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――赤き機人、青き剣を取りて、天を貫かん。 

――されども、勇なる者、己を捨て/雄々しき者、自らを滅ぼす。 

――人々の記憶から真実が消えようとも。 

――猛者達は伝説へと姿を変容し、時は過ぎ行く。 



拳一つで守れるものが目の前にあるのなら、それは使命なのだ。 
自らを捨て、打ち勝て、守りきり、生きよ。 
そう師範がよく口にしたのを思い出して、海士都風華は人知れず泣いた。 
死は絶望ではなく、純粋な喪失、自然なことである、と言うことをこの街の人間はよく知っている。 
某県、玄海坂。 
ここは十数年前の、ネガティブ現象の最初の発生地である。 
原因の定かでない災害――大勢の人が死んだ。 
無残な死ではあるが、ある意味では天災でもあった。 
死は絶望ではない――しかし納得の出来ない死は絶望に近い。 
海士都風華にとっての空手の師範である彼の死は、突然の病死だった。 

???「仕方がなかったのよ――泣いちゃだめよ、風華さん。仕方がないんだもの……」 

そう誰かが笑顔で言った。 

風華「……『拳で語って死すべし』とはいかなかったね、先生」 

棺が運ばれた、永久の別れに風華は拳を握りしめる。 


『第一話 限界突破!! 烈なる獅子王!!』




某県に栄える新都市、そこは玄海坂。 
十数年前の災害を期に発展を遂げたこの大都市に、彼女は居た。 

それが、自称普通の高校生――海士都風華である。 

風華「――あぶないっつってんのがわかんねーのかクソガキ!!」 

「うるせーぺちゃぱいー!」 
「おとなしく寝てろ!」 
「ばーか、男女!」 

風華「て、てめぇら……! いい気になんじゃねぇぇぇぇ!!」 


がつんっ! と跳び蹴りを放つ風華! 

「うわぁぁぁ!!」 
「なにすんだバカぁぁぁ!!」 

風華「よっと!」 

風華は軽々と木から落ちる三人の子供を空中で拾い上げる。 

風華「……うちの私有地で遊ぶなっつんだよ、ガキは家でテレビゲームでもしてろ!」 

男勝りで姉御肌。 
しかし、女っ気のなさが逆に人気のある、それが風華だった。 


???「……おい、風華、さっさと道場を開けてもらわんと練習が……って、またやっているのか」 

風華「しょうがないでしょ……こいつら有刺鉄線だって越えてくるんだよ」 

???「次は無人偵察機でも設置するんだな、早くしろ」 

風華「はいはい……じゃあな、二度と来んじゃねえぞー!!」 

どうせ来るんだろうけど。 
風華は次の挑戦に期待しつつ、その場を去った。 


風華の家は玄海坂の都内にあるが、その土地は広大である。 
何を好き好んでか、風華の父は十数年前の災害で崩壊した土地の大半を買い込み、豪邸を建てた。 
死んだ土地だったので安かったということもあるが、今は……広大な森になっている。 
原因は謎、多くの研究者がこの土地を訪れるが、父は度々断っていた。 
風華は、父が嫌いである。 



