その夜、東野一志は夢を見た。
夢ならいつも見ているが、その夜の夢はいつもとは違っていた。
一志は真っ暗な闇の中にいた。
「ここは…?」
空も地面もない。自分が落ちているのか昇っているのかさえも分からない。
「始メマシテ、カナ。一志」
目の前の闇から声が聞こえた。
ジリジリとしたノイズの混じった、低い声だ。
「始めまして?」
一志が目の前の闇にたずねた。
「君ハ我々ノコトヲ知ラナイヨウダガ、
我々ハ君ノコトヲ知ッテイル」
「知っている?どういうことだ」
一志の質問を無視し、声は話を続けていく。
「コノ星ハ侵略者ニ狙ワレテイル。」
「なに?」
「理不尽ナ侵略ハ、阻止シナケレバナラナイ。
ダカラ、我々ハアル物ヲ用意シタ。」
「ある物?」
「コレダ」
闇の中から、一志の足元へと水晶のようなものが転がってきた。
一志はその水晶を手に持ってみた。
水晶は闇の中でもきらきらと光を放ち輝いている。
「身ニ危険ガ迫ッタトキ、コレヲ使ウノダ」
「…使うとどうなる」
「フッフッフ……」
そこで一志の意識は途切れた。
第一話 輝け!太陽の戦士
「!…夢か」
太陽が真上に上ったころ、一志は二階の自室で目を覚ました。
眠たそうに目をこすり、枕もとの時計を引き寄せる。
引き寄せられた時計の針は、長短両方とも天を指していた。
「12時…。休みじゃなきゃ大変だな」
ベッドから起きタンスへと向かう。
「それにしても変わった夢だったな…。この地球は狙われている…!か」
どこの蒼き流星だ…。そんな事を思いながらタンスから服を取り出していき着替えていく。
下を履き替え、上を脱いだとき、一志の目にとんでもない物が飛び込んできた。
「なっ、なんだこれぇぇぇ?!」
一志は驚きの声を上げた。
なぜなら、一志の胸には先ほどの夢に出てきた水晶が埋まっていたのだ。
「完全に引っ付いてるよなぁ…」
あれから一志は水晶を取るために、さまざまな手段を試してみた。
胸に力を入れたり、引っ張ったりもしてみた。
それでも水晶はキラキラと輝くだけで、一向に一志の胸から離れようとはしなかった。
「くそっ、どうなってんだ」
水晶は胸にめり込んでいるが痛みは感じない。
むしろそれどころか身体の調子はすごくいい。
「ハァ…。夢じゃなかったのか…」
しばらく上半身裸で鏡の前でくるくる回ってみたりしてみたがなにも起こらない。
「問題ないんだよなぁ?」
いつまでも上半身裸のまま鏡の前で突っ立っているわけにもいかない。さっさと服を着て、一階へと降りていった。
一階へと降りると、母親がワイドショーを見ているのが目に入った。
「あんた、さっきの声は一体なんだったのさ」
ピーナッツを摘み、口に入れながら、興味なさそうに母親が尋ねてきた。
「ああ、いや…でかい虫が出たんだ」
水晶のことは黙っておいたほうがいいだろう。
そう思い、適当に答えておいた。
「ふーん。部屋から出さないでよね」
母親の返事を背にしつつ、家を後にする。
水晶騒動で時間を食ってしまったが、今日は大事な用があるのだ。
家を出て、10分もしたころには目的地に到着していた。
あとは待ち人を探すだけだ。
「怒ってんだろーなぁ…」
人ごみを掻き分けて、待ち人をさがす。
一際大きな街路樹の下、ちょこんと目立つ姿があった。
年は一志と同じぐらいであろうか。夏だというのに黒い厚手のシャツを着、その上からさらに長袖の黒いジャケットを羽織っている。
腰まである髪は、光を吸い込むような黒い色をしている。
「おーす」
待ち人へと声をかける。
「ん?」
長い黒髪をなびかせながら、待ち人が振り返る。
「悪い、鋼。待たせた」
「全くだ」
鋼と呼ばれた少女が答える。
「まぁ、今日は私も遅れたんだけどな」
「おい、人のこと言えねーじゃねーか。…ところで」
その格好はなんだ。一志が鋼へと尋ねる。
初夏とはいえ夏だ。昼間はかなりの暑さになる。
