戦闘の最中、違和感を感じた志々雄は相手の行動を疑問に思い、警戒を怠らなかった。
 そして先程の爆発の直前、ようやくそれが得物の男の仕掛けた罠だと感付いた。 酒場に充満する異様なアルコール臭、水溜り。
 咄嗟に志々雄は退く。

 小僧――リオンが爆発に飲み込まれ、断末魔をあげたのはその数瞬の後だった。
 ――冷静になり切れなかったのが殺られた原因だな、小僧。 軽快な銃撃音を、にわかに炎に包まれる店内で聞きながらそう呟いた。
 爆発そのものなら別だが、この身体はこれしきの炎で灼かれはしない。 銃撃が止んだところを見ると、奴は俺には気付いて無いらしい…

 やがて酒場の外の足音。遠のいて行くところからすると、やはり黒影は気付いていないようだ。
 ならばこの酒場が焼け落ちる前にと、志々雄は炎に包まれた店内の中心に歩みを進める。 目的の物は――

『……志々雄!?』
 焼け焦げた"黒いモノ"の傍らに落ちていた"それ"が、驚いた声をあげる。
「小僧は殺られたからな。 興味がある、貰って行くぜ」
 誰に放った言葉だろうか。 志々雄はソーディアン・ディムロスを拾い上げると、煤(すす)を払うようにそれを大きく横薙ぎに一振りする。
『…………』
「面(ツラ)も無ェクセに一端に悔しそうにしてるんじゃねぇ、剣風情が。 小僧がシんだのがそんなに惜しかったか?」
 あざ笑うように志々雄は言い放つ。
『…ただの戦闘狂の貴様にわかるものか!』
 ディムロスの言葉を聞きつつ、志々雄は焼け落ちる酒場の裏口へと歩みを進める。
「刀ってのは人を斬る為に有る代物だ。 剣にそんな説教垂れられようとも、何の説得力もありゃしねぇんだよ」
『我らソーディアンは使い手の力を増幅させる武器だ。 人殺しの道具かどうかは、使い手次第でどうとでも変わる!』
 火の勢いの強くなる酒場を裏口から後にする志々雄。
「癪に障る言い方だな、剣。どこぞの馬鹿を思い起こさせる事を言いやがる」
『我が名はディムロスだ』
「喧しい。 テメェなんぞただの人殺しの道具だろうが」
『だから我は――』
「その理屈なら間違ってないだろうが、"ただの戦闘狂"なんだからな。 …それより、客人だぜ」

 + + + + +

 ルイス、そしてコレットは結局、放送があるまで町の建物の中を転々としていた。

 コレットには天使化の影響で、高い聴力が備わっている。 恐らく同じエリアの中ならば、殆どの音は把握できるであろう。
 ゆえに下手に動くよりも出来るだけこの場に留まって待ち、危険が迫ったときは事前に回避するべきだと判断したのだ。
 広い平原では見通しが利くから、その聴力を存分に生かすことが出来ない。 味方しそうな人間が近付いた場合は、コレットがルイスのときと同じく接触を図ればいい。
 …と言うのがルイスの提案だ。
 コレットとしては全ての戦いを止めたいのだろうが、それはさすがに無謀にも程がある。 ルイスは今にも飛び出しそうなコレットを、何とか引きとめようとしていたのだ。

 だが、この町の周囲には危険な相手ばかりが揃っていたようだ。
 今もコレットの耳に届くのは銃撃音、破壊音… 戦闘の音だ。
 放送でも8人が既に戦死したと発表されたし、状況的にはあまり良い状況とはいえなかった。

「……コレット」
 互いに知っている人物もゲームに参加している。 コレットはゼロス、ルイスはフレイアとディー。
 そういう情報は、もうひとしきり交換し合ったのだ。
「…平気だよ、ルイス。  …もしかしたら危ないかもしれない、ルイスはこの町を離れた方が安全かもしれないね」
 よいしょ、とコレットは立ち上がる。平気だと言ったコレットは、ルイスの目から見ても少し暗い様子が見えた。
 …このゲームを止められないのが、悔しいのだろうか。 今コレットは"ルイスは"と言った。自分を安全なところに逃して、コレットは起きている戦いを止めに行くつもりなのだろう。
 だがルイスも彼女が心配だ。 さっきの様子からしてもドジな彼女だ、一人で行かせるなど考えられない。
 たがいそうして平行線のうちに、今に至っている。


