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一話「クラヤミ」




PM21:00

闇が支配する夜、冷たい風が吹き荒み纏わりつく。
この時間帯に一人、ランニングをしている者がいた。
彼の名前は土御門 夜人、この時間帯にランニングをするのが彼の日課だった。
公園に差し掛かったところで休憩をとるためベンチに腰を置く。

「ハァハァ…」

夜人は焦っていた、これ以上タイムが落ちるようならレギュラーから外す、そう監督に言われていたからだ。
彼は足に自信があった。
秀才で運動神経もよい、全てが完璧な兄。
そんな兄と比較されないわけがない。
夜人は子供の頃から兄と比べられてきた。
『なんでお兄ちゃんにできることがあなたにできないの?』
『お兄ちゃんは100点をとっているのにあなたは…』
母は夜人にプレッシャーをかけ、夜人は母の思いに答えるために努力してきた。
努力は実り陸上の名門校で彼はレギュラーになる。
これでやっと母に認められる、そう思っていた夜人の期待とは裏腹に母は既に夜人の事を見ていなかった。

裏切られた、彼の心は深く傷つき心を閉ざした。
そんな時に追い討ちをかけるようにレギュラーから外される事態が起こり、益々夜人はふさみこむ事になる。
その上彼の唯一の生き甲斐を取り上げられる。
彼は焦り、盲目的に走った。

「もう誰にも見捨てられたくない、僕は…」

ふと夜人は変な感覚に囚われた、悪寒や恐怖とかの類だ。
何かいる、臆病な彼はこの状況がたまらなかった。

「にっ逃げなきゃ」

夜人は恐怖を振り払うように走り出した。
それでもこの纏わりつく感覚から逃げられはしなかった。
夜の闇や寒い風も手伝ってか徐々に体力が奪われていく。

「ハァハァ、ハァハァ…」

突然のことだった、夜人は何かに捕まる。
そのあるはずのない何かをよく見てみたらそれは手?何かのそしてそれは黒く巨大な手だった。

「うわぁー!!」

ズズズとその本体らしい物がゆっくりと、何もない空間から現れる。

「まぁ、落ち着けよ」

何かから声が聞こえた、夜人は思った。
これが自分の死期なんだと、気絶すればどんなに楽なものか。
ただこの恐怖から解放されることを祈るしかなかった。
また何かが話しかける。

「おまえさんからいい具合のドス黒いオーラを感じたからな、悪いがその体いただく」
「僕を食べるの?」

その何かは不適な笑みを浮かべ、続けて言った。

「ちょっと違うが、そんなようなもんだ。それじゃ覚悟はいいか?」
「やめろー!!」

一瞬にして何かは夜人を取り込んだ、夜人の生死はもう伺うことができない。

「これでこっち側で活動できる、さてと後は奴らが現れるまで待つだけか。ククク、今宵はいい満月だ…」

これが夜人とジャオウの運命の出会いだった―――


場所は変わりここは夜人の家の玄関前、そこには二つの影があった。
一つは夜人の兄時雨の物、もう一つは夜人の幼なじみ橘 秋穂の物だった。
どうやら夜人が帰ってこなくて心配しているらしい。
夜人が大変な事になっていることも知らずに。

「秋穂お前はもう帰りなさい、おばさんが心配するよ」

時雨の優しい声で秋穂の心配していた心が少しほぐれる。

「ううん、やっぱり夜人の事が心配だよ。時雨にぃ、私探しに言ってくる。」

時雨は一息つき、秋穂に何を言っても聞かないと悟る。
伊達に幼なじみをやっているだけに時雨は秋穂の目を見るだけでわかるのだ。

「ありがとう、夜人を見つけたら俺のケータイに連絡を入れてくれ」
「わかった、行ってくるね」

秋穂はそう言って公園の方へ走り出す。

「どこにいったんだ夜人…」

ほどなく、公園につく秋穂。
彼女は夜人がここをランニングのコースにしていることを知っていた。
当たりを見渡すが人の気配がない。
夜人が座ったと思しきベンチ、そこに夜人のタオルがあった。
夜人がここに来ている確証は得た。

「まだこの公園にいるの夜人?」

秋穂は声を上げて夜人の名前を呼んだ。

「夜人ー!夜人ー!返事をして夜人!どこに行ったのよ夜人…」

その時、風が通り過ぎたのか公園の木々からカサカサという音が聞こえた。
そこに秋穂は目を向けるとそこには木の上に座っている少年がいた。
ここいらでは見ない顔だった、年は近く銀色のサラサラしたショートヘアーに青色の瞳。