にもかかわらず、鋼の服装はとても夏とは思えないものだった。
「これか、ちょっとな…」
「ちょっとなんだよ。夏だぞ?汗までかいてんのに」
「いや、だから、これは…」
誰にも言うなよと、鋼は一志の耳元でゴニョゴニョと話し始めた。
「あー、なるほど。ダイエッ…」
「うるさい黙れ」
全てを言い終わる前に、鋼の裏拳が一志の顔へと飛んだ。
「痛ぇ…。」
「お前が言うからだ」
「誰も聞いてねぇって…」
まだ痛む鼻先をこすりながら、一志が言った。
「じゃあ、そろそろ行くか。お前も汗だくで限界っぽいしな」
「問題ない」
「どこがだよ…フラフラじゃねぇか。せめて上着だけでも脱いだらどうだ」
「うるさい。問題ない」
「お前が言うならいいけどさ…」
「さ、行くぞ」
鋼が一志の手を引っ張る。
「やれやれ…」
二人は図書館へと向かっていた。
夏休み、課題として大量の調べ物が出されていた。
それを協力して調べるべく、二人は図書館へと向かっていたのだ。
ドガァ!
突如一志たちの目の前のビルが崩れ去った。轟音が響き、辺りに粉塵が舞い上がる。
「何だ何だ?!」
「…」
辺りが騒がしくなる。その中でも鋼は落ち着いていた。
オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!
雄たけびとも排気音ともとれる音と共に、巨大な影がビルの残骸から姿を現した。
「何だよあれは?!」
一志が驚きの声を上げる。それも当然だ。
現れたのは…巨大なロボットだった。
赤と白のカラフルな全身、頭部にはギラギラと輝く二つの目。頭からは鬼を思わせるような角が左右へと伸びていた。
オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!
ロボットの胸からピンク色の光線をがほとばしる。それに触れた建物は次々と崩れて落ちていった。
降り注ぐ破片が、容赦なく人々を押しつぶし、退路を断っていく。
破壊された建物の破片が一志たちへも降りかかってきた。
「おいっ、逃げるぞ!」
「ああ…」
一志が鋼の手を引く。
だが、崩れ落ちる瓦礫は無常にも二人の退路を絶ってしまっていた。
「くそっ、このままじゃ…!」
一志の頭に、夢の出来事が思い浮かぶ。
水晶を…使う?どうやって?
…使い方を知ってる…?
一志の頭は、水晶の使い方を知っていた。
しかし、今は鋼がいる。
今使えば鋼に…しかし…
悩む一志の耳に、鋼の悲鳴が飛び込んできた。
「くっ…、この」
鋼へと、ロボットの腕が伸びようとしていた。
鋼も必死で抵抗しているが、ロボと人では勝負にならない。
「くそっ!鋼!!」
鋼の元へ走りよると、一志はロボットの前へと躍り出ていった。
「…」
右手を胸の前へともって行くき、何かを掴むかのように拳を開く。
そしてそのまま意識を集中させ、
「オオオオオオオオッ!!」
力の限り叫んだ。
胸の水晶が輝き、一志を光が包む。
「……」
鋼は逃げることも忘れ、その光を見つめていた。
光は一志を包みこむと、さらに強く光りだした。
「……っ」
あまりの眩しさに、鋼は自らの目を両手で覆った。
光に押されるように、ロボットが吹き飛ばされ尻餅をつく。
光はなおも強くなり、一志を、鋼を、ビルを、全てを飲み込んでいく。
そして、全てを飲み込んだ光が引いていく。
全ての光が引いたとき、光の中心だった場所に一志はいなかった。
一志の代わりにいたもの、それはもう一体の巨大なロボットだった。
気づいたとき、一志は光の中にいた。
空も地もなく、上下左右の区別もない。ただ光だけが広がっている。
その中を一志はふよふよと浮いていた。
光の中、目の前に荒れ果てた町並みが写される。
それと同時に一志の頭へと大量の情報が流れ込んできた。
「…なるほど、つまり俺は巨大ロボットの中にいると」
