漆黒に塗り潰された海。強弱様々な波の群。
独特の雰囲気を漂わす無人の浜辺にて、御坂美琴は思考をめぐらせる。
学園都市第3位にとって、学園都市第1位とはどんな存在だっただろう。
憧れの的?有り得るはずがない。遠い目標?いや、それも違うような気がする。
では、憎悪の対象?―――……。
神様だなんて易い言葉では言い表すことのできないくらい絶対的な存在であったことはたしか。
やっと1歩進めたと思ったら、既に100歩先に立っていたような相手。
2人の間には高い高い壁が聳え立っていて、美琴はその塀をどうしても乗り越えなければならなかった。
惨たらしい<<あの>>実験を凍結させるために。たった一日をともに過ごしただけの<<妹>>を思って。
けれどその実験はつい先程終了を迎えた。あまりにもあっさりと、一瞬で。
学園都市1位は。一方通行が。死んだ。美琴の目の前で。殺された。
たった数秒の出来事は、美琴の心に大きな恐怖と不安を植えつけていた。
超電磁砲でさえ敵わなかった一方通行の力が通用しなかった相手にとって、自分という人間がいかにちっぽけであるか。
彼らにとって美琴を殺すことなんて、赤子の手を捻るようなもの。
いかなる特殊なカリキュラムや努力に努力を積み重ねて得た美琴の力など、無意味なものであるに違いない。
彼らは<<最強>>より<<最強>>なのだから。
考えれば考えるほどに、浮き彫りになっていくのは無力感だけ。
悪に抗う力を持ち合わせていない私は、いったいどうすればいい?
他のチームの参加者に遭遇したら?
協力を求める?
もしも話が通用する相手じゃなかったら?
倒す?
倒せるの?
手も足も出ないような相手だったら?
私、戦える?
ちゃんと立ち向かえるの?
いや。
こわい。
こわいよ。
誰か。
「助けてよ」
当然都合よく白馬に乗った騎士など現れはしない。代わりにピピピピピ…と聞き慣れた電子音が返事を寄越した。
音の主はポケットで震える、圏外のはずの携帯電話だった。
携帯を取り出し画面を確認してみると、やはり圏外。けれど相変わらず液晶は着信を知らせている。
相手の番号は非通知。なぜか切ることができず、美琴の親指は通話ボタンを叩いた。
「もしもし…」
『御坂美琴さんですね?私です。コエムシです』
「は…!?」
声を聞いただけで背筋が凍った。これが条件反射というやつだろうか。
『名簿のほうは確認されました?』
「それどころじゃ…!」
『では今見て下さい。見覚えのある名前がいくつかあるはずです』
見覚えがある名前?それってもしかして。
携帯電話を放り投げて、半ば飛びつくようにしてディパックに近付いた。
乱暴に開いたチャックの中に乱暴に手を押し込んで、目当てのものを引き出し、二つ折りになった名簿を確認する。
「初春さんに、左天さん……黒子…!」
三人が自分と同じ参加者だと認識したところで、電話を拾い上げた。
不安と恐怖、そして私の中に生まれた怒りの感情。
私はその新たなる産物を受話器の向こう側にぶつける。
「っざけんな!どうして…どうしてあの子たちまで…!?」
『たしかめていただけたようですね。
そうです。貴方のお知り合いはここまでで少なくとも4人。その内の1人は死亡しています』
「何が言いたいの?」
『言いましたよね、まだ名簿に全ての参加者の名前が記載されているわけではないと』
「まさか!」
嫌なタイミングで思い浮かんでくる一人の少年の顔。超電磁砲を打ち破った無能力者(レベルゼロ)
『さあ、どうでしょう。彼が参加者であるか否かはまだお話できません』
「………話しなさいよ」
『はい?』
「………続き、話しなさいよ。他に言いたいことがあるんでしょう?
だったらさっさと言え。私は一刻も早く、アンタの耳障りな声から解放されたいのよ」
虚勢を張ってはみるものの、どうしようもなく声は揺れる。
なんて情けない。きっとコイツも電話の向こうで笑ってるんだ。
『さすがですね、勘が鋭い。今回は貴方に少々協力していただきたいことがありまして。
実は貴方にはこのゲームを円滑に進行するための、…いわゆる、ジョーカー役に回ってほしいのです』
な…っ!つまり私に人を殺せってこと!?
そんなの!
『初春飾利、左天涙子、白井黒子。判断を誤れば、守れるものも守れなくなりますよ。
今こうしている間にも彼女たちは危険な状況におちいっているかもしれない』
「だ、だからって…」
『<<量産能力者(レディオノイズ)計画>>に覚えはありませんか?』
「どうしてそれを知っているの!?」
『貴方は直接的ではなくとも、この計画に加担していますね。
そして、貴方が協力していなければ、<<絶対能力進化(レベル6シフト)計画>>も行われずに済んだでしょう』
量産能力者計画に絶対能力進化計画。
コイツが言うとおり、私がDNAマップを提供しなければ、あんな胸糞悪い実験は進められなかったはず。
悔しいけれど、返す言葉なんてない。声すら出ない。
『ですが貴方の返答次第では、ゲームが終了後、貴方が実験に手を貸した過去を無かったことにしてさしあげます。
全て無かったことに。白紙の状態にしてさしあげましょう。
まぁ、貴方の地球が存在し続けられた場合の話ではありますが』
「全部…無かったことに……?最初から…?」
『呑むか呑まないかは貴方次第です。期待していますよ。御坂美琴さん』
有無を問わず通話は切断され、美琴はそれでも携帯電話を耳に押し当てたまま遠くの空を見つめた。
「私がDNAマップを提供しなかった過去…」
想像してみると、実験の存在を知らなかった頃の日々が胸を過ぎる。
殺されるために強制的に生を授けられてしまった<<妹達(シスターズ)>>が苦しむことのない、きっと彼女らが生まれたくなかったであろう世界に生まれなくて済んだ、幸せなセカイ。
教えてよ。
「私はアンタを助けたいよ。だけど、そのためにはいろいろなモノを犠牲にしなきゃいけない」
ねぇ、妹。
私はいったい、どうすればいい?
【E-2浜辺/1日目深夜】
【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康 迷い
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、武器(未確認1~3)
[思考・状況]
1.コエムシの話を呑む?
最終更新:2011年05月11日 12:16