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第一話『企業勇者、契約!!』



闇の中、二人の人間の声が響く。
甲高い女性の声と、老人の声……。

老人「して……ついに“あれ”を手に入れたそうだな……」

女「ええ……ラボで只今、解析中ですわ。 ふ、ふふ……素晴らしいですわよ…あれは……」


老人が手の内にある写真へと目を向ける。
赤色に輝く、巨大な鉱石……写真からもその鉱石が異質であることが感じられた。

老人「……『シャイニングトロン』……これぞ、無限エネルギー……!!」


その時だ!
警報が鳴り響く!


老人「……何事だ…」

数名の研究者が老人の前に並び立つ。

研究者「ほ、報告します……!! やつが……『シャイニングトロン』を…」

女「なんですって……!? ……ぐううっ!!」

女に殴られ、地に伏せる研究者。

老人「この始末……しっかりつけてもらうぞ……『ドクター・BB』……」

BB「は、ははっ……!」

深々と頭を下げるBB。
その表情は、憎悪に歪む。







翌日。
都内某所。


???「なぁ旦那ぁーっ、お給料はまだっすかぁー!!」

???「だぁーっ……うるせぇ、いま忙しいんだよ!!」

???「いつもの競馬でしょおー!! 頼むからしっかりしてくだせぇ!!」

都内の小さなビル。
ボロボロのオフィスにロボット特有の機械的な声が、デスクに座る男のパソコンから響き渡る。
疑似人格AIが喋るその言葉は、実に感情豊かだが、今競馬に集中するこの男の耳には邪魔なだけであった。

男――平野研一は本日も全敗。
ぐわぁーっと唸りをあげて、馬券が宙に舞い、ただでさえ汚いデスクに馬券がまた積もる。
さっきまで話していた疑似人格AI――ガンドジムは、その様子をパソコンのカメラから黙って見ているしかなかった。
腹が減ったと、研一は受話器を取り……適当に注文してから気づいた。
一週間前に当てた馬券は既に、そこに散らばった無価値の馬券へと姿を変えて……。
すみません、間違いでしたと一言言い、受話器を降ろす。
ああ、どこかに一発でボロ儲けできる、かるい仕事でもないのか……。
と、その時だった。

???「た、頼もーっ!!!」

研一「お、いらっしゃ……………あ?」

研一の営業スマイルは固まり、一気にどかした馬券の山は、ひらひらと無情にも床にばらまかれた。
研一が固まるにも無理はない。
期待していた、待望の、久しぶりの、食事代になりえる、仕事の依頼主となりえる来訪者は……。


研一「……。」

???「…………。」

研一「なんだガキ」

???「頼もーっ!!!」

研一「空手道場じゃねえぞ、……帰れごるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

研一の怒りはビルを揺るがしたという。


怒声に驚きながらも、依頼人らしい子供は話を続けた。

???「空手道場なんか行くかボケ!! 僕はあんたのとこの『勇者』を借りにきたんだ!!」

研一「な、んだとぉ?」


勇者ロボ。
それは旧時代の遺産とも言える兵器である。
数十年前まで、世界ではロボット犯罪が多発していた。
が、現在は警察の強化により犯罪数は激減、勇者ロボの必要性はない時代だった。


研一「ふざけんなよガキ、勇者ロボなんざうちじゃもう扱ってねえんだ。今は清掃ロボ、洗濯ロボ、風呂沸かしに子守……エトセトラ、そういうやつのレンタルをやってんの。わかったら帰れガキ」

依頼人を睨みつける研一。
しかし、少年はにやりと笑う。

???「これを見て、まだそんなことが言えるのかい?」

少年が背後から取り出したるは、ガキが持つにしては巨大なトランクケース。
少年はそれを研一に差し出し、顎で開けろと指示した。

???「早くしろ」
研一「んだこのガキ………くそっ、えーっと中身はなにが、入っておおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」

研一の目がギンギンに輝き、見開かれた。
当然だろう。
トランクの中には、ぎっしりとお金が敷き詰められていた。

少年「……『一億』だ! 交渉成立だな!」

研一「やぁらせてくださいっ!! はいっ!!」

契約が成立した。


応接間。
多少は片づけられ、洒落たものも置かれている。
が、何ヶ月も御新規さんをとってないため、使われていなかった。
埃を軽く叩くと、目に見えるほどに舞った。
窓を開け、少年と研一が向かい合うようにソファに座る。
研一はまず、最初に聞きたかったことを尋ねた。





