爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。
光の粒子同士がぶつかり合い、線が散って地上に堕ちる。
機動力を高めた一機が、砲撃の隙間を縫って接近する。
後ろは壁、ゆえに逃げる場所はなく。
「―――ぅ」
迫り、放たれる光の銃弾。
いくつもの光から逸れた先、接近しきった機体は大きく光の刃を振りかぶり―――
桜華絢爛ベルフェリオン
第八話「錯綜のエキシビジョン」
今日も朝日は昇る。
時間は平等だ。生きとし生ける者全てに、陽光は降り注ぐ。
「……うにゅ?」
それは人間に限らない。
パール=ジルバ。世間を騒がせる謎のロボットの『正体』にして、天城総一と契りを結んだデバイス。
本来ブレスレット状の装飾具であるはずの彼女は、人の姿を好んでとる傾向にある。
それ故だろうか。朝起きた拍子で変化した際、男のベッドに潜り込んだ女性……という絵面になってしまった。
「ぅー……ふあ……」
眠い目をこすりつつ、目をやるのは置き時計。
「―――え」
視界にはっきりと捉えた瞬間……硬直。
時計には刻まれていた、『07:35』
「マスター! マスターっ!!」
馬乗りになりながら、がくがくと肩をゆさぶり、声をかけて。
必死の呼びかけになんとか、男の方も目が覚める。
「うー……あと5分……」
「5分も3分もないです! 今日が何の日だと思ってるんですか!」
「ぁー……るせーぞパ……」
彼女の必死さに、うんざりしながらも寝ぼけ眼が
捉えた先は、眠気なんて消え失せる何かだった。
目の前に馬乗りになった少女が一人。
寝ぼけながらだったためか―――つまりは、彼に向って突き出た柔肉が、
そのツンと立った桃色の突起までも包み隠さず(検閲事項)であって。
「ぬわーーーーーーっ!!」
結局状況が落ち着いたのは、それから15分もかかった後であった。
「気持ちは分かる」
ああ、やっちまったか。頭を抱える俊暁。
「けどさ、状況を考えて動こうな」
彼が見せるポケコンの画面。そこには、街中を凄い勢いで全力疾走するベルフェリオンがいた。
見出しは『突如出現! 謎ロボ朝に全力疾走』。
「スッパ抜いてから記事作成余裕でした、かよ」
とゆーかここまで早く記事になるものか。遅刻したくないからってやりすぎた。
天城総一は、ここまでわざわざデバイス・オンして走ってきたことを後悔していた。
「襲撃は受けなかったからいいものの。あまりに想定外すぎる。
君はまだ厳しい立場にいるんだから、目立つ行動は控えてくれ」
しまいには涼からも一言。これにはぐうの音も出ない。
「でもよく思いついたわよねー。文字通りベルフェリオンで飛んでくるなんて」
言われてみれば。
時間を止めるとか空を飛べるとかならともかく、ロボット類似品を呼び出してひとっ跳びは、
さすがにすぐ思いつくようなことではない。
「なりふり構ってられっか」
「方法はあんまよくなかったけどな」
言われてがっくり。仕方なかったんだよ、納得してくれ、誠二。
「……で、話を始めていいか?」
全員こくりと頷く。さすがに涼が話を切り出すとみんな素直である。
「私たちの出番は最後のエキシビジョンマッチだな。今回の大会に優勝したチームと戦うことになる。
その一戦だけだから、あとは自由に観戦してもらっても構わない。
といっても、準決勝までは終わっているから、三位決定戦と決勝戦だ。
ただし、試合中何かあっても責任は取らないからな」
