一体の巨人が居た。
群がる機体を殴りつけ、メインカメラを一撃の下に砕く。
とある機体は蹴り砕かれ、爆ぜた装甲のまま動かなくなる。
またある機体は投げ飛ばされ、他の機体までも巻き添えになる。
その光景を間近で見た男は、つぶやいた。
―――悪魔が居る。
無慈悲に敵を叩き尽くし、炎の中に立ち直るその巨体は―――
桜華絢爛ベルフェリオン
第一話「出逢いという奇跡」
夜の街は眠らない。
午後十時をまわり、街は電気の光に照らされる。多くの人々が、思い思いの日常を過ごしていく。
此処は独立都市エルヴィン。周囲が戦乱渦巻く最中で、その技術力をもって独自の社会を世界に認めさせた都市。
今より未来、人型ロボットが実用化した時代。
「勝手に決めンな! 明日バイトのシフトが入ってるっつーたろーが!」
「だからどうなのよ! またシフト代わってもらえばいいじゃない!
明日の試合は一回しかないけどバイトの時間はいくらでもあるでしょ!?」
「お前状況分かって言ってる!? 俺今月やばいんだけど!?」
口論を繰り広げる少年少女二人の後ろで、ため息をつく少年がひとり。
彼にとっては見慣れた光景で、結局この先男が折れるのも分かっていた。
「はい決まり。その代わり、ちゃんとお礼はずんどくね?」
「……いい加減に、今度の都合あけるとかそういう方面に話向かないかな、お前は」
「何か言った?」
なんでもない、と頭を抱える少年、天城総一。
少女、藍澤春緋に彼が敵わないことは何年も前からずっと変わっていなかった。
「お前の都合、分かってないはずがないだろ。諦めろ」
「諦められるかドチクショウ!?」
後方でその光景を見ていた高見誠二は、思う。
多分これからもずっとこんな感じだろうな、と。
バイトも終わっての帰路、何事もなく時は―――
「きゃああああああああああああああああああああああ!!」
突如上がった悲鳴は路地裏から。三人ほぼ同時に、その方角に目がいった。
「高見、通報お願い。あたしちょっと確かめてくる!」
「おい、ハル! 一人で行くな馬鹿!」
何か騒動が起こると、まず春緋が首を突っ込み、その後総一が呆れながらも追いかける。
「悪ィな、高見。あと頼むわ!」
そして、二人のフォローにまわることとなる誠二。いつもの光景である。
「ツケだぞ」
「あとで返す」
短く返答を重ね、春緋を追いかけようとした総一の目に、それは映ってしまった。
「高見、後ろ―――!」
それ以上の言葉も、誠二からの返答もなかった。
薄暗い路地裏に差し掛かっていた二人の後ろに、人影が確かに居たのを最後に、意識は薄れていく―――。
一台のトラックが、夜道を走っていた。
あたりに影は何も無く、街外れの工場まで進んでいく。
トラックが到着すると工場の門は開き、内部に進もうとするところで
「はい、そこまで」
制止の声とともに、暗闇の中から現れる機体。
この独立都市エルヴィンで共通規格となった人型ロボット、BMMの第二種、サラバンド。
他の二種とともに、三種が現存し普及している規格のロボット。
「警察だ。調べはついてる、下手に抵抗すると撃つぜ?」
そう言うと、レールガンを構えてトラックに照準を合わせる。
「……やっぱりか」
数秒後、その照準は虚空に向けられることとなる。
その虚空から姿を現すは、おそらくBMMを基本とした、知らない装備の機体。
「相手さんもステルス使ってたってわけね」
―――全機行動開始! 同時に突入隊は内部に突入し、被害者を解放せよ!