???「先生の件、お前ならそうとう落ち込むと思っていたが……大丈夫そうだな」 

同じ稽古仲間の尽楠麗が聞いた。 

風華「うん、どうして?」 

麗「『ネガティブ』が出ていない、ネガティブは心の現れだからな」 

風華「……ネガティブなんて信じないよ、人の心が見せる幻じゃない」 

麗「ネガティブは確かな『力』を持っている、十数年前だってそれで街は滅びたんだ」 

風華「そこに親父がつけ込んで……今じゃお嬢様気分よ、いい迷惑……」 

麗「お嬢様暮らしは嫌いか?」 

風華「そうね、なんて言うか窮屈……退屈。親父はお嬢様であってほしいみたいだけどね。まあ……だから、空手なんて許してもらえるとは思わなかったけど」 

麗「大切にされているものさ、お前も大切にしろ。……それよりもだな、私は先輩が気になる」 

風華「……始乃先輩? どうかしたの?」 

始乃初子は空手部の部長を勤める。 
彼女らにとっては多くの世話になっている人である。 

麗「……先生が死んで、どれくらい経った」 

風華「んーと、確か二週間くらいかな」 

麗「ならば、ネガティブが消えてもいい頃なのに……」 

風華「……先輩のネガティブが消えてないって? 嘘?」 

ネガティブは本来ならば数日、長くて一週間で消える。 

風華「ま、まあ……先輩は先生を慕ってたしさ、人より少し長いくらいじゃない、問題ないって!」 

麗「……だと、いいのだがな」 

麗はもう一度呟いた。 
――ネガティブは確かな『力』を持っている、十数年前だってそれで街は滅びたんだ。 

その日、稽古場に始乃初子の姿はなかった。 







翌日の学校で、風華は始乃先輩に会いに行った。 
麗の言葉が気になったのもあるが、直接確かめたかった。 
麗の言葉通り、ネガティブは居た。 

始乃「あ、これ? ううん、平気だよ……どうせ明日にでも消えるから……」 

始乃先輩の横でぼっと光る、それがネガティブだ。 
人の心の現れ、この土地にしか現れない怪現象だった。 

風華「先輩……あんま長引くならカウンセラーとかに……」 

始乃「だ、大丈夫よ! もう平気、全然。 昨日もちょっと体調が悪かっただけだから、心配させてごめんね。 明日はちゃんと朝稽古するわ」 

そう言われて、風華はとりあえず納得し、この場を去ったのだ。 

しかし、始乃のネガティブは消える気配を見せなかった。 
それどころか、風華にはそれが……肥大化しているように見えるのだ。 

風華「……うぉぉぉぉおおおお!! せぇぇぃあ!!」 

山奥の一本杉に向かい、拳を放つ! 
ズシンと拳に重みを感じると、杉の木は全てを受け止める。 
風華は何か思うことがあれば、いつでもこの場で拳を撃った。 
水月突き――先生に習った最初の技、全ての基本である。 

風華「……水月突きには、全てがにじみ出る。拳が自分の思うものより近くに届いたのなら、それは――」 

もう一度、拳を放つ。 

風華「……それは、迷いである…!」 

杉は全く揺れない。 
風華には何を迷っているのかがよくわかっていた。 
風華には、ネガティブが出たことがない。 
それ故にネガティブを信じないし、ネガティブの見える人間の気持ちも偽りなのだと思うことも多かった。 
要するに、先輩の気持ちに素直に向き合うことができないでいた。 

風華「……水月突きか、確か先輩と先生に最初に習った技だね」 

???「――迷いの拳は、拳を腐らせる」 

風華「……!? だ、だれ!?」 

風華は、杉の木のそばに立つ影に気づいた。 
女性である。 
緊張し、風華はとっさに構えをとった。 

風華「……泥棒の類かしら、返答次第じゃマジで親父に無人偵察機を買ってもらうしかないわね」 

???「――撃ってきなさい」 

風華「は……?」 

謎の女性も構えを取る、殺気が走る。 

???「拳を知る者が構えをとったら、拳を交わすことしか許されないもの――」 

風華「本気で言っているのか――!?」 

風華は、殺気におびえた。 
出来る、それだけはわかる。 

???「来ないのなら、こちらから行くわ――!!」 

風華「……!?」 

殺気のある拳、風華には未知の経験である。 
数回防ぐも、拳は確実に命を貫かんと迫った! 

???「構えたまま拳を出さず死ぬの、海士都風華――!」 

風華「こ、こいつ……!?」 

見事な技だ、見ているものも惚れ惚れするであろう見事な拳が光を放つかのごとく風華には感じられた! 
負ける、否、死ぬ――! 

???「……自らを捨て、打ち勝て、守りきり、生きよ!!」 

風華「そ、それは……先生の…!?」 

ざっ、と砂埃が舞い、拳が止まった。 

???「……でも、この言葉には続きがあるのよ、海士都風華!」 

風華「続き、だって……!? まさか……」 

謎の女性の構えが変わる、それは見慣れた光景! 

風華「……水月突きの構え…!」 

???「……この土壇場で、悟ってみなさい、海士都風華!!」 

砂埃が突風に流された! 
間違いなく、命を刺す一撃が迫る! 


風華「……うおぉおおおおりゃあああああああ!!!」 


――拳を放った。 

風華にはそれが最初は理解出来なかった。 
まず、拳が触れた。 
と同時に爆風が生まれた。 
風華が、女性に拳が当たり、吹き飛んだ女性がそのまま杉を打ち倒したのだと気づくのは、舞った埃が落ち着いてからだった。 


