懐疑の弾丸9
国立博物館の館内の明かりが落ちるころになると、人の姿はほとんどない。
自動警備システムが常に稼働し、すべての展示品はモニターされている。
そのため、数人の警備員だけしか存在しない。
だが、システムとは完全ではなく、それを破る手段はいくらでも存在していた。
例えば、展示場から整備館へと移動させるのだ。
と言うのは、展示物であるロボットの多くは、古くはあるが当然貴重なものが多く、外装までは許可されているものの、その内部部品を取り扱う整備館での映像記録は禁止とされていた。
政府容認の元での撮影はまだしも、監視カメラでの撮影すら厳禁とされている。だが、優秀な警備システムが稼働しているので、多くの関係者は問題はないと認めていた。
そこが穴なのだ。
五年間、杉浦恵はそうして深夜の館内へ通いつめた。もちろん毎日ではないが、恵にとってはこの時間こそ一番費やしてきたのだ。
なぜこんなことを続けているのだろう、と自分に問うたことは何度もあった。
専属整備員免許も持っているので、見つかっても怪しまれることはないだろう。言い訳もいろいろ出来る。
忘れ物をした、思い当たる部分がある、手を抜いていた――咄嗟に浮かぶ理由も幾つか出来る。
だが、数年通いつめているうちに、疑問はなくなり、習慣となった。
今日はエネルギーデバイスの部品のひとつを持ってきた。
これを彼女につけることで、レーダーシステムは完全に復活し、内部コンピュータと政府の中央コンピュータとの自動リンクが作動するようになるだろう。
もちろん、そうなっては自分のしてきたことがばれてしまう。そのための細工も、した。
自動リンクを外されたロボットは、無所属機と認定されて、違法扱いになる。場合によっては、それは免許剥奪もありえる。
でもいいのだ、と恵は思う。もうロボットには愛着もない。
現代社会でロボットの操縦権利を失うことは、多くの権利を過失することになるだろうが、これが私なりの社会反抗なのかもしれない。と、そう信じ、納得させてきている。
自分を偽っているのか、本心なのかももうわからない。ただ、彼女の部品が集まるにつれ、自分の心の中が不思議と埋まっていくような気がする。
自分は過失した人間なのだ、心もそうだし、思い出も、いいことなんてない。
整備艦の遮断扉が開き――立派な巨体が姿を現す。
銃口は鋭く、鈍く、闇の中でさえ輝いているようだ。
最初は中身の空っぽな、巨大な筒でしかなかった。今は違う、ひとつの立派なロボットだ。
「ブリディッシュ・ファントム……」
名前を呼ぶ、彼女は嫌そうな顔をした――ように恵には思えた。
そう、こんな名前は、彼女には不要なのだ。人を殺した兵器、国を汚した罪人として付けられた名前。
こんな名前をつけた連中に、彼女は怒りを示しているのだ。
いや――示したいのだ、今は出来ない。
彼女の望みを叶えるのが目的なのだろうか、それすらわからない。
彼女は穢れた拳銃なんかじゃない、天使の弓矢なのだ。
羽は朽ちるとも、彼女は諦めてはいない。
私が、そうさせるのだ。
足は自然とコックピットへと登り、手はハッチを開く。
操縦席も今や、最新式のアルテア式パイロットカバーシート。
これを運びこむのは大変だった、と思い出すと、自然と恵は笑みを零した。
しかし、今日は不思議な日だ。
レーダーサイトシステムの改善は、つまりブリディッシュファントムの完全な復活でもある。
そんな日に、あの――藍沢国心に再会するとは。
最終更新:2009年11月24日 07:10