標的は立つ。人型を模した、塗装のない銀色の標的。
その眼前に立つ、一体の青が手にするのは、黄金色に輝く拳銃。
見た目に違わず、サイズに反し、心地よい重さが掌に返る。
銃弾を装填し、まっすぐに構え、標的に狙いをつけ、そのトリガーを―――
桜華絢爛ベルフェリオン
第七話「突撃! となりの町工場」
白く、真っ白く、どこまでも白く。
純白の部屋に飾られた写真、隣には果物のバスケット。
「……そう。大変だったのね、総一」
「本当になー」
遠い目になる総一の前には、大きく白いベッド。
そこに寝ている彼女に比べたら、総一の両腕の包帯など些細なものであろう。
ベッドの札には―――天城悠菜、と刻まれている。
「で、母さんの調子は?」
歳を感じさせない妙齢の女性は、微笑みながら返す。
「そうね……最近は落ち着いてるかしら。それより総一こそ、あんまり無茶しないでね」
それを聞いて安心する。
この際、最近の散々無茶しまくった諸々は置いておくとして。
「ああ。無茶して稼げなくなるなんてこたねェから、安心して治してくれよ」
彼女を元気付けようとサムズアップ。
「まずはその包帯を取れるようになりなさい」
「ごもっともです」
結局腕の包帯が説得力をなくしている。残念。
「……まあ、元気そうでよかったわ。
次に来るときは、もうちょっと余裕をもってから来なさい」
「うい」
この状況では反論のしようがない。
何のために見舞いに来たんだろうか……元気そうでよかった、といえばそうなのだが。
「ほら、しゃんとしなさい。総一が来てくれるだけで嬉しいんだから、私は」
その言葉で、微妙な心境が顔に出ていたことに気付く。
取り繕うように笑いながら、荷物を手にとって立ち上がる。
「ああ。じゃあまた来るわ。今度何持ってきてほしい?」
「広瀬さんのサイン」
「即答かよ!? ……かけあってみる」
ひらひらと手を振りながら、席を立つ。
「……総一。あんま無理しちゃ駄目よ?」
「言ったろ、また来るって。またな、母さん」
釘を刺す言葉に、もうひとつ返して。
『「ボノロン」がぁ!!! 捕まえてぇぇ!! 「ボノロン」がぁ!』
「ごーごーれっつごー画面端ー!」
速攻で落ちる拳骨という名の鉄槌。
病室から待合室に戻ってみると、立ちながら騒いでいたポニーテールの少女がいたのだった。
生憎今の鉄槌は脆く、「げんこつ」の4文字が退いた時には拳を抑えて呻く総一がいた。
「病院で騒ぐな、恥ずい」
「ぇー」
やっぱりこいつに常識なんてなかった。
悩みの種は減らないばかりである。
「やっぱこいつから目ェ離せねーわ」
「あ、ひょっとして惚れてます? そのままベッドイン? 子供は何人にします?」
「黙れ」
「ひゃにゅううっ!?」
勘違いしているようなので脇腹つっついてやる。
あくまで目を離すととんでもない行動をしでかすからである。
それにパールと一緒にいないと、片方が狙われたときに対処できない。
……流石に、悠菜の前でこんな奴を連れてくるわけにはいかない、
という思考を存分に後悔することになった総一。
その一瞬後、連れて来ても後悔するだろうなという思考で進むことにした。
実際後悔するだろう。確実に。
「……で、ああ、試合か」
テレビを見ていると、どこかのロボットバトル試合中継のようだ。
このボノロンというドライバーだが、
前に皆で泊まることになった時の車内で見たような覚えが総一にはあった。
機体もBMM三型のストラディバリウス。
だからってどうというわけでもないが。
「さて、じゃあ行くか。今日は休みだしな」
「おー♪」
お前は来るな、と言いたいがそうもいかないのが悲しいところ。
「……ぁー」
来るなと言えない、で思い出す。
一度学校に出てきて騒ぎになったのだが、学校にもついてくるなとは言えなかった。
「月曜相談するか」
「何をですか?」
「てめーの処遇だよ」
とても盛大な溜息をつきながら、病院を後にした。
