学園生活とは……言うなれば戦争である。
争う理由は多々あるが、そこに対立があり、遺恨があることは明確なる事実である……。
???「……懲りない奴だな、貴様も」
???「懲りない懲りなかったは関係ない!! 今か……今でないかだぁぁぁぁぁああああ!!!」
???「意味不明なことを……ぬかすなぁぁぁぁぁぁ!!!」
???「今日こそ……今日ぉぉこそぉぉぉぉぉおおおお!!!」
青春とは……果てしなき闘争である。
倶楽部戦記リードナー
第一幕『あれだ! 青春に駆ける文芸部』
……罠、である。
いや、罠としか言いようがない。
???「さてと、なかなか悪くないんじゃない? 反抗しそうにないおとなしめな子だし」
???「あ、あの……本当に大丈夫でしょうか……。すごくまずいんじゃ……」
???「大丈夫だって、きっと協力してくれるってさぁ」
???「で、でも、個人の行動を抑制するのは……」
もう一度言う、罠である。
入学式早々、なぜ僕が拉致られればならないのか……考えうるだけの要素を考えてはみたが、要因が見つからない。
強いて言えば、僕が美術室の見学をしていたくらいだろうか……。
僕『えへへ……新しい学園生活かぁ…』
???『あ、あの……入部希望者、ですか?』
僕『へ? あ、いや、あはは……まあ、そう……かなぁ…』
???『ほほう……初っぱなからビンゴか』
???『あっ……先輩!?』
僕『へっ!?』
……気がつけば、目隠しをされどこかの部屋に閉じこめられた。
見学会じゃ、物騒な雰囲気とかなかったんだけどなぁ……。
僕の今度から通う、都立南平路高校は、世辞にも有能校とは言わないが……校風は実に大らか、設備も悪くない、まだ新しい学校だ。
特徴と言えば部活動の多彩さで、リストをみたときは驚いたものだ。
その中でも、美術部。
ここの環境は近県でも希なほど整ったもので、恥ずかしながらその種の職に就きたいと思う僕は、真っ先に見学しに行ったのだが……
僕「……なにが目的なんだよ。いい加減放してくれよ、これ」
???「まあまあ、話を聞いてからにしてもらおうかなぁ」
僕「……話?」
???「……『ユナイトロン制度』、知ってますよね」
ユナイトロン制度。
それは、ユナイトロンという先天的進化要素を組み合わせた、全く新しいロボット生命体……らしい。
近年、学歴社会化に伴い以前よりも『倶楽部活動』の勢いが衰え、急遽文部省が取り入れた制度……だったはず。
倶楽部活動の活発化を促すため、今じゃほとんどの学校で採用されてる、んだけど……
僕「あれ……南学って、ユナイトロン制度をやってないんじゃ……」
???「それが……ここ最近、県の教育委員会で全校に導入することが決まったの」
僕「は、初耳だ……」
???「それで、私たちの部にも、ユナイトロンが来たんだけど……」
???「これがてんでさっぱりなんだなぁ。あたしら、こういうの苦手で」
僕「……出来る人に、頼めばいいんじゃないんですか?」
???「それがだめなんよー…。部のユナイトロンは、部が独自に組み立てないと、認めてくれないんよ」
僕「はぁ……」
???「あたしたちは駄目だから、ほかに方法があるとしたら、新入生を入部させるしか、なくって……」
僕「はぁ……」
……ん? まてよ?
――『新入生を入部させる』?
僕「ち、ちょっと待てぇぇぇぇぇえええええええ!!! それで僕か、僕なのか!?
別に僕じゃなくていいんじゃない!? もっと普通に玄関で集めたりしましょうよ!!
この学校にだっているでしょ一人や二人俺帰宅部でーすって空気出してる人!!
そぉいうのにしましょおよ!? ねぇ!?」
???「いやぁ、どうせユナイトロンやるんならさぁ……勝ちたいし?」
僕「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! おおおおまえ達の勝利のために僕の未来をくれてやるかこんちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
僕は、暴れるしか術がなかった!
全身亀甲縛りにしやがってからにこんちくしょー!!