「承知の上です」
涼の最後の言葉に、何故か応えたのは誠二。
「あんた、何かあったの?」
春緋の疑問も無理はない。
「君達その話の時、チューニングだのどーだの脱線してただろう」
「……聞いてたんですか、トシにーさん」
「聞からいでか。あと変な呼び方やめい」
風のベルフェリオンが現れた騒動の後、制止役がいなくなったことで、
大事な話をしている一角で春緋はパールと二人で脱線しまくったのである。
「ともあれ。今回は三機一組のチーム戦になっている。
私が乗るのは当然として、普段パイロットなしで起動しているツヴァイ、ドライなんだが、
今日は操縦を2機に任せたまま、ツヴァイには高見君、ドライには天城君が乗ってもらう」
「幾多の窮地を『逆転』してきた広瀬さんの相方の視点から戦い方を見て、
その時のGも体感しておいた方が後のためになるかと思ってな。
相談した中で、ひとつ通してもらったのがこれだ」
なるほど、と理解した。
広瀬涼の乗るフランベルジュ、その戦いを少なからず支え続けていた2機。
その視点から物事を体感するのも、上達の近道としてはありかもしれない。
「今の時点で十分上手いと思うが」
総一の言葉通り、誠二の人型ロボット操縦技術はクラス内でも突出している。
「馬鹿。相手はお前や風のベルフェリオンのような化け物だぞ?」
それでも安心できないのは、しょっぱなからBMM-01相手に無双を働いたベルフェリオンの力と、
それを簡単にあしらった風のベルフェリオンの存在があるからだろう。
ダンカンだって決して侮れる強さではない、というか学生の太刀打ちできるレベルではだろう。
「とゆーか、あんたまさかBMMで相手しようとしてない?」
「一人に任せてられるか」
春緋の疑問をばっさりと返す。
ごもっともであるが、それは操縦できるようなものが近くにあればの話になる。
「それって大丈夫なの? 相手は一般人じゃないのよ?」
聞き直す春緋。当然だ、相手は殺すことも厭わない犯罪組織。学生一人が増えても、状況がよくなるとはとても思えない。
それどころか、死ぬ危険性が高い。
「状況次第だ。俺だって狙われる可能性もあるし、戦うときは戦うさ。総一だけじゃ不安だしな」
「一言余計だ」
軽口で済む問題じゃないのに……。不満も不安も隠すことなく、憮然とする春緋。
死ぬという危険があって、どうしてここまで動けるのか。
今までこういう危機がなかったにしても、今まで誠二のこういった面を見たことがなかった。
「なに、出る幕もねェだろーし、出てきたとしても俺が何とかしてやる」
「あんたは早く広瀬さんに認められるまで強くなりなさいよ」
「たはー」
嗚呼無情。折角意気込んで言った言葉もその後を挫かれ、ただがっくりと勢いを削がれるしかなかった総一。
情けないため息が出るのも無理もない。とはいえ、春緋の言葉も事実といえば事実。当面、必死の特訓は続きそうだ……。
「ところで広瀬さん」
話を打ち切る総一。この削がれた勢いを続けたくなかったのもあるが、もうひとつ。
「さっきの聞き間違いじゃなきゃ、さりげに俺も混じってないスか」
「当たり前だ」
聞いてない。聞いているはずがない。
「大体、一番戦い方を覚えてほしいのは君だ。参加させないわけがない。
直前の話になってしまったが、まあ君なら何とかなるだろう」
なんかとんでもない位置にいませんか俺。そう思わざるを得ない扱いだ。ぶっちゃけ、ぞんざいじゃね?