「心配しなくていいよ、もうすぐもうすぐ始まるから…」

静かに少年は語りだす、秋穂は益々困惑した。

PM23:30

場所は変わり、ここはとある基地『クレート』

「次元境界線未だ安定しています」
「空間歪曲率-0.3」

オペレーターの二人が何かの数値を割り出しているその後ろで、長官らしき男が寡黙に構えていた。

「長官、やはり避難勧告を出した方が!」

彼の部下と思われる女性が必死に訴えていた。
今からおこなわれる何かに対して危険を示唆していた、それがクレートが起こすものなのか或いは別の何かが起こすものなのか…。

「相田曹長、我々は今から起こりうる事態に対して適切に処理をする組織だ。貴官の気持ちも分かるが自重したまえ。」
「うっ…」

長官の言葉で我に帰り。
一旦彼女は気持ちを落ち着かせ、これから起こりうる事態に対して冷静に判断しようと決意した。
しかしこれから起こりうる事態とは果たして…。


AM00:00

そして世界が震撼する事態が起こった。

「次元境界線に異常発生!」
「次元歪曲率増大!長官来ます!!」
「来るか、光の民よ…」

東京都心が眩いばかりの光に包まれる、夜というのが嘘のように。
次の瞬間中心から半径約10kmもの巨大な箱のような物が現れる、中の様子が伺えないほど光輝いていた。
それは衛星カメラからでもはっきり確認できるほど巨大な物だった。
侵入を試みようとした人々がその箱に接触するがそれは透明な壁だった、壊そうと試みる人もいたが徒労に終わる。
そう、中の東京は外界から完全に隔絶されたのだ。

「なんなのあれ?」

秋穂は家が心配になり、駆け出そうとしたが謎の少年に引き止められる。

「無駄だよ、あの中は外と完全に切り離された。あっち側に行く手段はもうない」

秋穂は少年の制止を振り払い、疑問を投げかけた。

「放して、あなたは誰なの?」

少年ははにかみ、秋穂を落ち着かせるように何が起きているのか説明した。

「あれはbox、あけてはいけないパンドラの箱。そしてあの中から――」

少年が切り出そうしたその時、割り込むように爆音が聞こえた。
どうやら防衛隊の攻撃が始まったらしい。
防衛隊の戦闘機は空から、戦車は陸から箱を攻略する作戦だろう。
しかし市民が試みたのと同様傷一つつけられなかった。
程なく無駄だとわかった防衛隊は後退していく。
その時箱の中から光輝く物体が現れる。
それは箱の一部なのかそれとも独立した物体なのかは不明。
全体が徐々にあらわとなり、完全に目視できるようになる。
その姿はまるで人?
光の巨人と呼べる物か?
その巨大な光の物体は目にも止まらない早さで戦闘機を捉え、反撃する間も与えず光の礫を放ち撃墜する。
同様に戦車の部隊にも光の礫を放ち全機撃墜する。
人間に明らかに敵意のある光の巨人は果たして何者なのか?
ただ箱を守っているだけなのか?それとも他に目的があるのか?

或いはどうすることもできず、人類は破滅を迎えるのか?

「来る、闇の使者が」
「闇の使者…?」

秋穂はそう言った後空を見た。
そこに現れたのは、禍々しく凶悪なシルエットをした機械の巨人だった。
黒いボディに左右二本づつ生えた翼、骨が突き出して見える醜悪な外見。
明らかに邪悪な見た目をしたそれは秋穂に恐怖を与えた、完全にあれは人間の敵に違いない。
しかしその邪悪な何かはあろう事か光の巨人に攻撃し始めたのだ。
なぜ?秋穂はただ困惑するしかなかった。

「ちゃっちゃと終わらせるか、凶剣(マガツケン)蓮華丸」

そう言い放った後、邪悪な何かは何もないところから赤色の刀を創り出す。

「かっさばく!」

光の巨人は成すすべなく真っ二つに斬られる、光の巨人は光の粒子となり消えてなくなる。

「まあこんなところか、そうだろ?夜人」
「……ああ、当然だ」

そうして戦いが終わった。
邪悪な何かは闇に姿をくらますのであった。
音もたてずに。

終始を目の当たりにしていた秋穂はその場に力が抜けたように座り込む。

「なんなの?何が起きているの?」

少年は目を瞑り一呼吸置いて再び目を開き、こう言った。

「ジャオウ」


続く


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最終更新:2010年01月15日 22:20