命令を聞きながら、男のBMMは他と同様に戦闘態勢に入った。
「一人ずつ降りて進め」
内部では既に、トラックに積み込んでいる人間を施設内部に移しているところだった。
そこには三人の姿もある。他の被害者同様捕らえられて、身動きできない状態だった。
「にゃろ、丁寧に手錠かけやがって……!」
電子ロックがかけられている手錠が、そう簡単に開くはずがない。
全員拘束されている状態では、助けを待つ以上にできることはなかった。
「ちょっと、下手に抵抗しないでよ! あれ見えるでしょ!?」
総一の耳元に、背後から若干手加減して噛み付き、囁きながら顎で注意を促す春緋。
よりによって男達は、小さい子供を人質にとり、反抗を抑制していた。
「っつー……わーってるよ、やり方考えろやり方」
「べーだ、総一のくせに」
「ガキかお前」
耳元を擦ることもできず、ただ状況をどうするか考えるだけだった。
「天城、流石に騒ぎすぎだ。空気を読め」
「そうそう、春緋さんに謝れ!」
自分で言ってどうする……そう言いたい気持ちを、さすがに空気を読んで留めていた。
己の前では、不安そうに人々が連れられていく。このまま従っていることしかできないのか?
総一の思考は巡り巡って、再び耳たぶを噛まれた時には、自分が呼ばれていることに気付いていなかったと自覚した。
悪態をつきながらも、従うしか出来ずに立つと、ふいに。
「お兄ちゃん……」
聞こえた言葉に振り向くと、そこには幼い少女が居た。
彼女の視線を目で追うと、男達が人質にとっている少年に辿りついた。
歯を噛み締める。今にも殴りかかりたい一心を抑えて。
―――そんな時だった。
ズゥゥ……ン!! 大きく車体が揺れる。
外で何かあったのか、それは車体に遮られ確認することはできなかった。
ただ、一瞬男が別の何かに気をとられたのはわかる。
一瞬だった。揺れで前に倒れ掛かった身体を、無理矢理進ませる。
反応が一瞬遅れた男は、突き進んだ総一を止める事が出来ず、吹き飛ばされる。
二人は大きく突き放され、残ったのは少年ひとり。
「行け!」
精一杯叫んだ。後はどうなろうと構わない。
一瞬でも何とかなると思った、あとで後悔なんざしたくない! 一心でもがき、必死に立とうとする。
ここで捕まるくらいなら―――。一斉に逃げ出す、捕まった人たち。
何とか状況を立て直し、自力で立とうとした瞬間。
衝撃。
焼け付くような熱さ。立てないほどの激痛。
脚を撃たれたと理解したのは、その数瞬後だった。
「総一!」
「天城……く!」
二人の声が聞こえるのが、彼にとって幸いだった。
混乱する思考が引き戻され、目の前が開ける。
自分は脚を撃たれた。そして、男は既に立っていた。
やられる、と思った。避ける手段も無く、そもそも抵抗すらできない。
目の前で今、自分を狙い銃口が火を噴く―――その音を彼が聞くことはなかった。
「まずい!」
やってしまった、と気付いた時には遅かった。
警官の目に映った光景では、レールガンの流れ弾によりトラックが吹き飛ばされていた。
一応、被害者の逃げた姿は確認できたため、できるだけ生きてほしいと願うだけだが……。
しかし、そう目を向けたのがいけなかった。
「しまっ―――」
距離を詰められた。
駄目もとでレーザーブレードを抜く。間に合わない。
とっさに回避運動を行うも、落ちる片腕。
同時にレールガンも失い、隻腕となってしまった機体に鞭打ち、骨を断つ勢いでレーザーブレードを突き立てる!