「マスターなら仕方ありません」
「黙れ、てめーも乗れ!」
「コクピットで二人きりなんて何考えてるんでしょうかねーマスターは」
「何って戦うときてめーも必然的に一緒じゃねェか!」
言い争いを始める二人。喧嘩するほど仲がいいというか、なんというか。
一応総一の言い分は正解で、ドライに乗れるほどのスペースがあるかどうかは不明。
というかコクピットがあるなんて二人は聞いていなかった。
「一応、ここ控室なんだけどな……」
ところで、俊暁の言葉通り、ここは控室。
だからマスコミやらはお断りで入室することはできないのだが……どの方面に迷惑がいくかわからない。
あの調子が他に飛び火しなければ総一とパールは大丈夫、涼は言うまでもなし、誠二も同様。
さて、あと一人は……
「さーて、今日の見どころは何かな?」
なんかもう、試合を撮ることで頭がいっぱいらしい。
「ほっとくか」
正解。
「……まったく」
もう本当にイライラする。
このあたり、全くスクープが撮れる気配がない。
ここに一人の記者が居た。最近特別な事件が多いというのに、肝心のスクープになかなか立ち会えない。
いや、正確にはスクープにできる素材が他に劣るといえるか。
どちらにせよ、仕事になっていないのである。
「まったく、本当にまったく」
それしか言いようがないのが事実である。
昼飯を終わって移動している時、曲がり角に何か子供のような人がいるのに気がついた。
特に何もなく立ち去ろうとした、その背中から―――
「閉会式の後、閉鎖地区Dの元スペードビル3階。いいものが見れるかもよ」
振り返る。
そこには、誰もいなかった。
ただ、照明でできた影しかなかった。
「……ち、まったく」
気のせい……だったろうか? 不思議に思いながら歩く記者。
だがこの時、この言葉が多くの人間の運命を確定させるなど、当の本人は思っていなかった。
目の前に広がる光景、快晴……とは言い難い。
雲が空を覆い始めてきた。もっとも、装甲に太陽光が反射したりの不具合も多かったので、このくらいの方がいい。
此処決戦の舞台、エルヴィン第一バトルスタジアム。
既に会場には、戦いを控えた6機が直立していた。
機動力、装甲、火力、各方面特化でカスタマイズされ、ライトグリーンに塗装された左肩を目印とするBMM3機。
それに向かい立つは、エルヴィンではお馴染みの光景となった、それぞれ白、赤、青のメインカラーが振られた3機。
多くの客、歓声に包まれる中、そのうち一機のコクピット内にいる一人の少年は……
「……なんだってまた、こんなとこで」
不満のため息を漏らしていた。
青い機体―――ドライフォートに、総一は割り振られていた。
『慣れるのも一つだ。どうせ、嫌が応にも戦いに観客は増える』
フランベルジュから涼の通信が聞こえる。
白のメインカラーに赤がアクセントされた、最早エルヴィンで知らない人間はいない機体。
今までいくつもの戦いを勝ち進んできたのだろうか。その中には、非合法な戦いも少なくなかっただろう。
現に総一達は、その非合法な戦い……そう、望まざる戦いに守られて、今を生きているのだから。
先日の病院での騒動もそうだが、『創世事変』は人々の記憶の中にいつまでも刻まれている、
広瀬涼が名実ともにエルヴィンのバランサーとして認知された大きな事件。
その事件を目撃したのは総一とて例外ではなく、それだけに彼女の存在の大きさは理解していた。
『こんな大事なところで、Gに酔ったりするなよ』
「お前がな。むしろツヴァイの方が酔いやすそうなんだが」
柄にもなく考え込んでいたところで、誠二から軽口が入る。
紅に身を包んだ、エルヴィンでも希少な可変機、ツヴァイドリル。誠二は自ら、ツヴァイへの搭乗を頼みこんだという。
素人目から見ても、戦闘機と人型機体の機動を使い分ける可変機の、パイロットにかかる負担は尋常ではない。
Gに酔いやすいのはツヴァイの方に見えるのだが……。
「へー、ほー、ふーん」
思考がぶった切られたのは、突然間抜けな声が聞こえたから。
コクピット内を珍しそうにキョロキョロと覗きこみ、いくつか触ろうとするパール。
青筋を立てながら、その腕を強引に掴んで膝に乗せる。
