懐疑の弾丸8
メインパネルの液晶バックライトがぱっと灯る、とそれが機体間・相互データリンクのサインであるのを藍沢は確認する。
パネルに触れて、リンクをオン。リンクした相手に向かってマイクに声を発する。
「利賀さん、上手くやったようですね」
返答が届く。凛とした声、法務相の定女律子だった。
「基本的なパターン練習はこなしていたけど、これほどの技術があるとは、正直思っていなかったのが本音ね。初陣としてはもちろん満点ものよ」
「お飾りのつもりが、上手いこといったわけだ」
「口を謹んで」
律子は、藍沢がこういった皮肉を言うのをわかっていたし、それは内閣メンバーも同じだと知っていたが、この会話の音声記録が利賀の耳に入ることを考慮した。
彼はメンバーとの交流の日が浅い、勘違いをして関係を難しくするのは今後の問題にもなりかねない。
いらぬ心配を増やさない、そういう律子の心遣いを藍沢も理解していたから、すみませんと一言添えた。
「記録からは、一線級の技術の持ち主のように思えるのですが、どこかの外治をやっていたとかですか?」
外治とは外部治安体の略で、要するに内閣府以外でロボットによる自衛戦闘行為を認められた組織全般を指す。
と言うのも、元々ロボットは内閣府のみが扱う兵器であり、技術拡散が進んだいまでもロボットによる戦闘とは内閣府の行動を指すというイメージが強く、故に警察機動隊も外治と呼ぶ。
「……外治って、総理は元々はあなたの外務省所属じゃなかった?」
「もちろん調べました。でもうちの記録では外治に勤めていたなんて記録はありません。もちろん、定期操縦講習は受けていますし、操縦技能に関しての資料も残っていますが、やっぱり目立った記録はないんですよね」
藍沢も興味がなかったわけではないので、自力で資料を探し、いくつかの記録を見つけだしていた。
残っていた記録、そつのない操縦、という評価が当時の審査官によって書き記されているだけだった。
「元々、センスのある人だったのかもしれないですよ。ここにきて目覚めた、と言うべきかもしれません」
「そうね……」
「あまり深く疑うのもまずいですよ、今回の件を含めてマスコミの連中の動きは活発になってきているし、自分のあしもとをどうすくわれるかわかったものじゃないですからね」
今回の立てこもり事件より前にも、いくつかの事件が起こっていた。
内閣はそれで被害者を出してしまい、大きな痛手を負った――あれを丑松だけのミスだったと責めるわけにはいかない。
律子の心も痛む、それを藍沢もわかってはいるが、律子にいつまでも事件の遺恨を引きずらせるわけにはいかなかった。
現リーダーである律子が弱みを見せれば、内閣は負ける。二度目の敗北だ、あいつの戦いを含めれば。
「疑いだしたらきりがありませんよ、特調だって見方を変えれば法務省の独立戦力保有、ってことで色々口を出せますし」
「そ、それは……」
「だから、なにも言いっこなしです、通信切りますよ」
藍沢は通信をそのまま切った。
通信を切らずに様子を見ることも考えたが、それこそ疑っていることになる、そう思い止めた。
コクピットを降りて、我が愛機を見上げると、心が躍る。
眩い照明の中で鈍い灰色に光る巨大な翼は、まるで鷹のようだ。ふふん、国務ロボの中でもモーファリオンは一番イカすな、と気分がいい。
その隣では、トランスボイジャーが身を休めている。四つ足を降ろし眠る姿は鹿かな、と思う。
誇り高き戦士たちだ、と藍沢は思う。決して自分を誇示してはいけない、信頼することが今は大事なのだと強く思った。
格納庫が寂しくなるのはこりごりだ。
最終更新:2009年11月24日 07:09