だが、そんな僕の頬を、柔らかく、そしてしなやかな指先がなでた……
???「ぶ、部長……」
???「あ、おかえりー。」
???「……この子なの?」
耳元で囁かれ、我が神経はまるでおじぎ草のごとくさらりとしおれていった……
???「悪くないと思うけどなぁ。下手にチャラチャラした奴よりかはうちの部活に相応しいと思うけど」
???「ふぅん……」
ああ、やめてくださいそんな声で耳元などっ……
さっと、また指先が頬をかすめ、それから……
???「……あなた、…………入部します?」
……完敗でした。
???「……ぐ、ぐぅぅぅう……ま、まだだ……俺の闘魂は、尽きちゃ、いない……」
廊下を、ウジ虫のごとくボロクソな何かが這いずっていた。
よく見れば分かるが、南学の制服をそれとなくわかるまでにボロボロにした彼は、その尽きかけの魂で道を行く。
行くあてなどはなかった。
ただ、勝負に敗れた悔しさだけが、彼を押し進めていた。
???「……し、勝利…は……俺…の……俺の…勝利は……どこだ……どこにあるッ……!」
息絶え絶えに立ち上がり、彼の目の前にそれは飛び込んできた。
――『ユナイトロン制度』導入――
君も、『マスターオブユナイトロントーナメント』に参加しよう!
???「こ……これだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
目隠しを外すと……驚くべきことに、だ。
三人の美女が、座っていた。
幻だろうか……否、耳元に微かに残る甘い吐息は現実のものだろう。
部長、姿見麗子。
副部長、片目紀伊子。
唯一の部員、空羽虹絵。
なんとまあ幸運なのだろうか。
間違いなく嫉妬されるレベルの美人揃いだった。
特に……耳元に残る部長のその姿は、まさに美しさという言葉をそのまま三次元へと変換したような、パーフェクト。
麗子「それじゃ、入部ってことでいいかしら」
僕「は、はぁ……」
ここまできたら、やけだった。
やれるだけのことはできるさ、ここが何の部活であれ、絵の勉強はできるはず……
麗子「それじゃ、ちょっと外出てるね」
紀伊子「ん、了解ー」
虹絵「はい、わかりました……」
いったいどこへ行くというのだろうか……。
麗子「……そういえば、君?」
僕「は、はい?」
麗子「名前……聞いてなかったわ、なんていうのかしら?」
優太「あ、富平……富平、優太です」
麗子「優太くんね……そう……」
あれ、この感じ……
背中に寒気が…
麗子「……逃げちゃだめよ」
彼女が行ってから、この寒気の正体を悟った。
――殺気だ。
僕「………殺られる、間違いなく」
紀伊子「というわけで……ようこそ、『南平路文学部』へ!」
優太「……無事に済むのか、僕……あ、あはははは…」
優太「これが、ユナイトロン……!?」
目の前のホログラムに、僕は感動していた。
まだ十センチ四方の、半透明な鉄の塊は、投影機の上でゆらゆらと揺れていた。
紀伊子「これに情報を組み込んでやれば、ユナイトロンは生まれる」
優太「すごい……こんな……」
SF小説はあまり読まないけど、ファンタジーは嫌いじゃない。
これが、この部活の『魂』を投影する、分身になる……。
紀伊子「一応、少しは情報を組み込んだんだけどさ」
優太「あれ、じゃあなんで……」
虹絵「……外見が、まだなの」
僕「外見?」
紀伊子「一応、内部的な要素は組み込んであるけど、それを反映できるような『外見』の情報が、まだ不足してるん。 だから、四角いまま」
優太「だから美術部志望の僕を引っ張りこんだんですか……」
パラパラと、取り扱い説明書をめくり目を通す。
なる程、一応やり方はわかった。
ユナイトロンを構成するのは、『内部的』、『先天的』、『後天的』、『外面的』の4つ。
『先天的』は、最初に入力した部活動の基礎的な要素。
『後天的』は、これからの育て方できまる。
『内部的』が直接組み込む情報で、もっともユナイトロンへ影響を与える。
しかし、『内部』を発揮するためには、『外面』が必要になる。