……律儀にも携帯の電源はオフにしていたらしく、開いたらメールがなだれ込んできた。
「何ですかそれ?」
「携帯電話。遠くの相手にも連絡がとれる奴。やらん」
「まだ何も言ってないじゃないですかーっ」
無視してメールチェック……すると、届いたメールは春緋からだった。
「なになに……今日どっか遊ばないかって?」
……あそこに行くのは明日でいいか。
予定を整理して、肯定の文章を打ち返す。
「わー、おー」
隣の席ではしゃぎ立てるパールとともにバスに乗っていたはいいが、うるさい。
今突っ込もうにも、傷口が開くとまずい。
「んひいっ!?」
脇腹つっつく程度で許してやることにする。
「もう、何ですかマスターの変態」
「じゃかあしい。黙ってろ」
ふう、と盛大に溜息をついてまた眺める。
風景が窓越しに流れる。
全市民が利用する中央区から日本区に差し掛かるところだった。
「風景、変わりましたね」
「こっちは日本区だな」
こうしてみると、同じ近代的といえど、中央区は特に最新高層建築物等が立ち並ぶ。
日本区を初めとして、各区ではそういうものは目立たず、
高層ビル街はまさにエルヴィンの中枢である象徴だといえる。
「そういえばマスター、あれ何ですか? 一つ飛び抜けて高い建物があるんですけど」
「ああ―――セントラルタワーだ。エルヴィンの技術的中心で象徴のひとつ」
表情が曇る。
嫌でも目に付くセントラルタワーは、エルヴィンの光景の中でも突き抜けていた。
各国から技術者が集まるエルヴィンの技術が集結する中心部。
天城総一は、そのセントラルタワーに特別な感情を抱いていた。
それは、まだ付き合いの薄いパールでも目に見えて察することができるほどの態度で。
「へー……」
その遠い目を見つめながら、パールは想う。
彼が自分を引き寄せたほどの強い想いは、どこから生まれるのだろうか、と。
バスを降りると、そこには春緋が待っていた。
いつも通り、スカートの下にスパッツを穿いた動きやすそうな服装だ。
「遅いじゃない」
「バスに言え」
早々に突っ込みながらバスを降りる。
「で、総一。あたし考えてきたことあるんだ」
そして、他愛もない会話とともに足を進める。
ここは工業地帯。土曜日にも関わらず、あちらこちらで作業の音が飛び交う。
二人が会話を始めている時には、既にパールは周囲の光景に気を取られていた。
「何が?」
「必殺技。何も名前がないのも寂しいでしょ?」
「いきなり何を言い出す」
「決まってるじゃない! ベルフェリオンの技よ!
ロボットの技の一つや二つ、名前がないなんて味気なさすぎるじゃない!」
果たして力説するところだろうか。
春緋の考えていることはおそらく報道的なものだろうが。
「別に考えなくても……」
「いいんじゃないですか? 技の名前決めたらより強く意識できると思いますし」
今更パールが口を挟んできた。いいのかよそれで。
呆れはするものの、どっちにしろ使わなきゃ変わりないと思い、先を促す。
「で、何だその名前って」
「聞いて驚くなーっと。その名も『爆牙天襲脚』!」
参考にはならないとは思ってたが、案の定どっかのゲームで聞いたような名前だった。
「ほら、あの最後のキックの名前!
空高くジャーンプするところとか、こうどっかーんってするところとか、それっぽくない?」
「どちらかっつーとアホっぽくて子供っぽい」
即答。
厳密にはキックというより踵落としなのだが、
そこまで突っ込むほど総一は技を意識してなかった。
技という意識よりも、一撃を叩き込むことだけに全思考を集中し、実際に叩き込んだだけである。
「なーによー」
何度も春緋に頬をつっつかれながら、やめれと引き剥がす。
「つーかイメージって言われてもな。あン時は無我夢中だったから、
必死こいて落としたってだけで、技とか意識してなかった」
「もったいない」
「もったいないって何だ!」
きっと多分使わない。
春緋の言葉を聞き流しながら……聞き流してない? 何? 聞こえんなぁ?