一志が首を動かすと、それにあわせて光の中の光景も変化する。
腕を顔まで持っていってみれば、目の前に巨大な掌が写される。
「おー、ほんとに動いたとおりに動く」
一志が拳を握ったり開いたりしていると、目の前の光景に赤い影が割り込んできた。
「なにっ?!」
先ほどまでビルを破壊していたロボットだ。
そのロボの目がギラリと輝く。
「ブラ…ストロン……オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」
雄たけびとともに、赤いロボットの腕が振り上げられる。
次の瞬間には一志は赤いロボによって殴り飛ばされていた。
一志が…巨大なロボットが空に舞い、そして落ちた。
「ぐぁぁぁっ」
一志の腹部へと衝撃が走る。
「くそっ、あれが夢でいってた侵略者ってやつかよ…?!」
一志が…巨大なロボットが腹部を押さえながら立ち上がる。
殴られたところがジンジンと熱くなる。
どうやら、ロボットが受けたダメージは、搭乗者にも伝わるみたいだ。
「オ゛オ゛オ゛オォ゙ォ゙ブラストロン…ブラストロン!!」
赤いロボットが叫びながら向かってくる。
「ブラストロン…それがこいつの名前か!」
一志は痛みをこらえ立ち上がると、迫りくる敵を見据えた。
「行くぞ!ブラストロン!!」
一志の動き通りにブラストロンは動く。
向かってくる赤いロボットを抱え、そのまま後ろへと投げ飛ばす。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オッ!?」
赤いロボットが地へと激突する。
「おしっ!」
一志が振り返り、地へと拳を突き出す。
連動して巨大ロボット…ブラストロンの拳が赤いロボの顔面へと打ち下ろされる。
が、拳が打ち砕いたのはロボットではなく、道路のアスファルトだった。
「ど、どこだ?!どこへいった!!」
顔を上げ正面へと視線を移す。
「なっ?!」
一志の目の前に、ふよふよと宙を浮く四角い物体があった。
赤いのが2つと白いのが1つ。
どれも硬質そうな物質でできているように見える。
「なんだ?!」
不規則な動きで宙を飛びながら、それら3つが一点に集まり始めた。
それぞれの角同士がぶつかり合い、メキメキと音を立てめり込んでいく。
一体どういう物質で出来ているのだろうか。やがて3つの四角形は1つとなり、大きな人型となった。
白い下半身からは二足の足が生え、赤い上半身からは逞しい腕がのびる。
丸い頭部からは二本の角が飛び出し、それぞれが左右へと大きく伸びていった。
その姿はさきほどのロボットそのままの姿だった。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
合体を終えた赤いロボットが吼える。
先ほどの投げも、ほとんど効いていないようだ。
「今だ今こそってか?へっ、上等だ!!」
両肩を開き、両腕を引く。そして両拳をそれぞれ耳の横へと持っていく。
そのまま姿勢を低くすると、赤いロボットへと一直線に突っ込んでいった。
「おおおあああああ!!」
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
赤いロボットもこちらへと向かってくる。
赤いロボットが拳を打ち出してきた。
ブラストロンはそれを頭を少し下げ、ギリギリで避ける。
そしてそのまま突っ込んだ勢いで両の拳をロボットの胸へと突き出した。
こちらの勢いと相手の勢い、そのふたつが赤いロボットを襲った。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛!!!」
さすがにこれは効いたのだろう。
胸を押さえながら、地面へとうずくまっていった。
「おおおおおっ!!」
ブラストロンはそのうずくまった身体へ拳を振り下ろす。
が、その拳はロボットへと命中することはなかった。
