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第1話「怒りの結晶」



「時は来た……この世界のすべてを、限りなく澄み渡った水に……!」


 2時限目の休み時間、その異変に気付いたのは俺だけだった。

「!?ブゥゥゥ――ッ!なんだこの水、まじぃ!?」

「流、何してんだよ汚えな!」

「いや、ちょっと飲んでみろ、オカシイから!」

「ああ?ング……別に、普通じゃねえか。」

「バカ言うな!何つーか、味がねえだろ!?」

「もともと水に味なんかねーよ。」

ダメだ、いつもジュースしか飲んでねえ奴にはわからねえ。

「わからん奴め……。」

「そりゃお前だ。」


 どの蛇口を捻っても水に味はなかった。俺はその日の帰り、コンビニで生まれて初めてミネラルウォーターを買った。

「全く、何が悲しゅうて水に金を払わにゃならんのだ……。」

俺の怒りは収まらず、俺は味のない水と、違いのわからない奴らへの愚痴をこぼしながら歩いていた。そしてそこで、俺は自分自身とすれ違った。

「なぜ誰もわからんのだ……日本人の舌は、もうそこまで乱れてしまったのか……?」

すれ違ったその瞬間、反射的に俺は振り向いていた。むこうも同じだったようだ。目が合う。ミネラルウォーターのペットボトルを煽りながら、愚痴をこぼしている爺さん。

「爺さん、あんた……わかるのか?おかしいよな?味ねえよな!?」

すると爺さんは涙を流しながら頷いた。

「ああ、無い、無い!何にも無いわ!」

「なにも泣くこたねえと思うが、同士!」

俺たちは抱き合った。いや、まさか水の味がわかるだけでジジイと抱き合うことになるとは俺も思わなかったけど、とにかくそれだけ嬉しかったんだ。

「……君、それはまさか……。」

爺さんは俺の制服の肩を見つめて言った。校章の下にさりげなく付けているバッジのことか?

「コレ?昔母さんから貰ったもんだけど、なんだ、珍しいもんだったのか?」

「ああ、私が作って配った……この世に3つしかないものだ。それじゃ、君はもしや
六甲君の……?」

「母さんを知ってるのか?」

「うむ、最後の便りが子供が生まれたという内容だったから……君、歳は?」

「16だけど。」

「もうそんなに経つか……歳は取りたくないものだね。お母さんは、今?」

「別に、普通に主婦してっけど。」

「そうか、無事人並みの幸せを掴めたんだな。……今更呼び戻すことなどできんか。」

「ちょっと待ってくれ。俺の母さんって、一体?」

「昔な。ちょっとした実験の、被験者になってもらった。結局役に立つことはなかったが。それが今……そうだ君、よければこれから私のところに来てくれないか?」

「な、何!?」

ちょっと貞操の危険を感じてしまうゾ!


 結局来ちまった。だが、どう見てもここは普通の家じゃねえ。やけに広いリノリウム張りの床、天井からぶら下がってるコードの束、試験管に顕微鏡その他訳のわからん機械の群れ。

「なんだ、ここは?」

「研究所だよ。ナノマシンの開発をしている……いや、していた、か。」

「なのましん?爺さんいい歳して漫画の読みすぎだぜ。」

「君も笑うかね?だが、本当だ。そして成功した。25年も前にね。……さて、少し血を取らせてくれ。」

「い!?ちょっと待て、吸血機じゃあるまいし!……ン?」

耳がチクッとした気がしたが、気のせいか?

「恐がらんでも、もう終わったよ。」

俺の後ろにあるマジックハンドみたいな機械。こいつか?しかし勝手に……。爺さんは俺の憤りを無視して顕微鏡に見入っている。そして何やら興奮している。

「ホー、フーム、やはりね……!」

この爺さんヤバいよ。俺が貞操以上の危険を感じていると、爺さんは俺に向き直り、言った。

「君、人類のために戦ってみないか?」

爺さん、その聞き方はずるいよ。思わず乗りたくなっちまうじゃねえか!

「……OK、とりあえず話だけ聞かせてもらおう。」



「……飲んでみてくれ。そんなに恐がらんでいい、水だ。」

「……まじい。味がねえ。今日の水道水と一緒だ。」

「そう。これは蒸留水だ。」

「そうか、それで味が……って待ってくれ、じゃあ蛇口から出てきたのも?」

「その通り。」

「おかしいじゃねえかよ。なんで水道から蒸留水が出てくんだ?水道ってなんかこう、いろいろ入ってんだろ?」

「つまりこうだ。水道水を蒸留水にした奴がいる。」

「誰?いやそれより、何のために?」

「ジョウリュウ。世界中の水から不純物を取り除こうとしている奴だ。」

「……何者?」

「詳しいことはわからん。だが奴の存在は30年以上前から掴まれており……私たちは奴と戦うため、ナノマシンを開発したのだ。」

は、話がつながらねえ。

「君のお母さんを含む3人の被験者にナノマシンを注入し、戦いに備えた。だが奴はなかなか現れず、我々はとうとう資金が尽き、離れ離れとなった。」

「それが、今になって現れた?」

爺さんは頷いた。
「私は六甲君とコンタクトを取るため帰国したのだが、遅かった。奴の侵攻は始まってしまったのだ。しかも日本人はその異変に全く気付かないときた。」

「なるほど、飲み込めてきた。だが、大変なのはわかるがそれで俺になにができる?自慢じゃねえが俺は何の取り柄も無いただの高校生だぜ?」

「そこだ。これを見なさい。君の血だ。」
爺さんはさっき見ていた顕微鏡を俺に勧めた。

「ん……?なんだ、こりゃあ?」
視野には何か機械のような物が漂っている。

「受け継いでいたのだよ、お母さんから……ナノマシンをね。」

「そんな……!大丈夫なのか、俺の体!?」

「その答えは君やお母さんのこれまでの人生が証明している。そして……ん?」

何か仕掛けがあったのだろう、テレビがひとりでに点いた。映っているのはニュースのようだ。
『本日午前、水道局において男性の溺死体が発見されました。亡くなったのは同局職員の○○○さん41歳で……』