風華「……な、お、どうなったの!?」 

???「……見事ね、海士都風華」 

風華「ひいっ!?」 

女性は未だ生きていた。 
ばらばらになった杉の中から立ち上がった。 

???「自らを捨て、打ち勝て、守りきり、生きよ……そして、最初な守るべきは、『自分の命』よ」 

風華「自分の、って……」 

???「自らを知らぬ者、自らを守れぬ者に、他者は救えない! それをよく理解したわ、……上出来よ」 

たんっ、と軽い足取り(に、風華には見えた)で、木の上に女性は飛び移る。 

???「――あ、ちょっ、ああっ!?」 
ずでん、という、普通なら死ぬ高さから彼女は落ちた。 
無論、無傷なのだが。 

???「い、痛いー……ネ、ネガティブに注意しなさい……守る力が貴女にはある! さ、さよなら!!」 

女性は姿を消した。 
風華「……なによ、あれ」 

残ったのは、ばらばらになった杉の大木だけであった。








翌朝、稽古場へと向かう風華と麗。 

麗「な、謎の女性と戦って、大木を割った――!?」 

風華「うーん、でもおかしいのよね、リーチならあっちのほうが上だったはずなのに、先にあたしの拳が……って、何よその顔」 

麗「……大木を割ったことには驚かないのか」 

風風華「いやぁ、やっちゃったものは仕方ないじゃない!」 

麗「お、お前……!」 

麗には呆れ顔をするしか思い浮かばなかった。 

麗「……ま、まあそれは置いておくが、結局は何がしたかったんだそいつは……」 

風華「……始乃先輩のことじゃないかな、多分さ」 

麗「始乃先輩だと?」 

風華「うーん……なんかさ、託されたって感じがするの。自分の中のもやもやが消えたってのもあるけど、少しやってみる!」 

麗「や、やってみるって……お前……」 

麗にはどことなく、風華が変わったような気がした。 
微妙な変化だが、何か大きなことが起こりつつある、そんな予感がした。 

始乃は約束通り、稽古場にいた。 

始乃「あ、おはよう、風華さん、麗さん!」 

麗「……ええ、元気そうですね」 

麗にはまだしっかりと、それが見えた。 
始乃先輩の横に疼く、ネガティブの姿を。 

麗(何故だ――こいつらを見ていると、傷が……) 

風華「おっす、先輩! それよりさ、今日は試合しないっすか?」 

麗「風華――お前!」 

風華「なぁに、いいじゃん! 最近は部内でもご無沙汰だったからさぁ……」 

始乃「あ、私は構わないよ、だったらさっそく準備しなくちゃ……」 


麗「しかし、始乃先輩っ……」 

結局、麗は風華に促され、止めることはできなかった。 

稽古場の外は、自然の生んだ試合場である。 

風華と始乃はグローブをはめ、構えた。 
殺気もなにもない、平和な戦いである。 

風華「……先輩に習って、もう半年か、早いなぁ…」 

始乃「ふふ、風華さんは筋がいいから、すぐに抜かされそうね」 

風華「そう、ね!」 

鋭い一撃が突然始乃を襲った。 

始乃「ち、ちょっと! びっくりするじゃない……」 

風華「あははは、ちょっと本気出しちゃった……ね!」 

もう一撃。 

始乃「ち、ちょっと……風華さん…!?」 

麗「……!? 風華、お前、何を……」 


風華「先輩も本気出したらどうです――!?」 

今度は二撃――否、四撃。 
素早くさばく始乃の、風華の変化に驚いた。 
拳の味は次第に殺気立ち、始乃は必死に防ぐも、拳が痛む。 

始乃「ど、どうしたの風華さん……? 何か変わったことがあったなら相談に……」 

風華「……あんたこそ、何であたし達に相談しないのよ」 

始乃「えっ……」 

こみ上げる殺気に、止めようと立った麗はおののいた。 

麗(――風華は、本気に変わった……!?) 

風華「……結局、先生を悲しんだまま立ち止まっているのは先輩じゃない! 黙って泣いてないで、何か言ってよ!!」 

始乃「……泣いてなんかいないわ、お節介はやめてッ!!」 

ぞわっ、とする何かの気配がした。 
殺気か――と思った麗の勘は、はずれた。 
麗は見た、先輩のネガティブ――それが形になっていく。


麗「な、なんだとッ!? ネガティブが……!?」 

始乃「何よ、結局私の悲しみを理解できる人なんていないんだわ!! 先生――愛していたのに――!」 

風華「えっ――」 

思わぬ告白に、風華の殺気すら揺らいだ。 
そして、ネガティブは益々形を成し、巨大化していく!! 

始乃「もう、いいのよ――全部――何がいけないわけじゃない、あれは仕方がなかったことだもの!! もう嫌!! 全部!!」 

空間が爆発した、と思う。 
ネガティブが巨大な化け物となって立ち上がった! 


麗「ど、どうなっている!? 風華、お前……」 

風華「……に、逃げるわよ」 

麗「何!?」 

ネガティブが動き出すと同時に、風華は駆け、麗も続いた! 
ネガティブが迫る! 

