赤く燃える太陽が沈み、夜が訪れる。眼下に広がる日本海、空を舞台に三体の機人は静寂を保っていた。
一つは、民への信頼を信じるセイカイオー。
一つは、菊花紋章を胸に掲げるクロマーク。
一つは、あまりにも巨大な要塞、コッカイダー。
三者はまったくこの数時間動くことはなかった。
時間は、少し巻き戻る。
「嘘だ……なぜ君が!?」
「事実は事実よ、つくすさん……あたしと戦って!」
クロマークのパワーは、セイカイオーと互角だろう。だが、
「ぐわぁあああ!!」
「戦わなければ、負けるぞ総理」
総次郎が、笑みを含ませ、語った。
「あなたは、総次郎さん……なんで!?」
「簡単だよ、日本が欲しいのよ!!」
「でも、今まで僕を助けてきたんじゃ……」
「助けるだと? 笑わせるわ!! わしは今までずっと兄貴の下で、ひたすらに苦渋を舐めてきた……わしは努力したよ。 血が滲むようにな。 だがな、兄貴は化け物だった!! さらにわしの上を、鳥のように軽やかにその地位を維持し続けた!!」
総次郎の声色が、狂喜に溢れる。
「だがチャンスが来たよ……ふははは!! 兄貴があんなにあっさり死ぬなら、もっと早くにやるべきだったな!!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
飛び込むセイカイオーを、軽々と受け止めるクロマーク。
漆黒の顔に浮かぶ赤い紅い双眼。
「昔話だよ、兄貴のことだ……。彼女がなぜロボットを操縦できるのかねぇ……」
「まさか……璃理、君も総志郎さんに!?」
「……セイカイオーは、あたしが乗るはずだったのよ」
クロマークが、その腕でセイカイオーをつかみあげる。
「……わたしは、ロボットに乗るために育てられたの。お祖父様から譲り受けたのは、愛情でも優しさでもないの! 人を殺すための力しかもらわなかったのよ!!」
「……ならッ……なぜこんなことを…」
「……あなたを、憧れたの」
璃理の、今にも崩れてしまいそうなその声色。
「あなたが羨ましかったのよ。 小さなころからロボット操縦者として育てられてきたあたしと違って、あなた達は……お祖父様から沢山のことを、譲り受けてきた。でも……」
彼女の声に、黒い黒い怒りが混ざってゆく。
「つくすさんは、みんな奪った……あたしから希望を奪ったのよッ!! それがあなたに………わかって……」
クロマークの腹部に、光が集まる。
「……うわぁああああああああああああああああ!!」
閃光がセイカイオーを襲う。
しかし、放たれた光る矢を、セイカイオーの体は粉砕する。
「り、璃理……!」
「耐えた!? ……でもどの道、もうセイカイオーには今使える武器は無い……」
クロマークが飛びかからんと、レバーに力を込める璃理。
「いや、まて璃理」
「叔父様!?」
「……コッカイダーが、わしらを審議し始めたようだ。 今手を出せば、わしらもやられる」
コッカイダーの巨大な頭部、その頭部のメインカメラが七色に輝き、乱れていく。
「……分かりました」
「そうだな、三時間は時間を与えようか……つくす君も、璃理もよく考えたまえ」
「あたしは、別になんとも……」
そう言う彼女の肩は、震えていた。
井座村「……そろそろ、三時間経ちますな」
ドテカードの上で、つくすは考え続けていた。
手に握るのは、璃理からもらい受けたペンダント。
つくす「……井座村さん、大臣達に伝えてください」
井座村「何かな?」
つくす「大国機には……一人で乗ります」
ただ海を見つめ、背を向けるつくすに井座村はため息を一つつく。
井座村「……死に急ぐ、というのはよくない。 君は若いのだからな」
つくす「……やれる自信が、ありません」
井座村「……やれるだけのことはやれ」
つくす「はい……」
つくすの声は、死んではいなかった。
蓮辺「……では、命令通り戦闘開始と同時にドテカードは、日本へ帰還します」
律子「つくす君……あなた本当に…」
つくすは一人、大国機に乗り込む。
つくす「……答えは、でてません、正直言えばね。 でも、やります……俺」
夕子「あんたが決めたんだ、胸張って……な」
昇「先輩……がんばっす」
雨宮「絶対…絶対、生きて帰ってきてよ…」
国心「親友として、お前を信じてるぞ……つくす」
官上「さ、出発しますよ」
加木「………己を、見失うな……!」
各々が、言葉を送った。
つくす「……ありがとう、行ってくる」
ジェットエンジンを唸らせ、飛翔するドテカード。
夜空の中にもはっきり映る漆黒の影、クロマーク。
総次郎「……悔いはないか」
璃理「……はい、躊躇いません」
総次郎「そうか……」
レーダーが警報を鳴らす。
総次郎「……覚悟はできたか」
つくす「覚悟はありませんよ……僕は、あなたには日本を渡さない! だから、止める……!」
総次郎「ちっぽけな理想では、勝つことはできんぞ小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
つくす「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
セイカイオーとクロマーク!