「じっとしてる気がねーなら、せめて黙って座れ」
「ケチ」
むう、と頬を膨らませるパール。
総一にも見たい気持ちはあったが、こんなところで見るのは流石に駄目だという自制心がある。
そういえばこいつ、相当ズレた奴だった。改めて総一は認識する。
時々それを忘れるくらいの事態が起きては、またパール自身から問題を持ち寄ってくるから困る。
「……って、何持ってるんだてめェ。とっととしまえ」
そう、今回もまた。何を持っているんだ、と思ったらそれはアクセサリーの方のロケットだった。
本当にどこから持ち出したんだ、と思って見上げれば、コクピット内の上部に収納スペースらしきものが確認できた。
「はあ。すみません、広瀬さん」
『いや、いいんだ。私のじゃないしな』
しかし、謝った先から返ってきたのは意外な言葉。
私のじゃない? それは、誰かの忘れものということか? それにしては、涼の返し方があまりに軽い。
とりあえずもとの場所に戻そうと、ロケットをひったくろうとする。
「あ……って、あれ? ちょっと待ってくださいっ」
「何だ」
もういいかげんうんざりしていた。
だが、何かに気づいたようにはっとした声をあげていたのが気になり、そのまま次を促す。
「……これ、悠菜おばさんに似てません?」
悠菜? はっとして、ロケットを見てみると、ロケットがずれて写真が覗いている。
よく見てみると、そこには……確かに、よく見知った顔が映っていた。
「母さん!? それに―――」
『エブリバディ・リスン!!』
驚愕すると同時、沸き上がる歓声。
時間だ。時計を見れば、エキシビジョン開始の時刻だ。
「……ったく。戻っとけ、パール」
「嫌ですよ。狭っ苦しくて」
お前が変形した姿じゃなかったのか。というか、狭苦しいってむしろ人の姿の方が狭苦しくないか、ここは。
そんな言葉を飲み込み、とりあえず総一は司会の言葉に耳を傾けることにした。
一方のパールの視線は、今は落ち着いている総一の表情にしか向いていなかった。
今の彼女の心を引いたのは、皆の気持ちを引き立てる司会の声でも、盛り上がる場の空気でもない。
それは、写真を見た瞬間に覗かせた、彼の―――天城総一の、パールが今まで見たこともない表情だった。
『それでは、これより優勝チームと、広瀬涼率いるお馴染みSLG3機との、エキシビジョンマッチがスタートする!
最強の牙城は揺らぐか、それとも守り抜かれるか! 一秒たりとも見逃すな!』
司会の言葉とともに、空に浮かぶヴィジョン。
空間に浮かぶカウントが、10、9、8……
『心の準備は、いいな?』
涼からの通信。
二人が直接戦うことはないが、これから体験するのは実戦の感覚、本物のG。
『はい』
短く一言で済ませる誠二。
「っし、いつでも!」
自分が戦うわけでもないのに、無駄に気合を入れて応える。
誰もが固唾を飲んで状況を見守る中、空中に浮かぶカウントが3、2、1―――
開幕。
「うお―――ッ!?」
そして、加速。
一瞬後方に飛びのいたかと思えば、画面に映るモードチェンジのメッセージ。
気付けば、全てを追い越していた―――この間、一秒にも満たない。
「何、だ……!?」
状況の把握が追い付かなかった。
誰よりも早く突撃をかけ相手を撹乱する、スピードに優れた可変機。
相手の3機は即座に散開。
いきなり反応勝負にもつれこむその行動は、ある程度読まれていた為に対処は可能であった。
「これが……」
これが、ツヴァイの視点か。誠二は体感する。
可変により得られる爆発的なスピードと、一瞬の判断が勝敗を、生死すらも分ける反応。
ちょうど味方2機から見て逆側の高い位置を取ったツヴァイは、人型に戻りながら、
巨大なバックパックを回転させ、先端を相手に向ける。
一瞬のチャージ、後に放たれる咆哮。エナジーキャノンの迸る光が大地を焼く。
交差する光が、そして逆方向から降り注ぐミサイルの嵐が、相手の回避の選択肢を徐々に狭めていく……。
一方、ドライフォート。
肩から生み出されるミサイルを吐き出しながら、戦線から下がり、後方に徹する。
背部から取り出したキャノン砲が交互に火を噴く。
圧倒的な弾の嵐を回避しきれず、いくつかはかするも、未だ直撃はない。
「わー、すごいすごいっ」