麗「貴様ッ! さんざん始乃先輩を煽っておいて逃げるのか!?」 

風華「バカじゃないの!? あんな化け物が出てくるとは思わないっての!!」 

麗「杉の大木を木っ端微塵にした拳はどうした!?」 

風華「んなもん何度も出せないっつうのーっ!!」 

ネガティブがなおも追いかけて来る! 



その時、茂みから現れる一つの影! 

???「――苦戦中のようね、海士都風華!!」 

麗「何――お前は――!?」 

風華「ま、また出た!」 

???「風華、貴女は――きゃんっ?!」 

小枝につまずき、転ぶ女性。 
無論、無傷だが、顔は赤い。 

風華「……だ、大丈夫?」 

???「う、うん……」 

女性はとりあえず、冷静さを装うように、咳払い。 

???「……ふ、風華……貴女は昨日、自らの命を守る術を覚えた。しかし、まだ足りない――守るために必要な何かを、わかる!?」 

風華「んなもん……力よ!! 力がなければ、何も守れない!!」 

???「そうよ、だから使いなさい、それを――!」 

女性が何かを投げる! 
受け取った風華――手にしたのは、黄金の鍵! 

風華「ど、どうするの!?」 

麗「……呼ぶんだ、風華。――カイザートッパーを!!」 

風華「か、カイザートッパー!?」 

麗「呼べ、風華! カイザートッパーだ! きっとそうだ、それが……!」 


――力! 
風華は、理解はしなかった。 
本能でそれを呼んだ、空高く鍵を掲げて! 


風華「……か、カイザァァァァトッパァァァァァァァァァ!!」 



そして、それは来る――! 

戦闘機――カイザーGトッパーが飛ぶ!! 

そして、巨大な獅子、カイザーレオが駆けてくる! 

風華はトッパーに乗り込む! 

風華「……力、これが…!」 


カイザーレオが、腕となり、足となり、頭となる! 
鬣は鎧、牙は爪! 
カイザーGトッパーが胸に組み込まれ――そして! 

風華「――ゲェェェェェェェェェンカァァァァァァイザァァァァァァァァァァァ!!!」 


地面が揺れる! 
巨大なロボットが、大地に立った! 

麗(……これだ、私は…これを待っていた!) 

風華「……あたし、理解できる!? この、ロボット……ゲンカイザーが……!」 

力がこみ上げるのを感じる。 
自在に操る、その感覚を、感じる! 

風華「うぉぉおりゃぁぁぁぁぁ!!」 

ゲンカイザーが駆ける! 
ネガティブが構える、それは…… 

風華(――水月突き!?) 

風華は、迷わない! 
必殺の一撃を放つ、そして守る! 

風華(……あの時! なぜあたしの拳が先に届いたのか! 今なら、わかる!) 

風華のその思いに呼応するが如く、ゲンカイザーは加速する! 


風華(……気持ちだ! 気迫の差、心の力の差――! 先輩の拳も、きっと強い……それは思いがこもっているから! それに勝つには……) 

互いの拳がぶつかる! 



風華「自分の、そして相手の――気持ちの限界を……超える!!」 

限界……自然とそんな言葉が浮かんだ。 
ネガティブの拳が、ゲンカイザーの拳で崩壊する、そして! 

――GENKAITOPPA!! 

風華「げぇぇぇぇぇぇぇぇぇんかぁぁぁぁぁぁぁぁいけぇぇぇぇぇぇぇん!!!」 

――限界拳! 

始乃「い、いや! やめて!! 返して!!」 

抵抗するネガティブに、風華はさらに踏み込む! 

風華「……自らを捨て、打ち勝て、守りきり、生きよ!」 

始乃「……!」 

風華「先生の愛した言葉……! 先輩が先生のことを好きだったとしても、あたしは驚かない! だから素直に、先生の言葉を愛して!」 

始乃「先生の、言葉を……」 

風華「こんな力は、自らを傷つけ、誰かをきっと奪う! だから……うぉぉおおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」 

光が弾ける! 
拳を受け、空高く打ち上げられるネガティブ! 

風華「――限界、突破!」 

爆発、四散! 
崩壊するネガティブ! 

麗「――始乃先輩!!」 

始乃先輩を介抱すると、外傷はない……無事なのだ。 

???「……これで全てが揃ったわ。海士都風華、そして尽楠麗……」 

麗「………」 

こうして、新たなゲンカイザーの物語は始まった! 
戦え、風華! 
限界突破だ、ゲンカイザー! 



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最終更新:2009年12月12日 21:31