「これで三機……ただ、きついか」
残った頭数は、警察側が三機、組織側は二機。しかし、唯一彼の機体のみが損傷重大である。
「ガンが落ちた。前衛に出る!」
援護を任せ突撃する―――瞬間、予想だにしない方向からの射撃で一機が蜂の巣になった。
「なん、だと……!?」
そこには、悪夢のような光景。
3機のBMMが、たった2機となってしまった警官を見下ろすように、工場の上に存在していた。
よく覚えていなかった。
気がつけば生きていて、目の前はトラックが燃えていて、運悪く出口は機体の残骸でふさがれてしまった。
爆発の衝撃か、それとも装置が誤作動したか。簡単に手錠は外れた。
ここからは出られない。一人その場に倒れていた総一は、痛む足を引きずりながらその場を離れ、別の出口を捜しに内部に向かった。
彷徨う総一、しかしそう簡単に出口は見つけられず。
その部屋にたどり着くまで、誰一人気付かれなかったのはあまりに幸運過ぎた。
自分の勘だとも思った。それでもあまりに冴えすぎているが。
「誰か……呼んでるのか?」
なわけないよな、と苦笑。実際、誰かが呼んでいる気がしたのだが、信じられることではなかった。
部屋の扉が開く。
―――そこには。何かのカプセルの中に液体漬けにされていた少女と、何人かの男達の姿があった。
手に銃が握られるまで、さほど時間は無い。
気付けば駆け出していた。理屈より何より、その声が自分を呼んでいたような気がした。
痛む脚も気にしない、今だけは。
ただ、信じたかった。このまま死ぬよりは、自身を呼ぶ声を。
状況的に、助かりそうにない。だというのに、心の何処かでは落ち着いていた。
もう一度、撃たれる。それ以上走ることも叶わず、あと一歩、手を伸ばす。
倒れこむように、カプセルに身体からぶつかる。何かが割れる音、肩あたりに刺さる感触。
霞み始めた視界の先に見えた少女、ゆっくりと彼に向かい手を伸ばし―――。
「―――デバイス・オン」
「ざまあねえな、全く……」
救援が来るまでにはまだ時間がかかりすぎる。戦力を甘く見たか。
舌打ちをしても、返って来る応答は何も無い。
モニターが生きているだけ奇跡、ズタボロの状態だった。
無慈悲な機械の巨人が、自身にレールガンを構えるのが見えた。
「終わってたまるか。あいつなら、絶対に許さないはずだ」
つぶやいてみても、返答はない。切り札はある。使うか―――?
その逡巡と、自身に銃を向けていた巨人の頭を打ち砕いたのは、青い拳だった。
いつからだったろうか。青と白が、赤い炎で照らされて、巨人は確かにそこに居た。
BMMはレールガンを向け、放とうとする。一瞬早く跳躍、脚の一撃が胴体に炸裂する。
吹き飛ばされ動かなくなる、二機目。
近くに居たBMMを掴み、思い切り投げ飛ばす、その上に蹴りを重ね。
工場に突き刺さり、二機まとめて動かなくなる。
「―――悪魔が居る」
その光景を見て、一言しかつぶやけなかった。
最後の機体はレーザーブレードを抜き、近接戦闘を望んだ。
それは未知の脅威に対し、あまりに無謀で命取りだった。
振りかざす光の剣、しかしそれより早く踏み込んだ巨人は手首のあたりを掴んで剣を止める。
強引に腕を引きちぎり、怯んだ機体の胴体に埋め込まれる拳。
まるで映画のように軽々と吹き飛ばされ、爆発。
無慈悲に敵を叩き尽くし、炎の中に立ち直るその巨体は―――
総一「ふう、死ぬかと思ったぜ」
春緋「やけにあっさり帰ってきたじゃない」
総一「おうよ。こんなあっさり死んで話が繋がるかってモンだ」
誠二「主役だからか?」
総一「主役だからだ!」
春緋「はいはい。でも、アイツ等って一体どんな奴なんだろ?」
総一「知るか。できりゃ二度と関わりたく……」
誠二「無理な話だな」
総一「ですよねー。
次回、桜華絢爛ベルフェリオン『デバイス・オン! 立てよ名も無きベルフェリオン!』」
春緋「チャンネルはそのまま♪」
総一「今日は終わりだよ!?」
最終更新:2010年01月15日 21:22