とにかく、わいやわいやと歩いていると工場の前にたどり着いた。
「ここですか?」
「ああ。後ろ見てみな?」
総一に見るように促され、パールは後ろを覗いてみる。
……確かに広大な敷地がある。20m級の機動兵器が動くには十分だろう。
「うわ、ほへー。ここ……何ですか?」
「あれ見てみ。ロボット試験場だよ、ここ」
その敷地内で舞うのは、白を基調に青のアクセントカラーでまとめられたBMM。
「各工場それぞれがこんな敷地なんて持てないから、試験場を借りてやってるんだ。
つっても、此処は工場が単独所持してるんだけどな」
「へー。でも、ここに何しに来たんですか? 誰か関係あるんですか?」
パールの疑問も最もだ。彼女が此処に来たのは初めてで、友好関係も何もない。
「それは秘密ー。さて、じゃあ行きますか」
「だな」
春緋の呼びかけに総一も答え、二人が歩き出す。
行き先に見えるのはBMMのサイズに合わせた、いかにも町工場といった感じの場所。
ここに何の用があるのだろうか……?
「ま、待ってくださいよーっ」
考えていたら置いていかれそうだったので、一度考えを打ち切り、とてとてと二人を追いかける。
どの道、中に入ればわかるだろう。
中も中で凄かった。
それぞれ白をメインに緑と赤のアクセントがついたBMMが一機ずつ残っており、その脇には、
初見では何がなんだか分からない様々なパーツが、吊るされたり、格納されたりしている。
「……?????」
わけがわからなすぎて目が?マークになってきた。
とりあえず手を振って誘っている総一のもとに向かうパール。
「えーと……ここが工場ですか?」
「こっちは格納庫な。工場は敷地内の別の建物」
「はひー……」
「ちょっと、パールちゃん混乱しちゃってるでしょ」
むにー、と頬を春緋に引っ張られ、総一はようやっとパールの現状に気付く。
「そういや、全然まるっきし知らないんだな、BMMのこととか」
「びーえむえむ?」
頭を抱える。本気で何も知らなかったようだ。
「……まずそっちまわりから説明するな」
「いや、その必要はないよ」
グダグダになってきた空気に鋼の救世主が!
「あ、誠二の父さん。ちーす」
「よーっす」
二人に手を上げて挨拶する眼鏡の優男。
しかし、この場の中で一人だけ、パールは硬直する羽目になった。
「え、と……? 誠二さんの父さん、ってことは……?」
「そ。ここ、誠二んちの工場」
春緋の言葉で確信した。パールの脳内に、その言葉が響く。
―――「な、なんだってー!?」
BMM。正式名称「ブラスティング・モビル・マニピュレーター」。
その機体の歴史は意外と浅く、数年前までは各企業がそれぞれ
個別基準のロボットを製作していたが、このBMMの登場で各企業の中でも規格統一が図られた。
大きさは18m近辺、これまでにエルヴィンで発展してきた様々な技術が投入されている。
また、各機の名称は全て音楽関係で統一されている。
「―――まあ、初めてならこのあたりを抑えておけばいいね」
モニターに表示される簡易資料を、食入るように見つめるパール。
「目ェ悪くなんぞ」
総一に顔を引き剥がされ、そこでようやっとまともに座る。
次に表示された画面では、そのBMMの各種説明に移っていた。
―――BMM-01マズルカ。
BMMという規格を決定付け、シェアを得るきっかけとなった機体。
完成度が高く、腕・脚・背面・肩と一通りハードポイントが備わっており、
装備次第であらゆる状況に対応できる。
特に、背面に専用バックパックを装備することで、用途に応じた性能を得ることができるという
最大の利点が存在し、今までBMM業界を引っ張ってきた。
素の機体自体は軽量気味のプレーンなものであり、まさしくスタンダードに相応しい。
―――BMM-02サラバンド。
マズルカから日を置き登場した新たなBMM。