ミサイルを撃つ、と入力しても、外面にミサイルの発射管がなかったら、発射されない……ということらしい。
僕が、このユナイトロンの見た目を形作る、ということか……
優太「で、どんな要素を組み込んだんですか。それを聞かないと、書けないんですけど」
虹絵「……そ、それが……」
嫌な予感。
紀伊子「あははは……やり方わかんなかったから、さ。 そこにある本棚の本全部……」
優太「……な、なにぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!?」
本棚には、数え切れない数の本。
まともなハードカバーだけでなく、経済誌、エッセイ、マンガ、危なげな本まで……
……ということは。
紀伊子「ま、まあまあ、とりあえずな外見だけ仕上げれば、どうにかなるって」
優太「どうにかって、まあ、やりますけど……」
紀伊子「今日中にね」
優太「なんでだよッ!?」
虹絵「……今日中にユナイトロンを生徒会に提出しないと、……廃部になっちゃうの」
優太「……!?」
……廃部、か。
中学時代、画家を目指してはいたものの、僕は美術部じゃなかった。
ドがつくほどの運動部が盛んで、美術部には誰もいなかった。
廃部になることのつらさは、知ってるつもりだし……なにより、美人を泣かせるわけにはいかないよな。
優太「……描きます、今日中に」
虹絵「優太、君……」
紀伊子「……あんた」
優太「……覚悟決めました。 やりましょう」
戦争の中のオアシス、それもまた良し。
???「はい、これ」
???「あ、ああ……あんたは、いったい?」
???「単なるビラ配り、ですよ」
勝利とは……得難いこその蜜の味。
そして、得ずして男とは成り得ざるなり……。
???(……どうやら、俺のいく道は決まったようだな……!!
待っていろ……我が永遠のライバル!! この舞台で、俺はお前を……潰す!!)
……そして、なんとか間に合った。
広大な南平路の校庭に僕達は駆け、生徒会の受付にたどり着く。
生徒会長だろうか……が、僕達を迎えた。
桜庭「……間に合ったようだな」
紀伊子「おぉう桜庭! なんとかなったぞ!」
虹絵「ギリギリでした……」
優太「……これで、いいんですよね」
ユナイトロン・コネクターを出すと、桜庭と呼ばれた男も、コネクターを取り出した。
桜庭「……では、実際にセットしてみてください」
紀伊子「よし、やってみろ富平!」
虹絵「優太さん……!」
優太「……よ、よし」
コネクターを天に向け、そして……
優太「……リードナー、セットイン!!」
コネクターから光が天に伸び、入力された全ての情報が、現実に形作られていく。
まるで魔法のように、半透明だったそれは確かに目の前にある現象として現れた。
シルバーの鋭利なボディ、緑に煌めく眼孔。
優太「……これが、リードナーです!」
桜庭「……うむ、セットは正常だな。 では……」
虹絵「……えっ」
桜庭も、コネクターを天に……
桜庭「プリズナード……セットイン!!」
リードナーと同じように、巨大な姿が現れた。
それは、ホワイトパールに輝くユナイトロン……
桜庭「さ、実戦テストといこうじゃないか」
優太「実戦!? き、聞いてないぞ!?」
桜庭「……文学部には、運動が不得意なものもいる。よって、文学部のみ専属にパイロットとなれる部員がいなければ、ユナイトロンは認められん」
紀伊子「そ、そんなん聞いてない!?」
虹絵「あ、あたし、パイロットなんて……」
なんてこった……、中学生の時、体育の筋トレさぼんなきゃよかったなぁなんて、そんな簡単な思いではなかった。
ユナイトロンが認められないってことは、イコール……廃部……!
優太「そ、そんな……」
桜庭「どうした。 まさかパイロット部員が用意できて……」
???「待ぁぁああああああてぇええぇぇぇぇぇええええええええええええ!!!」
桜庭「ぬ……!」
優太「……な、なんだ?」
そこに居たのは、……表現し難い人物だった。
熱血漢を絵に表せば、こんなのだろうか……。ボロボロの制服を着込み、目は鋭く、今にも噛みつきそうな殺気を放つこの男は、………変質者か?
