拡声器使用=死亡フラグ

たとえ執筆することはなくても、原作バトロワやパロロワを読んでいた長月コトナはそれを十分に分かっていた。
拡声器の使用……それは、対主催だけではなくマーダーにも自分の居場所を知らせてしまうことになる。分かっている。

(声……どこまで届くんだろう)

ふと、長月コトナはそんなことを思った。
気がつけば“絶対に使うまい”と思っていた拡声器をデイパックから出して握り締めていた。……そして、ふとあることに気づく。

(私がここで拡声器使ったら、アホ神子やアレンさん達にも死亡フラグ立つんじゃね?)

そんなことになっては“なるべく迷惑をかけない”という密かな自分の中の約束が破られてしまう。そう、迷惑をかけてはいけない。
コトナはアトワイトを持って立ち上がる。先ほどの戦闘の疲れの所為か、少し立ち眩みする。

「コトナちゃん?」
「ちょっと外の空気吸ってきますねー。ほら、あんまり室内にいると気が滅入っちゃいますし」
「それなら、僕が一緒に……」
「あ、大丈夫ですよ。気にしないでください。アトワイトさんもいますし!」

そう言って、デイパックと拡声器を持つのを忘れない。軽く手を振ってから、コトナは階段を降りていった。
それを見た小説家は、軽く溜息を吐いた。


【G5 街 電波塔・昼過ぎ】

【名前・出展者】小説家@リアクション学院の夏休みエピローグ
【状態】健康 魔力が少ない(全力氷の矢一回撃てるくらい)
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式 氷のフルート×10@みろるん
【思考】
基本、主催を倒し、ゲームを終了させる
1、やれやれ
2、魔力を早く回復して欲しい

【名前・出展者】ゼロス・ワイルダー@テイルズオブシンフォニア ラタトスクの騎士
【状態】健康
【装備】光の剣@スレイヤーズ
【所持品】基本支給品一式 不明支給品1~2個
【思考】
基本、適当に生き残る。打倒主催より、逃げる事を優先
1、どうしたんだ?
2、コレットちゃんは大丈夫かねぇ


【名前・出展者】アレン・ローズクォーツ@セイラ
【状態】かなりの疲労
【装備】スレイヤーズ呪文の束@ゴキブリ 糸
【所持品】基本支給品一式
【思考】
基本、出きる限りの人を救い、このゲームを終了させる
1、1人で行動、ですか……
2、とりあえず休む
※アトワイトから晶術の知識を得ました


   *   *   *


死亡フラグが立つのは私だけで十分だと思うんだ。知恵も勇気も何もない一般人の私は、どうせ何時か死ぬに決まってる。

『コトナ、何故1人で街の外に出るの? 危険よ、今すぐ戻りなさい』
「アトワイトさんがいるから大丈夫ですよ、たぶん」
『戦うのは私ではなくて、あなた自身なのよ。分かっているの?』

勿論、それは分かってる。それでも私には、やらなきゃいけないことがある。拡声器を持つ手に力が入った……ような気がした。
――新月さんや、ジューダスにネスも死んだ。
新月さんは同じ学院にいた人だし、ジューダスもネスも私の大好きなキャラクターだ。そして、死んでしまった。
そう簡単には死なないと思っても、これは“バトルロワイアル”なのだから人が死なない方が逆に“おかしい”んですよね。
私はゼルさんに死んでほしくない。勿論、小説家さんやアホ神子、アレンさんにも。生きていてほしいとは思うけれど、何時死んでしまうのかは分からない。
だから、私はゼルさんが死んでしまう前に、私が死んでしまう前に、少しでも伝えたい。伝えなくちゃいけない。

「アトワイトさん……オレ、もうすぐ死ぬかもしれません」
『何を縁起でもないことを……』
「拡声器って、使ったらオレの居場所他の人にバレちゃいますよねー。だから街の外に出たんですけど」
『……コトナ、あなたまさか……!』
「そのまさか、だったりして。あはは……」

思わず乾いた笑いが漏れた。アトワイトさんの抗議の声が聞こえる。

「……やるって決めたことはちゃんとやらないと、ゼルさんに笑われちゃいますよね」
『あなたがやろうとしているのは、自殺行為も同然よ。大体、ゼルガディスはあなたを殺そうとした人間の名前じゃない!』
「えーっ。止めないでくださいよ、アトワイトさん」
『止めるわよ! なんだって行き成り……』
「もう、やるって決めましたから。やらなくちゃいけないことですから」