赤いロボットは3つの四角形<スクエア>へと姿を変えていた。
拳が振り下ろされる瞬間、3つに分離し脱出したのだった。
「くそっ、ちょこまかと!!」
ブラストロンがスクエアの1つを掴もうと拳を突き出した。
しかし、スクエアを捕まえることはままならなかった。
距離をとり、3つのスクエアが高速でブラストロンの周りを回り始めたのだ。
「何のつもりだ…?」
目で追おうにも相手は速すぎる。
ここは様子を見よう。そう思った一志は両腕を顔の前へともっていき、防御の体勢をとる。
一方の3つのスクエアは、何をするでもなくただただブラストロンのまわりを回り続けている。
そのまま時間だけが過ぎていった。
30分か1時間か。あるいはそれ以上かもそれ以下かもしれない。
ブラストロンが防御姿勢を崩すことはなく、スクエア達もブラストロンの周りをぐるぐる回るだけだった。
「ん?」
そのとき、一志が異変に気づいた。
スクエアたちが、徐々にこちらとの距離を縮めてきていた。
「なっ…まさか?!」
一志がスクエアたちの目的に気づいたとき、
スクエアはブラストロンと接触するまでに一気に距離を縮めてきた。
そしてそれぞれのスクエアがブラストロンの周りを回りつつ、独自に高速回転を始めたのだ。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それぞれの角がブラストロンの身体を削っていく。
そしてその衝撃は一志の身体にも襲いかかる。
「ぐぅぅぅぅぅっ…っそぉぉ!!」
身を削られるような痛みが一志の全身を包む。
その間にもスクエア達はどんどんと回転の輪の幅を狭めてきている。
「ふっざけんな…箱ぉ!」片腕を垂直に伸ばし、全力で振り下ろす。
硬いものがへこむような音ともに、スクエアの一つが地へと落ちた。
地へと落ちたスクエアは、角が大きくへこんでいる。
全身を細かく震わせながら、血ともオイルともつかない液体を吐き出し続けていた。
その様子に驚いたのか、残りの2つがあわてて離れてようとする。
「逃がすかぁ!!」
逃げようとする2つのスクエアのうち一つを両腕で抱きしめるようにして締め上げる。
「うおおおおおおおお!!」
メキメキとスクエアの装甲が悲鳴をあげる。
どうやら、分離した状態では装甲もそれほど厚くはないようだ。
腕を締めるたびに、スクエアの装甲に亀裂が入り、音を立て変形していく。
スクエアも拘束から逃れようと必死に回転するも、腕の拘束は緩まるどころかきつくなるばかりだった。
「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
バキャ
卵が割れたような音をたて、全身から赤黒い液体を撒き散らしながらスクエアが砕けた。
「ハァハァ…どうだぁ!」
片腕を上げ、勝利のポーズをとり咆哮を上げる。
しばらくして、落ち着きを取り戻したところで辺りを見回してみる。
日はすっかり沈み、辺りはすっかり薄暗くなっていた。最後のスクエアはどうやら逃げ去ったようだ。
「ふぅ…」
戦いが終わり、日も暮れたころ、一志はブラストロンから降り立った。
薄暗い中、生臭い香りが一志の鼻に篭る。
「っっ…!」
血の臭い。先ほどの戦いで死んだ人たちのものだ。
「くっ、鋼!」
生きた人間の気配など微塵もない中、一志は鋼を探し続けた。
無事逃げられただろうか?この戦いに巻き込まれなかっただろうか?
声を上げ、似ている死体を見つけては顔を覗き確認していく。
大量の死体を確認していったが、鋼の死体は見当たらなかった。
うまく逃げ切れたのだろうか。
そんな事を考える。
そして、そんな一志を物陰から見つめる一つの影があった。
「あれが…ブラストロン…」
影は悲しむようにそうつぶやくと、薄暗い闇の中へ消えていった。
最終更新:2009年12月12日 22:05