目の前には、蹂躙される「正義の味方」。
ただひたすらに、手も出せずに撃たれ、今にも倒れそうで。
一人立っているその手は、悪鬼に届くことは無い。
「ドチクショウが……!」
現実は非情である。
力を持っていなければ、どんな正論も無力である。
力があれば。誰もが思うであろう、もしもの世界。
そんなもので、現実を変えることはできない。
「あなたは、何を望むのですか?」
願望を現実に変える。
その力は、怒りを以て悪鬼を砕く、希望の力。
桜華絢爛ベルフェリオン
第二話「デバイス・オン! 立てよ名も無きベルフェリオン!」
一面が白で覆われた部屋。光射す窓から覗く空の青さ。
目覚めた総一は、見知らぬベッドに寝かされていた。
「ここは……?」
起き上がろうとして、駆ける痛みに呻き声。
巻かれた包帯に、おぼろげながら記憶が戻ってくる。
「そっか……俺……」
生きていたのか。
利き手の左腕が無事だったのが幸い。
右腕も左足も撃たれた記憶はあり、胸の辺りの傷にも身に覚えがある。
「ここまでやられて、よく生きてたモンだよ、全く」
カプセルに倒れこみ、その衝撃で破れた切っ先が胸の辺りに突き刺さり―――少女に手を伸ばした。
記憶はそこまで。奇跡に近いこの状況に、安堵のため息が洩れる。
「って、落ち着いてる場合か!」
痛みをこらえ、なんとか起き上がる。
当然、他の人たちも自分同様に捕らえられていた。その中には、春緋や誠二も―――
「ここだ。寝てるかもしれないから極力静かに……」
ぴしゅ、と開いたドア。
そこには、見知らぬ男に連れられて、今思い浮かべていた二人が居た。
「あ……」
「ハル……誠二……?」
一瞬の沈黙。
「―――総一ぃ!!」
その間を破ったのは、感極まって抱きつく春緋だった。
言葉はろくに出ず、ただ彼の存在を確かめるように、胸に顔を埋めながら泣きじゃくる。
「えぅ、ひぐ……っ、よかった、死んじゃうかって……」
「あががががががががががが今死ぬすぐ死ぬ骨まで砕ける!?」
彼の胸の上方に傷があることにも気付かずに。
困り果てて誠二の方を見ると、彼は総一に対してため息をつきながら首を振って返し。
結局落ち着くまで痛みと耐え抜くことになってしまった。
「……それで、話進めていいかい?」
その言葉に、未だすすりながらの春緋、包帯に覆われた傷跡を抑え荒く息をつきながらの総一、呆れてため息をつきながらの誠二。
三者三様の頷きが返ってきた。
「天城君には言ってなかったな。俺は角川俊暁、巡査長だ」
俊暁と名乗った男は警察手帳を見せる。どうやら本物のようだ。
「先日の拉致事件、そこで君だけは他の被害者から、離れたところで深手を負って発見された。
大体の事件の流れは二人からも聞いたから、二人と別れてからどうしたのか教えてくれないか?」
「離れたところって……建物の中じゃなく?」
「ああ。建物の外で発見された」
記憶と食い違う。
しかし、いくら思い返しても、部屋で銃撃を受け倒れた前後の記憶までしかない。
仕方なく総一は、なるべく伝わるように話した。
「……つまり、記憶はその部屋で銃撃を受けて途切れたと。その部屋は覚えてないんだね?」
「はい。ところで、その部屋で青い長髪の女の子を見ませんでしたか?」
記憶を辿ると、見つけた少女は青の長髪だった覚えがした。
「他の身体的特徴は?」
「あー……すません、覚えてません」
必死だったためか、それ以外の特徴はよく思い出せなかった。
その直後、特徴ではなかったが、少女が一糸纏わぬ姿だったということを思い出し、
もし鮮明に覚えていたら色々と困っていたろうな、と頭を痛める総一が居た。
「そうか。わかった、今後の捜査で見かけたら声をかけてみるよ。
まずそのカプセルが見つかって、君が倒れこんだって確証が見つかってからになるけど」
面倒なことになったな、とため息をつきながら、ふと視線を窓に移す―――
飛び込んできたのは、巨大な銃弾だった。
コクピットの中で、放った銃弾が病院に突き刺さるのを確認した。
これで目標の撃滅を確認できれば、それだけで今回の任務は終わる。簡単な話だ……。
発射体勢から、再び姿を隠そうとする機体にアラートが走る。
「此処のルールを知っていて、やったのか?」
それは信じられない光景だった。
発射したまま水平を保っていたとはいえ、レールガンの上に人間が立っていた。
「病院近辺は非戦闘区域。許可を受けた機体以外は、持ち出すことを許されない」
聞く必要もない、レールガンを振り払う。
人間は直前に飛び上がり、地上から見て……考えるまでもない、その高さから落ちるのは即死確定。
しかし、それなら何故危険な行為に走ったのだろうか?