そこまで言って、ようやくアトワイトさんの抗議の声が止まった。……ごめんなさい、アトワイトさん。正直本当にごめんなさい。
拡声器を使うのは初めてで、正直ちょっと緊張してきた。人前で喋ったりするのは苦手なんですが、そうも言ってられないのが現状でして。
私は、拡声器のスイッチを入れた。


「えーっと、……あー、あー、マイクのテスト中ー。いやマイクじゃないよ拡声器だよコレ。そんなことはどうでもいいっていうかゼルさん可愛いよゼルさん」

私はここぞとばかりに何を口走っているのだろう。……合宿の夢の中で騒いでいた自分を思い出した。おお、イタイイタイ。
そんな声もしっかり飛ばされていくワケで。ああ、なんか恥ずかしい。

「……ゼルさん、聴こえますか? オレのことなんか憶えてないかもしれないけど、強いて言うなら湖に突き落とされたゆとりです」

うーん、我ながら的確な表現だと思う。こうすればゼルさんも「ああ、あの時突き落としたアフォか」ってなるかもしれない。……たぶん。

「オレは、今でも生きています。こうして拡声器でくっちゃべって着々と死亡フラグを立てています。いやなんかもうぶっちゃけもうすぐ死ぬような気がします。どうでもいいですが」

本当に言いたいことはこんなことじゃない……筈。でも本当に死ぬような気がしてきました。第二放送行かない内に死ぬんじゃないでしょうか私。

「オレ……ゼルさんに迷惑をかけてしまいました。だから、落とされて当然だったんだと思います」

ゼルさんが何もかも助けてくれるんだと、馬鹿な勘違いをしていた。私は非力なくせに、なんて図々しいんだろう。

「あれ、これぶっちゃけ誘い受けに聴こえるのかな。そんなつもりはないですよええ断じて」

日本語が滅茶苦茶になってきた。あ、元から滅茶苦茶か。

「……オレが、もう一度ゼルさんに会えるかどうかは分かりません。会う前に、死んでいるかもしれません。だから、今こうして伝えておきたいです」

思わず必死になって、拡声器を両手で掴む。アトワイトさんが地面に落ちた。……ゴメンナサイ。

「ぜ、……ゼルさんっ! 迷惑かけて、本当にごめんなさい! こんな形の謝罪でごめんなさい! でもっ……
 図々しいかもしれないけど、オレ……オレ、ゼルさんともう一回会って、ちゃんとゼルさんの顔を見て、ちゃんと……きちんと、謝りたいです!!」

……精一杯の叫び、終了。一息吐いて、拡声器のスイッチを切った。
その内ゲームに乗った人達がここに来るんだろうな。それなら、私はここに残らなくちゃいけない。アレンさん達に迷惑をかけるわけにはいかないから。
あそこにはアホ神子や小説家さん達もいる。もし今のが聴こえていれば、“役立たず”として切り離されるんだろうなぁと、思う。
大声出して、疲れたなぁ。拡声器をデイパックに仕舞って、地面に落としてしまったアトワイトさんを拾った。

「オレ、死ぬのかなー」
『縁起でもないことを言わないで頂戴』

アトワイトさんがもし元の人間の姿を持っていたのなら、溜息を吐いているだろうと思った。


【F3 街の前・昼過ぎ】

【名前・出展者】長月コトナ@リアクション学院の夏休みエピローグ
【状態】それなりの疲労
【装備】アトワイト@テイルズオブディスティニー
【所持品】基本支給品一式 拡声器
【思考】
基本、早く帰りたい、ゲームには乗らない
1、……近いうちに死ぬんですかね
2、ゼルさんにもう一度会って、ちゃんと謝りたいなぁ


【名前・出展者】アトワイト@テイルズオブディスティニー
【思考】
1:……現実にならなければいいけど
2:まったく、なんでこんな無茶を……
基本:出来る限り助言はする。また、もし持ち主が殺し合いに乗ったらなんとか説得する
※ロワ内では誰でもソーディアンの声を聞くことができます
※また、威力は落ちるもののソーディアンさえ持てば誰でも晶術を扱えます

※拡声器による声はかなり広範囲に届いたかと思われ。どの辺までかは他の書き手さんに任せます

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最終更新:2008年12月16日 15:38