背部ハードポイントの互換性を若干犠牲に、内部ハードを高性能にした高級品。
マズルカでは対応し切れなかった各種機能が追加されている反面、
内部ハードが脆く、デリケートな機体である。
とはいえマズルカに専用パックを装備するより安上がりに、
安定して高性能の情報処理能力を得られるのは大きかった。
―――BMM-03ストラディバリウス。
諸々の関係上サラバンドに遅れて登場することになった機体。
デザイン更新により、肩の『装甲』にハードポイントが増設された。
また駆動系の不調を見越してか、油圧式の予備駆動装置を装備し、安定性を得た。
だが、装甲も重くなり、フレームも重くなり、
結果として重量が予定より多くならざるを得なくなってしまった。
そのため、これを通常の機体通り動かそうとすると燃費も悪くなるが、
安定性が極めて高く、負荷の大きい仕事に向いている。
「……という感じだね。わかりやすく言ってみたつもりだけど、どうかな?」
「よくわかりません」
総員ずっこけた。
「ここまで説明してわからないで済ますなァァァ!?」
全力で突っ込むのも無理はない。
なにせ、彼らとパールでは常識が違うのだから。
この話は、総一達が在籍しているエルヴィン第一高校の一年次の授業の内容である。
ガチで無知なパールと会話がかみ合わないのも致し方なし。
「……そのうち慣れるわよね。きっと。うん。多分」
春緋でさえこれだ。
「まあ、そのあたりはおいおい。パールちゃんも当分はエルヴィンにいるんだろう?
だったら、生活していくうちに覚えるさ」
「ですよねー」
そこは違うだろ! という言葉を心に呑み込み、パールに拳骨ひとつ。
「ああはいはい、無茶しないの」
やっぱり治ってませんでした。
拳を抱え蹲る総一……何度目だ? 反射的だからしょうがない。
「ところで。前に話した『アレ』、試作品できたよ」
「マジすか。もうそこまで?」
「へー。見せて見せて!」
アレ、という誠二の父の言葉を聞いた総一がぴくりと反応した。
春緋もカメラを持ってはしゃいでいる。
「せっかくだから、パールちゃんも見るかい?」
呼ばれて、こくり。
「じゃあ、ちょっと待ってね。実装テスト前だから此処にあるんだ」
そう言って、パネルを操作する誠二の父。
格納パネルの一部分が開き―――そこにあったのは、二挺の拳銃。
爛然と煌く黄金色の外装に紅の装飾を加えた、
創作物でもよく使われる大口径自動拳銃「デザートイーグル」を巨大化したようなデザイン。
ドがつくほどに派手な拳銃の本体もあり、そのすぐ近くにはその予備弾倉と思われるパーツ、
そしておそらくBMMの腕部ハードポイントに装備されるであろうと推測されるパーツ。
「拳銃式のレールガン、言うならばハンドレールキャノンさ。小型化かつ威力重視だから
命中率があまり高くないけど、ストラディバリウスのコンテナあたりには格納できる。
……まあ、まだ試作段階だから問題点は多いけどね」
と語りながら、関連データを出してくれる。
外観やデータ等のものであり、流石に中身やプログラムまではいくはずがないとはいえ、
開発中のものをここまで他者に漏らすというのはまず有り得ない。
誠二と長い付き合いの総一や春緋には、こうやって仕事の話をすることも多いが、
これは二人が外部機密を漏らすことなどないと信頼してのことであり、他言無用は絶対。
彼が言うには、若い視点からの意見が欲しいようだが、自慢の要素も何かしらあるだろう。
実際誠二の父はパーツ開発責任者であり、彼の作ったパーツのうちいくつかは大企業に採用され、
ある程度実績を残しているらしい。
「へえ……弾自体にコンデンサ仕込んでるんですね」
「そう。レールガン発射時の必要な電力をコンデンサから供給する方式だね。
現代の拳銃が火薬を仕込んでいるところにコンデンサを仕込んで……」