答えは簡単だった。
「wake up―――」
突如地を割り顕れる、白と紅の巨体。それが人間を拾い上げる。
既に手段は整っていた、その上であの行動―――簡単なこと。
「FLAMBERGE」
今の行為は、単なる警告だった。
「何これ!? 事件が転じて超☆ラッキー! フランベルジュの『戦闘』なんてそうそう見られないわよ!」
ファインダーの先では、問答無用で所属不明のBMMを殴りつけ、光の剣で裂く機体の姿。
フランベルジュ―――エルヴィン内でもひときわ有名な、黎明期の機体。
多くが謎に包まれているワンオフ機で、伝わっているのは基本武装と所持者くらいだという。
「……待て。フランベルジュがわざわざ顔を出すってことは、相当な大事じゃねーのかよ?」
相変わらずの野次馬気質に、傷口を抑えながら頭を抱えて総一の一言。
しかし、肝心の春緋は残念ながらまったく聞こうとせず、
『ブラスターファング!』
「わっほぅ!」
これである。
フランベルジュの繰り出す腕部付属の有線武器を飛ばしての攻撃に沸いている彼女を相手に、
まともに話が通用するわけもなかった。
しかしその攻撃は正確にBMMを捉え、砕いていく。
「お前が心配するまでもなく、終わりそうだな、天城」
「まったくだ」
杞憂だったか、とため息。現に、フランベルジュは正当な『戦闘』では負け知らずなのだ。
その強さは本物であり、BMMで相手になるわけでもなかった。
『ファング……バイト!!』
エネルギーを纏い、一機に拳を叩きつける。そのエネルギーは後方まで貫通し、
ステルスで隠れていたであろう敵すらも砕いた。
未だ無敗の巨人。剣の線を、秩序を乱す者を決して許さない。
その力こそ、剣の線の護り手(ソードラインガードナー)フランベルジュ。
「しかし、何故にフランベルジュがこんなとこに?」
総一の疑問ももっとも。
そんな有名人がこのような場所にいるのは、偶然だと考えるのが一番早いだろうが……。
「俺が呼んだ。警察の方もあの事件で5機破壊されたりで大変だから応援が欲しかったんだよ」
「うっそ、呼べる立場!?」
「すっげー。そんな人とは全然思えなかった」
あのねえ……と、二人の反応に頭を抱える俊暁。
確かに誰から見ても普通の警官なのだが、その事実だけでそこまで驚くのもどうか。
「失礼だ、二人とも」
あきれ果てた誠二も意に介さず、総一の視線は避難している人に向いていた。
「……呼べる立場だから俺らのとこに居るのかと思った。
普通ああやって避難手伝ったりするのが警察の仕事かと」
「俺は君らについてやるのが仕事なの!」
こんな手のかかる奴らのお守り、好き好んでしたくねえよ。
角川俊暁、心の中で盛大なため息。
「……お?」
避難の光景を眺めていた総一に、ふと青髪ポニーテールの少女が目に映る。
服は……着ていた。見るところはそこじゃない。
少女から眼が離せない。
しかし、特徴をよく覚えていなかった総一には、それが一度会った少女かどうか断定はできなかった。
「……あいつか?」
逃すより行動。まず行動する、それが天城総一だった。
「総一? どうした?」
「話の女だよ! いるかもしんねェ、探してくる!」
「おい、ちょ……」
追いかけようとする誠二を手で制止する俊暁。
彼を見ると、俊暁は顎で指し示す。
そこでようやく、誠二は気付いた。何か大きなものが空に浮かんでいるのに。
「……何だあれは?」
「さあ? 飛行ロボットか何かじゃない?」
「待て。さすがにそこまで呼べるのか? ここですら常時飛行はレアロボだろ?」
多様な意見を飛ばしつつ、上空に浮かぶものに眼を向ける二人。
「警察もあんなもの所持してないし、広瀬も持ってきてないはずだ」
「ってことは―――」
直後、その上空から電気を纏った投網のようなものが広がり落ちてきた。
……病院をまるごと覆うように。
『ダ―――ンッ、カァ―――ン!』
奇声を放ちながら降り立つ奇妙なロボット。
その外見は頭のアフロ。まずアフロ。白アフロ。
腕部、膝部にパイルを装備したその姿でもっとも印象に残るのは、だがアフロ。
『おおっと残念ながら防がれてしまった感』
余裕綽綽と言わんばかりに見下ろすその先には。
『く……ぅ……っ』
対抗手段がないと悟り、自分に絡ませることで病院への被害を防いだフランベルジュ。
『まあ、対抗手段がなくば当然とはいえるが。
というわけで……これ以上邪魔をするというならば、お引取り願おうか?』
ガコン、と両腕の長大なパイルが引かれる。
これを何度も打ち込まれたら、さすがのフランベルジュも大打撃は免れない……。
『弾が貫くと書いて弾(ダン)・貫(カン)! 思う存分、打ち込んだらぁぁぁ!!』
