ちょっと待ってくれ。何だこの状況は。
何で目の前にステレオタイプな、なんだこれ。
はっきり言うと意味不明。
え、何? 伝わりにくい? いや、だってさ。
「君が南部 新君か。私はベルグマン、地球外の惑星からの亡命者だ」
突然言われて、この状況を理解できる人間なんているのか?
目の前にはグレイマン。いかにもっぽい風貌をしている宇宙人……
話を鵜呑みにするとマジらしい。
テスト後司令室に通された俺だったが、まさかこんなことになるとは思いもせず。
ただただ呆然とするだけだった。
「先程の戦闘で、君の資質を見させてもらった。どうやら、君は本物らしい。
まず結論から言わせて貰う。デトニクスに対抗するには、君の力が必要不可欠なのだ。
よって、君を特別に自衛隊へと登用したい。否、君は今日から自衛隊の一員となる」
呆然ともしていられなくなった。
どうやら、本当の話のようで。
「それに関しての質問は許すが、拒否権はない」
そういわれてぱっと思いつくだけでも、三つの疑問がある。
「あのバントラインってロボットは何ですか?
何故、乗ったこともない俺がパイロットとして選ばれたんですか?
デトニクスって何ですか?」
「順番に説明しよう。まず、バントラインなのだが。
デトニクスを駆逐するために試作された機動兵器『MC(Mobile Cannon)』の試作一号機だ。
デトニクスのミサイル攻撃に対抗するため、狙撃機が真っ先に作成された。
そして、君がパイロットに選ばれた理由なのだが……病院にてMCの操縦適合者がいるかを
脳データスキャンにより探していた。そして、その結果君が選ばれることとなった」
意味の分からない単語がいくつかあるが、何となくわかった。
つまり、意味不明の敵を相手に戦う力がバントラインで、
俺はそのパイロットに選ばれたということ。
そして……
「俺に断りなしに、勝手に俺の身体を調べたって事ですか?」
「現在まで緊急事態だ。君が目を覚ます前に検査をし、適性がなければ黙って帰すつもりだった」
宇宙人に身体をいたるところまで調べられたってことだった。
「何でそんなことを……!」
「デトニクスを駆逐するためには、仕方のないことだ」
だったら、そのデトニクスってのは何なんだ……問い詰めずにはいられなかった。
「デトニクスは……我々の母星を滅ぼした恐るべき生物だ。
無機物に寄生し、寄生先を戦闘向けに改造して、また次の寄生先を求める。
その毒牙が我が母星にもかかってしまったということだ」
「そんなものを……地球に持ち込んだのか!」
ベルグマンは少し逡巡しながら、言葉を紡ぐ。
その声には、たとえ異星人相手でも悔恨の意が汲み取れるほどのものだった。
「残念ながら、私は後手に廻らざるを得なかった。
地球には奴等より先回りできたからいいものの、なかなか理解者が現れず、
そのままデトニクスの進出、繁殖を許してしまう結果となった。
現在、君達でいう北アメリカ大陸がデトニクスに取り込まれてしまっている」
……アメリカが? あの強力な軍事力を持つアメリカが、なすすべもなかったというのか。
にわかに信じがたい事実に、呆然とするしかない。
「君が事故で寝ている間に、既にそういった事態になってしまっていたのだ。
すまないが、事実として受け止めてくれ」
そんなこと、できるはずがないだろう……。
結局、いくつかの注意事項と膨大な数の書類を渡され、割り振られた部屋に戻ることになった。
「……もう勘弁してくれ」
そう呟いても、何も状況は変わることはない。
結局、説明を受けた次の日に大量の書類をなんとか消化した俺は、街に繰り出していた。
とりあえず進路が決まったということだが、裏を返せば死と隣り合わせの戦闘を強要されることに。
そして訓練は明日から。本当に勘弁してくれ。
「といっても、なぁ」
これまでの怠惰ながらもありふれた幸せな生活。
戻ってみたいという気持ちも強いが、本当にそのまま生きられるのかという疑念もなくはない。
周囲からも、なんとなく浮いていた気がする。正直、天秤だ。
「本当に……」
からっぽ。
今の俺を表すには、それで十分だろう。事実、先生からもそういわれている。
入隊に対する拒否感が薄いのは……どうなったっていい、という諦めか。
そんなこんなで沈みながら、気晴らしにゲーセンにでも行こうとした瞬間。
「ちょっと、そこのあなた?」
背後から声をかけられた。
そこで振り向いてしまったのは、俺の人生の中でも有数の悔恨だったかもしれない。
「わたくしにこの街を案内してくださらない?」
吊り目で金髪、髪を二つに纏めている、いかにもお嬢様っぽいアレ。
俺は逃げようとした。このままじゃアニメ展開で絶対苦労するに違いない。
一方お嬢様は俺の首根っこを掴んだ。
「この街を案内してくださらない?」
大事なことでも二度言わないでください。
「まあまあですわね。思ったよりは好印象かしら」
三段重ねアイスクリームを難なく舐め尽して行くこの女。
行く先々で何かしらを買わせ、俺の財布はボロボロだ。
しかも未だに振り回して拘束を解く気がない。面識ないのに。
それにだ。あれ、なんか周囲の視線がやけに痛いんですけど。
誰かこの女を何とかしてください。
「ん……もうこんな時間ですの? 仕方ありませんわね、最後にあそこに行って終わりましょう」
やっと解放されると思って、指定された場所を見上げた。
結局ゲーセンかよ。
「……で、本当に2Pプレイでいいんだな?」
お嬢様が選択したのは、よくあるガンシューだった。
無駄に射撃専攻の俺に対してそのチョイスは……手加減しろってことか。
やれやれ、と百円を入れてコントローラーを手に取ったとき、ふと。
「手加減は無用ですのよ、南部 新?」
―――こいつ、俺の名前を!?