隣で騒ぎ立てるパールの声も耳に入らない。総一の視点は、ひとつの機体に移った。
腕に装備されたシールドでミサイルを弾く機体。ミサイルの爆風を背に、もうひとつの機体がこちらに銃を向けている。
がら空きのはずの背後から迫るエナジーキャノン。
だがそれは、おそらく出力を上げたであろう重装備の機体から発せられた光によって受け止められる。
光の粒子同士がぶつかり合い、線が散って地上に堕ちる。
残ったのはノーマークの一機。機動力を高めたその一機が、砲撃の隙間を縫って接近する。
後ろは壁、ゆえに逃げる場所はなく。
「―――ぅ」
迫り、放たれる光の銃弾。
いくつもの光から逸れた先、接近しきった機体は大きく光の刃を振りかぶり―――
一瞬一瞬を捉える、曇りなきレンズの瞳。
ここぞとばかりに、特等席で撮りまくる一人の少女を、呆れ果てながら見ていた。
生で見られるほどに近いが、戦闘フィールドは障壁に包まれ、被害が外に漏れることはない。
「よっぽど好きなんだな、それ」
一時もカメラを手放さない少女に、俊暁は声をかける。
「だって好きだもん」
理屈はいらないとばかりに応え、春緋は再びシャッターを切る。
以前はまともに映らず問題の多かったレーザー系攻撃の撮影も、今では機械の補正により改善されてきている。
光の速度自体は一瞬であるが、その一瞬だけで与えられる物理的干渉はたかが知れている。
ゆえに短時間でも「照射」する必要があり、それゆえにレーザーも撮影が可能なほどに長く出ているのだ。
切られたシャッターの後、カメラの画面に表示される写真には、くっきりと光の線が映し出されていた。
「で、トシ兄さんはどう思うんですか? これ」
目の前の光景に集中しながら、ふと気になった言葉を漏らす春緋。
戦いを見る限りでは、相手は守りを固めながら一機を削り、攻め手を薄くさせるのが第一と考えているようだ。
実弾で固まっているドライフォートに対して実弾防御の高い機体を盾に、
レーザー系攻撃を中距離の攻め手とするツヴァイドリルに対しては、大出力のバリアシールドでレーザーを逸らし。
ドリルによる突撃時はレーザーが正面にしか撃てない構造のため、直線の攻撃では必然的に一人しか狙えない。
空いた一機が何としても攻撃面を削り落す……フランベルジュを止めるには、他の2機のうち片方の機能を奪う必要がある。
単機で止めようなどという選択肢はとても取れはしない。
だが。
「……駄目だな。これじゃ広瀬涼は破れない」
こんなもので止められるほど、最強の名は伊達ではない。少しでも止めようという魂胆は通用しない。
彼の言葉通り、ドライフォートに向かうその機体は―――
入った、そう思っていた。
光が青い装甲を捉える、そう思った時には既に視界にドライフォートは映っていなかった。
地に叩きつけられる衝撃。大きく機体が揺れ、二度三度バウンドする。
その時点で、ようやく状況を理解する。単純なことだ。
目の前に映っている白の機体に、蹴り飛ばされていたのだと。
必死でブースターを吹かし、体制を立て直そうとするそこに、再びの追撃。
光よりはるかに物理的な影響の凄まじい、実体と速度のある堅固な武器―――拳が、肩に突き刺さる。
ライトグリーンの肩からごっそり持って行かれ、一撃で無理矢理飛ばされた左腕が宙を舞う。
そして、もう一撃。反撃も許さず、流れるような速さで突き刺さる脚部が、右腕を圧壊させる。
瞬く間に両腕を失った機体。
人型である以上、武器の使用を腕に頼るため、両腕が破損してしまえばまともに戦える状況にならない。
限界損傷を確認した機体が、全ての戦闘機能を停止。
パイロットの人命を守るため、四肢から独立したコアが硬くコクピットを覆う。
競技用の武器ならばこのコアを破壊することはできず、
コアを破壊できるような凶悪すぎる武器はレギュレーション違反となり使用できない。
またこの状態のコアを故意に破壊することはルール違反で失格となる。
今回のチーム戦は、ルール上全機体が戦闘機能停止になるまで続く……だが、残った二機で状況を覆すことは考えにくい。
この時点で大勢は決した、そう言っても過言ではない。
「……強い」
パイロットは一言、漏らした。