天城総一は、その光景を見上げていた。
結局少女を見失い、避難が進んでいるのか誰も居ない街角で、その光景は鮮明に写る。
一撃、二撃。小気味よいとまでいえるパイルの連打……。
「な、何だよ……これ……!」
目の前には、蹂躙される「正義の味方」。
ただひたすらに、手も出せずに撃たれ、今にも倒れそうで。
一人立っているその手は、悪鬼に届くことは無い。
「ドチクショウが……!」
現実は非情である。
力を持っていなければ、どんな正論も無力である。
力があれば。誰もが思うであろう、もしもの世界。
そんなもので、現実を変えることはできない。
「あなたは、何を望むのですか?」
願望を現実に変える。
その力は、怒りを以て悪鬼を砕く、希望の力。
「俺ァな、友達が苦しむのは見たくねェんだよ。誰かが近くで困ってると何かしたくなるんだよ」
フランベルジュが倒れれば、当然奴らの牙は自分に。他の被害者達に。
何より、春緋に、誠二に。
「他人だからって放っておけるか! 自分だけよけりゃいいっつーなら、
困ってる他人にどうにもできない自分がいいたァ思えねえよ!」
言葉の出所はわからない。
ただ、言葉が届けば、その先には何かがあるとまで、呑気な思考も感じていた自分が客観的に見える。
「今ここで手が届かなかったら自分が許せない! 何もできなかった無力な自分が!」
少年は叫ぶ。あてもない、誰も居ないはずのこの空間で。
「ならば力を与えましょう。運命の枷を与えましょう。求める力を与えましょう!」
吹き荒れる風、少年の目の前で溢れる光。
少年は直感した、理解した。
「お前……か……っ」
目の前の少女は、少年を此処まで導いた少女は、あの時自身を導いた少女と同じなんだと。
「我はベルフェリオン第七素体。盟約を」
言葉に導かれる。それ以上の説明は不要。
頭に焼きついていく方法に従い、もはや自分の意志が消えうせ、
何かに操られているかのように、自然と身体が動く。
唇が彼女と重なる。何かが刻まれていく、心の中でそう感じた。
―――動く。
身体の自由を感じた総一は、迷わず彼女の右手に自身の左手を絡め、前に突き出す。
自身の望みが叶うなら、力がこの手で震えるならば。
「「―――デバイス・オン」」
そして、二人の声は重なる。
『あまり気は進まないが、これもお仕事ですってなぁ~!』
連打、連打。厚い装甲が一点集中により穿たれ、突破口を開かれはじめる。
こうなれば、もはや装甲としての意味は薄い。
『そろそろ終わりにしてやろう!』
両腕のパイルが同時に引かれる。
今日は日が悪いな……フランベルジュの『呻き』を感じ、操縦者は一人つぶやく。
本来ならば、ここに割って入るパターンに自身はいるのだが。
『ちぇいやああああああ!!』
さて、どうするか。この状況でどう逆転するか。
その思考は―――
目の前で沸いた腕に、止められた。
『ぶべっ!?』
勢いをそがれ、盛大に青天するアフロ。
浮いていた腕は、前に進むとともに実体を顕す。
握る拳、大地を踏みしめる足は蒼き姿。
そこには、他の兵器と同等の姿をもった巨人が居た。
「ちょっと、何あれ!? 聞いてないんだけど!?」
「警官さん、あれも呼んだのか?」
いや、と首を振る俊暁。フランベルジュとアフロの間に割り入ったのは謎の機体。
マッシブな形状のそれは、アフロの前に立ちふさがっている。
「あんなロボット、俺も見たことないぞ。というかあれ、ロボットなのか……?」
あっけにとられる二人、ひたすらシャッターを切る春緋。
『おのれ何者―――む、もしやそれはベルフェリオン!?』
『はいはーい♪』
『って、いきなり誰よ!? さっきと性格変わりすぎじゃね!?』
あ、総一だ。
付き合いの長い春緋と誠二の二人には、声だけですぐ分かった。
『誰って、これが素ですよ? あ、名前言ってませんでしたね。
私はパール、ベルフェリオンのデバイスです』
『その説明でわかると思うかああああああ!!』
こんな状況でも、全力で自分の性質を存分に発揮している。
「……もしかすると、あれって」
指さして示しながら問う俊暁に、静かに頷く二人。
そういうことか……光景を目の当たりにしながら、一人納得する俊暁。
今立ち尽くすその機体は、いつか見た悪魔。
あれこそ、ベルフェリオンという姿なのだと。
「で、どうすりゃいいんだ」
視線は大きく。アフロも、そしてフランベルジュも人並みに見える。
『とりあえず、全力であれをボコ殴りにしちゃってください』
「おうよ―――って、武器は?」
殴りにかかる直前、ふと気付く。相手はパイル装備、こちらは素手で戦うというのだろうか?