研一「……して、なんで勇者ロボットをご希望なので?」

少年は腕を組み、ソファに深く腰掛けた。
如何にも偉そうである。

???「自己紹介がまだだったな……僕は、里見つぐむ。代々由緒ある、ロボット生産工場、里見重工の御曹司だ」


里見重工。
正直、研一には聞き覚えのないものであった。

つぐむ「無理もない、今は……あまり繁盛していないからな。叔父と共に、今は小さな工場で部品生産をやっている」

つぐむはトランクの他にもう一つ、正方形のボックスを取り出した。
つぐむがそれを開くと……


研一「……なんだ、サファイアか? いや、にしては…」

ボックスから取り出されたのは、赤く輝く鉱石だった。
だが、内部には複雑に絡み合う、まるで電子部品のような無数のラインが見える。
煌めくそれはまるで、一つの電子回路だった。

つぐむ「この……『シャイニングトロン』を守ってほしいんだ」

つぐむの話はこうだった。

シャイニングトロン……。
数ヶ月前、いつものように叔父と工場の手伝いをするつぐむの前に、黒服の男が現れた。
内容はわからなかったが、叔父に聞かされた話によれば、叔父の技術的協力の要請であったという。
正直、この工場だけでは生活は苦しい。
叔父はその男達についていった。

数ヶ月後。
工場に行っていた叔父から、突然電話が入った。
焦る叔父の声は、誰かに追われているようだったが、要点はしっかりと聞かされた。

工場地下に眠る、『シャイニングトロン』を死守してほしいこと。
金庫にある一億円で、この会社に頼ること。
翌日、爆発音で目を覚ましたつぐむが見たのは――巨大ロボットに破壊される工場の無残な跡だった。

つぐむ「叔父は、今はどこにいるかは分からない。だけど、確かに叔父が頼ってきたのはここだったんだ。 この一億円円で……頼む!」

唸る研一。
まさかそんな理由があったとは。
と半信半疑で納得しつつ、目に映るは一億円のみ。
早々に契約し、一億円を自分の物にしたい……。
すでに開かれた印鑑のインクは乾きかけである。

研一「うむ、分かった分かった。それじゃ早速契約を」


???「待ちな、旦那……俺は嫌だぜ」
いざ判をと焦る研一を止める声。
つぐむが声の主に目をやると、ノートパソコンの画面に“03待機”の文字。
疑似人格AIだ。

研一「なに言ってんだゲイザー!! わかってくれ……こっちは商売だ、一億だぞ! こんなチャンスは……誰が逃すか!!」

ゲイザーと呼ばれた疑似人格AIの待機ウィンドウが点滅する。

ゲイザー「俺は自分が認める男としか仕事はしない。青臭いガキは当然ダメだ。何より、立ち向かわないこいつの根性が気に入らん」

つぐむ「……なんだと…!」

つぐむは立ち上がり、ディスプレイを睨みつける。

研一「お、おいゲイザー……あんま口を悪くするな。商売だぜ商売」

ゲイザー「今の話を聞けば、そこのガキは叔父をさらったって連中に立ち向かわないで、逃げ帰ってきたようだ。それで何もしないまま、俺たちの力を借りようとしている。俺はそういう態度の奴が、一番嫌いなんだ」

つぐむ「この……! お前、疑似人格AIだろ! なんだその口の効き方は! プログラムがなってないんじゃないか!?」

ディスプレイの点滅が、グリーンからレッドへと変化する。
一目でわかる、怒りのサインだ。

ゲイザー「金持ち坊ちゃまは、外見は綺麗だが中身は汚いようだな」

つぐむ「なんだとっ!?」

ゲイザー「学のある奴は、そう簡単にかっかしないって、電磁図書で読んだぞ」

つぐむ「き、貴様……!!」

画面とにらめっこするつぐむ。
そして。

つぐむ「ああ分かったよ!! お前なんかと誰が契約するか!! この……ポンコツAI!!」

トランクを頬ずりする研一をぶっ飛ばし、そのまま勢いよくつぐむは出て行った。


研一「お、俺の……一億……」





つぐむ「くそっ、あの馬鹿AI……なんだよ…」

一億円のトランクと、謎の宝石を抱え、行く宛のなくなったつぐむは怒りに打ちふるえていた。

あのAI――ゲイザーの言葉が蘇る。

「俺は自分が認める男としか仕事はしない。青臭いガキは当然ダメだ。何より、立ち向かかわないこいつの根性が気に入らん」

「今の話を聞けば、そこのガキは叔父をさらったって連中に立ち向かわないで、逃げ帰ってきたようだ。それで何もしないまま、俺たちの力を借りようとしている。俺はそういう態度の奴が、一番嫌いなんだ」