「……犠牲者が出てしまったか。」

「水道局。そうか、そのジョウリュウって奴が水道水を蒸留水にするために……。」

『遺体は水から離れた場所から見つかったことから、警察はどこかで溺死させられたあと移動させられたと見て……』

「さあ、どうする?」

「……警察に話しても信じてはくれないだろうな、こんなバカな話。だが俺はもう見ちまった……知らん振りはできねえ。」

「よし、行くぞ!」


 当然ながら水道局は警察が封鎖していて入れなかったので、俺たちは敵の次の狙いを読んで川沿いを走っていた。すると意外と簡単に遭遇した。表現が難しいカッコをしているが、一言でいうならあからさまに怪人だ。

「ピュアピュアピュア……?」

「爺さん、こいつだな?」

「よくわかったな。ジョウリュウのしもべ、ピュアハンターだ。」

「見りゃわかるって……てかなんか乙女チックな名前だな!で、どうすんだ!?」

「うむ、とにかくぶつかっていけ!」

「おっしゃあ!うおおぉぉぉぉぉっ!!」

ベシッ!ドカッ!バキッ!

「ピュアピュアピュア!」

俺は逆にぶちのめされてしまった!

「フフ……なんかおかしいと思ったぜ……。爺さん、俺はごく普通の高校生だって言っただろ。こんな化け物に、生身で敵うわけねえ……あ、血……。」

頭から血が出たらしい。結構な勢いで流れた血が、川に溶けていく……。

「安心しろ、今のは準備段階だ。さあ、力をイメージするんだ。ピュアハンターを倒す力を!」

「力……。」

ピュアハンターは俺を見下ろしながら首を傾げたりしている。くそ、ちょっと可愛いぞその仕草!だが……!

「だが、それが逆になんかムカつく―――っ!!」

その瞬間。

ザバァッ!!

川から何かが飛び出した!?ロボットっぽい、特撮ヒーローみたいな……?


「あの、どちら様でしょう?」

「流君、それは君の血を媒介に結晶化した鉱人『ソーディム』だ!命令を出したまえ!」

「命令?じゃあ、こいつ倒してくれる?」

俺がピュアハンターを指して言うと、ソーディムは猛然と殴りかかった。おお、強い。しかし敵も黙っていない。ピュアハンターは口からすさまじい勢いの水を噴き出した。

「そうか、水道局の人はこの水鉄砲で殺されたのか!?」

俺はふと思ったことを口に出すと、自分のその言葉に激しい違和感を感じた。「殺された」……。そうだ、こいつは人を殺してる。正直ジョウリュウって奴が何しようが勝手じゃないかと思っていた俺は、その事実に気付かされた。

「負けるな、ソーディム。絶対に倒せ!!……どうした?ソーディム!」

ソーディムの体は水鉄砲攻撃に溶けようとしていた。

「そうか。鉱人は水溶性のミネラルから成っている。だからピュアハンターの蒸留水攻撃によって溶けてしまうんだ……!」

「爺さん!呑気に解説してんじゃねえ!それじゃどうやって倒すんだよ?……そうだ!」

口に出さなくてもソーディムは俺の考えたとおりに動いてくれるようだった。ソーディムは水鉄砲に体が溶けるのに
構わずピュアハンターに突進し、殴り続けた。ソーディムはみるみる溶けていくが、ピュアハンターにも異変が
現れる。水鉄砲が勢いを弱めていき、とうとうそれが止まった瞬間、二体は突然水になって消えてしまった。

「……どうなったんだ?」

爺さんにはわからなかったらしい。

「ソーディムが水に弱いように、ピュアハンターはミネラルに弱いんじゃないかと思ってぶつけてみたのさ。うまくいったようだ。」

「そうか、ピュアハンターの大部分は蒸留水でできていたのか!まったく、若者の発想力というのは素晴らしいな。私などもう駄目かと思っていたよ。」

「おいおい、頼りにならねえ博士だなあ。」

「だって実戦は初めてだったんだもん……。」

「とにかく爺さん、俺決めたぜ。やる。ジョウリュウの野望はくだらねえけど、だからこそ許せねえ。」

「流君……ありがとう。」
(しかし、いつまでもソーディムだけで倒せる相手ばかりではあるまい。やはり彼らにも来てもらうほか無いだろうな。)


超硬水クリスタルガイザー 第1話 終


次回予告

 ジョウリュウと戦うことを決めた六甲流。しかし、第2回にして彼に巨大なピンチが迫る。巨大なピュアハンターを
相手に、ソーディムはどう戦うのか?そして海の向こうからやってきた二人は誰だ?
次回超硬水クリスタルガイザー 「血と汗と涙」 期待しないでください。


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最終更新:2009年12月12日 22:14