる闇を撃ち払え―
炎の球を撃ち出した時の詠唱を思い出し、急いで移動しようとした。
しかし、慌てて移動しようとしたのがいけなかったのだろう。茂みが音を立て、白服に居場所を教えることになってしまった。
顔がよく見えないというのに、白服がニヤリと笑ったのが見えた。
「――烈閃槍(エルメキア・ランス)!」
眩しい光に包まれたと同時に、あたしの意識は――
* * *
白服が波導弾を避けている時、フレイアは木の上で様子を伺っていた。
彼女が唱えようとしている術は“ファイアストーム”。彼女の使える術の中では、威力が高い方だ。
しかし、木の上から唱えると場所が分かってしまう。その為、出来れば一撃で決着をつけたかったのだ。
白服が小さな波導弾を受けてよろめいた時、フレイアは直ぐに詠唱を行った。
この調子でいけば、必ず――!
けれども現実は、そう上手くいってはくれなかった。
白服が何か術の詠唱を始める。数秒もしない内に、茂みが揺れる。白服が狙いを定めた。そして――
「――烈閃槍(エルメキア・ランス)!」
白服の放った光が何かに当たった。……何かって、なんだ?
考えるよりも先にフレイアは、木から飛び降りた。自身の魔術の詠唱は、もう終わっていた。
「燃えろッ! ファイアストーム!!」
巨大な炎の竜巻が、小さなミニ八卦炉から放たれた。その威力にフレイアは反動で木に叩きつけられる。けれど、対象は意地でも変えない。
炎の竜巻は白服を飲もうと直進する。白服はなにやら術を唱え、宙に浮き上がった。
「ぐああああっ!?」
どうやら、少し遅かったようだ。
炎の竜巻に、白服の右足が焼かれた。それでも白服は飛び上がり、ふらふらと何処かへ飛んでいく。
――その時、フレイアは見た。白服の右足部分の布が燃えてなくなり、やや焦げた岩のような……岩?
“追い払う”という当初の目的は果たすことが出来た。それでよかったのだ。それよりも、気になるのはそらこである。
フレイアは急いでそらこを探す。もしかしたら、今の魔術に巻き込まれたのではないだろうか。不安がフレイアを襲う。
しかし、そらこは案外簡単に見つけることが出来た。……倒れた状態で。
「ソラコっ!!」
急いで駆け寄り、手首の動脈を調べる。……まだ動いている。フレイアはそらこが生きていることに、安息の息を吐いた。
ざっと見たところ、特にこれといった外傷はない。気絶しているだけのようだ。
フレイアはミニ八卦炉をデイパックに仕舞い、そらこを背中におぶった。
「待ってて、絶対どこかで休ませるから……」
近くに町があるのを思い出し、そこに向かうことにした。そらこを落とさぬよう、フレイアは歩きだした。
【C5 森 昼前】
【名前・出展者】右京そらこ@リアクション学院の夏休み
【状態】烈閃槍による疲労、気絶
【装備】はどうのゆうしゃセット@ミュウと波導の勇者ルカリオ
【所持品】支給品一式、はどうのゆうしゃセット@ミュウと波導の勇者ルカリオ、不明支給品
【思考】基本:殺し合いには乗らない
1:…………(気絶中)
【名前・出展者】フレイア@テイルズオブコンチェルト
【状態】やや疲労、TP消費中、そらこをおぶっている
【装備】ミスティシンボル@テイルズオブシリーズ
【所持品】支給品一式、ミニ八卦炉@東方Project
【思考】基本:殺し合いには出来る限り乗らない
1:早く町に向かう
2:ソラコ、ごめん……
3:ルイス達を探したい
※ファイアストームの影響でC5の森の一部が焼け野原と化しています。
* * *
「くそっ、治癒(リカバリィ)!」
結局、また湖付近に戻ることになってしまった。治癒(リカバリィ)で足の火傷を治しながらゼルガディスは舌打ちした。
何故だか、治癒(リカバリィ)による回復がどうも遅い気がする。大体治ってきたところで治癒(リカバリィ)をかけるのをやめ、湖の水で足を冷やした。
――またこの忌々しい身体(からだ)に助けられてしまった。
悔しさがこみ上げ、唇を噛んだ。……そして、溜息を吐いた。
澄んだ湖の水には、岩で出来たゼルガディスの肌が鏡のように映し出されていた。
「なあ……コトナ。お前さん、この湖の底で俺を笑っているんじゃないのか?」
返事は返ってこない。もし、長月コトナがこの場にいたのなら「とんでもない!」と言っているところだろう。
けれど、長月コトナはそこにはいない。
(そうだ。俺が――殺した)
邪妖精(ブロウデーモン)と岩人形(ロックゴーレム)の合成獣(キメラ)……ゼルガディス=グレイワーズは知らない。
長月コトナがアレン・ローズクォーツに助けられ、今も生きていることを。
付近の森から火が上がっているのを一瞥し、ゼルガディスはまた溜息を吐いた。
【E4 湖のほとり 昼前】
【名前・出展者】ゼルガディス=グレイワーズ@スレイヤーズ
【状態】やや疲労、右足に火傷(ある程度治療済み)
【装備】万能包丁@テイルズオブデスティニー2
【所持品】支給品一式、お料理セット@テイルズオブデスティニー2、ロリポップ@テイルズオブジアビス
マジカルポット@テイルズオブデスティニー2、ルルさんセット@スレイヤーズ
【思考】
基本:優勝して元の体に戻る
1:少し、休むかな
2:あの子供(フレイア)の使っていた魔術が気になる
※コトナのことは“殺害”したと思っています
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最終更新:2008年11月21日 17:34