互いの拳がぶつかり合い、火花を散らす!総次郎「ぬぅっ! つくすは本気か……!」
璃理「それでいいわ……それでいい、つくすさん!!」
互いに膝蹴りを繰り出す!
互いに裏拳を放つ!
ビームが交差し、爆発し、離れ、ぶつかり、また離れる!
迷いもなく、狂いもなく、一つの芸術であるように、両者は攻めを繰り広げる。
璃理「うぅっ、くぅぅぅ……!」
つくす「ぐぅぅっ……あぁぁあ!!」
拳が火花を生み、気迫が衝撃を作り出す!
璃理「……ディサイション……!」
つくす「ブレイカァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
必殺のエネルギーが込められた手刀が、宙に炸裂し合う!
見えないパワーが弾け飛ぶ!
璃理「……くぅぅ!!」
つくす「うぉぉ!?」
相殺し、吹き飛ぶ二体!
璃理「ただでさえ、出力差があるクロマークを、なんで……なんで追い込めるの……」
つくす「――信頼しているからだ」
璃理「な、なにをですか!」
つくすは声をふるわせながら叫ぶ。
つくす「君をだ!! 誰が君を殺したいもんか……僕は嫌だ!! でも君は、決めてしまったから……君を信頼して、そして討つ!! この気持ちは矛盾してるけど、僕にはそれが……理由だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そのとき!
空を裂く閃光!
コッカイダーから放たれるビームの刃!
総次郎「何が信頼だぁぁあ!! コッカイダーのコントロールは超越権限で奪った……死ねぇぇ!! セイカイオぉうう!!」
間一髪、ビームをバリアではじくセイカイオー!
しかし、エネルギーの雨はセイカイオーへと集中していく!
つくす「超越権限……だって!?」
総次郎「そうだ、英武の血筋のために作られた“鍵”で、それ以後の社会的な地位を失いながら、絶対的な力を得る!! それが“超越権限”だ!!」
璃理「……そう、だからクロマークは最大の力を発揮できるの」
つくすははっとした。
まさか、いや間違いない。
つくす「り、璃理……君は、最初から……」
総次郎「……ふっ、はは、はははははははははは!! さあフィナーレだ総理ぃぃぃぃぃ!!」
クロマークの巨大ビーム……ディサイションバスター!
空を焼き、セイカイオーに降り注ぐ!
だが…!
つくす「――“超越権限”、発動!」
セイカイオーを眩い光が包み、ビームを弾き飛ばす!
総次郎「なっ、馬鹿なッ!? 権限を破った……!?」
驚く総次郎!
つくす「璃理、君がくれたペンダントが……鍵だったんだね」
総次郎「ま、まさか……璃理!!」
璃理は震えながら、クロマークのレバーを離した。
璃理「――許してください、おじさま……駄目なの、憎くても……怖くても……いつも前を見つめる彼が、彼の瞳が……好きなの……!」
総次郎「……璃理」
操縦の意志を感知し、自動操縦へと変わるクロマーク!
璃理「殺してください、つくすさん……! あたしを!」
完全な力を解放したクロマーク。
国機の完全な力は、国一つを簡単に滅ぼすという。
クロマークが新たにビームの発射を準備した!