「銃は?」『ありません』
「剣」『ないですよ』
……ない?
「弓! 斧! 槍! ハンマー! ヨーヨー!」
『マスターにそんな玩具は必要ないです』
なにもなかった。
お前、武器のひとつもなきゃ何にもできねーだろうが……!
心の中でつぶやくも、状況が変わるわけでもなく。
『だから前回みたく、殴り勝てばいいんですよ』
「馬っ鹿、それができりゃ……」
『貴様……なめとんのか?』
気付けば、アフロが既に立ち直り、拳を向けていた。
「う、のおおおおおお!?」
反射的。やられると思ったその瞬間、全力で思い切り拳を握り締め―――。
『べごがぁ!?』
殴りぬいた。相手より先に。
そしてその威力とくると、頭部がその拳に思い切りへこまされ、無残な状態に。
なんだ、俺ってけっこうやれそう?
『うぉのれええええ!!』
その油断を打ち砕いたのは、腕から飛んできたパイルだった。
「ぃ……ってぇぇぇ!? あだだだだだ!?」
悶絶。
突き刺さったそのパイルから、本人に直接響く痛み。
『あ、言い忘れてましたけど。今のマスターはベルフェリオンと感覚を共有しています。
ベルフェリオンが痛いならマスターも痛いってことですね』
先に言え。そう言おうとした総一の眼前に、
『隙を見せたのが命取りだ!』
パイルを引き出したアフロが迫っていた。
「な、な、どああああああ!?」
これ以上喰らったらまずい。あんなパイルを喰らえばひとたまりもない。
せめてパイルさえなければ、まだ何とかなるのに……!
ベルフェリオンは『がんぼうき』。望みを叶える『がんぼうき』。
『―――な』
「マジ、かよ」
その時、起こった現象は。果たして、彼が願った以上のものだった。
アフロの機体が放った拳は、ベルフェリオンに届くことなく。
総一が突き出したその掌の先から、そのまま消えてしまっていた。
「隙を見せたのが命取りだ!」
立ち直ったのは、総一が速かった。振りかざしたその拳を、全力で―――
「自分で言ってちゃ、世話ねェよなぁぁぁ!!」
打ち付ける。
『ぬお、おあああああ!?』
自慢のアフロを含め、銀色に光る拳が、頭部を削りぬいた。
その状態のまま、胴体に思い切り膝を打ち込む。高く吹き飛んだその機体は。
『貴、様……このままでは済まさんぞおおおおお!!』
脱出装置が吹き飛ぶ、直後に爆散。
周囲を見渡す……レーダーがついていないのがもどかしいが、とりあえず他には何も見えない。
「終わり、か?」
あわただしくなる周囲、ふと病院の前を見ると。
シャッターを切りまくる春緋、呆然と立ち尽くす誠二、なにやら連絡をとっている俊暁。
「……戻るか。話は後だ、ちゃんとついてこいよ?」
『はい、マスター』
短く声を立て、戻ろうとする―――
「待て。マスターって何だ?」
『マスターはマスターですよ、私のご主人様です』
凍りつく。
その後状況が落ち着き、再び話を整理するまで時間を要することとなった。
少年は力を手にした。この事実が、世界にどう響くか……それは、誰にもわからない。
総一「ふう、死ぬかと思ったぜ」
春緋「それ定例にしないでよ?」
総一「わーってる。多分最後だ」
誠二「とりあえず状況は落ち着いたな」
パール「これから何するんですか?」
総一「尋問」
パール「ほえ?」
総一「てめーの事全部話して貰うぜ」
パール「ま、マスターのけだものっ!?」
総一「どういう思考でそうなる!?」
春緋「え・ろ・す! え・ろ・す!」
総一「DA☆MA☆RE」
誠二「…………。
次回、桜華絢爛ベルフェリオン『騒動、その後で』
お前ら、次回予告くらいちゃんとしろ」
総一・春緋「「こいつが!」」パール「マスターが!」
誠二「……はぁ」
最終更新:2010年01月15日 21:23