立ち向かえる分けないじゃないか。
自分はただの子供だ。
真っ赤に燃え盛る工場に立つ、巨大ロボットのシルエットが目に浮かぶ。
あれは悪魔だ。
徹底した、恐るべき存在。
無理だ、人間が立ち向かえる存在じゃない……。

どんっと、何かにぶつかりつぐむは地面に倒れる。
虚ろな足で市内を歩いていれば、当然人にぶつかる。
起き上がり見上げると、自分より頭一個身長が高い女だった。

女「いった……たた…なにすんのよ!」

つぐむ「……うるさい、ほおっておいてくれ」

そのまま立ち去ろうとするつぐむを、女の友達らしき人物が囲む。

「ちょっとひどいじゃないの!?」

「謝りなさいよっ!!」

「どこに目を付けてんのよ!!」

自分を責める声が、あの疑似人格AIの声とだぶる。
無性に泣きたくなった。

つぐむ「……うるさい、なんだよ!! 僕がなにをしたっていうんだよ!! 助けてほしいから……だから……!!」

泣きじゃくるつぐむを、困惑して見下ろす女達。
その時だった!

「き、きゃあぁぁぁぁぁぁあああっ!!!」

爆発が街を包み、爆風が吹き荒れる!

女「な、なにっ!?」

つぐむ「……! あれは……!!」

ビル群の中、機械関節の唸る音が響き渡る。

――巨大ロボット!


つぐむ「き、昨日の……あいつだ…!」

巨大な鉄の塊。
それを見上げるつぐむ。
昨日の恐怖が蘇る。

「に、逃げろぉおおおぉ!!」

「いやぁぁあ!! 助けてぇぇぇぇえええええ!!」

巨大な腕が、つぐむに降りかかる!

女「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

つぐむ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

爆炎が街路を燃やす!
地面に突き刺さる巨大な腕!

間一髪でよけたつぐむ。

つぐむ「く、くそっ……くそぉ……!」

逃げようとするつぐむの足が掴まれる。
足元を見ると、さっきぶつかった女が倒れていた。

つぐむ「な、なんだよ!!」

女「あ、足が……歩けない……!」

見ると、女の足は青くなって、痛々しく腫れていた。

女「た、助けて……」

つぐむ「あ、歩けよ自分の足で!」

女「見ればわかるでしょ……無理…!」

ロボットはすぐそこまで迫っている。
つぐむはロボットを見上げる。

つぐむ(何が……なにをしろっていうんだよ…僕に……!)

ゲイザーの言葉が、また繰り返される。

つぐむの、ロボットを見る目が変わる。
反逆の、反骨の意志をもった燃える瞳に変わる。

つぐむ「……つ、掴めるか、僕の肩を」

女「……しゃがんでくれたら、助かるかな…」

つぐむ「分かった……」

小さな体で、肩を組むつぐむ。
歩みは遅いが、ゆっくりと確実に逃げようとする。


つぐむ(これは、これならいいんだろ……ポンコツAI! これも立派に立ち向かってるって言えるよな……!)

ロボットはすぐそこまで来ていた。
振り上げられた拳の影に包まれるつぐむ。

つぐむ(……くそっ!! これでいいよな……いいんだろ……!!)

拳を睨むつぐむ。
そして、それは振り降ろされた……!


最初に見たのは、青い閃光だった。
唸るエンジンの音に、目を開くつぐむ。

つぐむ「……し、死んでいない…?」

???「俺のスピードには、あんなとろい拳じゃついてこれん」

つぐむは今、青いスポーツカーの上にいた。
そして、聞き覚えのある声。

つぐむ「お、お前は……!!」

ゲイザー「なかなか面白いものを見せてもらったぞ」

間違いなく、あのAI……ゲイザーだ。
つぐむは始めてみる、ゲイザーの勇者ボディに見惚れた。
美しく輝くブルーボディは、太陽に照り、眩く光る。
つぐむは気絶した女を担ぎ、ゲイザーのボンネットから降りた。

ゲイザー「傷を付けないように降りろよ」

つぐむ「わ、わかってる!」

つぐむが離れたのを確認するとゲイザーは巨大ロボットと向き合う。

ゲイザー「このゴリラ野郎、派手に暴れやがる」

つぐむ「た、戦うのか!?」

ゲイザーのドアが、犬の耳のように答えるように動いた。

ゲイザー「お前の姿、尾行させてもらった」

つぐむ「なっ……この…」

ゲイザー「ガキらしく泣きじゃくるとこは、笑いを堪えるのが大変だったぞ」

怒る拳を握るつぐむに、ゲイザーのエンジンが、二、三度と唸る。

ゲイザー「だが、まあ最低限の合格ラインだ」

つぐむ「えっ……」

ゲイザー「……『女を守る男』。 男としての……最低限のルールを、お前は破らなかった……そういうことだ。 雇い主に死なれちゃ困る」

つぐむ「ゲイザー………雇い主って…!」

驚きに目を見開くつぐむ。
ゲイザーのシフトが、上がる。
タイヤが焼け、青い車体が巨大ロボットに飛びかかる!