つくす「何か、何かないのかっ!? このままでは……」
???『焦るな民荷、わしがいつも言ってるだろう』
どこからと声が聞こえてくる。
それはセイカイオーだけではなく、クロマークも同じだった。
総次郎「まさか、兄貴……兄貴か!」
璃理「お爺様……!」
総志郎『……コッカイダーより、“一刀”をもらい受けろ。 この一太刀……使い方は、お前次第だ……』
声に答えるかのように、コッカイダーは頭を突き出す。
つくす「総志郎さん……わかりました!」
コッカイダーの頭に、腕を突っ込むセイカイオー!
つくす「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
コッカイダーの頭が割れ、砕ける!
そこから溢れる光はまさに、黄金色の太陽!
コッカイダーの頭から引き抜いたのは……巨大な刀!
つくす『……これが、“一刀君我世”ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
一刀君我世を抜くセイカイオー!
輝く刃!
空を裂き、間を裂き、我を語り君をも悟る。
クロマークから発射されるビームをも、断つ!
璃理「……つくすさん!」
つくす「うおあああああああああああああああああああああああ!!!」
――光が走る!
刃をクロマークの腹に突き立て、そのままぶつかり合う二体の国機。
クロマークが必死に抵抗する、が……
つくす「うおおおおおおおおおおおおああ!!」
クロマークの背中から、セイカイオーの胸へ。
刃は簡単に二体を貫いた。二体の国機の目から、光が消える。
すでに二体は、戦う力を持たない。
死んだのだ。
璃理「……なんで」
璃理の泣くような声が、セイカイオーに流れてくる。
つくす「僕は不器用です。 こうするしかなかった」
徐々に落下する二体。
璃理「あたしなんか、戦う以外何も、何もないのに……」
つくす「何もない人間なんて、いないよ……」
眼下に広がる日本海。
総次郎「わしのわがままだったな……実に、子供のようなだ」
そう言う総次郎の声は、まるで少し前よりも一層老け込んだようだった。
璃理「おじさま……」
総次郎「……だからだ」
璃理「えっ……」
総次郎が、緊急用のハッチを開く。
流れ込む風に、璃理の黒髪が舞う、
総次郎は大好きなその髪を眺め、すぐにやめる。
総次郎「……セイカイオーのほうが損傷は少ない。 二体いれば、サブバーニアも吹けまい。 ……行きたまえ、璃理」
セイカイオーのハッチが開く。
つくす「璃理……総次郎さん!」
璃理「おじさま、そんな……!」
総次郎「君のためになると老人の戯れ言に付き合わせたが……、結局はわしも君を兵器のように扱った。 許してくれとは言わん。 ただ、散りゆく老人に華を持たせてくれ」
璃理「嫌です! おじさまも……」
総次郎「いけぇぇい!!」
総次郎は璃理を突き飛ばし、無理やりにセイカイオーのコクピットへと押しやった。
クロマークの操縦桿を握り、手を動かし、刃が抜かれた。
バーニアを吹かし、離れてゆくクロマーク……。
璃理「……おじさま! 」
総次郎『若い奴には未来が変えられる……璃理、つくす君。 必死に生きろ……!』
セイカイオーは見えなくなり、時期に海に散るクロマークの中で、総次郎は思い出していた。
総次郎「……わしも、バカな男だ」
総志郎『いや、俺が悪かった……許してくれ』
総次郎「今更何を言うか、馬鹿兄貴がよ。 でもまぁ……これでいいんだな」
総志郎『ああ、若い者が俺達のやれないことを、継いでいくさ……』
真っ暗だったコクピットに、光が灯る。
総次郎「――日の出だ、見えるか兄貴」
総志郎『見える、見えるさ……美しい、素晴らしい。 命の輝きよ』
総次郎「命か……ははは……!」
総次郎は次第に、いや…勝手にだろうか。
口ずさんでいた。
――君が代の歌を。
若者に捧げるように。
日輪は、日本を照らす。
第十話 太陽に燃える歌
最終更新:2009年11月23日 22:18