実際どういう仕組みで動いているのかまでは、二人は理解できない。
質問した春緋でさえ、大体の原理を聞ける以上のことは叶わない。
「……ん、戻ってきたか」
話し込んでいるうちに、巨大な足音が、地響きが迫る。
白をメインに水色のアクセントのついた機体が格納庫に入ってきた。1型のマズルカだ。
胸部のコクピットが開き、機体から降りる姿は……彼らのよく知っている人物。
「何やってるんだ、親父……あとお前らも」
「おーう、誠二」
ヘルメットを外し、普段はしていない眼鏡を直しつつ、一息ついた彼に向けて手を上げる。
「別に。ただ暇だから」
「いつものこととはいえ……もっと他になかったのか?」
「だって『ボノロン』戦は午前中だったしー、今日予定ないしー」
ボノロン。誠二と春緋のやりとりの中で、総一は午前中のことを思い出す。
……ああ、あった。病院の中でパールが観戦してひどい恥かいた。
「……って、何やってんだてめェ」
見てみると、パールは画面を食入るように見つめて離れない。
しかも誠二の父の方も調子に乗って、いろいろ説明しているようだ。
仕方なくむんずと掴んでつまみ……
「ぬぐ!?」
出せない。微動だにしない、動かない。
いくら自分が手負いとはいえ、少女一人相手に
痛みで腕が悲鳴を上げるのが先だったというのは情けない話だ。
「おいパール、聞いてンのか?」
声をかけても無反応。仕方なく視界を塞ごうと手を―――
「痛づうッ!?」
払われた。しかも無茶苦茶全力で。
「……という感じだけど、ってどうしたんだい総一君?」
騒いでいるうちに説明が終わってしまったようで、悶絶しているところに声をかけられてしまう。
恥の上塗りである。
「何でも……」
たはは、と力なく笑うしかできなかった。
「だっさー」
春緋にまでからかわれてしまい、何も言い返せない。
しかし、パールのどこにあのような力があったのだろうか。
「……おい、パール」
過剰なまでに反応した、おそらく弱点と思われる脇腹をつっついてみる。
……反応がない。
「おーい?」
何度かつっついてみる。やっぱり反応がない。仕方がないので、一度思い切りくすぐってみる。
次の瞬間、繰り出された肘は見事に腹にめり込み、悶絶。
「セクハラ」
その上レッテルまで張られるという始末。天城総一、踏んだり蹴ったりである。
「自業自得だな」
確かにその通りだが、誠二の言葉はあまりにストレートに総一に刺さる。
肉体的苦痛と精神的苦痛のダブルパンチ。
「いや、おかしいだろ明らかに。突然反応がなくなって……」
溜息混じりにパールを指して、自身の正当性を主張する総一。
だが、誰かが反応を返す前に
「はにゃあああああああああっ!?」
びくんっ! いきなり跳ね上がって倒れるパール。
「どうした? パール?」
流石に駆け寄って様子を伺う総一だったが……自業自得の恐怖はここからだった。
「わーんマスターの馬鹿ーあそこでくすぐるの卑怯ですよー変態ー!」
本気で気に障ったのか、すっごい!ボコ殴りが始まった。
以下しばらくエンドレスエイト/∞/デンプシーロールなフルボッコシーンを見ながらお待ちください。
「ところで、マスター」
「何だ」
パールの言葉に答えるのは、見るも無残な姿になった総一の姿だった。
自業自得故致し方なし。
「あのBMMとかいうの、ベルフェリオンと同じくらいの大きさですよね」
「知らん。ただ、お前がそう思ったんならそうなんじゃねーか?」
実際に戦っている身からすれば、ベルフェリオンは自分自身の写し身でもある。
故にどのくらいの大きさとか、そういう思考は彼になかった。
「じゃあ、あの銃も使えるかもしれませんね」
「無理。俺が銃使えねェ」
「まあ、持ってても生身の武装はあたしらには無理だけど。学生だし」
だが、それゆえに能力は本人依存となる。