一瞬で全ての手段を奪い去る、この破壊力こそが広瀬涼の力。
そして作戦の見直しの必然性を静かに感じた。
サポートする2機も堅実な働きをするが、一度でも彼女をフリーにしてしまえば、その時点で何をされるかわからないのだから。
―――この時点で、SLG3機いずれも健在。一方、優勝チームは一機欠け、2機。
元々チームの判断力、結束で勝ち進んで優勝した今回のチームだが、うち1機でも欠けると脆いという欠点を抱えていた。
最強で万全たる相手を抑えられる線は極めて薄く、観客・視聴者含め、この戦いを見ているもののほとんどが共通の思いを抱く。
『大勢は決した』。そして、予想通り終幕を迎える頃には、BMM3機は青天状態で動かなくなっていた。
「凄ェ」
開口一番。ありきたりな言葉が漏れる。
逆に言えば、それ以上適切な言葉を思いつけなかった程、普遍的な言葉。
広瀬涼の所持するチームは、「勢いを物にする」力に長けている。
圧倒、撹乱、必殺。特化した能力を存分に生かし、それぞれがそれぞれを引き出し。
単純だからこそ、単体能力の高い3機小隊を欠けさせることは至難。
並の能力では、「最強」には遠く及ばないのである。
『全くだな』
圧倒的な光景の余韻に浸る間もなく、声がかかる。モニターに映っている誠二の姿は、どこか疲れたような印象を受ける。
おそらく、機体に振り回されてのものだろう。急激なGの変化に耐えられるだけ、すごいものだとは思うのだが。
『3人とも大丈夫か?』
『はい。もう終わりでしょうし』
涼の呼びかけに応えられるだけの余力はあるらしい。疲れは隠しきれないが、笑みを見せつつ手を上げる。
三人ということはパールもだろうが、
「もーいっかい、もーいっかい」
とのたまわっていたので、げんこつの4文字が即時浮かぶことになった。
「クウキ」
「からけ」
ほっぺたうにゅー。
「ひにゃにゃにゃ」
ふぇ~、と今にも泣き出しそうな表情のパール。
そんな馬鹿をしでかしている中で、再びの司会の話が始まり、頬を伸ばしていた手をぱっと話す。
『この後の予定だが、20分後に今回の賞品「GS01」のテストムービングを行うぞ!』
「……じーえすぜろわん?」
「いいから見てろ」
総一が促す、司会の背景にあるモニターに表示される一機の機体。全身金色、眩しいほどの機体が直立している。
『マズルカのカスタムモデルだな。GSの名前は「ゴールドシリーズ」と「ゴッドスピード」をかけてるんだとか。
こういう手合いはレプリカパーツが後に生産されるんだが……』
言われてみれば。BMM-01のマズルカに背部の巨大ブースター、肩をはじめ各所に見える噴射口、
姿勢制御用のウィングを追加と、明らかに速度を出せそうな機体である。
すでに情報はチェック済みなのか、誠二が説明を入れてくれるのは、正直知識に疎めな総一にとってはありがたい。
なにせその日暮らしで精一杯なためか、最新情報など聞いている時間がなかったのだ。
「あ、マスター。そろそろテストですか?」
「何がだ」
その上、今は詰め込んだバイト漬の生活から解き放たれているとはいえ、今はこいつがいるのだから。
疲れの上に不意打ちのタイミングでパールに声をかけられ、若干疎ましさを隠せない。
ほら、あれ……とモニターを指し示すパールをどけようとした時。
「だってあれ、パイロット乗ってるとこですし」
実際に視線を追ってみる。確かに乗り込むところだった。
だが、直後の出来事に彼女の考えは否定されることになる。
閉まるコクピット、そこに向かい発砲する警備員の服装の男たち。そして―――飛翔。
輝く金色の機体が、開いた目の前のハッチをくぐり、会場の中心から飛び出す。
唖然とする観客、静まり返る場内。
試合終了直後、運悪く、それとも狙ったのか、外界への干渉を遮る光の障壁が途切れている瞬間だった。
動けない面々を一瞥するように、一瞬空中停止。そして、一直線に空を駆けていった。
「なに、アレ……?」
一部始終を捉え、シャッターから目を離した春緋が、ぽつり、と一言。
隣の俊暁は答え、そして頭を抱える。
「事件、かな。大胆にも、堂々とワンオフ機を奪った強盗事件」
また、忙しくなりそうだと―――。
最終更新:2010年04月25日 11:22