 ――  …  ――
「!?」
 ルイスの耳にも届いた轟音。 爆発音のようだった。
 立ち上がったコレットを見ると、まるで青ざめるような顔… もっとハッキリと"何か"が聞こえたのだろう。
「まり…… あん…?」
「え?」
 コレットの呟きを聞き返す。マリアン……人の名前かな? などと考える間も無く、コレットが飛び出していく。
「あ、コレット!!」
 慌ててルイスも追いかける。 …忘れずにフレイアの傘を携えて。


「誰の事だかわからない、でも…… とても悲しい叫びだったの!」
 そこに向かう途中コレットに聞くと、そんな返事が返ってきた。 耐え切れなかったのだろうか…
 今二人は、爆発の聞こえた方へと走っている。 煙が上がっているため、距離と方角はルイスにも把握できた。
 角を曲がると、激しく燃えさかる酒場が視界に入った。 …そして、その酒場から出てきた様子の包帯の男。
 慌ててコレットが駆け寄ろうとするのを、ルイスが何とか抑える。 何か様子が違って思えたのだ。

「――テメェなんぞただの人殺しの道具だろうが」
 紅蓮の剣を携えた、男の声が聞こえた。 誰かもう一人話している様子だが…姿は見えない。
 次の瞬間…… その男がこちらを向いた。 ――気付かれている!
 ルイスがどうするかと思案する前に、コレットが道の真ん中へと躍り出た。 ああもう――


「こんなゲームに参加するのは止めてください!」
 姿を現した小娘が、開口一番そう言った。 慌てた様子でもう一人、小僧が飛び出してくる。
「…弱肉強食、って言葉を知ってるか? 小僧に小娘」
『おい、待て志々雄! 向こうに戦意が無いのは――』
「喧しいぞ、剣なら剣らしく黙ってやがれ。 …ゲームなんぞ関係ねぇ、この世界は強い者が生き残る。 それだけだ」

「コレット、下がって! …話の通じる相手じゃなさそうだ!」
 ルイスがコレットの前に出て、傘を構える。
「ルイスこそ、危ないよ!」
「僕だって、腕に自信がないわけじゃない。 …コレットは会いたい人が居るんでしょ? 生き残らなきゃ、会えないよ」
 そう言ったルイスの傘を握る手に、力がこもる。 …相手が只者じゃないのは、ルイスにも感じられた。



【F5 町の燃える酒場前・昼過ぎ】

【名前・出展者】志々雄 真実@るろうに剣心
【状態】火傷(無いも同然)
【装備】ソーディアン・ディムロス@テイルズオブデスティニー
【所持品】支給品一式、予備のマガジン、不明支給品 フランヴェルジュ@テイルズオブシンフォニア
【思考】基本:所詮この世は弱肉強食… ゲームなんて関係ないが、強い奴が生き残るべき
1:目の前の小僧どもと戦う
2:あの火の玉を飛ばすのはどうやるんだろうな?
3:さっきのあの食わせ者の男は、今度生きて会ったら俺が仕留めるか


【ディムロス@テイルズオブデスティニー】
【思考】
1:志々雄を止めなければ…
2:リオンを死なせてしまったのは我にも責任がある…


【名前・出展者】ルイス・キャパシティニ@テイルズオブコンチェルト
【状態】健康
【装備】フレイアの傘@テイルズオブコンチェルト
【所持品】支給品一式、スペクタクルズ(×98)@テイルズオブシリーズ
【思考】基本:殺し合いには乗らないが、殺しを完全に否定はしない
1:コレットを守らないと
2:フレイアとディーが気になる


【名前・出展者】コレット・ブルーネル@テイルズオブシンフォニア
【状態】健康、所々に擦り傷
【装備】無し
【所持品】支給品一式、不明支給品
【思考】基本:殺し合いには乗らない。乗っている参加者がいれば説得する
1:ルイスを守らないと
2:参加者のゼロスを探したい

 *   *   *

 一方、黒影は酒場からやや離れた位置で、燃えさかる酒場を見ていた。
 片方はしとめた。恐らく、もう一人もあの爆発と炎ならば無事なはずが無いだろう… そう確信していた。

 炎が消えたら、焼け残っているものが無いか確認しなければ。


【F5 町の酒場・昼過ぎ】

【名前・出展者】桐生院 黒影@陽華がくえん☆ねこやしき
【状態】無感情モード、顔の右頬に火傷(戦闘に支障はない)
【装備】河城にとり製光学迷彩スーツ@東方Project(焼かれたため使用不可能)
サブマシンガン@現実(弾切れ)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:ゲームに優勝して、元の世界に帰る
1:サブマシンガンの予備のマガジンを探す
2:もしかしたら仕留めた奴が持っていたかもしれないな……

※志々雄が生きている事に気付いていません


 *   *   *

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最終更新:2008年11月27日 18:39