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 アレフ=ガンドロジーはほろ酔いの中、うっすらと漂う意識を過去へと転移していた。口に流れ込む、クソマズい三流のブランデー。微かに香るアルコールの愛撫。
落としそうになったグラスを慌ててテーブルに置き、意識はまたゆっくりと流れ始める。
 宇宙が見える。
 暗い、深い。そしてなによりこの世界で最も寒い世界だ。
 操縦桿を握る手が汗ばむ。操縦桿はそこにある。スロットルも。デジタルの計器も。自分の顔を光が照らす。
 フラッシュが目を焼き付かせる。視界が鈍る。小さな爆発音。宇宙ですら響く死の音色。
 もう一度、操縦桿を握り直す。汗が流れる。右手に応じ、機体は傾き、視界が動く。光る星々が線を描く。
 センターモニターにタッチ。コンピュータがオートで敵識別をサーチ。赤いサークルが浮かぶ。敵。視界で捉える。
 BO-32だ。くそ、現行機じゃ足の速い奴だ。独特の三点装備のバーニアが宇宙にラインを引く。

 トリガーのロックは外れている。躊躇わず引く。唸りをあげ、鋼鉄の銃弾が宇宙の暗闇に吸い込まれる。
 間髪入れず、爆発。小さい。
 補助カメラが即座に状況を告げる。“シールドで防いだ?”
 レーダーがデブリを捉える。敵、デブリの影に消える。
 オートスイッチを手動で切る。ミサイルのロックを外す。
 トリガー。反動と同時にノーロックのミサイルが直進する。ミサイルがデブリを粉砕。同時に――敵視界の下へ回り込む。
 強烈なGと、迫るデブリの雨の恐怖感が背筋を凍らせる。
 “当たれば死ぬ。”自分に言い聞かせる。
 デブリの中、股下を空けた敵に飛び込む。
 こっちはステゥムアウトだ、デブリ慣れしている……。
 デブリを機体のすれすれでかわしていく。捉えた――。
 銃弾が飛ぶ。敵が粉々に吹き飛ぶ。また宇宙にデブリが増える。
 最後の奴は……手強かった。死んだことには、気づかなかっただろう。

 こちらがステゥムアウトであることを考えれば、長く生き残った方だろう。
 息が荒い。
 死から今日も逃れられた。
 甲高いノイズが耳をうつ。若い男の声。
「こちらST-T2011、敵全滅を確認。アレフ、ミーシャへのアタックはよしとけよ」
 ノイズと同じ、甲高い声。耳に障る。
ノイズジャマーをフィルターに叩き込み、マイクをリンクさせる。音声、多少クリアに。
「誰がだ」
 コンピュータに損傷箇所を確認させる。
 “ST-T2011”?
「経理部は利口な女性しかいないのさ。下手に手を出せば、次の日にはいい話の種にされる。英雄アレフ中尉ミーシャへの愛に散るってね」
「ST-T2011は俺のナンバーだぞ」
「いい加減に起きろってことさ」
 直後、頭に鈍痛が走る。
 意識が遠ざかる――、いや、逆だ。

 アレフは顔を上げる。奥によく磨かれた棚にならぶウイスキー達。
手元は同じくピカピカなカウンター。そこに宇宙はない。
 ガンガンと痛む頭を押さえ、ゆっくりと意識は体に馴染み始める。
「お目覚めのほどはいかがかな、中尉」
「マスコム、てめぇファイルの“角”でやりやがったな」
 白衣を着た研究者風の男、マスコム=ファダムはファイルを脇下に挟む。
「その様子なら、ロックオンするまえに撃墜されたかな」
「黙れ、あんな女に興味はない」
 アレフはまた酒を飲む。
「まあ、任務に支障をだすような飲み方はするなよ。酒で死んだなんて笑い話にもならない」
「笑い話が出来上がる前に、次の兵士が来ちまうさ。そして忘れ去られる」
「“若くとも老兵”かい?」
「そういうことだ」
 アレフはため息をしながら、弱々しくそう答えた。
「で、俺に用事だろう。次の出番が決まったか」とアレフ。
「いや、出撃のプランは纏まってるんだがね、機体のほうがまだなんだ」
「STC-02か、あれの目処がたったのか」


 STC。
 ステゥムアウトと称される特殊機群のコンセプトの、偵察を目的とした機体。
広範囲の索敵システムを積んだ新機軸の機体となるはずである。
「現状では足りない部分があってね、それを補うために補充員が今度ここに来る」
「それとステゥムアウト乗りの俺が、どういう関係があるんだ」
「プランに書いてあったとおり、STCは二人乗りを原則として考えられている機体だ。今回、その相方が呼ばれるわけ」
「うちのパイロットじゃ駄目なのか」
「細かいことには気づかないだろう。技術屋が乗らなきゃ」
 マスコムはアレフについてくるように促した。気だるいが、行かないわけにはいかんだろう。
しぶしぶと後に続いた。


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最終更新:2009年12月05日 15:57