???「そこの少年!!」
優太「……え、僕?」
怯む隙も与えず、彼は一瞬で僕との距離を詰め、両肩を掴んだ。
???「パイロットなら、俺にやらせろ!!」
優太「……はぁ?」
???「……心配はいらん。 俺は、この日のために生きてきた!!」
僕「い、いったい何を……ああっ!? ちょっと待てぇぇ!!」
紀伊子「な、なに勝手に乗ってんのあんた!!」
あろうことか、僕達を完全無視でリードナーに乗り込む変質者は、凄まじい殺気で近寄れない……
桜庭「……では、よろしいようですね」
???「ああ、かかってこい!!」
優太「ちょっと待てっつうのこらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕の声も虚しく、戦いは始まってしまった……。
リードナーは、素早さが売りのユナイトロンに育て上げてある。
だが……
優太「ば、バカ!! 接近戦は無茶だ!!」
???「俺は寄るほうが好きだ!!」
優太「好きとか嫌いとかないだろ!?」
桜庭「……隙ありだ、ブレードシュミッダー!!」
プリズナードの一撃が、リードナーの肩を貫いた!
???「……甘いぃぃぃ!!」
桜庭「んなっ……」
右肩をあえて刃に押し込み、距離を詰めたリードナーの一撃が、プリズナードに入る!
優太「なんなんだあのバカ……」
麗子「……バカはバカほど、なにが起きるかわからないものよ」
優太「ぶ、部長、さん!?」
虹絵「いつのまに……」
実戦テストのはずだが、思わぬ乱入者の激しいインファイトは、実戦そのものだった。
プリズナードも、リードナーも、すでにボロボロになっていた。
桜庭「……やりますね、なかなか骨のある方だ……! だが、この一撃、かわせません!!」
プリズナードが、高速で迫る!
???「おい、こいつに武器はないのか!?」
優太「テストだから、考えてない!!」
???「……バットだ、バットをよこせ!!」
虹絵「…バット? 野球の?」
???「早くしろぉぉおおおおお!!!」
優太「そ、そんな……」
何か、紙はないのか!?
紙さえあれば、なんとか今すぐ武器を書き加えられ……
優太「………!!」
……あった。
ズボンのポケットに、もうくしゃくしゃになったそれが。
――美術部の、入部届。
優太「……覚悟、決めたんだ。なら、僕のリードナーを、初陣で負かせて……たまるか!!」
書きなぐった。
バットを、入部届の裏に。
そしてそれが、コネクターに消えていく……
優太「受け取れぇえぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ!!!」
リードナーは、既にスイングしていた!
そして、空だった手の中に、不格好なバットが具現化し……
桜庭「な、なに!?」
???「ジャストみぃぃぃぃぃとぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!! だりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!」
乾いた音をたてて、バットは……プリズナードを粉砕した。
桜庭「……熱い試合だった。よろしい、文芸部の登録を認める」
紀伊子「やったな、新入生!! 初陣を見事な勝利!」
虹絵「これからもよろしくお願いします、優太さん…!」
優太「う、うん……」
???「……堪能させてもらったぜ、勝利の味」
優太「……あ、変質者」
紀伊子「そうそう、あんた誰!? 一応、助かったけど……」
???「誰とは失礼な……俺はあんたらの、新しい部員だ」
「…………はあ?」
???「ほれ見ろ、このビラに書いてあるだろ」
虹絵「……なんです、これ」
優太「……あ、この最後のとこ」
新入生募集 文芸部
求む! 屈強なる若者よ!
燃えたぎる闘魂を、文芸部でぶつけないか!
文芸部で待ってます。
――姿見 麗子。
こんなビラについて来るまともな人間は、いないだろうな。
……まともな人間は。
勘太郎「俺の名前は熱血勘太郎!! よろしく頼む!! ふははははははははははははははははははは!!!」
麗子「勘太郎くん、……よろしくね?」
勘太郎「はい!! 一生ついて行きます!!」
……どんな文芸部だよ。
でもまあ、仕方ないようだ。
この学校で、こうやって過ごすことを、いま自分で選んだのだから。
桜庭「見事だ、文芸部……なかなか面白いユナイトロンになりそうだな」
だが忘れるな。
ユナイトロンは部活の数だけ存在する。
校内、県内、全国、世界……すべてが、敵だ。
???「……バカにバットを与えたか。 身の程知らずが……。
文芸部、覚えておくぞ。 そして勘太郎……貴様のバカさ加減とは、いい加減縁を切らせてもらう……!」
最終更新:2009年12月06日 14:36