そもそも一般市民で、さらに言えば学生である総一は、銃が使えないのが当たり前である。
その割にはエルヴィン外で、学生が銃器関連でどうこうってニュースを聞いた覚えがあるが、
法規に反した事態であるためここでは考えないことにしておく。
「ただ、ずっと格闘依存ってわけにもいかないだろ? 総一」
「……ああ」
武器がないということが、これほど厳しいと感じるとは思わなかった。
誠二の言葉には、苦い表情で頷くしかない。
「あのベルフェリオンね? 風の」
完膚なきまでに、一撃で叩きのめされた昨日の事件。
忘れるわけがない。あれは、自身の乗り越える壁。
あそこまで到達しなければ、少なくともデバイスを巡る戦いにはついていけないのだ。
「随分悩んでるみたいだね」
そこに現れた誠二の父。どうやらココアを人数分入れてきたようだ。
「ああ。こいつが―――」
ふと、誠二は状況に気付く。
ベルフェリオンは総一とパールが居れば厳しい召喚条件は特にない、
BMMと同程度の大きさの巨人である。
そして、此処は格納庫であるがゆえ、BMMが使える『武装』を多く積んでいる……。
「親父。後でBMMの武器を貸してくれないか? 天城、パール、後で話がある」
彼はひとつ閃いた。
一体倒したところで何も変わりはしない。だから、何かしらの武器が必要だと感じたのだ。
といっても、仕様上武器を持ち運びはできないので、相手か「第一回! BMMアームズコンテスト、開催ー!」
『どんどんぱふぱふー』
『お前らなあ!?』
紆余曲折があり、試験場に立ち尽くすベルフェリオン。
床に落ちているのは、レーザーブレードだのレールガンだの実体剣だのマシンガンだの、
全てBMMの手持ち武器である。
……ベルフェリオンの腕は一応罅は目立たない。
ちゃんと治りきっていないとも言い切れないが、本当に大丈夫なのだろうか?
「壊すなよー」
誠二まで乗り気である。というか、言いだしっぺがこいつである。
別にこんなノリを作ったとかそういう意味ではない。
今のベルフェリオンに武器はない、故に非常にリーチが短いのだ。
今までは何とかなったからいいが、集団戦闘を彼がまともに制したことは一度もない。
距離をとりながら射撃戦といった戦法で簡単に固められてしまうのだ。
ら奪う、借りるなどの手段が必要だが。
『ったく、みんなしてこれかよ』
とか言いながらやることはやる総一も、理由を実感しているからこそだった。
だが、一つ誤算があった。
『なあ、誠二』
「何だ」
『これ、どうやったら動くんだ?』
ベルフェリオンの特徴の一つとして、通常の機体に標準装備されているコネクタがない。
古代の力にそんなものあるはずがないが、それ故にエネルギーを機体から供給する武器は使えない。
レーザー系武器は全て本体からエネルギーを供給し使用するし、
超高速で振動し物体を切削するバイブレードもその機能が失われる。
ただの実体剣でBMMの相手をするには……これも、ぶっちゃけてしまえばすぐには無理。
BMMの場合モーションがある程度最適なものを選択したり、自動修正されたりするが、
ベルフェリオンの場合そんな便利なものがないため、本人が熟練しなければ扱うのは難しい。
「……ああ、無理だな」
結論として、大半の武器が使用不可能になってしまう。
なんてこった。
『結局何なら使えるんだ?』
「トリガー依存の射撃武器だな。基本的な実弾兵器なら使えるはずだ」
レーザー系武器は先の通り無理。ロックオンが必要なミサイル類は論外。しかも高い。
となれば、必然的に人間が使う武器に近い、
トリガーを押せば発射される実弾射撃武器が使用可能領域になる。
『なら、こいつか!』
手に取ったのは、長大な砲身を持つ、いかにもトリガー式の実弾兵器。
ターゲットを相手に狙いをつけ……トリガーを引く!