ゲイザー「見せてやる……この姿になるのは、何年ぶりだろうな……!」

瓦礫に乗り、車体が宙に舞った!
太陽の逆光にさらされながら、ゲイザーは吠える!


ゲイザー『チェエエエエエエエェェェンジッ!! バトリィィィィィィィィィィィイドッ!!』


みるみるうちに変形するスポーツカー!
それはもはや車の形をしてはいない!

太陽を背に、風を巻き上げ!
奴は現れた!


ゲイザー『疾風勇者ッ……ゲイィッ……ザァァァァァァァァァァァ!!!』


蒼き勇者が、瓦礫の街に立った!







散らばる馬券。
それをちりとりで掃く研一のパソコンが、アラームを鳴らす。

研一「んだよったく……こちとら忙し……」

警告のメッセージに研一は凍り付いた。

ガンドジム「あ、兄貴が……変形した…!」

研一「ば、馬鹿なっ……あいつ……」

研一の脳裏に浮かぶのは……。
研一はノートパソコンを手に、会社を抜け出る。


研一「あの野郎……勝手にやりやがってぇぇ!!」

研一は自家用車に乗り込むと、ゲイザーのいる現場へと走り出した。



つぐむ「あ、あれが……勇者ロボ……!」

勇者ロボ。
その雄々しき姿に、つぐむはただ呆然とした。


ゲイザー「このクソゴリラ……くらえぇっ!!」

ゲイザーの二丁拳銃が火を吹く!
しかし、巨大ロボットの鋼の装甲はびくともしない!

ゲイザー「ちっ……うおぉっ!!」

ゲイザーは、果敢にも自分より巨大なボディに格闘戦を仕掛ける!
素早い動きでかわし、一発また一発と攻撃を当てるが……


つぐむ「き、効いてない……!?」

ゲイザー「てめぇ……! うっぐああああああぁぁ!!!」

巨大ロボットの拳がゲイザーを捉え、ビルに叩き込まれる!
なんとか起き上がるゲイザーに、第二撃が迫る!


研一「んのやろっ……ゲイザァァァ!! てめぇ何やってんだぁぁぁぁ!!」

車の窓から叫ぶ研一に、ゲイザーは余裕のある声で答える。

ゲイザー「おう旦那、参ったぞ……あれを使うしかないようだぜ」

研一「なにいぃぃぃぃぃぃ!? う、うおおっ?!!」


研一の車が派手に瓦礫にぶつかり停止する。
と、第二撃がゲイザーに叩き込まれるのは同時だった。

つぐむ「げ、ゲイザァァァっ!!」

研一「あぁぁんなくそっ…! 本当にいいのかよゲイザァァァ!!」

巨大ロボットの拳を抑え立つゲイザーが答える。

ゲイザー「ああ、雇い主様にアピールタイムってやつだ……やってくれ!」

研一「んのやろぉぉっ……知らねえぞ俺は!!」
研一がノートパソコンのアイコンをクリックすると、掌紋センサーが浮かぶ。
拳をかざす研一!

研一「いくぜゲイザー……久しぶりの………ボォォォォォォォナスだぁぁぁぁぁあ!!!」

その時!
彼方から飛んでくる3つの光!

つぐむ「な、なにっ……!?」

ゲイザー「うおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」

ドリルジェッター!
バトルウルフ!
シャインフェニックス!
三つのメカが、ゲイザーへと組み込まれていく!!

研一(ゲイザー……いいんだな、これで!)

研一の口元が歪む。
ゲイザーが……唸る!

ゲイザー『……怒涛勇者……!!』

剣を構えた、赤き巨人!

ゲイザー『シャイィィィィィィンゲイザァァァァァァァァァァ!!!』

シャインゲイザー!
翼が羽ばたき、地を蹴る!
剣に、エネルギーがほとばしる!

ゲイザー「疾風……!! 三段斬りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

光が走る!
三つにさばかれる巨人ロボット!
爆発!


つぐむ「あれが、勇者……」

夕日に照らされ、深紅に燃える勇者。
動き出した敵。
シャイニングトロンとは、いったい何か。
勇者企業、その戦いが始まった。


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最終更新:2009年12月06日 13:21