動揺の隙にミッションスタート。
コントローラーを構え、トリガーを引こうとしたその瞬間。
「一つ!」
先に当てたのはお嬢様だった。
虚を突かれた俺を尻目に、着実に当てていくお嬢様。
「……くそ!」
正直を言うと、これほどまでに速い射撃は俺でも無理だ。
あっという間に引き離された点差を取り戻そうと、本気になる俺。
しかし、何度ロックオンしても先に撃たれてしまうことが多々あり……。
「この程度ですの? 私についてこれたのは認めますが、まだまだですわね」
負けた……結局、何度やっても、お嬢様に勝てることはなかった。
呆然とする俺に向かって、さっさと用意を済ませたお嬢様は声を投げかける。
「それでは、また会いましょう?」
正直、二度と会いたくないとは思った。その一方で、あれに追いつきたい気持ちが。
そして、また二度目がありそうな気もしていた。
とりあえず基地に戻るや否や。
『緊急事態だ。南部君、北アメリカ大陸の方から再びミサイルが発射された。
すぐにバントラインで出撃したまえ!』
司令が通信機で直接司令を下してきた。また出撃か。
どうやら、またアメリカの方からミサイルが発射されたみたいだ。
いいかげん休ませて欲しいというか、こっちは変な女に絡まれて疲れているんだ。
状況が待ってくれないのは軍人としては当たり前のことだから言わないけどさ。
「南部 新、バントライン行きます!」
「また同じか……!」
この前と同じ状況。砲撃モードで十分に構えることができた。
やれる、と思い引き金を引いた。
しかし、目の前に現れた光景はその予想を思い切り狂わせるものだった。
「み、ミサイルが避けたっ!?」
恐ろしいことに、ミサイルの軌道がいきなり変化して弾が外れた。
ミサイルって弾まで避ける機能あったっけか!?
『何をしている! 地上にあれを降ろしてはならない!』
「そんなこと言ったってさ!」
『軍人に口答えは許さん! 早くあれを叩き落せ!』
「くそっ、言うだけなら……!」
狙撃砲はチャージ中……待っていられないか!
火器制御をもう一つの武器……狙撃砲を撃つ際のレーザーサイト、それが組み込まれているレールガンにまわし。
「今度こそ!」
発射……片側、命中。
「よし……目標撃墜!」
『油断するな、まだ終わったわけではない!』
「何言ってるんですか、ミサイルは撃墜したんですよ? それで終わりじゃないんですか?」
『撃墜した武器は何だ! 狙撃砲以外で奴を死滅させることは……』
同時に、何か微弱な反応をキャッチ。
反応信号を確認すると同時に、視界に映ったそれは……
「な、なんだこりゃあっ!?」
バントラインよ少し小さいくらいの、ありえないほど巨大な魚。
それが、急に体当たりをかましてきた。
「おわっ!? だあああっ!?」
思わず吹っ飛び、拍子で転げてしまう。
その最中、コクピット内部は遊園地のアトラクションのようにぐるぐると回って。
正気に戻り、状況を確かめようとしたときには、既に先程の魚が目の前に―――
「うわああああっ!?」
トリガーを構わず引く。体勢が悪過ぎたのか、後ろに大きく転がり、建物か何かに激突。
そんな攻撃があたるはずもなく、何故か脚の生えているそれはゆっくりと『歩みながら』迫って……。
迫って……?
「脚が……ある?」
異形を理解できず、固まってしまう俺に、容赦なく突撃をかけようとする魚だった何か。
瞬間、その身が光に灼かれた。
『全く、とんだ期待はずれですわ。
何故このような者をバントラインのパイロットに任命したのか、
詳しい理由の説明を求めますわ、司令』
……え?
聞こえたのは、昼間現れてかき乱していった女の声。
何でお前がここにいるんだ、という思考をよそに強引に機体を起こされる。そこには……
「……ロボットが、もう一機?」
最終更新:2009年12月09日 22:19