『……あら?』
しかし なにもおこらない
「それはレールガンだ……無理に決まってるだろ」
溜息をつく誠二。
トリガー式実弾武器といえど、発射のために多大な電力を使うレールガンは
基本的にエネルギーを本体から供給してもらうため、使用できないのだ。
『マジかよ。あと何があるんだ?』
「火薬式各種ライフル、火炎放射器。あと無理矢理使うなら実体剣。
手持ち式バンカーは腕ハードポイントで固定するからなしな」
選択肢が相当狭いのを痛感する。
見栄え的にも継戦能力的にもレーザー系武器が主流となっている現在では実用的でないものばかり。
バンカーはあの白アフロが使ってはいたが、現実的に考えて扱いは相当難しい。
そして、まず欲しいのは射撃武器。
『何だ、モヒカンにでもなってヒャッハーすればいいのか?』
『汚物は消毒ですねマスター!』
『誰か世紀末救世主持ってこい』
だからどこからそんな知識を……。
「じゃああれは? あの拳銃ってエネルギーを弾で補ってるんでしょ?」
疑った先の春緋が持ち出したこの言葉。
そう、拳銃式レールガン。
あれならば彼女の言葉通り、銃弾さえあればそこから必要なエネルギーを供給できる。
使用にあたり、外部依存しないという安定性はある。
『使っていいのか?』
だが、仮にも開発中の商品である。
いくらなんでも、いきなりOKなんてそんなことは
「OK」
あった。
『いいの!? 流石にいいのそれは!?』
「なに、子供の友達が困ってるのを突っぱねる必要が今更あるのかい?
それに、僕こそこんな間近で……ベルフェリオンだっけ? それを見られるのもありがたいよ。
君達なら漏らさないだろうし、おあいこってことで」
確かに、こんなチャンスなど滅多にないだろう。それはお互い様。
呑気に笑うその男を見て、それで納得するのならと、総一は手を伸ばし、拳銃を掴む。
見た目に違わず、サイズに反し、心地よい重さが掌に返る。
銃弾を装填し、まっすぐに構え、標的に狙いをつけ、そのトリガーを―――
「あいでででででで」
「やっぱすぐには無理ね、この調子じゃ」
苦痛に悶える総一の包帯を巻き直しながら、春緋が溜息をつく。
あの一撃を放った時、強烈な反動が治りきっていない腕を襲ったのだ。
銃というものを理解してない結果がこれ。お前調子ぶっこきすぎた結果だよ?
「……それにしても親父。何だこの威力は」
誠二は目標の的を見上げていた。
それは中心部から吹き飛び、ぽっきりと折れていた。
素材がBMMの装甲と同じであるため、ある程度以上の強度はあるはずなのだが、
それを此処まで打ち砕くのはレールガンの恐ろしさだろうか。
「総じて高反動・高威力。フルオート機能は諦めるしかないね。
問題は弾の補給なんだけど……腕部ハードポイント潰すからなあ」
そう悩む父親に、溜息の絶えない誠二。
「ぁー……悪い、壊しちまって」
「いや、いい。あの威力があるなら、どうせ試験で同じことになる」
平謝りする総一に、誠二は返す。別段、今回のことを悪く思ってはいないらしい。
「それより、お前は戦い方を考えたほうがいい。
素手でもちゃんとした戦術・戦法がないと、勝てるものも勝てないからな」
誠二の言葉が突き刺さる。
誰より分かっているのは自分。このままベルフェリオンの戦いに勝つことなど、望めない。
そして―――パールは今日一日だけで、固まったり、何かを呟いていたりが多すぎる。
彼女に何が起こり、何が必要なのか、今はわからない。
ただひとつ言えるのは。
全くの手探りで、自分と彼女、二人分のこれからを探さなくてはならないこと。
「ほーら、動かない!」
包帯がきつく巻かれるのを感じ、まずはこれを治してからか……と、ぼんやり思う。
そうして、日常は過ぎていく。
どこか外れた日常を。
最終更新:2010年02月12日 01:01